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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

石使いの乙女はダンピールの王子見初められる

その日、スフェール・ジェムは継母と義妹が家から出ている間に川辺を散策する。

そこで真実の石の欠片を拾い持ち帰る。

すると、継母にいわれのない罪を咎められるが不思議な声が聞こえてきて、欠片が光り出した──





 私は自分にこんな力があるなんて思ってもいませんでした。




「こんな事もできないのかいこの屑!!」

「本当恥さらしね、この女は」

「ご、ごめんなさい……」

 私は、家事をその日は手間取ってしまい、継母と義妹に罵られ、鞭でぶたれた。

 痛みにはなれてしまった。


 仕事が忙しいだとかで返ってこない父にも希望を持つのをやめた。


「じゃあ、私達はお茶会にでてるからね」

「アンタは来ないでちょうだい!」

 継母と義妹が居なくなると、私は安堵の息を吐く。

 そして外へ出掛け散策をする。


 川辺に向かい、いろんな石を見つめる。

 石や鉱石は好きだ。

 ありのままの形のものがすきだし、時間と共に形を変えたものも好きだ。

 ふと目についた石を拾う。

「何でこんなものが……」

 石や鉱石への鑑定能力を持つ私は驚きの声を上げた。

 なんと真実の石の欠片が川に流れ着いていたのだ。

 真実の石像を水洗いしている間にかけてしまったのだろうか?

