ボクと京口さんの女子会
川祭りを楽しむ京口さんと誠一から逃げるように一人抜け出したボクを誠一は追いかけてきた。
そして泣きじゃくるボクの顔を掌で包み込む様にしながら、ボクの唇を奪う。
誠一の温かい唇の感触が伝わってくるとボクは目をつむってしまう。
キスをはねのけるように小さく抵抗をしていた手は力なく押しつぶされてしまう。
そうじゃない。
抵抗なんかする力なんか最初からボクにあるはずがなかった。
だって、ボクは望んでいる。
京口さんがいても構わないわ。だって理性なんか、ボクの弱い心なんか誠一のキスで吹き飛んでしまったの・・・・。
ボクは今、この時だけは誠一に全てを奪われたいと思っている。
誠一の唇を感じていたい。もっと誠一を求めてる。
・・・・今だけは、もっと誠一に求められたいと、ボクは心の奥底から思っている。
誠一のことをあきらめようと決めて悲しくて流した涙も、すでに止まっていた。
ボクの心は今、幸せで一杯だったから・・・・。
だから誠一の唇が離れていこうとすると、このぬくもりが失われるのが悲しくなって逆に抵抗してしまった。
「・・・・やあぁん・・・・もっとぉ・・・・。」
ボクは自分で自覚しないまま、ものすごく甘ったれた声を上げて、誠一にキスをねだる。
離れていこうとする誠一の体を追いかけるように背伸びし、離れないように誠一の頭を抱きしめる。
「好きっ!!・・・・・・大好きなのっ!!」
ボクは誠一に告白する。
そして、自分から誠一に唇を重ねる。
誠一は、そんなボクの求めに答えるようにボクの腰を抱き寄せると、もっと激しくキスをしてボクを求めてくれる。
ああっ・・・・!!
誠一が・・・・・ボクをこんなにも求めてくれている。
ああっ!!なんてステキなの・・・・・。
ボクも誠一のことを求めているの。深く、深く・・・・・どこまでも深く愛しているの。
お願い・・・・。誰か、今を永遠の一瞬にして。
時が終わるまで、こうしていたいから。
ボク達は人目もはばからずにキスをした。
激しくお互いを求めあって唇を重ねあった。
どのくらいそうしていたのか、ボクにはわからない。
キスをしている間、頭の中が真っ白になるくらい誠一を求めていたから。
そして、呼吸が止まるほどの激しいキスが終わるころ、ボクは腰が抜けてしまって、その場に座り込んでしまった。
誠一は、そんなボクをおんぶすると、「帰ろうか」と言ってくれた。
ボクは小さく「うん」と答えると、誠一の広い背中に顔をうずめる。
誠一のTシャツから、柔軟剤の甘い香りと誠一のにおいがする。
ボクはずっとこのにおいを知っている。誠一のにおいを知っている。
幼いころから一緒にいて、ずっと一緒に遊んでいたから知っている。
不思議だね。あの頃は、こんな仲になるなんて思わなかったのに・・・・・
「ずっと昔、野原で転んで泣きじゃくってたお前をこんな風に抱っこして帰ったことがあったな。
あの頃から、お前のことが好きだったんだぜ。
あの頃と同じでお前の肌のぬくもりをこうして感じているだけで、俺はドキドキしてるんだぜ。」
そういや、そんなことがあったね。
ん?でも、そのころはボク、本当に男だぞ。
「て、いうか・・・・。それってホモじゃないの?」
「違うわっ!!お前は昔から女にしか見えなかったんだよ。お前が悪い!」
「え~?」
ボクは、誠一の告白を聞いて、その当時の事を思い出しながら、くすくすと笑ってしまう。
そうなんだ。誠一はあの時、そんなことを考えながらボクをおんぶしてくれていたんだ。
「まぁ、前にも言ったけどさ。俺には理性があるからさ。男同士でそんな感情を抱くことに嫌悪感がなかったわけじゃないんだぜ?実際、俺は女の体がエロいと思ってるし、男の体に興奮したりはしない・・・・・。
・・・・・でも、お前は抱きたいって思ってた。セックス的な意味だけじゃなくてさ。お前の全てを俺のものにしたいって思ってたからさ。そのぐらい好きだった。」
「そんな自分が嫌になったから、お前をあきらめるように女を好きになった。告白された恋だったけど、俺は相手のことを本気で好きになった。
理性が邪魔して自分の気持ちに背を向けて、諦めて逃げ出したくなる。そんな経験は俺にだってあるんだ。
迷うことがあって当然だ。人間なんだからさ。
猪突猛進に思い込みだけで一つのことに生きていける奴がいたら、それは異常者だ。」
「・・・・だからさ、沙也加に気を使ってお前が自分の気持ちに迷ったって、俺はそれに幻滅したりしない。お前を諦めたりしない。
お前の気持ちがどんなに揺れたって、俺はお前をものにして見せる。」
「だから、覚悟してろよっ!俺は、もっともっとお前に俺が好きだって思わせてやるんだからなっ!
