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三国志演義

三国志演義・青梅、酒ヲ煮テ英雄ヲ論ズ~雷怯子の機智~

作者: 霧夜シオン

はじめに:この一連の三国志台本は、

     故・横山光輝先生

     故・吉川英治先生

     北方健三先生

     蒼天航路

     の三国志や各種ゲーム等に加え、

     作者の想像

     を加えた台本となっています。また、台本のバランス調整のた

     め本来別の人物が喋っていたセリフを喋らせている、という事

     も多々あります。

     その点を許容できる方は是非演じてみていただければ幸いです

     。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て打てない)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただい

     ております。何卒ご了承ください<m(__)m>


     なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

     また上演の際は決してお金の絡まない上演方法でお願いします

     。

     

     ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場

     合がありますので、注意してください。

     なお、性別逆転は基本的に不可とします。




声劇台本:三国志演義・青梅せいばい、酒ヲ煮テ英雄ヲ論ズ~雷怯子らいきょうし機智きち


作者:霧夜シオン


所要時間:約25分


必要演者数:4:1

      5:0

      5:1


【4:1】【5:0】※満寵まんちょう役は関羽かんう張飛ちょうひどちらが兼ねても可。

          ※側近は曹操そうそう満寵まんちょう劉備りゅうび役以外なら誰が兼ねても可。

曹操:

劉備:

関羽、満寵:

張飛:

ナレ、側近:


【5:1】※側近は曹操そうそう満寵まんちょう劉備りゅうび役以外なら誰が兼ねても可。

曹操:

劉備:

関羽:

張飛:

満寵:

ナレ、側近:



はじめに:この一連の三国志台本は、

     故・横山光輝先生

     故・吉川英治先生

     北方健三先生

     蒼天航路

     の三国志や各種ゲーム等に加え、

     作者の想像

     を加えた台本となっています。また、台本のバランス調整のた

     め本来別の人物が喋っていたセリフを喋らせている、という事

     も多々あります。

     その点を許容できる方は是非演じてみていただければ幸いです

     。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て打てない)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただい

     ております。何卒ご了承ください<m(__)m>


     なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

     また上演の際は決してお金の絡まない上演方法でお願いします

     。

     

     ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場

     合がありますので、注意してください。

     なお、性別逆転は基本的に不可とします。




●登場人物


曹操そうそう・♂:あざな孟徳もうとく

     漢王朝の宰相さいしょう曹参そうしんの末裔を称する。現王朝の司空しくうの位について、自ら

     の理想とする世を築くべく、皇帝をも大義名分として利用する。人材収

     集癖があり、有能な人材を愛する事、女性を愛するかの如くである。

     呂布りょふ処刑後、劉備りゅうびらを連れて許昌きょしょう凱旋がいせんする。

     政治、軍事、文化全ての分野に名を残す”破格の英雄”。


劉備りゅうび・♂:あざな玄徳げんとく

     中山靖王ちゅうざんせいおう劉勝りゅうしょう末孫まっそんにして漢の景帝けいてい玄孫げんそんを自称。

     呂布りょふの死後、曹操そうそうに伴われ許昌きょしょうに赴く。

     自分を徐州じょしゅうに戻す気のない事をうすうす感じており、

     機会をうかがっている。


関羽かんう・♂:あざな雲長うんちょう

     劉備りゅうび張飛ちょうひと義兄弟の契りを結び、乱世を正そうと立ち上がる。

     呂布りょふの死後、劉備りゅうびらとともに許昌きょしょうへ行き、引き続き曹操そうそうの手元に置かれ

     ている。

     智勇に優れ、重さ八十二斤の青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうを自在に操る。

     腹まで垂れる立派な顎髭あごひげと酒に酔っているかのような赤ら顔を持つ。


張飛ちょうひ・♂:あざな翼徳よくとく

     劉備りゅうび関羽かんうの義弟。二人と義兄弟の盟を結び、乱世を駆ける。

     虎髭とらひげを蓄え、一丈八尺いちじょうはっしゃく蛇矛じゃほこを自在に振り回す、酒を愛する男。

     現在は劉備りゅうびらと共に許昌にいる。


満寵まんちょう・♂:あざな伯寧はくねい

     当時としては珍しい、190センチという高身長であったと伝わる。

     非常に公明正大で法に厳しかったが傲慢ではなかったため、人から疎ま

     れる事は無かったという。将としても、政治家としても優れた人物であ

     る。



ナレ・♂♀不問:雰囲気を大事に。


側近・♂♀不問:2セリフしかないのでどなたか兼ね役で。(ナレが兼ねた方が

        良いかも。)



※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いします。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:専横の激しい曹操そうそうを暗殺せよ。

   車騎しゃき将軍・董承とうじょうに打ち明けられたみかどの秘密の勅命ちょくめいに、劉備りゅうびも加担する。

   しかし曹操そうそうを討つ機会など簡単に訪れるわけもなく、季節は初夏を迎えよ

   うとしていた。

   そんなある日。


張飛:ふわあああぁぁ~~あ、あぁ~暇だ!


関羽:退屈か、翼徳よくとく


張飛:やることがねえからなあ…それにしてもうちの大将はどうしちまったんだァ

   !?


関羽:大将とは?


張飛:兄貴に決まってるじゃねえか。


関羽:少しは口をつつしめ。

   我が君を指して兄貴だの大将だのはないだろう。


張飛:義兄弟の仲だろ、いいじゃねえか。


関羽:そうは言っても、みかどから正式に左将軍さしょうぐん宜城亭侯ぎじょうていこうに任ぜられ、

   あわせて予州よしゅうぼくをも兼ねて劉予州りゅうよしゅうと呼ばれているのだ。

   そんな呼び方をしては、我が君の威厳をお前が地に落としているようなもの

   だぞ。


張飛:むむ…それもそうだな。

   けどよぉ、その左将軍さしょうぐん様がこのところ何をやっているのか、

   兄貴は知っているのか?


関羽:ああ…知っている。

   百姓のまねごとをやっているのだろう。


張飛:そうだよ。

   左将軍さしょうぐんだって言うんなら、位に応じた仕事ってもんがあるだろうよ。


関羽:それはそうだが。


張飛:なのにだ、おけを担いで畑ばかりたがやしているんだぞ。

   この陽気のせいで少し頭がおかしくなってしまったんじゃねえのか?


関羽:おい、言いすぎだぞ翼徳よくとく


張飛:言いすぎなもんか。

   百姓がしたけりゃ楼桑村ろうそうそんに帰りゃいいんだ。

   今は大事な時なんだから、少しはしっかりしてもらわなけりゃならん。


関羽:それには同意だな。


張飛:雲長うんちょう兄貴、やっぱり諫言かんげんしたほうがいいぞ。


関羽:何故だ。


張飛:こんな状態が世間に知れてみろ。

   皇族の威厳も何もあったもんじゃねえ。

   それともなにか、俺には何でも言えるが、我が君の前へ出れば何も言えんの

   か?


関羽:馬鹿を言うな。

   はぁ…仕方あるまい、行こう。


ナレ:初夏の日差しを浴びながら、二人は連れ立って裏の菜園さいえんへ向かった。

   近づくにしたがって、ぼくっ、ぼくっ、とくわが土を打つ音が聞こえはじめ

   る。

   二人は顔を見合せてしぶい表情になると、ひたすら土をたがや劉備りゅうびの後ろに近付

   いた。


劉備:ッ! ッ!

   …ふう…こうしてくわを持つのもずいぶんと久しいな。


張飛:我が君! 冗談ではありませんぞ!

   この時勢に畑仕事なんぞしていてどうするのですかッ、馬鹿馬鹿しい!!


