愚か者はいまだに?
最近不定期更新ですみません。なんとか続けては参りますので、今後ともどうぞよろしくお願いします。
王宮に着いた僕たち。早速馬車を降りて城内へ向かおうとする。
すると、
「お待ちしておりました、ラント閣下」
「クリストフさん、久しぶり。元気だった?」
「ええ、もちろんでございます。いつもご丁寧にお声がけいただき誠にありがとうございます」
「いいって、いいって。気にしないで? ところで、今日はクリストフさんが案内してくれるの?」
「はい。ですので早速ご案内致しましょう。どうぞこちらへ」
僕はいつも通りの流れに身を任せる。いや本来はこれに慣れてるのがおかしいんだよ?
どんなに優秀な貴族でもそう何度も王城に呼ばれたりしない。それだけ陛下とお国が僕を徴用してくれているってことだ。本当にありがたい話である。
他人からの評価を気にして行動しているわけでは無いけれども、それでも評価されて素直を喜べないほど僕は捻くれていない。
なのでこうやって評価してもらって王城に呼ばれた時は素直に登城するようにしている。
そして歩き始めて5分ほど、ん? この場所、ってまさか……。
「謁見の間に到着いたしました。扉がひらいたらご入場ください」
ははは、ですよね? わかってましたよ? でも祝宴に参加しないか? とお手紙をいただいて出席したのになぜ謁見?
いやマジで……なぜに?
そんな感じでものすごく混乱している僕など知ったことかとばかりに扉が開く。
「アレン・ベッケラート・ラント辺境伯のご入場です! 皆さま盛大な拍手を!」
パチパチパチ!!
うん、すごく歓迎されてる。いやまあ、僕が今では国内で英雄だとかなんとか言われてものすごく知名度も上がって支持してくれる人も増えてるのはわかってるんだよ?
でも今回は特に何か成し遂げた! とかいうわけでは無いので物凄く混乱している。
なんか手紙に、『今回の天使と悪魔の勢力図の変化は僕の献身的な人類守護への尽力のおかげだ』みたいなこと書いてたけどまさかそれが理由?
流石にそれは無理があるよね? ああ、考えても全くわからない。もう流れに身を任せよう。
僕はいつも通り作法に則って陛下の前まで歩いていく。そして御前にて跪く。
「よう来たな、ラント辺境伯」
「お久しぶりでございます、陛下。ご健勝そうで何よりでございます」
「うむ。毎度毎度早く来れる手段があるのに馬車で来てもらって悪いの。非常に助かっておる」
「いえいえ、とんでもございません。お国に貢献できることこそが至上。ですがお気遣いには心より感謝申し上げます」
「良い良い」
そうして一言二言ほど言葉を交わし、本題に入る。
「今回来てもらったのはほかでもない。例の悪魔と天使の勢力図の劇的変化についてだ」
まさかの例の件でした。
「これは非常に大きな一歩だ。我々人類にとって天使と悪魔というのは基本的には倒せない絶対不可侵の存在。その彼らが今は火が付いたように互いに本気で潰しあっておる。これはやはり貴殿が魔将帝の一人を打って唐突に勢力図に変化があったのに起因しておるだろう」
なるほどね。そういうことだったのか。今回の勢力図の変化が僕のおかげと言われたなら違和感を抱くけど、そのきっかけを作ったのが僕だということで褒められるのならばまだ納得できる。
まあ、それでも無理やり感は拭えないけど。
「そういう訳なので、貴殿にはいくつか報酬を与えようと思う。これは貴殿の領地が今までにないほど急速に発展しているのも含めての褒美だと思ってくれればよい」
ふむ、さすがは陛下だ。うまいな。今回の件だけで褒美を与えるのは理解できなくはないけど納得はできないという貴族も中には居るはず。僕が認められるようになってきたとはいえ、それはあくまで大多数の話であり、全員ではない。故に注意が必要なのには変わりはない。そのあたりを陛下が考えていないはずがない。
なのでこんな無理やりなこと普段ならするかな? と思っていたがこれなら問題はあるまい。
確かに僕の領地は今急速、いや急速というのも生ぬるいほどの勢いで発展している。これは前世での知識をもとにしているのもあるが、やはり一番は領民たちの献身的な労働のおかげだろう。
これにより本当にとんでもない速度で発展してきている。まさに高度経済成長期なのだ。この圧倒的勢いには他の貴族領では追いつけない。
それが例え公爵位であろうとも。
そういう訳なのでこの”僕の領地の他の貴族では真似できないような速さでの発展”というのも理由に付け加えることで納得できる確率も上がるだろう。
「承知いたしました、陛下」
「では、バルツァー卿よろしく頼む」
「はは!」
そこからはいつもの褒美の詳しい内容の説明だ。そしてその内容はまぁ、妥当なものだと思う。
金剛三等勲章一つ、金剛貨2枚、白金貨5枚、金貨12枚だ。そこまで少なくもなくかつ多くもない。これならば周りの貴族も納得するだろう。
それにいつもより少ないとはいえ、大金は大金だ。これからの活動資金としてありがたく使わせてもらおう。
とまあこんな感じで謁見はつつがなく終了した。この後今回の人類にとっての朗報を祝福する宴が開かれる。
なので僕も含め皆式典用の礼服からカジュアルな正装に着替える。
僕もこのやたらとジャラジャラした礼服を着替えに行く。ほんとこの服勲章やら肩章やらが多すぎて、ただひたすらに重いんだよね。めちゃくちゃ肩こる、というのは若いから気のせいだろうが、少なくともこのまま年齢を重ねていけばいずれは肩を揉みながら歩く日が増えてくるだろう。
準備をしてから30分ほど、呼ばれるまで待っていてくださいと言っていた使用人が迎えにきた。
どうやら祝宴の準備ができたようだ。僕も行こうか。
使用人についていくこと5分ほど。すぐに会場に着いたようだ。
入ってみると既にたくさんの貴族が集まっていた。主に下位貴族。こういう場では下のものから先に来るのが礼儀となっている。子爵位を初め、中堅貴族以上の貴族が入ってくる前に男爵位以下の貴族は来なければならない。子爵や伯爵が入ってくる頃に準男爵とかが入ってくるのはもってのほかだ。
だが僕はそんな心配はしなくてもいい。何せ今となっては辺境伯だ。同格の侯爵ですら丁寧に接してくるような爵位の貴族階級だ。
事実既に侯爵の人達もちらほらといる。ベッカー侯爵もその1人だ。
だが驚いたのは僕は使用人に待っていてと言われ、呼ばれたタイミングでちゃんと来た。
なのに既にこの場に何名か公爵位の貴族がいることだ。どういうことだ? これは嵌められたのか? この使用人はどこかの貴族の手のものか?