 そんな事を考えていると自由時間の終わりが近づき、私はその石をポケットに入れて、自宅に戻った。

 自宅に戻り、家事をしていると、怒鳴り声が聞こえた。


「このドロボウ娘!」

「な、何の事でしょう?」

「私の宝石を盗んだでしょう?! アンタの部屋にあったのよこの恩知らず!!」

 数名の貴族の方々の前で私を糾弾する。

「違います!!」

「嘘仰い!」


『その通り、この娘が真実なり』


 そのとき、声が聞こえた。

 荘厳な声が。


「な、何よ?!」

「だ、誰?!」


 ポケットが光り、私は真実の石の欠片を取り出すと、石は光り輝き、その光は人の形を成した。


 真っ白な美しい男性が現れる。

「嘘偽りで塗りたくる女共、我が主をいたぶり続けた事を後悔させてやる」

 男性はぎろりと継母と義妹を睨み付けた。

「え、どういうこと? この子は引きこもりで家事をやりたがる子じゃないの?」

「否、その二人に毎日のように馬車馬がごときにこき使われ、また服も買って貰えず、逆らえば鞭で打って暴力を振るっていたのだ」

 その言葉にざわめく来客達の貴族達。

「ち、違うわ!」

「その男は大嘘つきよ!」

「嘘つきはどちらだ。我が名はヴェリテ、真実の石の精霊なり」

「な、何で真実の石をこの娘が持ってるんだ?」

「ちょうど石像を洗っている最中に欠けたのでな、それをこの娘が拾ったのだ」

「じゃ、じゃあ、貴方達が今まで行ってた娘がダメだってのは……」

「暴力を振るっていたのがバレないようにする為、そしてそろそろ父親が帰ってくるからバレる前に追い出す為に一芝居うったのだろう、なぁ?」

 継母はガタガタと震えている、義妹はこちらを睨み付けている。

「ええ、そうよ! こんな女いらないのよ!」

「そうか、ではそんな事を考えられないようにしてやろう」

「え?」

 義妹の体がぐにゃりと変形し、石ころへとかわった。

 ころんと、そこに石が転がっている。

 悲鳴が上がる。

「ああああ!! プロン!! なんて姿に!! お願い、娘を戻して!!」

「断る、我が主を陥れようとした輩にかける慈悲があるとでも?」

 男性(ヴェリテ)は継母の言葉を鼻で笑う。

 そして私に近づいてきて──

「主よ、ご安心ください、嘘偽りで貴方を陥れる輩は全て私が廃除しましょう」

「ヴェリテ……さん……」

「ヴェリテで結構です」

「……ヴェリテ、これからどうすれば……」

「今は夕暮れ時です、ですのでもうじき王宮から使いが来るでしょう」

「え?」

 私は戸惑うことしかできなかった。




 夜は吸血鬼の時間。

 吸血鬼の真祖が統べるこの国が最も活発になる時間。

 ヴェリテの言う通りやってきた。

「石使いの乙女、スフェール・ジェム様。さぁ馬車にお乗りください」

 蒼白い肌の吸血鬼の方々がそう言うので馬車に乗る。

 継母達は別の馬車に乗せられていた。


 移動してついた先は、荘厳な城だった。

 ボロボロの服しか持っていない私が来ていい場所とは到底思えなかった。


 鼻につく血の匂い。


 吸血鬼の貴族の方々が血液(ブラッドワイン)を飲んでいる匂いがした。


 ぼーっとしてると目の前が霧に包まれ、そして霧が消えると美しい青年──いえ、この国の第一王子リュヌ・エクリプス様が姿を現しました。

「すまぬ、父は多忙で来られぬ故、私が代理だ。石使いの乙女よ」

「お招きくださり有り難うございます……こんな格好で申し訳ありません」

「気にはしない。それは其方が悪いのではない、あの女共が悪いのだろう?」

 金色の目でぎろりと継母を睨む。

 継母は悲鳴を上げつつも、石ころになった自分の実子を手放さない。


 私はリュヌ殿下に連れられ、裁判の間へと案内される。

「あの、この欠けた部分は……」

「もう治しているから、貴方が持っていると良いだろう」

 リュヌ殿下は優しい微笑みを浮かべました。


 リュヌ殿下は厳しく人間も吸血鬼もダンピールも毛嫌いしている方と噂されているのに、とても優しい御方でした。

 どうして私にこんなに優しいのでしょうか。


「お願いです、私の娘を戻してください!!」

 継母が懇願する。

「精霊ヴェリテがそうしたのだ、戻す理由はない」

「そんな……このあばずれ!! アンタの所為で私の娘が──」

「何なんだ?! 仕事中呼び出されたと思ったら……ん? フィールにスフェールじゃないか。プロンはどうした? それにスフェールその格好は……」

「ああ、貴方! スフェールの所為でプロンが石ころに……」

『その言葉、虚偽なり』

 石像が語る。

「虚偽なんかじゃないわ!! ヴェリテとかいう変な奴に石ころにされたのよ!! ヴェリテが主と呼んでいたのはスフェールだからスフェールが悪いのよ!!」

『虚偽なり、汝はスフェールを排斥しいたぶり続けてきた。そしてそれが露見する前に、証拠隠滅の為、盗人扱いをし、追放しようとした』

「ち、違うわ!! 信じて貴方!!」

「悪いが信じる事はできない、何せ真実の石像が語る言葉だ、お前は私の娘をどう扱っていたのだ!!」

 父が継母を怒鳴りつける。

「なぁ、教えてくれスフェール。お前はどんな扱いを受けていた?」

「家事を全てやらされ……鞭でぶたれ、元々持っていた服は破かれ、お母様の形見は奪われ……今はこのような服しかなく……助けを求めても無視されてきました……」

「ああ、何てことだ……!!」

 父は頭を抱えてうめいてから、継母を怒鳴りました。

「よくも私の娘を酷く扱ってくれたな!! お前のような女とは離婚だ!!」

「そ、そんな。待って貴方!!」

 私はそんな継母と父を暗い目で見つめていました。


──どの口が言うの──


「──お父様、貴方にも助けを求めたはずです? お忘れですか?」

「?!」

 その言葉に父が硬直する。

『その言葉、真実なり』

「仕事が忙しいから仲良くやりなさいとしか返事はありませんでした、読んでなかったのですか? それとも──」


「もっと別の何かに熱中していたとか?」


「そ、そんな事はない!!」

『その言葉、虚偽なり』

 石像が語る。

「私に貴方達は必要ないです、みんな石ころ以下になってしまえばいい、プロンのように」

 血を吐くように、憎悪を吐露する。


「待ってくれ! やり直そう、な? スフェール!!」

「も、もう二度といじめたりしないから、お願いよ、スフェール!!」


『被害者の望みは聞き届けた、汝等は石になるがいい』


 ぐにゃりと父と継母の姿が変わる。

 そして石ころがころんとみっつ床にころがっていた。


『これをどうする?』