劉備:! おお翼徳よくとく雲長うんちょうもおるか。

   何用か?


張飛:今日は我が君に物申したい事があって来ました!

   …おい、雲長うんちょう兄貴、頼む。


関羽:なんだ、こっちに振るのか?

   まったく…仕方ないな。

   …兄者、今日はそう呼ぶ事をお許し下さい。


劉備:あらたまって、どうしたのだ?


関羽:我らにはちと理解しがたい事があり、お考えを知りたく参った次第で。


劉備:考え?


関羽:はい、何か御思案の末かとは存じます。

   ですがここ二ヶ月、兄者は菜園さいえんで百姓の真似事まねごとばかりされております。

   お体の為と申されるのでしたら、弓馬きゅうば鍛錬たんれんをなさってはいかがでしょう

   か?


張飛:そうだそうだ!

   今から隠遁いんとん生活でもないはずだ。

   兄貴の考えが我らには分りかねる!


劉備:お前達の知るところではない。

   わからなければ、黙ってそれぞれの務めをしているがよい。


張飛:そうはいかん!

   三人の血は一つだ、一心同体だと常に言っておるのは兄貴ではないか!

   我らと言う手足が明け暮れ弓矢ゆみやみがいても、肩がおけかついでいたり、

   頭が百姓になっていたんでは一心同体とは言えないではないか!


劉備:はっはは…いや、これは一本取られたな。

   確かにその通りだ。

   だがこれには深い考えがあってのこと。

   今に分かる時が来るから、案ずるな。


関羽:は…、兄者がそう言われるのならば…。

   行こう。


張飛:う、うぐぐぐ……納得いかねえ、いかねえが…ここは引き下がるしかねえ。


ナレ:劉備りゅうびにそうまで言われては、二人とも口をつぐむほかなかった。

   やはり何かあってのことだと思い直し、退屈をまぎらす日々を送る。

   しかし数日後、二人が外出している間に劉備りゅうび曹操そうそうから招待を受け、

   庁舎ちょうしゃを訪れていた。


劉備:(曹操そうそうから…まさか、例の一件が漏れたのでは…?

   しかしここで断るわけにもいかぬ…。)


曹操:やあ劉備りゅうび殿、しばらくだな。


劉備:これは曹司空そうしくう閣下、ご無沙汰しております。

   いつもおすこやかで。


曹操:健康と言えば、君はずいぶんと日に焼けたな。

   聞けば、近頃は菜園さいえんに出て農作業ばかりしているそうだが、百姓仕事とは

   そんなに楽しいものかね?


劉備:(良かった…血判状けっぱんじょうのことではなさそうだ。)

   はい、実に楽しゅうございます。

   司空閣下のご政令がすみずみまで行きわたっておりますゆえ、

   空いた時間を使って畑をたがやしています。

   体にもよく、夕食は美味しく食べられます。


曹操:ははは、なるほどな。

   君は欲が無いかと思ったら、蓄財ちくざいの趣味はあるようだな。


劉備:【苦笑しながら】

   これは痛烈なおたわむれを…。


曹操:【笑いながら】

   いや冗談だ、気にかけてくれるな。

   実は今日君を迎えたのは、庁舎ちょうしゃ梅園うめえんに梅の実がなったのを見て、

   先年行った張繍ちょうしゅう征伐せいばつの時の事を思い出したのだ。


劉備:あの時は大変な猛暑であったとうかがいましたが…。


曹操:うむ。

   水もなく、喉の渇きに苦しむ兵達に向かって、

   「この先には小梅こうめの熟した梅林うめばやしがあるぞ! そこまで急げ!」

   と、いつわって進んだ。

   兵達は口の中につばがわくのを覚え、ついに行軍を成し遂げたことがある。


劉備:うーむ、さすがは司空しくう閣下、素晴らしいお知恵です。


曹操:そこで今日、急に君とその小梅こうめの実を煮て酒をわしたいと思い立った

   のだ。

   まあ来たまえ。

   梅林うめばやしを散策しながら、奥に設けた宴席までが案内しよう。


劉備:ははっ、お供いたします。


【二拍】


劉備:おお……これは広大な梅林うめばやしですな。


曹操:君はここを見た事が無かったかね?


