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ボクは誠一のことが好き?

「ね、ねぇ!!お母さん!!この服、変じゃない?」

「髪おかしくないかな?」

「靴、この色でもいいのかな?」

ボクは家を出る前に母親を質問攻めにしている。

お母さんは「あらあら、すっかり女の子になっちゃって」と、嬉しそうにアドバイスをくれた。

今日は土曜日。ボクの人生初デートの日。

幼馴染の誠一せいいち相手だっていうのに、ボクは緊張しちゃってドキドキしている。

ボクがあの誠一とのデートにドキドキするなんて自分でも変な気がするけど、オシャレにも気合いが入ってしまう。

夏らしい薄い青のワンピース姿のボクは、姿見の鏡の前に立ってみると、我ながら随分と可愛い。

でも出来れば、髪の毛はやっぱりロングにしたいかな。女の子になって2カ月ほどの事だから、ロングにはまだまだ程遠いショートカット。

なんだかんだ言っても男の子は、髪の長い女の子が好きだもんね。誠一もやっぱり、髪の長い女の子が好きだろうし、ボクも髪の毛を伸ばそうかな…‥。


そんなことをあれやこれやと考えながらも、待ち合わせの時間よりも早くに行かないと!と意気込んでボクはいそいそと家を出ていった。

誠一とは幼馴染なので家は近いんだけど、家に迎えに来られるのは恥ずかしいので、駅前で待ち合わせすることにしたんだけど、やっぱり初デートなんだから、彼氏が来る前に待ち合わせ場所にいて、彼氏が来るのを待つのがやってみたいかな。

てか、彼氏って誠一か・・・・。スポーツ万能だし、顔もそこそこイケメンだし確かに誠一の言う通り、優良物件ではあるんだけど、幼馴染ってだけに昔から見知った相手が彼氏になるって変な感じがする。

そもそも、なんでこんなことになってるんだ?

うーん。誠一に丸め込まれた気もしないでもないが、あれだけ面と向かって「好き」と言われて、嫌な気もしない。というか・・・・・・ちょっとドキッとした・・・・・・。

思い出すだけでちょっと胸が熱くなってきたので、待ち合わせ場所に向かう足が自然と速くなった。

彼氏よりも早く来る彼女の姿を見て、誠一はどんな顔するかちょっと興味がある。

焦って、走ってくるのかな?そんな姿はちょっと可愛いかもしれない。



だが、誠一は、ボクよりも先に待ち合わせ場所に来ていた。

しかも、なんか他校の生徒と思しきヤンキーをフルボッコにしていた。

・・・・いや、何してんの? 君。

初デートの待ち合わせ中に喧嘩って・・・・・・。

誠一がとどめとばかりにボコボコにした相手のお尻を足蹴にすると、他校の生徒と思しきヤンキーは、慌てて走って逃げていった。

いや、見慣れた景色ではあるものの、メチャクチャな男だなぁ。

頼りにはなるけど、やっぱり、ちょっと不安。


「何してんだよっ!」

ボクは思わず両腕組した仁王立ちになって、誠一に文句を言う。

誠一は、ボクに気が付いて嬉しそうに「おお!!おはよう!」なんて、拍子抜けになるようなことを言ってきた。

まったく、おはようじゃないよ!信っじられないよ!!初デートの待ち合わせで、喧嘩する?

女の子の気持ちを考えたことある?

なんてことを徹底的に説教してるのに誠一は嬉しそうにボクを見ていた。怒ってるのにこんなに嬉しそうな顔をされると変な気分になってくる。

「さっきから、何をニヤニヤしてるのっ!?」

と、尋ねると「いや、俺とのデートなのに、凄い可愛い服で来てくれたんだなぁ。てっきり、適当な対応してくるとあきらめてたんだけど」と、嬉しそうに答えるので、ボクは自分でもわかるくらいに顔が真っ赤になってしまうのだった。

ううっ。確かに気合入れてきましたよっ?

だって、しょうがないじゃないか!

「初デートなんだよっ!」

ボクがそう言って不貞腐れるように誠一に背を向けると、誠一は、ボクが歩き出したのかと勘違いして、慌ててボクの手を取って「待てよ!俺が案内するから!」って、僕より半歩前を歩き出した。

全く、バカだなぁ・・・・。

案内するからって、二人とも生まれ育った町なんだから、映画館の場所なんかお互いに知ってるのにさ。

でも、誠一の大きな右手に引かれて歩くのは、悪い気はしない。

女体化の時に背が10センチほど縮んだボクの目線だと、もともと背が高い誠一がより男らしく見えて、ドキドキしちゃうよ。悔しいけど、こいつはカッコいい。優良物件なのだ。

なんていうか、手をつないで一緒に歩く。たったこれだけの事なのに男の人とデートしてるんだって気がする。ほんの2か月前は、男だった自分がこんな気分になるんだから、性別が変わるのって凄いね。

