三国志演義・青梅、酒ヲ煮テ英雄ヲ論ズ~雷怯子の機智~
はじめに:この一連の三国志台本は、
故・横山光輝先生
故・吉川英治先生
北方健三先生
蒼天航路
の三国志や各種ゲーム等に加え、
作者の想像
を加えた台本となっています。また、台本のバランス調整のた
め本来別の人物が喋っていたセリフを喋らせている、という事
も多々あります。
その点を許容できる方は是非演じてみていただければ幸いです
。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ
て打てない)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただい
ております。何卒ご了承ください<m(__)m>
なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。
また上演の際は決してお金の絡まない上演方法でお願いします
。
ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、
または他のキャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場
合がありますので、注意してください。
なお、性別逆転は基本的に不可とします。
声劇台本:三国志演義・青梅、酒ヲ煮テ英雄ヲ論ズ~雷怯子の機智~
作者:霧夜シオン
所要時間:約25分
必要演者数:4:1
5:0
5:1
【4:1】【5:0】※満寵役は関羽、張飛どちらが兼ねても可。
※側近は曹操、満寵、劉備役以外なら誰が兼ねても可。
曹操:
劉備:
関羽、満寵:
張飛:
ナレ、側近:
【5:1】※側近は曹操、満寵、劉備役以外なら誰が兼ねても可。
曹操:
劉備:
関羽:
張飛:
満寵:
ナレ、側近:
はじめに:この一連の三国志台本は、
故・横山光輝先生
故・吉川英治先生
北方健三先生
蒼天航路
の三国志や各種ゲーム等に加え、
作者の想像
を加えた台本となっています。また、台本のバランス調整のた
め本来別の人物が喋っていたセリフを喋らせている、という事
も多々あります。
その点を許容できる方は是非演じてみていただければ幸いです
。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ
て打てない)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただい
ております。何卒ご了承ください<m(__)m>
なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。
また上演の際は決してお金の絡まない上演方法でお願いします
。
ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、
または他のキャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場
合がありますので、注意してください。
なお、性別逆転は基本的に不可とします。
●登場人物
曹操・♂:字は孟徳。
漢王朝の宰相、曹参の末裔を称する。現王朝の司空の位について、自ら
の理想とする世を築くべく、皇帝をも大義名分として利用する。人材収
集癖があり、有能な人材を愛する事、女性を愛するかの如くである。
呂布処刑後、劉備らを連れて許昌に凱旋する。
政治、軍事、文化全ての分野に名を残す”破格の英雄”。
劉備・♂:字は玄徳。
中山靖王・劉勝の末孫にして漢の景帝の玄孫を自称。
呂布の死後、曹操に伴われ許昌に赴く。
自分を徐州に戻す気のない事をうすうす感じており、
機会をうかがっている。
関羽・♂:字は雲長。
劉備、張飛と義兄弟の契りを結び、乱世を正そうと立ち上がる。
呂布の死後、劉備らとともに許昌へ行き、引き続き曹操の手元に置かれ
ている。
智勇に優れ、重さ八十二斤の青龍偃月刀を自在に操る。
腹まで垂れる立派な顎髭と酒に酔っているかのような赤ら顔を持つ。
張飛・♂:字は翼徳。
劉備、関羽の義弟。二人と義兄弟の盟を結び、乱世を駆ける。
虎髭を蓄え、一丈八尺の蛇矛を自在に振り回す、酒を愛する男。
現在は劉備らと共に許昌にいる。
満寵・♂:字は伯寧。
当時としては珍しい、190センチという高身長であったと伝わる。
非常に公明正大で法に厳しかったが傲慢ではなかったため、人から疎ま
れる事は無かったという。将としても、政治家としても優れた人物であ
る。
ナレ・♂♀不問:雰囲気を大事に。
側近・♂♀不問:2セリフしかないのでどなたか兼ね役で。(ナレが兼ねた方が
良いかも。)
※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ナレ:専横の激しい曹操を暗殺せよ。
車騎将軍・董承に打ち明けられた帝の秘密の勅命に、劉備も加担する。
しかし曹操を討つ機会など簡単に訪れるわけもなく、季節は初夏を迎えよ
うとしていた。
そんなある日。
張飛:ふわあああぁぁ~~あ、あぁ~暇だ!
関羽:退屈か、翼徳。
張飛:やることがねえからなあ…それにしてもうちの大将はどうしちまったんだァ
!?
関羽:大将とは?