劉備:はい、今日が初めてです。


曹操:それなら、花盛はなざかりの頃にも案内すれば良かったな。


劉備:いえ、司空しくう閣下おんみずから案内して下さるだけでも、恐れ多いことです。


曹操:宴席もむこうの渓流けいりゅうを巡った先にある、眺めの良い場所だ。

   …むっ。


劉備:! 雨ですな。そこの木陰こかげ雨宿あまやどりいたしましょう。


曹操:うむ。

   …ところで君は、ずいぶんと諸国を巡ってきているだろう。

   それゆえ、この時代を代表する英雄を必ず知っているに違いない。

   君から見て、英雄と名乗っても良い人物は誰と誰であろうか?


劉備:さあ……難しいおたずねですな。

   わたくしごとき凡人ぼんじんの目では。


曹操:いや、かまわん。

   君の胸中きょうちゅうにある者、誰でも良いゆえ、言ってみたまえ。


劉備:……。

   ! お、雨がやみましたな。


曹操:……そうだな。

   よし、歩こう。


劉備:まだ降りそうではありますが…今しばらくは大丈夫でしょう。


曹操:雨というのもまた趣があって良い。

   雨情うじょうという言葉もあるゆえな。


劉備:今の雨でだいぶ梅の実が落ちましたな。


曹操:まるで詩の中の光景ではないか。


   【二拍】


   さあ、着いたぞ。

   まずは掛けたまえ。


   【手を二回叩きながら】

   これ、酒を持て!


ナレ:間もなく豪華な酒器しゅきさかなの青い小梅こうめが卓に並んだ。

   二人は杯をかさね、梅をかじり、話に興じる。

   しかし、話題はやがて先ほどの英雄論に戻ってきた。


曹操: あぁ酔うた。梅の実で酒をむと、こうも酔いが走るものなのだな。

   …さて、先ほどもたずねたが、この時代に英雄はいるのか、いないのか。

   君の胸中きょうちゅうにある人物を言ってみたまえ。


劉備:そのことですが…、どうも自分にはこれという人も覚えておりません。

   ただ司空しくう閣下のご恩顧おんこを感じ、朝廷に仕えておりますが…。


曹操:ならば、世間の評判でもよい。

   世間ではどのような事を言っているか、論じてみたまえ。


劉備:…では…、聞き及ぶところでは、淮南わいなん袁術えんじゅつなどはいかがでしょうか。

   たくわえている兵糧ひょうろうも豊富、軍事にも精通し、世間も認めているようです。


曹操:ははは、袁術えんじゅつか。

   あれはもう生きている英雄ではない。

   墓の中の白骨はっこつだ。

   遠くない先、このが必ず生けって見せよう。


劉備:では…河北かほく袁紹えんしょうが挙げられましょう。

   家系は四代にわたって漢王室かんおうしつの最高位である三公さんこうくらいを務め、一族も無数の

   有能な官吏かんりが多く出ております。

   現在、配下の智将猛将ちしょうもうしょうは数知れずと言われております。

   彼こそ当世とうせの英雄と言っても良いのではありますまいか。


曹操:はっははは、袁紹えんしょうは決断力が無い。

   大事な時に身をしみ小さな利益の為に危険をおかす…

   そのような男を英雄とは言わんな。

   他には?


劉備:さあ…。


曹操:袁術えんじゅつ袁紹えんしょう、たった二人挙げただけで、

   もうこの天下に英雄はいないというのであろうか?