でも、ハッキリさせないといけないことがある。

「デートの待ち合わせ中に喧嘩するとか、何を考えてるの?」

「いや、向こうから喧嘩売ってきたんだよ。本当さ。なんか因縁つけてくるから・・・・」

「はあっ・・・・・」

ボクはあきれ返ってしまった。

まぁ、誠一の場合、なんでかトラブルが多いんだよね。

ラグビー部の助っ人に入った試合相手とトラブルになったり、バイクレースで知り合った相手といつの間にか喧嘩してたり。基本的に誠一が喧嘩を売られる側なんだけど、売られた喧嘩は買う男前気質が玉にきずなんだよなぁ。

「ねぇ、誠一。これからはあんまり喧嘩とかしないでよ?もし、デートの最中に喧嘩に巻き込まれたら、ボク、女の子だから手助けできないよ?こわいし。」

「・・・・・ああ。仕方ねぇけど。我慢するか。でも、どうしても逃げられない時は、やるからな。」

「・・・・・もうっ。」


ボクは、あきれ返ってしまってため息をつくのだった。

映画館に到着すると、丁度、恋愛ものの映画をやっていた。さすがの誠一もここで格闘アニメを選択するような野暮な真似はしない。ちゃんと恋愛ものの映画のチケットを買って、二人で視聴した。

ボクは元々、涙もろかったけど女の子になってから恋愛映画を見て流す涙って、男の時とちょっと違う感情なんだよね。不思議。

でも、そんな感覚は誠一にも伝わるみたいで、改めて「本当に女の子になってるんだな」って、しんみりいわれた。


映画を見た後に二人でファーストフード店に入って食事しているときに誠一は聞いてきた。

「これから行きたいところあるか?」

「え?予定決めてないの?」

・・・・・・そっちが誘ってきたのに?

意外と女慣れしてないな。

と、思ってたら「新しいギターを見に行きたい」と言ってきたので、二人で誠一が出入りしているライブハウスに行った。そこは誠一が中学生の頃からお世話になっている兄貴分のサトシさんが経営しているライブハウスで、誠一は、そのサトシさんの仲介でギターのおさがりを譲ってもらえる話になっていたそうだ。

14時の待ち合わせ丁度にライブハウスに行くと、そこは昼間は喫茶店らしく、お客さんが数名いてお茶を飲んでいた。

誠一は、サトシさんに代金をいくらか払ってギターを受け取る。相場よりも大分安く譲ってもらえたらしい。誠一が好きな赤色のギターだった。

「弾いてみたいんだ。」って言うから、ボクが「いいよ。」って頷くとサトシさんは、ボクをステージ前のイスとテーブルに案内してくれて、コーラまで出してくれた。

「普通はやらないんだけど、今日は特別に貸し切りでワンドリンクは無料だよ。」

と、優しく話しかけてくれた。

え?お客さんが入ってるのに貸し切り・・・・・って?と考えてたら、店に来ていたお客さんが誠一と一緒に楽器をもってステージに上がり、演奏を始める。

「えー、今日は皆が俺とお前のために協力してくれたライブです。楽しんでもらえたらいいな。」

誠一は、そういうとギターを弾き始めた。それを合図に音楽が始まる。

その時、ボクは気が付いた。これがサプライズだってことを。

きっと、お客さんは今日、このために急遽時間を作って誠一とボクのために演奏してくれている。


・・・・こんな素敵なサプライズってある?

なんだか、大勢の人に祝福される花嫁さんみたいな気分だよ。

こんなことされたら、誰だって誠一をカッコいいって思っちゃうよ。

今時、オールドロックンロールなのも、急遽、助けてくれるオジサンたちが引ける曲ってことなんだと思う。

クールスとかキャロルの曲だとか言われても、正直、ボクは今まで、そんな歌は聞いたこともなかった。

80年代の音楽なんて、子供が演奏しても早々決まらない。でも、誠一がやると様になる。手伝ってくれてるオジサンたちは、その世代の人だったから、かっこよく決まるのは当たり前だけど、誠一は背丈もあってか、本当にカッコよかった。

ボクは、そんな誠一から目が離せなくなっていった。

ああ・・・・・

ズルいよ。こんなの

こんなの絶対に好きなっちゃうじゃんか。


演奏が終わって、お店の皆に二人でお礼を言って、ステキな気分で外に出る。

喧嘩で始まった初デートだったけど、ステキな思い出になったよ。

夕方になって、二人で家に帰るのが恥ずかしいからって言ったのに、誠一は、家まで送ってくれた。

帰る道すがら、誠一は「自分の曲が聞いてもらえてうれしかった」といい、

「これで、俺のことを好きになってくれたか?」

と聞いてきた。

ボクは即答できなかった。誠一は確かにかっこいいし、ステキなサプライズも用意してくれた。

本当にいい思い出になったし、嬉しかったけど、

だからって、ボクは誠一が好きになったんだろうか?

ボクは答えを出せなかったけど、誠一は「まだ時間があるから、二人で関係を作っていけたらいいし」って、笑顔で許してくれた。

そんな誠一の優しさが嬉しかった。

夏の夕暮れ。誠一をジッと見つめるボクの胸の高鳴りをごまかすように山の蝉しぐれが遠く聞こえている。

ボク達も蝉と同じように恋愛をしているのだろうか。


15歳の夏。ボクは幼馴染との初デートでサプライズを受けて、ちょっと幸せな気分になりました。

もしかして、ボクって誠一のことが好きになってる?

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