愚か者はいまだに? その2
何とか投稿できました(笑)。
僕が祝宴会場に入場してすぐのこと。僕よりも上位の貴族がすでにいたりといろいろと混乱する出来事はあったが何とかその場は収まった、と思っていた。
でも現実は残酷なもので、一難去ってまた一難とばかりに僕に難題を持って来る。
「貴殿は確かフェルザー侯爵ですね?」
「そうだ!」
僕が声をかけると、自分の嘆きが聞こえていたのだと気付いたフェルザー卿がものすごい勢いで噛みついてきた。
あ、勿論物理的な意味でではないですよ? そんなのただの獣だからね。
「なるほど、私に何かご不満でも? たしかに悪魔と天使の件だけで褒美をいただくなら納得できなかったかもしれません。ですが陛下のお話をしっかりとお聞きになっていたのならば、その後にその褒美が妥当と思われる内容の功績が話に上がっていましたよね?」
「領地をよく発展させ運営しているという話か? そんなのは領主として当たり前だ! 大体領地を順調に運営し豊かにするということならば他の領主だってできている人もいるだろう」
ふむ確かにな。言ってることは実に正論だな。だがこの人には理解できないんだな。優秀であっても秀才とまではいかなかったか。特に情報整理という分野においては。誰がいつどこで”順調”に領地を”運営”していると言ったのか。
陛下も僕も一言も”運営なんて言ってないし、”順調”とも言ってない。陛下は僕の領地が”急速に発展”と仰ったのだ。
どうしたもんかね? そう思っていると僕の後にまたぞろぞろと入ってきた人物がいた。
「誰だ。このようなめでたい席で子供のように喚き散らす不届き者は」
入ってきたのは他でもない、グスタフだ。今となってはベーレンドルフ公爵だ。その後ろに付き従うようにダミアン、カール、ツェーザルがいる。
疑問に思うかもしれないが、これは正式な登場方法である。本来貴族は下位から順に登場しなければならない。だが、抜け道は存在する。それは大貴族の付き人としての登場だ。彼らは今回それに選ばれていた。それだけの話だ。
だがまあ、これはグスタフが仕込んだことなのだけどね。自分と同格と思っている者たちが自分よりも前に登場しなければならないとか、他の一般貴族と同じように上位貴族よりも前に来なければならないとか、我慢できなかったらしい。
曰く、『確かに彼らは俺を除き、他の元特1の皆よりも上位貴族かもしれない。だが真の意味での実力では(特に武力面において)、我々の方が上。その同胞たちが下に扱われるなど気分が悪い』らしい。
当然こんな恥ずかしい事僕らに対して言っていたわけではないけど、侍従に対して愚痴っているところをたまたま通りがかったダミアンに全部バラされたようだ。
ダミアン結構こういう嫌がらせ好きなのか?
まあ、そんなことは置いといて。彼らが登場することは知っていたけどまさかこの絶妙なタイミングで登場するとはな。
「貴殿か。フェルザー侯爵。いったい何をやっているのだ」
「どうか落ち着いて聞いてくだされ! ベーレンドルフ公爵!……」
そこからは怒涛の勢いでフェルザー侯爵の言い訳が始まったが、結果は、
「下らん」
「え?」
「下らんと言っている。そもそも貴殿は何を考えている? ここは王家主催の祝宴の場だぞ? 飲む頃合いは個人個人で好きにやっていいということだが、いささか本番前から酒が入りすぎだ」
「お、お待ちを……」
侯爵が抗議しようとするが、グスタフの断罪は止まらない。
「そもそも、貴殿は陛下のお話を何も聞いていなかったのか? 陛下は”急速な発展”に関する称賛をされたのだ。貴殿の言う”順調な領地運営”とは次元が異なるものだ。私も実際にラント卿の領地を見学したことがある。まさしくあれは常軌を逸した発展速度と言っていい。いずれは我が領地やほかの公爵家の領地をも追い越すかもしれないのだ」
この言葉に他の諸侯はざわついた。何人か新参者の僕の領地に負けると言われて顔を真っ赤にして何か言いたそうにしていた貴族もいたけど、今は公爵が話しているときだ。遮るのは相手の気分次第では万死に値する。