   それほど人がいないわけでもあるまい。


劉備:それでは…荊州けいしゅう劉表りゅうひょうは。

   九つの州をしずめ、八俊はっしゅんと称され、領内の統治とうちにも見るべきものがあると聞き

   及んでおりますが。


曹操:駄目だ駄目だ、領内の統治とうちなど、配下の小利口こりこうな奴がやっているに過ぎん。

   劉表りゅうひょうの短所は何と言っても酒におぼれやすいことだ。

   呂布りょふと似ている所のある奴が、なんで英雄と呼べるものか。


劉備:では、孫策そんさくは。

   司空しくう閣下は彼をどうご覧になられておられますか。

   まだ年若いのに江東江南こうとうこうなんおさえ、領民からも小覇王しょうはおうなどと呼ばれ

   信頼されておるようですが。


曹操:むむ、孫策そんさくか…。

   いや、言うに足るまい。

   奇策きさくを持って一時のあいだ功をそうしても、元々は父である孫堅そんけんの名を借りて

   大きくなったに過ぎん。まだ小さい。


劉備:ならば、益州えきしゅう劉璋りゅうしょうは。


曹操:あんなものは、門を守る犬に過ぎん。


劉備:では、張繍ちょうしゅう張魯ちょうろ韓遂かんすいなども英雄とは言えませぬか。


曹操:はっはははははは!

   こうして名を挙げてみると、まともなのがおらんな。

   そもそも、英雄とは大志を抱き、いかなる場合にも備え、

   行動する時はひるまず、時代におくれず、天地のことわりを知り、

   万民ばんみんを指揮する者でなくてはいかん。


劉備:そのような人物が今の時代にいるでしょうか。

   もう、他に思いつきませぬ。


曹操:いや、いる!!

   いま天下の英雄たりえる者は、大言たいげんくわけではないが二人しかおらん!


   と、君だ…!!


劉備:えっ…!?


ナレ:その言葉の終わらないうちである。

   いきなり青白い稲光いなびかりが空間を裂き、雷鳴がとどろく。

   どこかの木に落雷があったようだった。

   間をおかず雨が勢いよく降り出し、大地を叩き鳴らす。   

   機を逃さず、とっさに反応したのは劉備りゅうびだった。


劉備:わ、わわわ…!

   うう、か、雷は…雷だけは…!


曹操:!? どうされた、劉備りゅうび殿。


劉備:そ、その…、私は雷が大嫌いでして…。


曹操:雷鳴は天地の声、それが恐ろしいというのか?


劉備:ど、どういうものか、子供の時から恐ろしゅうございまして…。


曹操:ふうむ…。ふっ、そうか…。

   (どうやら、買いかぶり過ぎていたかな…この程度ならば…。)


劉備:お見苦しい所をお見せいたしまして、まことに申し訳ありませぬ…。

   (曹操そうそうがこれほど自分を恐れていたとは…。だが今のであざむけたようだ。)


   うっ、あれは…!!


曹操:関羽かんうに、張飛ちょうひではないか…?


関羽:我が君ーーッ! 我が君はいずこにおわす!


張飛:てめえら、どけえ! 邪魔すると蹴散らすぞ!

   我が君ーッ!!


劉備:静まれ!! 二人とも何事か!!


関羽:おお、我が君!


張飛:ご無事でございましたか!


