ボク、あざとくないもんっ!!
「ねぇっ!!この限界集落ってところに隠れ住みましょうよっ!!」
京口さんは、PCの画面上に映し出されたマップを指差して、提案する。
ボク達は、今、京口さんの家で作戦会議中。
作戦とはつまり、防衛隊に出兵するはずの誠一と共に逃避行する作戦なのです!
誠一はまだ16歳なんだから、そんな戦場に連れていかれるなんておかしいよ!
それにボク達、本気で誠一のことが好きだから。誠一に生きててほしいから。
ボク達は3人で世捨て人となって、誠一と一緒に幸せに暮らすんだからっ!!
でも、どこに隠れ住めばいいの?ってことになったんだけど、京口さんが見つけてきた限界集落は、ここから100キロほど離れた山の中にある限界集落。その限界集落の中には、既に山中に廃棄されたような廃屋が何軒もあって、どうにか隠れ住めそうな感じだった。
「ほらっ!ココなんかよさそうじゃない?道路から離れているし、航空写真で見る限り、小川が近くに通ってるみたい。」
「本当だっ!他の民家も1キロぐらい離れてるみたいだし、隠れ住むには向いてるよっ!」
ボクと京口さんはすっかり意気投合して、手を握り合って喜んだ。
でも、肝心の誠一はというと・・・・・。
「お前ら正気か。そんなの上手くいくわけないじゃねぇか。大体、皆戦ってるのに俺だけ逃げるなんて・・・。」
と、乗り気ではなさそう。しかし、京口さんは引かない。
「何言ってるのよっ!上手くいくに決まってるじゃないっ!今から私たち3人でバイトしてお金をためて、それで引っ越すのよ。最初は大変かもしれないけど、ほら、10キロ先には高速道路が通ってて、コンビニもあるんだから!!向こうでもバイトが出来るはずよっ!
私思うの。尾崎豊が15の夜で失敗したのは、無計画な家出だったからって。私たちは同じ失敗はしないわ!きちんと準備して計画を立てるんだから、絶対にうまくいくわよっ!」
京口さんは、自信満々にそう言った。なのに誠一ったら真顔で「いや、15の夜って実話なのか?」なんて言ってきたの。
「知らないわよそんなこと。でも、大切なのは、尾崎豊の残してくれたメッセージを活かすことじゃないの?」
「いや、尾崎は別に家出を勧めるメッセージを残したわけでは…。」
「いいの、いいの。気にしないの!」
流石、京口さん。強引にまとめちゃった!!
でも、誠一は、まだ「空き家にだって勝手に住むのは犯罪なんだぞ」とか「病気や怪我したときにどうするんだよ」とかグズグズ言ってた。
誠一の煮え切らない態度にボクと京口さんはすっかり腹が立って思わず同時に
「「誠一っ!!うるさいわよっ!」」
って、言っちゃった。
大体、空き家に住むのが犯罪だなんてボク達だって知ってるよ!でも、16歳の誠一を防衛隊に駆りだす大人たちの方がよっぽど犯罪者じゃないか!それに病気なんかそうそうならないよっ!
大丈夫だよ。誠一。ボク達は絶対にうまくいく。ううん、ボクが上手くいかせて見せる!!
ボクが誠一のことを絶対に守ってあげるんだからねっ!
絶対に君を戦場で死なせたりしないんだからっ!
誠一は、少し不貞腐れていたけど、結局、最終的にボク達の案に乗った。
そして、ボク達は3日ほど話し合って、
・ボク達は12月24日の深夜に家出する!
・それまでに学生生活を満喫するために路上ライブをやり切る!
・そして移動してから、バイトを確保するまでの間の生活費を稼ぐためにバイトをする!
以上、三項目を決めた。
「バイトって言ってもな。俺は既にバイトをしてるから構わんが、お前らそんなにすぐに決まるのか?」
誠一が率直な疑問を投げかけてきた。でも京口さんには作戦があった。
「良いアルバイトがあるの!知り合いがやってるメイド喫茶よ!」
「あ?ああ。ああいうのってまだ存在するんだ。」
誠一は、拍子抜けするような声で納得したけど、そのすぐ後にボクの方を向いて
「お前、そういや中学の学際でメイド服着たよな」って、言ってきた。
うん、そうだよ。なんでかボクと副委員長が選ばれてメイド服を着たの。よく覚えていたね。
「お前は知らんだろうが、あの時、お前は凄いおかずにされてたらしいぞ」
・・・・・サイテー。男子、サイテー・・・・。
ボクがジト目で誠一を睨みつけていると、京口さんも怒って誠一の頭にチョップする。
「いてっ!」
「下ネタ禁止っ!!」
ボクは京口さんの行動を称賛するように腕組してうんうんと頷いて言う。
「全く、なんで男の子って、そんなにエッチなのっ?」
でも、ボクがその疑問を投げかけたときは、誠一も京口さんもドン引きしてた。
「・・・・・あざとい。・・・・・あんた本当にズルいくらいあざとい子ね・・・・。」
京口さんは、軽蔑するような目でボクを見る。
なんでよっ!!ボク、あざとくないもんっ!!