張飛:兄貴に決まってるじゃねえか。
関羽:少しは口をつつしめ。
我が君を指して兄貴だの大将だのはないだろう。
張飛:義兄弟の仲だろ、いいじゃねえか。
関羽:そうは言っても、帝から正式に左将軍・宜城亭侯に任ぜられ、
併せて予州の牧をも兼ねて劉予州と呼ばれているのだ。
そんな呼び方をしては、我が君の威厳をお前が地に落としているようなもの
だぞ。
張飛:むむ…それもそうだな。
けどよぉ、その左将軍様がこのところ何をやっているのか、
兄貴は知っているのか?
関羽:ああ…知っている。
百姓のまねごとをやっているのだろう。
張飛:そうだよ。
左将軍だって言うんなら、位に応じた仕事ってもんがあるだろうよ。
関羽:それはそうだが。
張飛:なのにだ、肥え桶を担いで畑ばかり耕しているんだぞ。
この陽気のせいで少し頭がおかしくなってしまったんじゃねえのか?
関羽:おい、言いすぎだぞ翼徳。
張飛:言いすぎなもんか。
百姓がしたけりゃ楼桑村に帰りゃいいんだ。
今は大事な時なんだから、少しはしっかりしてもらわなけりゃならん。
関羽:それには同意だな。
張飛:雲長兄貴、やっぱり諫言したほうがいいぞ。
関羽:何故だ。
張飛:こんな状態が世間に知れてみろ。
皇族の威厳も何もあったもんじゃねえ。
それともなにか、俺には何でも言えるが、我が君の前へ出れば何も言えんの
か?
関羽:馬鹿を言うな。
はぁ…仕方あるまい、行こう。
ナレ:初夏の日差しを浴びながら、二人は連れ立って裏の菜園へ向かった。
近づくにしたがって、ぼくっ、ぼくっ、と鍬が土を打つ音が聞こえはじめ
る。
二人は顔を見合せて渋い表情になると、ひたすら土を耕す劉備の後ろに近付
いた。
劉備:ッ! ッ!
…ふう…こうして鍬を持つのもずいぶんと久しいな。
張飛:我が君! 冗談ではありませんぞ!
この時勢に畑仕事なんぞしていてどうするのですかッ、馬鹿馬鹿しい!!
劉備:! おお翼徳、雲長もおるか。
何用か?
張飛:今日は我が君に物申したい事があって来ました!
…おい、雲長兄貴、頼む。
関羽:なんだ、こっちに振るのか?
まったく…仕方ないな。
…兄者、今日はそう呼ぶ事をお許し下さい。
劉備:あらたまって、どうしたのだ?
関羽:我らにはちと理解しがたい事があり、お考えを知りたく参った次第で。
劉備:考え?
関羽:はい、何か御思案の末かとは存じます。
ですがここ二ヶ月、兄者は菜園で百姓の真似事ばかりされております。
お体の為と申されるのでしたら、弓馬の鍛錬をなさってはいかがでしょう
か?
張飛:そうだそうだ!
今から隠遁生活でもないはずだ。
兄貴の考えが我らには分りかねる!
劉備:お前達の知るところではない。
わからなければ、黙ってそれぞれの務めをしているがよい。
張飛:そうはいかん!
三人の血は一つだ、一心同体だと常に言っておるのは兄貴ではないか!
我らと言う手足が明け暮れ弓矢を磨いても、肩が肥え桶を担いでいたり、
頭が百姓になっていたんでは一心同体とは言えないではないか!
劉備:はっはは…いや、これは一本取られたな。
確かにその通りだ。
だがこれには深い考えがあってのこと。
今に分かる時が来るから、案ずるな。
関羽:は…、兄者がそう言われるのならば…。
行こう。
張飛:う、うぐぐぐ……納得いかねえ、いかねえが…ここは引き下がるしかねえ。
ナレ:劉備にそうまで言われては、二人とも口をつぐむほかなかった。
やはり何かあってのことだと思い直し、退屈をまぎらす日々を送る。
しかし数日後、二人が外出している間に劉備は曹操から招待を受け、
庁舎を訪れていた。
劉備:(曹操から…まさか、例の一件が漏れたのでは…?
しかしここで断るわけにもいかぬ…。)
曹操:やあ劉備殿、しばらくだな。
劉備:これは曹司空閣下、ご無沙汰しております。
いつもお健やかで。
曹操:健康と言えば、君はずいぶんと日に焼けたな。
聞けば、近頃は菜園に出て農作業ばかりしているそうだが、百姓仕事とは
そんなに楽しいものかね?