曹操:関羽かんう張飛ちょうひ

   招きもせぬのに何をしにきた。


関羽:そ、それが、ご酒宴とうけたまわり、余興に剣の舞でもと思いまして…。


曹操:ははは、何を戸惑うておるか。

   そんな宴ではない。静かに酒をみかわし、世の中を語る宴だ。

   のう、劉備りゅうび殿。


劉備:申し訳ございませぬ。

   なにぶん、二人とも粗忽者そこつものでございまして。


曹操:なに、なかなかどうして、雷怯子らいきょうしの兄弟としては出来過ぎている程だ。

   今日のは機嫌が良い。

   剣の舞は見るに及ばんが、両人にさかずきをつかわそう。


劉備:ご寛大かんだいな度量、感謝いたしまする。

   では…。


ナレ:雨はやがて上がり、夕空には虹がかかっていた。

   劉備りゅうびの乗った車は二人の義弟おとうとに左右を護られながら、

   邸宅ていたくへ戻っていった。

   時代の英雄を論じた青梅あおうめうたげから数日後、劉備りゅうび庁舎ちょうしゃへその答礼とうれいに向かう

   べく、支度したくしていた。


張飛:えっ、曹操そうそうの館へ参るのですか!?


関羽:我が君、おやめになった方が…。

   曹操そうそうの胸の内には何が潜んでいるか分かりませぬ。


張飛:そんな相手には、こっちから近付かない方が賢明でしょう。


劉備:二人とも、それは違うぞ。

   だから参るのだ。


関羽:それは…どういうことでしょうか?


劉備:董承とうじょう様から大事を聞かされて以来、百姓の真似事まねごとをしたり、雷鳴におびえてみ

   せたりしたのも、すべては曹操そうそうに警戒心を持たせぬためだ。

   ここで彼を避ければ必ず疑われる。それよりは機嫌を取り、時には笑われて

   いた方が無事であろう。


関羽:!! なんと…そこまで考えての百姓仕事でしたか…!


張飛:我が君がそれほど深く考えておられるのでしたら、我らも曹操に近づくこと

   など恐れませぬ! なあ、雲長うんちょう兄貴!


関羽:うむ!

   我が君、我らもお供いたします。


劉備:二人とも頼むぞ。

   では参ろう。


ナレ:やがて庁舎ちょうしゃへ着いて面会を求めると、曹操そうそうは機嫌よく出迎えた。


曹操:おお、劉備りゅうび殿。

   今日はこの間と違って雷も鳴るまい。

   安心して酒をむと良い。


劉備:はっ、先日はお招きいただきありがとうございました。


曹操:さあ、遠慮はいらんぞ。君と酒をむのは楽しい。

   先日とは違い、今日は贅沢ぜいたくかつ濃厚なさかなをそろえた。堪能たんのうしてくれ。


劉備:ありがたきお言葉。では…。


【二拍】


側近:司空しくう閣下、河北かほくの情勢を探りに行っていた満寵まんちょうが帰って参りました。


曹操:そうか、すぐここへ参れと伝えよ。


側近:はっ。


【三拍】


満寵:司空しくう閣下、満寵まんちょう、ただ今戻りましてございます。


曹操:おう、ご苦労であったな。して、河北かほくの情勢はどうであった。


満寵:はっ、別段べつだん変った事もございませんでしたが、北平ほくへい公孫瓚こうそんさん

   袁紹えんしょうに滅ぼされました。


劉備:!! な、なんですと!?