だが他の公爵は面白そうな目で僕を見てきた。まるで今後僕と付き合っていくのも悪くなさそうだと言いたげに。
「そういうわけで、今回の報償の儀は妥当であり、正当なものだった。貴殿も貴族なら自分の目で見るか、見ていなくともしっかりと情報収集してから発言されよ。貴殿は元から優秀なのだ。安易にその箔を落とすような言動は慎んだ方がいいだろう」
「も、申し訳ございません」
「私に謝罪など必要ない。相手が違うであろう?」
「そ、そうですね」
そういってフェルザー侯爵は僕のもとへ歩み寄ってきた。
「すまなかった、ラント卿。少し飲みすぎた上に感情的になってしまった」
本当にこんなに優秀な人がどうしたんだよ……。普通貴族なら何か過ちを犯しても素直に謝るのを嫌がるものだ。
だけどこの人はしっかりとそれができる。それは誰にでもできることじゃない。中には自分から喧嘩を売っておいて謝罪するとか恥だと考える貴族もいるかもしれないけど、それでも今の謝罪で何人かの貴族の彼への心象は良くなったと思う。
「いえいえ、お分かり頂けただけでも十分ですよ。お顔を上げてください」
「貴殿の寛大さに感謝を」
これだけの衆目にさらされた状態で謝罪までしたんだ。自業自得とはいえ、なんか可哀想になってきた
「では、一つお願いがあります」
「お願い?」
「はい。これから私の領地との交流をお願いできませんか? 貴殿の領地は麦の栽培が盛んと聞きます。私の領地では麦はあまり盛んではないのです。是非とも取り引きをお願いしたい。勿論こちらからも何かお望みのものがおありでしたら取り引きに応じさせていただきます」
昨日の敵は今日の友! なんてね。まあ、昨日でもないんだけど。
とにかくこの侯爵の領地でとれる麦の量は半端ない。基本的に王国の食糧供給はシュナイダー伯爵が牛耳っている状態だけど、麦に関してだけはあの土地ではあまり獲れないらしいのだ。なのでこの人の領地から安定して供給してもらえれば僕の領地も今以上に食糧事情が安定するだろう。
それに麦と言えば蒸留酒だ。それとビール。まあ、蒸留酒に関しては厳密に言えばライ麦や大麦とかなんだろうけど、それと似たようなものがこの世界にもあるようで、それらの麦の生産量が多いのが目の前の侯爵の領地なのだ。
絶対にこの交渉は成功させたい。僕の町は急速に発展してるのと、辺境で魔物がかなり出てくるので冒険者が急増している。なのでお酒類は充実させたい。
命を懸けて仕事を終えた後に一杯やるか! とできるような環境を整えてあげたいのだ。
「勿論だ。いや、ぜひともお願いしたい。このような無礼を働いたというのに交流を持ちたいと言ってくれているのだ。断る理由などありはしない」
「感謝します、フェルザー卿」
その瞬間、会場がざわざわと騒々しくなった。多分だけど、僕の領地は今、前世で言う高度経済成長期だ。住民の所得も化け物染みてる。前世での貨幣経済だと札束を後ろポケットに入れて歩いているような感覚だと思ってもらえればいい。それだけ我が領地は潤っている。
それゆえに僕の領民たちからの評価も高度経済成長中だ。この間、街を視察した時には領主は僕以外にはありえないとまで言われた。
それほどの領地だ。なので僕と手を組みたいと考えている貴族は多いはずだ。これは僕がうぬぼれているとか、自意識過剰だとかいう話ではなくて、貴族ならそうすべきなのだ。彼らは自領の住民たちを生活させていく義務がある。故に経済が発展している領地とはなるべく積極的に手を組むべきなのだ。
それを僕があっさりとこの侯爵に対して認めたので、嘘だろ……となっているのだろう。
当然この祝宴の後、おびただしいという表現しか合わないほどの数の貴族から面会を申し込まれ、その一人一人と話をしなければならなくなり、次の日には目の下にクマができていたのは言うまでもない。
そうしてしばらくガヤガヤしていると、陛下並びに王族の方々が入場してこられた。
ようやく、食事の時間だ。もういろんな意味でへとへとだったからお腹すいてたんだよね。
「皆の者、よう来てくれた! 今宵はめでたい日だ! しっかり飲んで、食べて、楽しんでくれたまえ!」
陛下の宣言により、祝宴が始まった。




