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ボクのファーストキス

今日は川祭りの日。

子供の頃から慣れ親しんだ川祭りで、幼馴染の「友達」だった誠一とは何度も一緒に行った。

でも、今年は違う。

だってボクは今年、女の子になり、誠一はボクの「恋人」になったのだから。

だから、ボクは今年は「恋人」の誠一と一緒に川祭りに出かける。

この「川祭りに()()()()」というのは、川祭りデートをするわけじゃないから。

バンドメンバー同伴。というか、バンドメンバーの皆で出かけるの。

どうやら去年、一昨年は、誠一に恋人がいることに気を使って、川祭りの日は練習さえしなかったらしいんだけど、今年は、ボクと京口さんとの確執があることを悟ったメンバーが揉め事が起きることを嫌って、機転を利かして全員で川祭りに行こうと言い出したの。

ボクとしては気を利かすのだったら、元カノの京口さんを誠一から離すように画策して欲しかったよ。

だって、誠一は今、ボクの彼氏なんだからね!!

なんだって元カノ同伴で川祭りデートに行かないといけないの?

色々と不満はあるものの、音楽は一人でやるものじゃない。だから、バンドメンバーが揉め事を嫌がってこういう判断をする気持ちがわからなくもない。

メチャクチャ嫌だったけど、ボクはジッと我慢することにした。

皆のために恋愛感情を我慢できるボクって滅茶苦茶いい女だと思う。



「よし!じゃぁ、今日は練習をここで切り上げて、一度解散してから6時に集合な。」

誠一がバンドメンバーにそう、声がけすると、皆でダラダラととりとめのない会話をしながらスタジオを出て解散していく。

最後まで誠一に付き添っているのは、当然、ボクと京口さん。

3人で並んで道路を歩くと他の通行人の邪魔になっちゃうから、ボクと京口さんは道路を歩く他の人の邪魔にならないように誠一を先頭にボク達二人が、その後ろを左右に並んで歩いてついていく。

・・・・・何、この状況。

こんなの少女漫画でも読んだことないよ。彼氏の元カノと一緒に並んで歩くなんて・・・・・・。

どんな修羅場なのよ。

ボクの右隣を歩く京口さんも同じことを考えているのか、ちょっと泣きそうな顔してる。

わかる。

めっちゃわかるよ。

だって、ボクも泣きたいもの。

今カノのボクと並んで歩くという状況に耐えられなくなったのか、京口さんは、できるだけ誠一と会話しようと努める。


「ねぇ、誠一。私、今年、新しい浴衣を買ったの!」

「え?・・・・・いいなぁ・・・・。」

ボクは思わず口をはさんでしまった。

だって、ボクは今年、女の子になったばかりだから浴衣は持ってないの。なにしろ今まで男の子として生きてきたから持っていた服は全処分して、それから新しい服を用意したものだから、両親には随分と散財させてしまった。しかも、その時、両親は、性別が変わってしまったボクに気を使ってそこそこいい服を用意してくれたものだから、余計に家計を圧迫した。お父さんはお酒をやめたし、お母さんは、3時にお菓子を食べていない。

だから、今年は浴衣を買う余裕は、うちにはなかったの。

しかも、お母さんが若いころに着ていた浴衣も虫食いがあるのが発覚して、お母さんのおさがりを着ることが出来ない。女の子にとって祭りの時に着る浴衣は、特別なものだからと、お母さんは無理してボクに浴衣を買ってくれようとしてくれたけど、流石に申し訳なくてボクは浴衣は断った。

そんなわけで、ボクには浴衣がない。

そんなボクの気持ちを知らずに京口さんは、楽しそうに新しく買った深い紫色の浴衣の説明を誠一にしている。

誠一も楽しそうに話す京口さんを可愛いと思ってる。絶対、思ってる。

だって、こんなに健気に自分の気を引こうとする女の子を嫌いになる男の子って絶対にいないもの。男の子として育って、男の中で生きてきたボクには、わかるよ。

悔しいけどさ、京口さん。君は男の子が大好きになる女の子だよ…‥。

誠一に浴衣の話をする京口さんは意気揚々。ボクはかなり意気消沈。

ま、仕方ないか。

そんなボクの気持ちを知らない誠一は、ボクに「お前も浴衣で来るのか?」って、聞いてきた。

ボクは、浴衣の話で盛り上がった二人の気持ちに水を浴びせかけないように、出来るだけ二人に気を使わせないように出来るだけ気丈に振舞って「ん?ボク、今年は浴衣が間に合わなかったから、洋服で出かけるね。」と答えるのが精一杯。

泣きそう。本当に泣きそう。

誠一は、そんなボクの気持ちには気づかないようで「あ~、そっかぁ。今年、女の子になったもんな」と理解を示してきた。

ま、誠一に気まずい思いをさせなかっただけでも上出来だよ。ボクは本当は悲しかったけど、自分にそう言い聞かせた。

でも、京口さんは納得しなかった。

「あら、ダメよ。そんなの。川祭りは浴衣を着て行ったら、女の子は屋台の買い物が2割引きになるのよ!」

え?そうなの?