劉備:(良かった…血判状のことではなさそうだ。)
はい、実に楽しゅうございます。
司空閣下のご政令がすみずみまで行きわたっておりますゆえ、
空いた時間を使って畑を耕しています。
体にもよく、夕食は美味しく食べられます。
曹操:ははは、なるほどな。
君は欲が無いかと思ったら、蓄財の趣味はあるようだな。
劉備:【苦笑しながら】
これは痛烈なおたわむれを…。
曹操:【笑いながら】
いや冗談だ、気にかけてくれるな。
実は今日君を迎えたのは、庁舎の梅園に梅の実がなったのを見て、
先年行った張繍征伐の時の事を思い出したのだ。
劉備:あの時は大変な猛暑であったとうかがいましたが…。
曹操:うむ。
水もなく、喉の渇きに苦しむ兵達に向かって、
「この先には小梅の熟した梅林があるぞ! そこまで急げ!」
と、偽って進んだ。
兵達は口の中に唾がわくのを覚え、ついに行軍を成し遂げたことがある。
劉備:うーむ、さすがは司空閣下、素晴らしいお知恵です。
曹操:そこで今日、急に君とその小梅の実を煮て酒を酌み交わしたいと思い立った
のだ。
まあ来たまえ。
梅林を散策しながら、奥に設けた宴席まで余が案内しよう。
劉備:ははっ、お供いたします。
【二拍】
劉備:おお……これは広大な梅林ですな。
曹操:君はここを見た事が無かったかね?
劉備:はい、今日が初めてです。
曹操:それなら、花盛りの頃にも案内すれば良かったな。
劉備:いえ、司空閣下おんみずから案内して下さるだけでも、恐れ多いことです。
曹操:宴席もむこうの渓流を巡った先にある、眺めの良い場所だ。
…むっ。
劉備:! 雨ですな。そこの木陰で雨宿りいたしましょう。
曹操:うむ。
…ところで君は、ずいぶんと諸国を巡ってきているだろう。
それゆえ、この時代を代表する英雄を必ず知っているに違いない。
君から見て、英雄と名乗っても良い人物は誰と誰であろうか?
劉備:さあ……難しいおたずねですな。
わたくしごとき凡人の目では。
曹操:いや、かまわん。
君の胸中にある者、誰でも良いゆえ、言ってみたまえ。
劉備:……。
! お、雨がやみましたな。
曹操:……そうだな。
よし、歩こう。
劉備:まだ降りそうではありますが…今しばらくは大丈夫でしょう。
曹操:雨というのもまた趣があって良い。
雨情という言葉もあるゆえな。
劉備:今の雨でだいぶ梅の実が落ちましたな。
曹操:まるで詩の中の光景ではないか。
【二拍】
さあ、着いたぞ。
まずは掛けたまえ。
【手を二回叩きながら】
これ、酒を持て!
ナレ:間もなく豪華な酒器と肴の青い小梅が卓に並んだ。
二人は杯をかさね、梅をかじり、話に興じる。
しかし、話題はやがて先ほどの英雄論に戻ってきた。
曹操: あぁ酔うた。梅の実で酒を呑むと、こうも酔いが走るものなのだな。
…さて、先ほどもたずねたが、この時代に英雄はいるのか、いないのか。
君の胸中にある人物を言ってみたまえ。
劉備:そのことですが…、どうも自分にはこれという人も覚えておりません。
ただ司空閣下のご恩顧を感じ、朝廷に仕えておりますが…。
曹操:ならば、世間の評判でもよい。
世間ではどのような事を言っているか、論じてみたまえ。
劉備:…では…、聞き及ぶところでは、淮南の袁術などはいかがでしょうか。
蓄えている兵糧も豊富、軍事にも精通し、世間も認めているようです。
曹操:ははは、袁術か。
あれはもう生きている英雄ではない。
墓の中の白骨だ。
遠くない先、この余が必ず生け捕って見せよう。
劉備:では…河北の袁紹が挙げられましょう。
家系は四代にわたって漢王室の最高位である三公の位を務め、一族も無数の
有能な官吏が多く出ております。
現在、配下の智将猛将は数知れずと言われております。
彼こそ当世の英雄と言っても良いのではありますまいか。
曹操:はっははは、袁紹は決断力が無い。
大事な時に身を惜しみ小さな利益の為に危険をおかす…
そのような男を英雄とは言わんな。
他には?