   公孫瓚こうそんさん殿が…あれほどな勢力地盤せいりょくじばんと徳を備えた人物が、なぜこうも簡単

   に…。


曹操:どうされた、劉備りゅうび殿。

   勝敗は兵家へいかつねではないか。には分らんな。


劉備:それはそうですが、公孫瓚こうそんさん殿は幼き頃、盧植ろしょく先生へ共に学んだ仲です。

   反董卓連合軍はんとうたくれんごうぐんやその後も何かと世話になったものですから…。

   満寵まんちょうどの、できればどのように滅んだか、詳しくお教えくださるまいか。


曹操:ふうむ、そうか。

   そういえば君と公孫瓚こうそんさんは、無名のころから浅からぬ間柄あいだがらだったな。

   よし満寵まんちょう劉備りゅうび殿もあのように求めておられる。

   公孫瓚こうそんさんの滅亡のさま、より詳しく語るがよい。


満寵:はっ、さればこう言う次第しだいです。

   公孫瓚こうそんさんは近年、要害ようがいの地を選んで易京楼えきけいろうと名付ける大規模な築城ちくじょうを行い、

   そこに兵糧ひょうろう三十万石さんじゅうまんごくと大軍をたくわえました。


劉備:なんと…それほどの規模ならば、ますます威勢いせいは盛んになったのでは。


満寵:表向きは確かにそうです。

   しかし事実は隣国の袁紹えんしょうに領土を侵食され、従来の居城きょじょうでは不安を

   覚えたがためです。

   易京楼えきけいろうへ移ったのは、すでに滅亡の前兆ぜんちょうでもあった

   と見る事ができます。


曹操:公孫瓚こうそんさん城郭じょうかくに頼ったか、愚かな…。

   古来より落ちぬ城などないというのに。


満寵:以後は数度のいくさにもまず一応、強国きょうこくとしての面目めんもくは保っておりました。

   しかしある時、逃げ遅れた味方を見殺しにした事で、その信望は薄れ、

   配下の士気は低下し始めました。


劉備:馬鹿な…かつての彼はそんな事をする人物では…。


曹操:ならば自ら救いに出るか、あるいは親衛しんえいの将・きょチョなどを救いに向か

   わせるだろう。

   公孫瓚こうそんさんも、よくよく戦の機微きびがわかっておらんな。


満寵:五百の兵を救うために千の兵を失い、隙を突かれて城門に雪崩なだれ込まれた

   らどうするのだ、と言ったそうです。

   その後、袁紹えんしょう軍が城近くまでせまった時、城内の不平分子ふへいぶんしが不意に城を出て

   千人以上も降伏してしまったとの事です。


曹操:で、あろうな。

   救えたはずの味方を見殺しにしたのだ。

   残った兵がどう思うか、火を見るよりも明らかなことだ。


満寵:そこで公孫瓚こうそんさん形勢挽回けいせいばんかいの為、黒山こくざん張燕ちょうえんという人物に協力を求め、

   袁紹えんしょうはさみ撃ちする策を立てました。

   しかしそれも裏をかかれ、惨敗ざんぱいに終わったそうです。

   以降は易京楼えきけいろうまもりを頼みとして打って出ない為、袁紹えんしょう軍も攻めあぐねた

   かに見えました。


劉備:守りを固めさえすれば、三十万石さんじゅうまんごく兵糧ひょうろうを食いつくすまでの期間は防げた

   のでは…?


満寵:世間ではそういう風評でした。

   しかし袁紹えんしょう軍にもなかなかの策士がいると見え、地の底を掘り進めて城内

   に達したところで放火、かく乱、奇襲をかけると同時に、外からも総攻撃

   を仕掛け、一挙に攻め落としたとのです。


曹操:フン、袁紹えんしょうめ、なかなかだがならばもっと早く、もっと別の方法で落と

   したであろうな。


満寵:公孫瓚こうそんさんは退路を断たれ、自ら妻子さいしを刺すと自害して果てました。


劉備:公孫瓚こうそんさん殿…くっ…。


満寵:そういうわけで袁紹えんしょうの領土は北平ほくへい併呑へいどんし拡大、兵馬は増強されつつあり

   ます。

   いっぽう淮南わいなん袁術えんじゅつですが、自称していた皇帝の座を持て余したようです。

   兄の袁紹えんしょうへ皇帝を示す証である玉璽ぎょくじを贈り、名を取らせて実利じつりをせしめよ

   うと働きかけております。

   彼らが手を取り合えば、いよいよ由々しい大勢力となるかと…。


曹操:ぬう…それはまずいな。

   あの二人が形だけとはいえ結ぶとなると、厄介やっかいなことになるぞ…。


劉備:…司空しくう閣下、折り入って願いの儀がございます。

   お聞き届けくださいますでしょうか?


