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ボク。女の子になりました。



ボクが保険医の斎藤先生の前で上着を脱いで肌を見せると、斎藤先生は「あらあら」と興味深そうにボクの体を見てから

「安心しなさい。今の時代、1万人に一人の割合で性別が変わってしまうものなのよ。」

と笑顔で抱きしめてくれた。ボクはホッとして涙がこぼれるのを止められなかった。


1学期の終わり。ボクは女の子になってしまった。


今から5年前。突如、世界中に発生した巨大蜃気楼のような女神像。それが何なのか、一体、何の目的で現れたのか誰にもわからない。

しかし、推定サイズ高さ3000メートル、幅1100メートルのそれは、蜃気楼のようにこの手で触れることが出来ないのに、正体不明のエネルギーを発していることが判明している。

そして、恐らくは、そのエネルギーのせいで女神像を中心にまるでゲームに出てくるモンスターのような生物が徘徊するようになったし、人類は1万人に一人の割合で性別が変わってしまう。

それが原因でボクは、6月から段々、体が女の子になっていった。

最初はしこりのようなものが胸にできたかと思うと、1学期の終わりには小さなオッパイ状になっていたし、男性器は見る見るうちに縮小してしまった。

そうして、ボクは夏休みの間は検査入院と戸籍を男性から女性に変える手続きや、日々変わっていく体に合わせて服装、主に下着を変更せざるを得なかった。たった1か月かそこらでCカップの女の子になってしまったのだ。

完全に「女の子になった」と感じた日の出来事は、ここでは語りたくない。察してほしい。ただ、まさかマジで赤飯出されるとは思ってなかったんだよ。うちの親ってちょっと古風というか変わってない?。

まぁ、それはともかくとして、夏休みが終わるとボクは、セーラー服に身を包んだ女子高生として生活していくことになる。急に性別が変わってしまったボクをクラスのみんなが受け入れてくれるだろうか?いじめられたりしないだろうか?・・・・・それがちょっと、怖かったかな。


2学期の初めに、担任の遊佐ゆざ先生と保険医の斎藤先生がボクが急に女の子になった理由を同級生に詳しく説明してくれた。皆は、驚いていたが、受け入れてくれた。というか、どちらかと言えば、興味本位でボクの事を見ていたかな?

休み時間になると男子は、ボクの女体に対して興味を示してきた。と、いうか元・男同士だからなんでも頼めると思ったのか「ちょっとだけオッパイ触らせてくれよ。」と言って土下座してきたような奴もいたし、逆に女子は男の生態についてあれやこれやを聞いてきた。

でも、一番厄介だったのが、ボクの幼馴染の久礼 誠一くれせいいちだった。

この男スポーツ万能の上に、喧嘩がめっぽう強い。男友達としては、最高に頼りになる奴だったのだが、ボクが女の子になったことを6月から隠してきたことがよほど腹が立ったのか、それまで口も利かなかったくせに終業のHRが終わると同時にボクの所へ来て、その巨大な掌でボクの机をバチンと叩きつけたかと思ったら

「お前!俺にずっと隠してたな?友達と思ってたのにな!?」といって、怒鳴り出した。

男だった時から、誠一の体は大きくて威圧感があったけど、女の子になってからだとより怖く見える。ボクは、怖くて目を瞑って「ごめんなさい。」というのが精一杯だったけど、誠一は許してくれなかった。

「帰り、ちょっと俺に付き合え!嫌とは言わさねーぞ!!」

誠一が相手だと、誰も助け船を出してくれない。男連中は、誠一に恐れをなして、ボクを見ないふりしてそそくさと帰ってしまうし、女の子の中には泣き出す子までいた。泣きたいのは、こっちだよぉ・・・・・・。


誠一と二人で自転車に乗って学校を出ると、誠一は、学校から1キロほど離れた山にある公園にボクを連れてきた。9月の昼間に乗る自転車は嫌いじゃない。暑い日差しと自転車を漕ぐたびに感じる風の流れをボクは愛していた。しかし、今日は恐怖の方が勝っていたので、そんな気分を楽しむ余裕はない。それに、9月の昼間の公園には、人っ子一人いない。ここでシバかれても、誰も助けに来てくれない。正直、メチャクチャ怖い。

誠一は、公園にある自販機の前に行くと「何飲む?」と聞いてきた。

ボクが要領を得ずに「え?」と聞き返したら、「女になったんだから、男の俺がおごるのは当然だ。早く選べよ」と、乱暴にコイン投入口に100円玉を3枚入れながら言ってきた。