劉備:さあ…。
曹操:袁術、袁紹、たった二人挙げただけで、
もうこの天下に英雄はいないというのであろうか?
それほど人がいないわけでもあるまい。
劉備:それでは…荊州の劉表は。
九つの州を鎮め、八俊と称され、領内の統治にも見るべきものがあると聞き
及んでおりますが。
曹操:駄目だ駄目だ、領内の統治など、配下の小利口な奴がやっているに過ぎん。
劉表の短所は何と言っても酒におぼれやすいことだ。
呂布と似ている所のある奴が、なんで英雄と呼べるものか。
劉備:では、呉の孫策は。
司空閣下は彼をどうご覧になられておられますか。
まだ年若いのに江東江南を抑え、領民からも小覇王などと呼ばれ
信頼されておるようですが。
曹操:むむ、孫策か…。
いや、言うに足るまい。
奇策を持って一時のあいだ功を奏しても、元々は父である孫堅の名を借りて
大きくなったに過ぎん。まだ小さい。
劉備:ならば、益州の劉璋は。
曹操:あんなものは、門を守る犬に過ぎん。
劉備:では、張繍、張魯、韓遂なども英雄とは言えませぬか。
曹操:はっはははははは!
こうして名を挙げてみると、まともなのがおらんな。
そもそも、英雄とは大志を抱き、いかなる場合にも備え、
行動する時はひるまず、時代に後れず、天地の理を知り、
万民を指揮する者でなくてはいかん。
劉備:そのような人物が今の時代にいるでしょうか。
もう、他に思いつきませぬ。
曹操:いや、いる!!
いま天下の英雄たりえる者は、大言を吐くわけではないが二人しかおらん!
余と、君だ…!!
劉備:えっ…!?
ナレ:その言葉の終わらないうちである。
いきなり青白い稲光が空間を裂き、雷鳴が轟く。
どこかの木に落雷があったようだった。
間をおかず雨が勢いよく降り出し、大地を叩き鳴らす。
機を逃さず、とっさに反応したのは劉備だった。
劉備:わ、わわわ…!
うう、か、雷は…雷だけは…!
曹操:!? どうされた、劉備殿。
劉備:そ、その…、私は雷が大嫌いでして…。
曹操:雷鳴は天地の声、それが恐ろしいというのか?
劉備:ど、どういうものか、子供の時から恐ろしゅうございまして…。
曹操:ふうむ…。ふっ、そうか…。
(どうやら、買いかぶり過ぎていたかな…この程度ならば…。)
劉備:お見苦しい所をお見せいたしまして、まことに申し訳ありませぬ…。
(曹操がこれほど自分を恐れていたとは…。だが今ので欺けたようだ。)
うっ、あれは…!!
曹操:関羽に、張飛ではないか…?
関羽:我が君ーーッ! 我が君はいずこにおわす!
張飛:てめえら、どけえ! 邪魔すると蹴散らすぞ!
我が君ーッ!!
劉備:静まれ!! 二人とも何事か!!
関羽:おお、我が君!
張飛:ご無事でございましたか!
曹操:関羽、張飛。
招きもせぬのに何をしにきた。
関羽:そ、それが、ご酒宴とうけたまわり、余興に剣の舞でもと思いまして…。
曹操:ははは、何を戸惑うておるか。
そんな宴ではない。静かに酒を酌みかわし、世の中を語る宴だ。
のう、劉備殿。
劉備:申し訳ございませぬ。
なにぶん、二人とも粗忽者でございまして。
曹操:なに、なかなかどうして、雷怯子の兄弟としては出来過ぎている程だ。
今日の余は機嫌が良い。
剣の舞は見るに及ばんが、両人に杯をつかわそう。
劉備:ご寛大な度量、感謝いたしまする。
では…。
ナレ:雨はやがて上がり、夕空には虹がかかっていた。
劉備の乗った車は二人の義弟に左右を護られながら、
邸宅へ戻っていった。
時代の英雄を論じた青梅の宴から数日後、劉備は庁舎へその答礼に向かう
べく、支度していた。
張飛:えっ、曹操の館へ参るのですか!?
関羽:我が君、おやめになった方が…。
曹操の胸の内には何が潜んでいるか分かりませぬ。
張飛:そんな相手には、こっちから近付かない方が賢明でしょう。
劉備:二人とも、それは違うぞ。
だから参るのだ。
関羽:それは…どういうことでしょうか?
