再びの第一級召喚令状
僕が魔将帝・七つの大罪の色欲のアリシアを討伐して数日後、僕は王都に呼ばれていた。
屋敷に第一級召喚令状が届いたのだ。これが届くということはかなり大きな用事があるということだな。
「さて、準備もできたしそろそろ出発しようか」
「かしこまりました」
デニスが仰々しく返事をする。
エレオノーレたちは留守番だ。今回はおそらく仕事の話だろうから宴会などがあるわけではないだろうからね。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「ええ、行ってらっしゃいませ」
「お気をつけて」
「うん」
そうして挨拶が一通り終わった後、僕たちはさっそく出発した。デニスが一緒についてきてくれているのは僕が子爵になってしばらくしたころ、王家から直々に選定を受けた代官が派遣されてきたのだ。
こうやって振り返ってみると僕は周りから優遇されてることが多いなと改めて思うよ。
という訳で仕事が滞るようなこともないので最近はよく王都に呼ばれたりしているね。
そんな感じで日々の順調さに感謝しながら、途中の町に寄ったりしながら何日かかけて王都に到着した。
王都に入って住民が僕の馬車に描かれているラント伯爵家の家紋を見た瞬間、盛大な歓声があたりに轟いた。
そう、なぜか王都民だけでなく、王都に近い街などでもそうだがみんなラント伯爵家の家紋を知っているのだ。
なぜなのかとこの間独り言でつぶやいたとき、デニスが、
『当然でございます。今やラント伯爵家は大貴族の中でも特にその人気を独占しております。何せ英雄自らが統治するお家ですから。しかも貴族だろうが平民だろうが皆に対して丁寧に慈愛をもって接されます。まさに英雄にふさわしい。そして極めつけが王家が優秀なお家の家紋は一般公開するのですが、そこにラント伯爵家の名前も挙がっています』
と言われた。途中からむず痒すぎて聞いてられなかったけど、まあ、大多数の方々に好意を持ってもらえるのは素直に嬉しいことだ。
だがそれよりも……
『え!? その家紋の一般公開って基本的には侯爵家および辺境伯家以上の貴族家しか公開されないものでしょう?』
と僕が疑問を呈したところ、
『ええ、仰る通りです。ただそれは基本的にということであり、それ以下の家紋でも優秀ならば名前が上がることはございますよ。事実、十年以上前の話になりますが当時まだ男爵家だったお家がその一般公開に名を連ねました。それが後の……』
『後の?』
『アーベントロート伯爵家です』
『なんということでしょう!?』
『?』
僕は思わず生前の某リフォーム番組のナレーターの定番台詞を叫んでしまった。いやコルネリウスさんならわからないでもないけど、まさか十数年で伯爵家まで陞爵されていたなんて……。
まあ、そういうことならあり得ないこともないのか。たとえ下位貴族でも本当に優秀なら家紋公開に名を連ねる、と。
「ははは。どこかの誰かさんはずいぶんと人気なようだ」
「あなた様ですよ、アレン様」
「もう、分かってるってば。ちょっと冗談言ってみただけだし。それにしても僕は領地持ち貴族なのによく王都に来るねえ」
「それは仕方なきことかと。それほどまでにあなた様は陛下よりご期待を頂戴しているということでしょう」
「まあね。本当にありがたい限りだよ。この国の頂点の方に気にかけてもらえてるだなんて。とんだ贅沢だよ」
「わたくしはそんな素晴らしきお方にお仕えでき、心より幸せを感じております」
「ははは、そんなこと言ってぇ。何も出ないよ? でも、そうだねえ。デニス、君には本当に感謝しているよ。ありがとう」
僕は自然とその言葉を発していた。本当にスラッと出てきた言葉だ。それほどまでに僕は彼に助けられてる。その場しのぎの社交辞令でも何でもない。
本当に心からの感謝の言葉だ。そのことに気づいたのかデニスは、
「もったいなきお言葉です。これからもあなた様のご期待に応え続けられるよう、精進してまいります」
「うん、よろしくね」
こうして普段よりいっそう主従関係においての信頼関係を強めることができた僕たちは急ぎ王城に向かった。
馬車をゴトゴトさせながら王城へ向かうことしばし、巨大な門が見えてきた。
いつも通りさっさと手続きを終えて城内に入る。
「ようこそおいでくださいました。ラント伯爵」
「お久しぶり、クリストフさん」
「では早速ですが、陛下のお待ちする部屋へご案内いたします」
「うん、頼むよ」
そうしてクリストフさんに連れられ、僕はいつもより重厚な造りの部屋へ案内された。
なんだ?
