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ボク、女の子にならなければよかった

「おはよう!」

我が家の玄関を出ると、門柱の外に立って待っていた誠一が声をかけてきた。

「・・・・・・え?待ってたの?」

「まあな。俺たち付き合ってるんだし、当然だろ?」

え?でも、部活の朝練は?

ボクが驚いて聞くと、誠一は「どうせ来年になったら、防衛隊に行っちまうのに今さら部活も朝練もねぇよ。」と、遠い空を見ながら言った。

・・・・・・そうだった。

年が明けたら、誠一は防衛隊に入隊させられるんだった。

だから、誠一は、死ぬ前に女の子になったボクに赤ちゃんを産んでほしいと頼んできたんだった。

それで今、ボクを口説き落とそうと必死になっている。

誠一の気持ちは何となくわからないこともない。だって、ボク達はまだ、15,6歳の少年なんだ。

防衛隊の生存率は6割。4割は死んでしまうんだ。戦う適性はあるとはいえ、誠一もまだ16歳の少年。

生き残るのはかなり難しいのではないだろうか?

誠一は子供の頃から習い事で柔道と野球をやっている。今は野球がメインだけど、それでも誠一の柔道の腕前は16歳にして、並の大人なんかよりもよっぽど強い。

誠一は確かに強い。それでも戦場に行けば、そんなものは何のあてにもならない。

だから、誠一は未来に失望して野球に対する情熱も失ってしまったのだろうか?それも仕方ないかもしれない。

それを責めたり止めたりする資格は誰にも無い。


「でも、それって寂しいよ。これから防衛隊に入るまで、何に情熱を燃やすの?」

ボクは知っている。誠一が誰よりも情熱的な男だという事を。

野球も柔道も音楽もバイクも人並み外れたセンスであっという間にモノにしてしまったけど、技術の向上は鍛錬するしかない。上のレベルに上がれば上がるほど、その内容は厳しくなっていく。天才の苦悩は、凡人には理解できない。そういう世界の厳しいトレーニングを乗り越える情熱とガッツを誠一は持ち合わせていた。

そんな誠一が何も目指さなくなるほど、今回の事は堪えたようだ。

でも、ボクは、それでも死んだように生きててほしくはない。誠一には、ずっとキラキラした瞳で何かを目指しててほしい。

そう思わずにはいられなかったボクは、つい、誠一にそんなことを言ってしまった。

でも、誠一は笑ってボクを指差して、こういうのだった。

「俺が何を目指すって?そりゃ、決まってるだろう?お前を落として、俺の子供を産んでもらう事さ!」

・・・・・・バシッと決めた感じにポーズを決めちゃってるけど、カッコいいつもりなんだろうか?

「はぁ。それって、あんまりカッコよくないと思うよ?」

ボクは呆れてしまって、誠一をおいて通学用の自転車に乗り込む。

まぁ、先に漕ぎだしたところで誠一の自転車の速度ならば、一瞬で追いつかれてしまうのだけど・・・・・。

「カッコいいとか、悪いとかじゃなくてさ。なんていうか、このまま死にたくないじゃん。」

誠一は、ボクの横に並ぶと話を続ける。

「童貞のまま死にたくないってこと?そんなに女の子とエッチしたい?」

ジト目でボクがそう言うと、気まずいのか誠一はボクから目線をずらして反論する。

「バカいえ、女とやったことくらいあるよ。知ってるだろ?」

「えっ!?」

驚いてボクが思わず声を上げて誠一の方を見ると、誠一の方がボクの反応に驚いたような顔をしていた。

「え?何で?・・・・・・お前、知らなかったの?俺、中学の時に吉原と京口と付き合ってたじゃんか。」

「・・・・うそ。知らなかった。」

「まぁ、、バラすような事じゃないから黙ってはいたけど、噂になってると思ったんだけどな。」

「・・・・知らなかった。だって普通、男の子はそういうの自慢したがるよね?」

「そういうことされたら、女の方が嫌な思いするかなって・・・・そうか。秘密は守れてたんだな・・・・。」

誠一はどこかホッとしたような顔でそう言った。なんだかんだ言っても、良い奴だよなこいつは。


・・・・・・

・・・・・・・・おいっ!

「ボクの事、ずっと好きだったって言ったよね?

 だましたな!?乙女の純情をっ!!」

昔からボクの事を好きだったとボクに言ってボクを口説いたくせに、他の女の子とエッチしてたなんて!!