劉備:董承様から大事を聞かされて以来、百姓の真似事をしたり、雷鳴に怯えてみ
せたりしたのも、すべては曹操に警戒心を持たせぬためだ。
ここで彼を避ければ必ず疑われる。それよりは機嫌を取り、時には笑われて
いた方が無事であろう。
関羽:!! なんと…そこまで考えての百姓仕事でしたか…!
張飛:我が君がそれほど深く考えておられるのでしたら、我らも曹操に近づくこと
など恐れませぬ! なあ、雲長兄貴!
関羽:うむ!
我が君、我らもお供いたします。
劉備:二人とも頼むぞ。
では参ろう。
ナレ:やがて庁舎へ着いて面会を求めると、曹操は機嫌よく出迎えた。
曹操:おお、劉備殿。
今日はこの間と違って雷も鳴るまい。
安心して酒を呑むと良い。
劉備:はっ、先日はお招きいただきありがとうございました。
曹操:さあ、遠慮はいらんぞ。君と酒を呑むのは楽しい。
先日とは違い、今日は贅沢かつ濃厚な肴をそろえた。堪能してくれ。
劉備:ありがたきお言葉。では…。
【二拍】
側近:司空閣下、河北の情勢を探りに行っていた満寵が帰って参りました。
曹操:そうか、すぐここへ参れと伝えよ。
側近:はっ。
【三拍】
満寵:司空閣下、満寵、ただ今戻りましてございます。
曹操:おう、ご苦労であったな。して、河北の情勢はどうであった。
満寵:はっ、別段変った事もございませんでしたが、北平の公孫瓚が
袁紹に滅ぼされました。
劉備:!! な、なんですと!?
公孫瓚殿が…あれほどな勢力地盤と徳を備えた人物が、なぜこうも簡単
に…。
曹操:どうされた、劉備殿。
勝敗は兵家の常ではないか。余には分らんな。
劉備:それはそうですが、公孫瓚殿は幼き頃、盧植先生へ共に学んだ仲です。
反董卓連合軍やその後も何かと世話になったものですから…。
満寵どの、できればどのように滅んだか、詳しくお教えくださるまいか。
曹操:ふうむ、そうか。
そういえば君と公孫瓚は、無名のころから浅からぬ間柄だったな。
よし満寵、劉備殿もあのように求めておられる。
公孫瓚の滅亡の様、より詳しく語るがよい。
満寵:はっ、さればこう言う次第です。
公孫瓚は近年、要害の地を選んで易京楼と名付ける大規模な築城を行い、
そこに兵糧三十万石と大軍を蓄えました。
劉備:なんと…それほどの規模ならば、ますます威勢は盛んになったのでは。
満寵:表向きは確かにそうです。
しかし事実は隣国の袁紹に領土を侵食され、従来の居城では不安を
覚えたがためです。
易京楼へ移ったのは、すでに滅亡の前兆でもあった
と見る事ができます。
曹操:公孫瓚は城郭に頼ったか、愚かな…。
古来より落ちぬ城などないというのに。
満寵:以後は数度の戦にもまず一応、強国としての面目は保っておりました。
しかしある時、逃げ遅れた味方を見殺しにした事で、その信望は薄れ、
配下の士気は低下し始めました。
劉備:馬鹿な…かつての彼はそんな事をする人物では…。
曹操:余ならば自ら救いに出るか、あるいは親衛の将・許チョなどを救いに向か
わせるだろう。
公孫瓚も、よくよく戦の機微がわかっておらんな。
満寵:五百の兵を救うために千の兵を失い、隙を突かれて城門に雪崩れ込まれた
らどうするのだ、と言ったそうです。
その後、袁紹軍が城近くまで迫った時、城内の不平分子が不意に城を出て
千人以上も降伏してしまったとの事です。
曹操:で、あろうな。
救えたはずの味方を見殺しにしたのだ。
残った兵がどう思うか、火を見るよりも明らかなことだ。
満寵:そこで公孫瓚は形勢挽回の為、黒山の張燕という人物に協力を求め、
袁紹を挟み撃ちする策を立てました。
しかしそれも裏をかかれ、惨敗に終わったそうです。
以降は易京楼の護りを頼みとして打って出ない為、袁紹軍も攻めあぐねた
かに見えました。
劉備:守りを固めさえすれば、三十万石の兵糧を食いつくすまでの期間は防げた
のでは…?