曹操:? 劉備りゅうび殿、あらたまってに願いとは何であるか。


劉備:今、満寵まんちょうどのが語るを聞けば、袁術えんじゅつ玉璽ぎょくじと皇帝の位を袁紹えんしょうに譲り、

   協力してこの中央へ手を伸ばそうとしているとのこと。

   これは司空しくう閣下にとっても捨ておけぬ事かと思われますが。


曹操:もとより由々しい事態だが…それについて、君に何か策があるのか?


劉備:袁術えんじゅつ淮南わいなんを捨てて河北かほくに向かうには、必ず徐州じょしゅうを通らねばなりません。

   私が一軍をお借りして待ち受け、その進軍を叩きます。

   そうすることで一つには司空しくう閣下のうれいを除き、

   二つには皇帝の位を望む袁紹えんしょうの思い上がりを叩きつぶし、

   彼らの企む野望を未然に阻止してご覧にいれます。


曹操:君にしては常にない勇気だが…、なぜそう急に思い立たれたのだ?


劉備:袁術えんじゅつ袁紹えんしょうを不利におちいらせれば、亡き友、公孫瓚こうそんさんの霊も慰められようか

   と思いまして。


曹操:なるほどな。君の信義もあるというわけか。

   よし、明日にでもさっそくみかど拝謁はいえつし、君の望みを奏上そうじょうしよう。

   君が徐州じょしゅうおもむいてくれればも心強い。


劉備:ははっ、必ずや司空しくう閣下のご期待に応えてごらんにいれます。


ナレ:翌日、劉備りゅうびみかどに拝謁し、五万の兵と朱霊しゅれい露昭ろしょうの二大将を借り受け、

   みかどの見送りを受けて許昌きょしょう出立しゅったつする。

   彼の一連の動きは、見事に曹操そうそうあざむきおおせたのだ。

   皇帝を自称した袁術えんじゅつを漢王室の一族である自分が許す事は出来ない。

   しかし、彼の本当の思惑おもわくは、許昌きょしょうからの脱出であった。

   郭嘉かくかの忠告でそれと気づいた曹操そうそうがつかわしたきょチョを言いくるめて帰す

   と、彼はひたすら徐州じょしゅうへの道を急いでいた。


張飛:我が君、いつになく急いでいるように見えるんだが、何故です?


関羽:これほど馬を早めなくても、袁術えんじゅつ徐州じょしゅうを通るにはまだ時間があるかと

   思いますが…。


劉備:いや、そうではない。

   今だから言うが、許昌きょしょうにいた間は一日たりとも心が休まらなかった。

   かごの中の鳥、網の中の魚に等しい命…少しでも曹操そうそうの気が変われば、

   いつ殺されてもおかしくはない。

   ああ、ようやくかごから放たれ、網よりのがれた心地ここちがする。


関羽:そこまでご心労あそばされていたとは…お察しいたします。


張飛:確かに、今はのびのび全身をのばしてる気分だ!


劉備:さ、少しでも早く許昌きょしょうから遠ざかるのだ。急ごう。


関羽&張飛:ははっ!!


ナレ:ついに劉備りゅうびは虎口を逃れた。

   徐州じょしゅうへ急ぎ、偽帝ぎてい袁術えんじゅつを討つべく態勢を整えにかかる。

   一方の曹操そうそういても及ばず、挽回ばんかいの為の謀略ぼうりゃくをめぐらす。

   両雄の本格的な戦いは、まだ始まったばかりであった。



END




どうもおはこんばんちわ、作者です。


今回はバトル要素の無い回ですな。

曹操と劉備が世の中の英雄について論じ、最後に曹操から「英雄と呼べるのは君と私だけだ」と言われる、そんな情景を台本にしたく書き上げました。


どうか楽しんで読んで、演じていただければ幸いです。

ツイキャス、スカイプ、ディスコードで上演の際は、お声掛けいただければ是非拝聴しに参ります。

欲を言えば上演のデータも後でいただければなお喜びます。


ではでは<m(__)m>


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