こうして、ボク達は、これから3か月、学生生活を満喫することになったのでした!!
アルバイトは大変だったけど、京口さんの音楽関係のお知り合いが経営するメイド喫茶だったので、随分、可愛がってもらえたので、居心地は良かった。
まぁ、ネタのつもりか店長が時々、ボクや京口さんのオッパイ触ってきたりするから困ったりもしたけどね。いくら女の子同士だからって、あれは無いわよ。ただ、それをお店でやるのでお客さんは大喜びで店は繁盛したの。だから、京口さんとボクは、あっという間に自給が上がっていった。だから辛抱できたの。
でも、ボクのオッパイは誠一のものなんだから、女の子でも気安く触らないでほしいわっ!
あと、メイド喫茶の店長は京口さんの音楽関係の先輩らしく、バンドの練習にも理解を示してくれた。おまけにお店でアニソンを歌ったら、ご褒美で1曲500円もくれたから、ちょっとしたお小遣い稼ぎになったし。
でも、それだけ重宝してもらえたから、二人がクリスマス前にやめるって言いだした時は、泣き出しそうな顔してた。バイト代は即日渡してもらうように頼んだ時も「何か理由があるのね」って深く聞かずに了承してくれたし、本当にいい人だったなぁ・・・・。
ボク達は必至でバイトとバンド活動をした。
おかげで11月第一週の路上ライブは、大成功した。
京口さんも誠一もこれが最後のライブになるから、命を懸けてたし、ボクも二人を死ぬほど応援してたから、ものすごく頑張った。そしたら、初めてライブに出たのにファンが5人も出来ちゃって、サインをねだられちゃった。まぁ、サインなんか無いんだけどねっ!
ただ、ちょっとあれなんだよね。みんながボクがロングスカートをヒラヒラさせて踊るたびに、ボクの太ももを見ながら、「可愛い。あざと可愛いっ!!」って連呼するから、本当はちょっと嫌な気分にもなってたんだけどね。
ボク、あざとくないもんっ!!
こうして、ボク達の学生生活は終了した。
路上ライブの後も3人で常に行動したし、3人で青春したって言ってもいいと思う。
だから、ボク達には後悔なんかないのさ!
ボクも京口さんも誠一のためなら、全部捨て去っても構わないの。
京口さんなんか、
「あんたが現れなければ、こんなことになってなかったと思う。誠一に別れを切り出されて、そのまま終わってたかもしれないわ。最初はあんたの存在を恨んだりもしたけどね。今は感謝してるわ。ありがとうね。」
って、ほっぺにキスしてくれた。
全く、君は本当にロックな女の子だよ。
ボクは君に女の子として大切なことを色々教えてもらえた気がするの。特に好きな男を絶対に譲らないってところなんか・・・ね。
あれ?よく思い出したら、ボク、最初っから京口さんに滅茶苦茶、ヤキモチ焼いてた気が‥‥。
でも、なんだろう。恋愛については本当に君に教えてもらったと思うんだ。
だからね。京口さん。ボク、君のこと大好きだよっ!!
そして、ボク達はクリスマスイヴに家出する。
深夜にボクと京口さんはバスに乗り込んで、移動する。そこから、ローカル線の走っている都市に下りて、ビジネスホテルで一泊してから、翌朝、ローカル路線に乗って限界集落を目指す。
二人とも大荷物だったから結構大変だったけど、朝10時ぐらいには誠一の乗ったバイクと合流出来た。
最初に二人乗りで京口さんを隠れ家に運んで、その次にボクを運んで、そのあと、荷物を運んだ。
「いよいよ、これから。私たち三人の生活が始まるのねっ!!」
先についてた京口さんは、ボロ屋の掃除をしながら、そう言ってボク達を迎えてくれた。
「ねぇっ!!見てよこれ!お鍋とかお茶碗とか残ってるのよ!!そこの小川で洗えば全然使えると思うわよっ!!」
京口さんは、メンタル本当に強いね。心配じゃないの?
「全然!!だって、私の誠一がいるんですものっ!」
・・・・ボクの誠一ですけど?
「あんたねぇ・・・・女の子なんだから、いい加減にそのボクっての止めなさいよ?ワザとなの?」
京口さんは当たり前のことを聞いてくるもんだから、笑っちゃった。
「えへへっ!
もちろん、ワザとだよ?
だって、ボクって言った方が可愛いでしょ?」
そのセリフに誠一は苦笑い。
京口さんはあきれ返って「やっぱり、あんた。あざといわね。本当にあざといわっ!」って、言ってきたの。
なんでよっ!!
ボク、あざとくないもんっ!!
15歳の冬。ボク達は世捨て人となって限界集落の中にある廃屋に隠れ住むようになったのでした。
・・・・・ボク、あざとくないよね?
いよいよ、次回で最終回になります。
私のような底辺作家から見れば、凄い高評価を得れたヒット作品だったから終わりたくないけど、
でも、今が最終回するのに一番、綺麗な場所だと思うんですよ。
だから、ここまで読んでくださった皆さん。最後までよろしくお願いしますっ!!