満寵:世間ではそういう風評でした。
しかし袁紹軍にもなかなかの策士がいると見え、地の底を掘り進めて城内
に達したところで放火、かく乱、奇襲をかけると同時に、外からも総攻撃
を仕掛け、一挙に攻め落としたとのです。
曹操:フン、袁紹め、なかなかだが余ならばもっと早く、もっと別の方法で落と
したであろうな。
満寵:公孫瓚は退路を断たれ、自ら妻子を刺すと自害して果てました。
劉備:公孫瓚殿…くっ…。
満寵:そういうわけで袁紹の領土は北平を併呑し拡大、兵馬は増強されつつあり
ます。
いっぽう淮南の袁術ですが、自称していた皇帝の座を持て余したようです。
兄の袁紹へ皇帝を示す証である玉璽を贈り、名を取らせて実利をせしめよ
うと働きかけております。
彼らが手を取り合えば、いよいよ由々しい大勢力となるかと…。
曹操:ぬう…それはまずいな。
あの二人が形だけとはいえ結ぶとなると、厄介なことになるぞ…。
劉備:…司空閣下、折り入って願いの儀がございます。
お聞き届けくださいますでしょうか?
曹操:? 劉備殿、あらたまって余に願いとは何であるか。
劉備:今、満寵どのが語るを聞けば、袁術は玉璽と皇帝の位を袁紹に譲り、
協力してこの中央へ手を伸ばそうとしているとのこと。
これは司空閣下にとっても捨ておけぬ事かと思われますが。
曹操:もとより由々しい事態だが…それについて、君に何か策があるのか?
劉備:袁術が淮南を捨てて河北に向かうには、必ず徐州を通らねばなりません。
私が一軍をお借りして待ち受け、その進軍を叩きます。
そうすることで一つには司空閣下の憂いを除き、
二つには皇帝の位を望む袁紹の思い上がりを叩きつぶし、
彼らの企む野望を未然に阻止してご覧にいれます。
曹操:君にしては常にない勇気だが…、なぜそう急に思い立たれたのだ?
劉備:袁術、袁紹を不利に陥らせれば、亡き友、公孫瓚の霊も慰められようか
と思いまして。
曹操:なるほどな。君の信義もあるというわけか。
よし、明日にでもさっそく帝に拝謁し、君の望みを奏上しよう。
君が徐州に赴いてくれれば余も心強い。
劉備:ははっ、必ずや司空閣下のご期待に応えてごらんにいれます。
ナレ:翌日、劉備は帝に拝謁し、五万の兵と朱霊、露昭の二大将を借り受け、
帝の見送りを受けて許昌を出立する。
彼の一連の動きは、見事に曹操を欺きおおせたのだ。
皇帝を自称した袁術を漢王室の一族である自分が許す事は出来ない。
しかし、彼の本当の思惑は、許昌からの脱出であった。
郭嘉の忠告でそれと気づいた曹操がつかわした許チョを言いくるめて帰す
と、彼はひたすら徐州への道を急いでいた。
張飛:我が君、いつになく急いでいるように見えるんだが、何故です?
関羽:これほど馬を早めなくても、袁術が徐州を通るにはまだ時間があるかと
思いますが…。
劉備:いや、そうではない。
今だから言うが、許昌にいた間は一日たりとも心が休まらなかった。
籠の中の鳥、網の中の魚に等しい命…少しでも曹操の気が変われば、
いつ殺されてもおかしくはない。
ああ、ようやく籠から放たれ、網より逃れた心地がする。
関羽:そこまでご心労あそばされていたとは…お察しいたします。
張飛:確かに、今はのびのび全身をのばしてる気分だ!
劉備:さ、少しでも早く許昌から遠ざかるのだ。急ごう。
関羽&張飛:ははっ!!
ナレ:ついに劉備は虎口を逃れた。
徐州へ急ぎ、偽帝・袁術を討つべく態勢を整えにかかる。
一方の曹操は悔いても及ばず、挽回の為の謀略をめぐらす。
両雄の本格的な戦いは、まだ始まったばかりであった。
END
どうもおはこんばんちわ、作者です。
今回はバトル要素の無い回ですな。
曹操と劉備が世の中の英雄について論じ、最後に曹操から「英雄と呼べるのは君と私だけだ」と言われる、そんな情景を台本にしたく書き上げました。
どうか楽しんで読んで、演じていただければ幸いです。
ツイキャス、スカイプ、ディスコードで上演の際は、お声掛けいただければ是非拝聴しに参ります。
欲を言えば上演のデータも後でいただければなお喜びます。
ではでは<m(__)m>