それでどんな障害があっても、乗り越えられるくらい俺のことが好きになったら、お前の全てを貰うっ!」
珍しく誠一が長々と話してくれた。そして、その一言一言がボクの心の奥底を温めてくれる。
ああ、誠一。君の言葉は、魔法のように諦めようと決めたボクの心を癒してくれる。ボクの心を再生させてくれる。
それは、既にもうボクは、誠一が好きだから。大好きだから。
だから、全てを君に任せて待つね。君がボクの理性の全てを吹き飛ばして、君に愛されたいと、君に抱かれたいと思うほど好きにさせてくれるのを・・・・。
そうして、ボクは、誠一の背中にそっと口づけする。「これは私のもの」って証を付けるように・・・・・。
誠一はボクを家の前まで送ってくれると、ボクのおでこにキスをして「じゃぁ、また明日の練習で」と、さわやかな笑顔を見せて去っていく。
全く、君はどこの王子様なのよ。
好きっ・・・。
ボクは、君の後ろ姿にそう呟くの。
大好きだよ。誠一。
翌日、ボクは誠一と一緒にスタジオに練習に出かける。
スタジオには、皆がそろっていた。
若干、状況を察したかのような微妙な空気になっていたけど、京口さんが「始めようよ」って切り出した。
それで全員がホッとしたように練習を始める。
練習が始まると皆、音楽に取りつかれたミュージシャンたち。何事もなかったかのように練習を進める。
ボクは精一杯、歌うんだけど、誠一も京口さんもダメ出ししてくるし、
「ねぇ、あなた。いい声してるんだから、ツインボーカルもやってみない?コーラスだけじゃつまらないでしょ?」
なんて、要求のハードルを上げてくるし。
め、めめめめめ、滅相もないっ!!
今だって、ボクは限界だよっ!!楽器は演奏してないけどさ、今だってダンスしながらコーラスやらされてるんだよっ!?それでリズム乱れただけで怒るくせに、なんでハードル上げるのよっ!
ボク、そんなの絶対無理なんだからねっ!
・・・・・でも、バンドメンバーは、乗り気だ。
結局、ボクは皆に押し切られるようにツインボーカルまでやらされることになる。しかも、京口さんは「絶対に可愛いから」って、タンバリンまでやるように言ってきた。
あのね、ボク。知ってるよ?タンバリンって滅茶苦茶奥が深いでしょ?
あれ、楽器が出来ない子がやるものじゃないでしょ。楽器が出来る人がやればやるほど能力を発揮する楽器でしょ?
「私が教えてあげるから、やりなさいっ!!」
京口さんは、音楽に嘘を付けない子だ。こんな嫌がらせにしか思えないような要求も音楽性を高めるためにやっていることはわかる。でもね・・・・・京口さん。ボク、別に音楽少女じゃなくて、誠一の思い付きで巻き込まれただけなんですけどっ!
せ、誠一~助けてよ~と、ばかりに誠一を見つめても、誠一は大きくうなずくだけだった。
「大丈夫!お前ならやれるさっ!!」って声が聞こえてきそうだった。
誠一のバカーっ!!
スタジオを出ると京口さんは、「私が教えてあげるから、ちょっと帰りにうちの家に来なさいよ」って言ってきた。その言葉に一瞬、メンバーが凍り付いた。でも、ボクは知ってるよ、京口さんは音楽に嘘を付けない子だって!
「うん!お願いっ!!」
ボクがそう言うと誠一も「ちゃんと教わって来いよ。」って、送り出してくれた。
京口さん、誠一に凄い信頼されてるんだ。いいなぁ・・・・。
あ、京口さん。顔まっかっか。嬉しいよね。
わかる。
めっちゃわかる。誠一って女たらしだよね。
好きな男の子にあんなさわやかな笑顔されたら、絶対に嬉しいよね。
その後、ボク達はバンドメンバーと別れると、京口さんと二人で京口さんの家に向かう。
「ほら、こっち。」
そう言って京口さんはボクの手を引いてくれる。優しい。頼りになる。カッコいい‥‥。
憧れちゃうなぁ‥‥。
京口さんの家は、スタジオから少し離れたところにあって電車で移動した後、15分ほど歩いた住宅街の中にあった。京口さんの家に着くと、京口さんのお母さんは、ワンピース姿のボクの姿を見て「可愛いっ!ねぇ、沙也加。貴女もこういう可愛い恰好しなさいよ!」って言ってきた。
ジャケットにホットパンツ姿の京口さんは「そんなのロックじゃないもんっ!」って、怒り出した。
難しい年頃ですなぁ。
それでも、京口さんの部屋に入るとそこは完全に女の子の部屋だった。ロックな感じは全然しない。本当に可愛らしい部屋だった。
「へぇ・・・・。」
部屋の様子を見たボクは思わず声を上げると、京口さんはホットパンツをロングスカートに履き替えながら「ずっとロックなわけじゃないわよ。だって、そんなの可愛くないもん」と言った。
ああ。音楽の時だけロックにいたいんだね。
だから、つまり、今はロングスカートを履いた女の子の時間ってことだよね?