僕がさっき言った早めにくるのが礼儀というのは使用人に呼ばれたらすぐにもたもたせずに会場に来ることを指す。
つまり、使用人は順番に貴族を案内しているということ。なのに僕より上の公爵がなぜもういるのだ?
下手をすれば不敬に当たる案件なのだが?
僕は自然と目の前の使用人を見る目が険しいものになっていく。
どういうつもりだ? そう思っていると、
「まぁまぁラント卿、少し待ちたまえ。その使用人はれっきとした王家所属で、何も間違っていないし……誰の手のものでもないよ。今回は貴殿が主役だからというのと、貴殿の位はそれほどまでにすごいものだということだ。特に貴殿はね。なので今回の主役という面と、お国への貢献度、そしてラント辺境伯家という重要性、これらを考えれば何もおかしなことはない」
「貴方様は」
声をかけてくれたのは、四公と呼ばれる四大公爵家の内の一家現当主、アレクサンダー・アンドレアス・フロイデンタール公爵その人だ。
ちなみにバルツァー公爵はアンドレアスという王家の家名を名乗っていなかったと思うかもしれないが、それには理由がある。
アンドレアスという名を名乗っていいのは現国王陛下と直接家族関係にある親族のみ。つまり従兄弟だとか、はとこだとか、おじ、おばに当たるだとか、実質的には親族だから血は繋がっているが、その国王が生まれた時に直接的に家族関係にあたる人物のみしかアンドレアスという名を使ってはならないとされている。
父親、母親、兄、弟、姉、妹といったふうに。
なので先先代がそれに当たるというだけの、血縁関係でのみ王族であり、法的には王族に当たらないバルツァー家ではアンドレアスの名は使えないのだ。
王族であって王族にあらずという微妙な関係なのだ。
つまりどういうことかというと、現フロイデンタール公爵はどういう立場かというと、現アンドレアス王から5番目の弟、先代陛下の五男にあらせられるのだ。なので直接的関係があるので今代のみ、アンドレアスを名乗れる、というわけだ。
だがそれなら余計にわからない。そんなお方がなぜ僕より早くに来て、それでいいだなんて……
「フロイデンタール公爵、仰っておられることはよく理解できました。ですが貴方様まで私よりも早く会場に来られるとは……何故なのですか?」
「ん? 単純に興味があったのさ貴殿にね」
あ、ダメだこの人。女の子だったらお転婆娘って言われるタイプの人だ。自分の影響力を度外視してる。
いや、嬉しいんだけどね? このお方に興味を持っていただけるというのは。
「左様でしたか、そう仰っていただけて光栄でございます」
「ああ、これからもよろしく頼むな」
「御意」
そうして一時はスキャンダルになるかと思ったこの事件は、幕を閉じた。
だが世の中はあまりにも残酷なもので、こちらの空気など読んではくれない。
現に、
「納得できない! 今回直接的な功績をあげたわけではないのに褒美? いや、陛下のご判断には間違いはない。だが、それなら僕だって頑張って父上に認めてもらえて家を継ぎ、領地も順調に経営している! 武においても剣術と軍略においては相当なものと自負している! なのに何故!」
「落ち着いてくだされ、侯爵閣下」
どこからともなく心からの叫び、といったような怨嗟の言葉が聞こえてきた。
あれは確か……ああ、王都付近に領地を持つフェルザー侯爵だ。
最近当主交代がなされて20歳の若い男性が当主になったんだっけ?
取り巻きの貴族も気苦労が耐えなさそうだ。胃に穴が開かなければいいけど。
まあ、それはともかく叫びの内容ですよ……そんなこと僕に言われても知らないじゃんって感じの内容だった。
しかも何が面倒かって彼はすごく有能ということで有名なのだ。先代よりも順調に領地を経営している。
それだけ見れば優秀に見えなくもないが、今のを聞いた感じ、性格には少し難ありって感じか?
はあ〜〜。一難去ってまた一難とはこのことか……世の中は本当に無慈悲だな〜。