ボクは、もう、腹が立つやら悲しいやらで、つい、大きな声を上げてしまった。

誠一は慌てて「だって、あの時、お前は男だったから仕方ないだろ?お前と付き合えないなら、諦めて他の女の子に行くだろ!?」と、弁解してきた。

・・・・・・言われてみれば、その通りである。

まぁ、確かに女の子になった今と違って、確かに中学時代の僕は男だったし、付き合うことは選択できなかったかもしれないね。

でもさ。

「誠一って、ボクの事が好きだったのに、他の子とエッチできるんだ。ボク、そういうのって不誠実だとおもうけど?

 なんか、ボク誠一のことが信じられない。」

ボクは、そういって誠一からツンと顔を背けて、不満を伝える。

そこから誠一は、学校に着くまでずっと「男だったんだからわかるだろう?」とか、「じゃぁ、中学時代の男のお前を口説いてたら、やらせてくれてたのかよ?」とか、下品なことをいってボクを説得しようと必死だった。

はぁ、こいつ。頭がいいのか、バカなんだか。

そんなこと言われて「あ、そうだね!」って、女の子が納得すると思ってるのかしら?

そりゃ、ボクも男だったし、男の子の中にいたわけだから、男の子の欲望ってある程度は理解してるけどさ、実際にそれが出来るか出来ないかの差って大きいと思うの。

「誠一は、女の子にだらしないのか、だらしなくないのか。ボク、よくわからなくなってきたよ。

 折角、土曜日のデートでちょっとカッコいいと思ったのにっ!!」

ボクは、学校の駐輪場に自転車を止めると、クルッと踵を返して誠一に背を向ける。誠一もさすがにこれ以上は、ボクを怒らせるだけだと思ったのか、ボクから少し距離を開けて黙って後ろを歩いてくる。

もうっ!!なんなの?

ちょっとボクが怒ったくらいでだらしない。

ボクは更に腹が立ってきて、誠一の方へ振り替えると、一歩詰めよりながら「・・・・なんで、ボクの横を歩かないのっ!?」と、問い詰める。

誠一は「・・・・・どっちだよ・・・・」と、困惑するばかりだった。

・・・・・どっちって。そんなの隣を歩いててほしいに決まってるじゃないか・・・・・

「・・・・だって、一応、彼氏でしょ・・・・・。」

ボクは精一杯の勇気を振り絞って小さな声でボソリと呟いた。

「お前、女になってカワイ面倒くさくなったな。」

誠一は、そういってボクの頭をワシワシ撫でてきた。

あ、こら!やめろ!

髪が乱れちゃうでしょっ!!


ボク達がそうやって、じゃれながら教室に入ると、教室から女の子たちの「きゃー」って声が鳴り響く。

何があったんだろうと思いつつ、席に着くと数人の女子がボクに話しかけてきた。

どうやら、土曜日にデートしていたことが目撃されていたらしい。

女の子たちからあれやこれやと質問されたけど、あまり話して良いことはない。

だって、誠一の事情はあまりにも特殊で、そして、ボクが置かれた環境もやはり、特殊だったから。

言えるわけないよね。

子づくりを前提にお付き合いをはじめました。なんて。

誠一の方をチラ見すると、誠一は教室の壁に背中を預けた姿勢でこちらを見ていたけど、ボクと目が合うと唇に人差し指を立ててる。黙ってろってことね。

二人だけの秘密。

なんか、ちょっといいね。そういうの。

ボクはちょっとニヤニヤしてしまうのだった。


そんなボクの視線の中に、誠一が中学時代に付き合っていたことがある京口さんの姿が入った。

・・・ああ。

・・・・・ああ、いやだ。

こんな感情、いやだよ。

ボクは嫉妬している。京口さんに・・・・・。

誠一の元カノの京口さんの存在を疎ましく思っているし、ねたんでいる。

こんな気持ち。女の子になるまで感じたことなかったのに・・・・・。

ボクは、今、初めて女の子になったことを嫌だと思ってしまう。


京口さんは、そんなボクの感情を知ってか知らずか、教室に着くなり、なぜか誠一に近づく。そして誠一に何か耳打ちすると、二人で教室を出て行ってしまった。

どうして?

何の理由で?

ひょっとして、本当はまだ、京口さんは誠一に気持ちが残ってる?

それどころか誠一とは、まだつながっていたの?

ボクは不安で胸が締め付けられそうになっていく。






15歳の夏。ボクは女の子になって初めて嫉妬の感情を覚えたのでした。

ああ、ボク。女の子にならなければよかったのに・・・・・。

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