ボクが納得したとき、京口さんは話を切り出した。勿論、誠一の話だ。
「私、見たわ。誠一とキスしていたでしょ?」
京口さんは、悲しそうな顔で聞いてきた。
ボクは、彼女の顔を真っすぐ見て「うん。」って答えた。できるだけ、誠実に京口さんと向かい合うべきだって思ったから。
「あいつ・・・・キス上手かったでしょ?」
ううん。ボクは、キスなんて初めてだったから、わからない。ただ頭が真っ白になって、誠一の事ずっと「好き」って思ってたの。
「そういうのを上手って言うのよ。」
うん。
「・・・・フェアにならないから言っておくけど。私もあの日、誠一とキスしたのよ。」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・え?
「あんたを追いかけて行くのを止めるために。引き留めるためにあいつにキスしたの。」
あ、京口さんがキスを仕掛けたの?
ボク、ちょっと焦ったよ。心臓が止まるかと思ったよ。
もうっ!!先に言ってよ、そういう事。
「ふん。でも、あいつ。逃げなかったわ。私のキスを受け入れたわ。
あいつは自分でも理解してないけど、深層心理では、まだ私のこと好きなはずよ。
いやだったら、抱きしめられたときに逃げ出すもの。」
・・・・うん。そう思う。
誠一は本当に京口さんのことが好きだった、って言ってたもん。そんな気持ちがそんな簡単に消えるわけないもの。
でも、ボクの方が好きなはずって、ボクは信じているわ。
「あいつは、アンタを追いかけて行ったけど、私にキスされたとき、自分でも驚いていたわ。
意外だったのよ。断れなかった自分が。」
・・・・・そうかもしれない。
「キスしたくらいでいい気にならないでね?私たちはもっと先まで行ってるのよ。
だから、あいつを振り向かせることは、まだ可能ってことよ。」
・・・・・・・・うん。
でもね、ボクは誠一の事、信じているわ。絶対に誠一はボクへの愛を貫いてくれるって。
「・・・・ふんっ。言っておくけど、おこちゃまのあんたなんかじゃ太刀打ちできないような色仕掛けをしてあげるんだから。キスを断れなかったあいつが我慢できると思わないでよねっ。」
むーっ!!どうせ、ボクは処女ですよっ!!
でも、絶対にボクの方が色っぽいもん。
オッパイだって京口さんよりもおっきいもん!!
って、胸を張って言い返したら、思いっきり乳首をひねられた!!
「いたっ!!や・・・・・やんっ!!・・・・・ぼ、暴力反対っ!!」
ボクが慌てて両手で胸を隠して、涙目になって抗議すると京口さんは人差し指でボクを指差しながら、警告してきた。
「あんたねぇ!女の子同士でそんなこと言ったら、戦争になるわよ?いじめられちゃうんだからね!!絶対にそんなことを言ったらだめよ!!他の子に対してもっ!!わかったっ!?」
京口さんは、ボクに女の子の教育をしてくれるんだ。
「はい。ごめんなさい。」
ボクが素直に頭を下げると、京口さんは、ボクの頭をヨシヨシしてくれた。
「わかればよろしい。いい?誠一とキスしたからって、まだまだだからね。むしろ、エッチしてる分。私の方がリードしてるんだからねっ?」
・・・・
・・・・・・あの、聞いていい?
「なに?」
「アイツのあれ・・・・怖くなかった?」
ボクは真っ赤になりながら尋ねた。誠一のあれを思い出しながら、体をモジモジさせながら京口さんに尋ねた。だって、恥ずかしいけど女の子だったら、やっぱり気になるもん!!
京口さんは、呆然とした後、ケラケラと愉快そうに笑うと、ボクのほっぺにキスしてから「教えてあげないっ!!」って悪戯っぽい笑顔を見せていった。
ああ、可愛いなぁ。ボクが男の子だったら、付き合ってあげたいよ。
ボク達はそのあと、一時間くらいタンバリンの練習をしたけど、この奇妙な女子会は楽しかったなぁ・・・・・。
15歳の夏。ボクは恋敵の京口さんを相手に初めての女子会で恋バナに花を咲かせたのでした。
・・・・・やっぱり、京口さんは可愛い。好きっ!!
友達の女の子としてね。
いつもご愛読、ありがとうございます。
評価とブックマークを付けてくださった読者の皆様。
ありがとうございます。本当に励みになります。
これからも頑張っていきますので、よろしくお付き合い願えたらと思います。