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第101話:黒狼と子供

倒れた黒狼の胸、心臓がある辺りに穴が開き、大量の黒い血が噴出し続ける。


『この血には触れない方がいいよ』


視覚を共有する召喚獣持ちメンバーに、アズが告げた。

黒い血は毒か何か有害なものを含んでいるのか、完全回避が反応してアズとエカを避けて流れる。

漆黒の血は床の上に広がり、広間一面を覆うと城内全体に進出し始めた。

床に広がる黒い血は、床から伸びて柱や天井も覆い、それらを融かすように消してゆく。


融けて崩れるように、城は消滅した。

屋外から城内へ駆け込んで来ていた魔族たちも、融けて消えた。

何も無くなった荒野に残るのは、横たわる巨大な黒狼と湖のように広がる大量の血、それを見つめるエカとアズ、少し離れた位置に倒れている黒髪の少年だけ。


少年は未だ拘束生物に縛られたまま気絶していて、黒い血の海に半ば沈んでる。


『気を付けて。魔王がこれで終わりとは思えないから』


上空で待機するロコが念話を送ってくる。


他の魔族はみんな黒い血を浴びて消えたのに、彼とルルだけ残ってるって事は、やはりこの少年が魔王なんだろうか?

それにしては呆気ないのが気になるよね。


「あんまり近付くと危ないよ」


不意打ちを警戒するアズが、エカをいつでも護れるように手を繋いだまま並ぶ。


離れた位置からエカが片手を向けて爆裂魔法を起動しようとした瞬間、黒髪の少年が黒い粒子と化して消えた。


『気を付けて。それは魔王じゃない』


驚く2人にロコが告げる。


エカとアズが周囲を見回すと、辺り一面に広がっていた黒い血が、幻かと思うほど一瞬で跡形も無く消えた。


『魔王は後ろよ』


言われて振り向いた2人が見たものは、華奢な体つきをした子供。

そこは、さっきまで黒狼が倒れていた場所だ。

狼は消えて、何も身に着けていない裸の子供がこちらへ歩み寄って来る。

子供の頭には黒い犬耳、お尻には黒いフサフサしたシッポ。肩くらいの長さの黒髪と、黒い宝石みたいな瞳を持つ可愛い顔立ちの子。


「「ルル?」」


双子の声が重なる。

アズは警戒してエカを背後に庇った。


「心配しなくても、もう危害を加える気は無いよ」


歩み寄る子供が、大人びた穏やかな口調で言う。

見た目はケモミミ姿のルルそっくりなのに、話し方は別人のような感じだ。


「ルルであって、ルルでない者、……君は誰?」


エカは問いかけてみた。


「ボクは黒い果実の子。猫人からは【魔王】と呼ばれる者……」


答えながら、子供はゆっくり歩きながら近付いて来る。

エカは、いつでも爆裂魔法を撃てるように身構えた。

アズは、エカが襲われないように手を繋いだまま背後に隠し続ける。


「……でも、もう勇者たちと戦う気は無い。これが、その証……」


そう言って間近まで近付いて来た子供は、微笑みを浮かべてアズに抱きついた。

敵意があったり危害を加える可能性があったりすれば、すり抜ける筈。

子供の両腕は、すり抜けたりせずアズを抱き締めた。


抱き締められたアズも、背後で見ているエカも、上空から様子を見守るメンバーも、その子供に全く敵意が無い事を察した。


「魔王に戦う意志が無いなら、俺たちはどうしたらいいんだ……」


エカが困惑して、鼻の穴広げて真顔で呟く。

当の魔王は、アズに抱きついて黒犬シッポをフリフリしている。


「アズ、おやすみのキスして」


甘えて見上げる表情は、幼い子供そのもの。

っていうか、勇者にキスをねだる魔王なんて、この世界の歴史上初じゃないかな?

でも何故おやすみのキスなんだろう?


「まだ夜じゃないよ?」


と言いながらもキスするアズは、自分に甘えてくるこの子はルルなんだと確信したらしい。


「だってボク、これから永遠の眠りに就くから……」


アズに抱きついたまま、微笑むルル。

その目から、涙が溢れて足元に落ちた。

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