第97話:魔法の付与
草木の生えぬ荒れ果てた地、アサギリ島。
その周囲、上空に召喚獣とドナベが集う。
「アズ、派手に行って頂戴」
「はい! 行きます!」
ロコの指示で、アズを乗せたベノワが単騎、島の真上まで飛ぶ。
アズは目立つように世界樹の民としての姿で敵陣に向かい、剣を抜いた。
「天の裁き!」
起動言語に応じて発動するのは、アズの剣に組み込まれた光属性の攻撃魔法。
天空から白い光球が無数に降り注ぎ、アサギリ島にいる魔物や魔族たちを襲う。
地上にいた魔物たちは瞬殺、空中にいた魔族たちも大ダメージを負って落下した。
その魔法は、事前にエカが付与したもの。
武器に魔法を組み込む事はよくあり、アサケ学園では魔工学部がその分野を得意とする。
アズは身体能力が飛び抜けて優れている代わりに、攻撃魔法の素質は一般人と変わらない。
物理攻撃は単体相手なら強いけど、大軍相手だと火力というか手数が全然足りない。
普通の狩りなら問題ないけど、大軍を相手にするなら範囲攻撃もあった方がいいだろうというエカの提案で、魔工学部に協力してもらい、アサギリ島攻略用の剣を作ってもらった。
付与した魔法は剣の柄に付けられた魔石に蓄えられていて、一定の回数を使うと魔石は消滅する。
魔石を新たに取り付ければまた魔法使えるし、違う魔法の魔石を付ければ別の魔法も使えるという仕組み。
アズには様々な属性魔法を込めた魔石を持たせていて、状況に応じて使ってもらう予定だ。
「ルルはいないみたいね」
「やっぱりどこかに監禁されてるのかも」
エカの左右にいるエアとローズが小声で話す。
不意打ちを警戒して、3人はローズの防壁に包まれている。
魔王にとって最も脅威なのはエカの爆裂魔法だから、暗殺を警戒しつつ進んでいた。
ルルから情報が漏らされているのか、魔族たちはアズを避けるように離れ、後方の部隊を襲おうとする。
「絶対零度!」
ロコの起動言語と共に氷の結晶が舞い、魔族の群れは一気に凍結した後、粉々に砕け散った。
氷魔法に関しては、エカよりもロコの方がかなり威力があるらしい。
「後ろの者が弱いなんて、思わないでほしいわね」
地面に降り注ぐ氷の欠片たちを見下ろして、ロコが言う。
確かに、攻撃面でいったらアズよりもロコの方が強いだろうね。
空中の魔族や魔物を殲滅して見ると、地上には新たな魔物と魔族が湧いている。
島の中央から押し寄せてくる集団は、どこに隠れていたんだろう?
『魔王を倒さない限り、これは無限に湧いてくるわ』
ロコの念話が、世界樹の子たちに共有される。
エカ、ローズ、エアの3人は、目立たないように猫人姿で後方集団にいた。
正体がバレているエカは猫人でも元の姿でも、敵に見られたら真っ先に狙われる。
今は猫人集団の中に隠れておいて、アズが魔王を見つけてからがエカの出番だ。
『アズ、敵は無視して島の中央を調べて』
『はい』
指示を受けたアズが、敵軍の頭上を通過する。
察した魔族たちが攻撃魔法を撃ってるけど、もちろん当たるわけがない。
敵陣を突破するだけなら、アズを止められる者はこの世界にいないだろうね。