「随分と立派で堅牢そうな造りだね?」
「お分かりになりますか? そうなんです、この部屋は特別なお話がなされるときにしか使われないお部屋なのです」
「そうなんだ~」
そんな貴族にあるまじき気の抜けた返事を返しつつ中に入る。すると、
「おお、来たか! 英雄殿の凱旋だな!」
「お待たせしてしまい申し訳ありません陛下。お久しぶりでございます」
「うむ、とりあえず座ってくれたまえ」
「失礼します」
相変わらず陛下は豪放磊落で元気な性格だなぁ。なぜかとても懐かしい感じがする。
王都に来ることは仕事上、最近も何度かあったけど陛下とこうして面と向かって話をするのは本当に久しぶりだなぁ。
ちなみに今ここにはバルツァー公爵以外、誰もいない。まあ、クリストフさんはいつも通り後ろで控えているけども。
「来てもらって早々悪いのだが、話を進めたい」
「勿論でございます、陛下」
「うむ、では内容をバルツァー卿」
「かしこまりました」
そうしてバルツァー公爵がここに僕を呼んだ理由を話していく。
要約すると、僕が既に先日天使と悪魔2体と、悪魔の首魁の一人と思われる魔将帝を打ち滅ぼしたことは王国の密偵により情報が速やかに届けられ、把握していると。
そしてその功績について報酬の話をしなければならないため呼んだのだと。
なるほど……って怖!? もう情報が届いてんの!? 凄いじゃないか密偵さん、やるじゃないか密偵さん、そして僕のことを調べまくるのはやめておくれよ? 密偵さん。
いや、別に犯罪とかしてないから別に良いんだけどさ? 気持ち悪いじゃん? もし調べられたらの話だけど。
とまあ、そんなアホみたいなことを考えながら陛下に呼ばれたこの状況を把握していく。
だが一つ気がかりなことがある。
「陛下、陛下方がこちらの状況を把握しておられるのは理解しました。ですが一つ気になることが。報酬の話ならばどうしていつもの会議室ではないのですか? クリストフ殿にもすでに話を伺っておりますが、こちらのお部屋は普通よりも重要なお話をする場合にのみ使われると。そのような特別なお話なのですか?」
「流石だな。その通りだ」
何だろう?
「まず一つがおぬしの陞爵の話だ」
「陞爵、ですか?」
「うむ、おぬしは5年前に伯爵になったばかりだが、それでも今のおぬしが治める領地の発展ぶりとその速度、またおぬし自身の財力、そして何より武力とその功績。それらすべてはもうすでに伯爵の域を逸脱しておる。故にしかるべき地位につけたい」
「そういうことですか。それならば謹んでお受けいたします」
「うむ。それからもう一つがおぬしの報酬についてだが……」
そういって陛下がまた事情を話し出した。結論として、僕があまりにも猛スピードで功績を挙げていくのと、そしてその功績を挙げるたびにその功のデカさも上がっていくと。
なのでもはや今の王国には僕の功績に見合う勲章が存在しないので、新たに作ることにしたそうだ。
そしてそれらを受け取る際にも新たな作法を設けることも。ただ勲章などを新たに作るだけなら問題はないのだが、この勲章は本当に国が舌を巻くくらいとびぬけた功績を残した者にしか与えないようにするそうだ。
故に特別な受け取りの作法も増やすそうだ。なのでそれを伝えるために僕を呼んだそう。
そんなわけでバルツァー公爵から2日後、盛大に陞爵の儀を執り行うので準備しておいてほしいと言われた。
これはまた、役職なども増えるだろうから一段と忙しくなりそうだ。