「このまま捨ててください、火山にでも」

 石になった元家族の声が聞こえる。

 助けを求める声が。

 でも私は無視する。

 私の声を無視してきたんだから。

「今ここで砕いても構わないのですよ」

 リュヌ殿下が言うが私は首を振った。

「火山につくまでの恐怖と絶望を味わえばいい、私が感じた絶望を味わって欲しい」


「助けの無い絶望を──」


 リュヌ殿下は頷き、石ころを火山の火口へと落とすように指示を出すと、配下の方々が石ころを籠にいれて持って行ってしまった。


 私はその場にへたり込む。

 自分はここまで冷徹になれる人間だったのかと思った。

 自分自身が怖くなった。


「怯えなくてもよいのですよ、石使いの乙女スフェール」

「リュヌ殿下……」

 私は微笑むリュヌ殿下を見上げる。

 手を掴んでいただき、そのまま城の一室に案内される。

「今日はここで休んでください。皆の者、客人に休息の準備を!」

 そう言われると、現れた侍女さん達に体を洗われ、綺麗なネグリジェを着せて貰い、眠ることができた。

 真実の石の欠片は私の手の中にある。

 それを握ったまま、眠りに落ちた。





 翌朝、食事を食べさせて貰い、綺麗な服を着せて貰い、それから鉱石を見せて貰った。

 私が鉱石に触ると、その精霊が現れ、色々とお話をしてくれた。

 日中に耐性がある方々がそれに対応していた。

 夜になると、リュヌ殿下が私のところへおいでになった。

「リュヌ殿下」

「少し、散策しませんか?」

「は、はい……」

 リュヌ殿下の申し出を断る理由がありませんでした、こんなに良くしてくださっているのに。


 月下の下庭を散策すると、吸血鬼の貴族の方々が、狼へと姿を変えて競争しているのが目に入りました。

 吸血鬼の貴族の方々とは接する機会はありませんでしたから、このような光景を見るのも初めてでした。

 血の匂いも漂ってきました。

 それを見て賭け事をしている貴族の方々がブラッドワインを飲んでいるのが理由でした。


 ちらりと横目でそれを見たリュヌ殿下は、軽蔑の眼差しをしていました。

「リュヌ殿下?」

「ん、ああ、いや。みっともないとね」

「みっともない……」

「夜を愛でるのでもなく、夜に感謝を捧げるのでもなく、このような馬鹿騒ぎをする貴族にうんざりしているのだよ」

「そうなのですね……」

「すまない、君が相手だと色々と喋ってしまいそうだ」

「愚痴ならいくらでも聞きます」

「本当かい?」

「はい」

 そういうと、リュヌ殿下は嬉しそうな顔をなされました。

「君は本当に正直だね」

「……継母達が居た頃は何をいってもぶたれてましたから……ですから正直に言うように……」

「……」

 そう言うと、リュヌ殿下は悲しげな顔を成されました。

「辛かっただろう、だがもうそんな心配はないとも」

「本当ですか?」

「ああ、私が保証しよう」

「有り難うございます」

 私はどうなろうとも、辛い思いはもうしないですむと思えました。

 リュヌ殿下のお言葉は優しく、真摯的だったからです。


「君の力を見せて欲しい」


 リュヌ殿下そう言って取り出したのは、ファイアストーン。

 内側で炎が燃えている石です、火山で採取できる石です。

 魔術の媒介にもなります。

「はい……」


 私が石を手に持つと、炎が形を作り、人の姿になりました。

「これで良いですか」

「ああ、いいとも、素晴らしい……」

『我が主達、何かご用ですか』

「火口に石ころがみっつ落ちたのだが、どうなった」

『解けて無くなりました』

「……」

 私はその言葉に、安堵と悲しみを覚えました。

「どうして泣いているのです?」

「これでもう家族には裏切られないはずなのに、一人になった悲しさからです。身勝手でしょう?」

 正直に話しました。

「身勝手でもない。それに貴方は一人ではないよ」

「え……?」

「スフェール、どうか私と共に歩んで欲しい」

「でも、私は……」

「貴方ほど誠実な女性は見たことが無い、皆私には仮面を被りはやし立てるのに貴方はそれがない、まっすぐに私を見てくれている」

「殿下……」

「歩んでくれるなら、どうか私に血を吸わせてください。ダンピールだから同族にはできないけども、それでも貴方が私の伴侶の証となる」

 まっすぐ言う陛下に、私は首を隠しているスカーフを取りました。

「どうぞ……」

「ありがとう」

 牙が食い込んだとき、甘い快楽が生まれました。

 心地よい感触に目を閉じました。





「やれやれ、私が仕事にかまけている間にいつの間にか妻をめとっているとはな」

 国王陛下が苦笑いを浮かべています。

 威厳のある蒼白いお顔と白い髪、赤い目ですが、不思議と怖くはありませんでした。

「仕事にかまけている父上が悪いのですよ、見てください、私の伴侶を」

「純朴な娘だな」

「ええ、ええ、それは」

 国王陛下とリュヌ殿下に言われて私は恥ずかしさでいっぱいです。

「恥じらう君も素敵だよ、スフェール」

「ありがとうございます、リュヌ殿下」

「ところで式はいつ挙げる?」

「四日後の満月の日に」

「分かった」



 そして四日後の満月の夜の時間帯に、私は式を挙げました。

 貴族の方々は私の首筋の二つの穴を見ています。


 リュヌ殿下の証の吸血痕。


 あの方だけのもの。


「愛しています、リュヌ殿下」

「私も愛しているよ、スフェール」

 私達は口づけをしました。

 誓いの口づけを──











 吸血鬼の真祖が支配する夜の国エクリプスでは、石使いの乙女が人々を助けているという。

 持っている石で真実を暴き出し虚偽をさばいたり、野焼きの手伝いをしたり、水を綺麗にしたりと、石を使って人々を支えました。

 そんな石使いの乙女を人々は敬い、またその乙女を伴侶にした第一王子を褒め称えました。

 そんな二人は末永く幸せに暮らしたそうです──









短編を書きながら要領しています。

なかなか長編が書けません。


今回も吸血鬼、ダンピールのネタを入れました。

好きなもので。


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― 新着の感想 ―
うーん、父親はまともだと思っていただけにショックが大きいですね。もっと別の何かですか。これは女関係ですかね?はっきりとは書かれてはいませんが、恐らくそうでしょうね。スフェールが助けを求めたというのに一…
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