「私の去年の浴衣がまだ残ってるから、それを着なさいよ。着付けしてあげるから!」

京口さんは楽しそうにそう言ってくれた。

ああ、京口さん。君はなんて気立てがよくてカッコいい女の子なんだ。

こんな関係でなかったら、ボクは本当に京口さんのことをお姉さまって呼びたいくらいだよ。

京口さんは、一旦、自分の家に帰ってからボクの家に来てくれるそうで、「そうとなれば」と、急いで自分の家に帰っていった。

ボクはそんな京口さんの後姿を見ながら、「京口さん。本当にいい子だね。誠一が好きになっちゃうのもわかる」と、ボソリというのだった。


5時になると、京口さんはボクの家に来てくれた。

京口さんが用意してくれた浴衣は夏らしい涼しげな薄いピンクの浴衣だった。

「あんた、これを借りに思わなくていいわよ。これで私のポイントが上がるんだからね。

 誠一は、私のことを優しい良い子って惚れ直すんだからっ!」

京口さんは、着付けの最中にボクに気を使わせないように、そう言ってくれた。

京口さんの優しさに心打たれたボクは涙をこらえられなくなって、思わず京口さんに抱き着いて泣きじゃくってしまった。

そんなボクを京口さんは、優しく抱きしめかえしながら、ヨシヨシとばかりに頭を撫でてくれた。

ああ・・・。ボク、京口さんの友達になりたいよ。

君の恋を応援してあげられる立ち位置にいたかったよ。

でも、ごめん。

ボクも誠一のことが好きなの・・・・ボクも誠一のことが好きなんだよ・・・・。


ボクが泣き止んでから京口さんと一緒に外に出ると、誠一が門柱の外に立っていた。

誠一は、ボク達の浴衣姿を褒める前に、驚いたように「お前ら、いつの間に仲良くなったんだ?」と、聞いてきた。

ボク達は知らない間に手をつないでいた!

あっ、京口さんに払いのけられた。

・・・・・・・え~?

もうちょっと、仲良くできない?いや、無理か。

ボクだって誠一の彼女の座は譲るつもりはないんだし。

「で?どうなのよ!?」

京口さんは、唇を尖らせて誠一に尋ねると、誠一は「二人ともよく似合ってるよ。」なんて、当たり障りのないことを言うので、ボクはちょっとイラっと来た。

でも、その隙に京口さんは誠一の腕をとって嬉しそうに「ありがとうっ!」って笑った。

その笑顔は、とても幸せそうだった。

ああ・・・。いやだ。

京口さん。どうして君は、そんなに幸せそうに笑えるの?

二人まとめてでも誠一が浴衣姿を褒めてくれたから?

ボクは・・・・。もっとボクの浴衣姿だけを喜んで欲しかったのに。

まるでボクが嫌な子みたい・・・・・。

ああ、こんなボクは嫌だ。

誠一を独り占めにしたい。誰にも渡したくないよ。

・・・・・・・きっと、すでに誠一と肌を重ねたことがある京口さんは、もっとそう思っているはず・・・・・。

それなのに・・・・・いや、だからこそ君は、幸せになれるんだね。

ボクは、京口さんの気持ちを考えると、とても川祭りを楽しむ余裕がなかった。

屋台の買い物も、楽しいはずのおしゃべりも。久しぶりに偶然会った中学時代の同級生との会話もボクにとって空しい時間だった。

・・・・もう、帰ろう。

ボクには、最初から二人の間に入っていいわけがなかったんだ・・・・。

誠一の気持ちは嬉しいし、ボクも誠一のことが好き。でも・・・・・。

ボクは、この場にいていい人間じゃないんだ。京口さんほどの覚悟もないボクが‥‥。


ボクは、誰にも気づかれないように、そっとその場を離れると、誠一に「用事が出来たから、先に帰るね」とだけ、メールを入れると家に帰る。

神社を抜けて、人混みから抜けるまでは泣いたらダメ。

今、涙を誰かに見られるなんて惨めすぎるもの。

・・・・・・そう思いながらも涙は止められない。

ボクは歩きながら、肩を揺らして泣く。

・・・・・これで諦めよう。

この涙と共に誠一への気持ちも洗い流すんだ。



・・・・・そう思っていたのに

・・・・・そう覚悟を決めたのに

誠一、君は何だってボクを追いかけたりするんだよ・・・・・・

「おいっ!!急に帰るなんて、おかしいと思ったら、なんで泣いてるんだよっ!?」

ボクを追いかけて走ってきた誠一は、追いついたボクの肩を掴んで問い詰める。

・・・・・ああ、誠一。君は京口さんを置いて、ボクを追いかけてきちゃったんだね。

どうしてわからないの?

どうして、あんなに誠一のことを思ってくれている京口さんのことを置いてきちゃったんだよ

ボクは、知ってる。誠一が恋愛で不誠実なことなんかするわけないって・・・・・。

君も京口さんと付き合ってる間、本当に京口さんのことが好きだったんだろう?

なのに・・・・どうして、ボクが女の子になっちゃったからって、心変わりしちゃうんだよ。

そんなの・・・・そんなの京口さんが可哀そうだろっ!

ボクは涙でひきつけを起こす体に耐えながら「だって、やっぱり誠一には京口さんが・・・・」と言えた。

でも、その言葉を聞いた誠一は、表情を一変させて怒った。


「人の事ばっかり言ってるんじゃねぇよっ!!お前の気持ちは、どうなんだよ!?

 お前も本当は俺のことが好きなんじゃないのか?

 だったら、・・・・だったら、俺の気持ちも少しは考えてくれよっ!!」


誠一は、感情をあらわにして、ボクにそう怒鳴りつける。

だって・・・誠一・・・・。

だって・・・・!!。

ボクは、自分の感情も言えないくらい泣きじゃくった。

誠一は、そんなボクの涙を指で拭いてくれた。

そして、その手のひらでボクの顔を包むと


ボクの唇をうばうのだった・・・・・・・。





15歳の夏。ボクは幼馴染の男の子にファーストキスを奪われました。

・・・・・・・ああっ・・・・・大好き

・・・・・・・・・・。

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