ボクは少しうれしくなった。

「ボクの事。女の子扱いしてくれるんだね・・・・・。」

誠一は、何も言わずに自販機を親指で指した。早く選べってことらしい。仕方なく、ボクはカルピスソーダのボタンを押した。誠一は、コーラを選んだ。

二人で炎天下に炭酸ジュースを盛大に開封して、飲み口からこぼれるジュースを慌てて飲み干した。とはいえ、男の頃と違って喉が狭くなっているボクは、さすがにむせてしまった。

そんなボクを見ながら、誠一が尋ねる。

「・・・・・10センチくらいタッパが縮んだんじゃねーか?」

「うん。2か月足らずで男の体から女の子に変形メタモルフォーゼするんだから物凄いエネルギーがいるのね。そのカロリーはどこから消費するかって言ったら、外部入力じゃとても追いつかないわけ。やっぱり自身の体から消費するしかないって言うか。」

「・・・・・・つまり、あれか?自分の体を削って、自分の体を作り変えるってことか?」

「まぁ、そういうこと。」

ボクは、説明を終えたことを示すために、グビッとジュースを飲んだ。

誠一は、そんなボクを見て「辛くなかったのかよ?」と心配してくれた。

それがね~、自分でも意外だけど。ボク、女の子になるのがちょっと幸せに感じてたんだよね。

元々、適性があったのかな?それとも適性がある子が性別が変わる様に出来てるのかな?よくわからないんだけど、ボクは女の子になっていくのが、とても嬉しかったんだよね。

「ううん!全然。だって、今のボク、可愛いでしょ?」

ボクは、悪戯っぽく満面の笑みを見せた。

そうなんだ。なんたって、今のボクはアニメのヒロインみたいに可愛い。だから、嫌だなんて思わない。

可愛い服を着るのが好き。可愛い下着が好き。セーラー服とか初めて袖を通した時は、誇らしさまで感じていた。

だから、誠一が思うような辛い思いなんかしなかったよ!と、告げると誠一は、安心したように「そうか。」と呟いた。

「でも、じゃあ、なんで俺に何も言わなかったんだ?」

それは、女の子になったことを受け入れてもらえなかったら、怖かったから。

これは、男の誠一にはわからないよ。ボクがそう告げると、誠一は、コーラの缶を握りつぶした。

「お前はそれでいいかもしれないけどな。俺には俺でお前に相談に乗ってほしいことがあったんだよっ!!」

誠一は怒りで震えていた。何があったのかわからないけど、誠一はこの夏休みの間にボクに相談したいことがあったんだ!それなのに、ボクが音信不通になってしまったから・・・・・・。

でもね、ボクはボクで他人の心配しているような心の余裕はなかったよ?

なんたって、性別が変わってしまったんだから・・・・・・。

ボクがそんなことを考えていると、誠一は遠く空に浮かぶ蜃気楼のような女神像を見上げながら言った。

「俺、女神特区の防衛隊のメンバーに推薦されて、来年から自衛隊の防衛隊に入隊させられるんだ。」

と、呟いた。

え?

・・・・・嘘でしょ?

女神像の周囲300キロは、ゲームに出てくるようなモンスターが徘徊している。しかも、その範囲はジワジワと広がっている。このモンスターは、厄介なことに本当に幻想種らしく近代兵器が一切通用しない。通用するのは、古代から伝わる製法の退魔兵器だけ。つまり、弓矢、刀、槍と言ったような神聖兵器しか通用しないのだった。

「俺がさ、神聖兵器の適応者らしいんだ。

 確かに、神聖兵器ならば、奴らを殺せるさ。でもよ、あいつらだって俺たちを殺せるんだぜ!

 防衛隊の生存率・・・・・お前も知ってるよな?」

誠一は、悲壮感に包まれた顔でそう言うと、ボクの両肩をガシッと握り締めていった。

「このまま、子供も作らずに死ぬのは嫌だ!!」

「お前!女になったんだったら、俺の赤ちゃん産んでくれないかっ!!」

ボクは、呆然としながら、「・・・・・・ははは・・・・はい?」としか、答えられなかった。


15歳の夏。ボクは女の子に性別が変わった上に、幼馴染の男友達に「俺の赤ちゃん産んでくれ」って言われました。

・・・・・・て、なんじゃ、そりゃ・・・・・・・・。


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[一言] 15歳の女の子にこんなことを頼むなんて、とんでもない幼馴染です。
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