死闘
七つの大罪・色欲のアリシアとの戦闘が開始して数分。
わかったことは、天使長も相当すごかった、つまりはそれと同格であろう準魔将も相当なものだろうと思ったのだが、それはまさに正しい判断だった。
僕の配下には強い者が多いけどそれでもやはり準魔将クラスはきついみたいだ。
そういうわけで自分の相手はどれほどのものなのだろうと思っていたが、別格だった……。
今も、
「『火炎殲滅弾』!」
アサルトライフルのようなものをまねて作った炎の魔法を放った。上級の威力だが、注目すべきは魔法の速度と連射速度である。
速さは普通に拳銃を撃った時と同じで肉眼での視認は不可能。連射速度はアサルトライフル並み。
はっきり言ってこれを防げる魔法は少ないと思う。
だけど彼女は、
「『謀反への誘い』!」
そういって闇を展開したのだが、何かピンク色のオーラのようなものをまとっている。そしてそれに僕の魔法が接触した瞬間に魔法がぴたりと止まり、こちらに向きを変えて飛んできた。
「は!? なにそれ反則! くッ!」
僕はほとんど反射的に反応して伝説級結界を張っていた。
「うふふ。驚いた? これが私の能力、”誘惑の闇”よ」
「なるほど、何でも誘惑してしまうってわけね」
「そういうこと~」
なんて能力だ。無茶苦茶だこの女。他のみんなは……よしよし戦えるもの以外は避難誘導に動いてくれているな。
戦うだけじゃなくて市民を守る際にするべき行動パターンなどをしっかりと決めて訓練してたのがここで役に立った。
基本的に天使や悪魔に立ち向かえるような人は少ない。そういう人には即座に襲われてる街の人々の避難誘導などを率先して行うよう訓練してもらってたんだ。
やっぱり何事も備えあれば憂いなしってね。
「どうやら今回が初めて僕が契約している竜たち全てと一緒に戦うことになりそうだね」
「へえ、さっきから攻撃してくるその、ラー、だっけ? その子以外にも神位級がいたりして? あ、ははは。それはないか」
「その通りだよ」
「え?」
「出でよ! 雷王竜インドラ! 氷皇竜ブイ! 地帝竜ポセイドン! そして黒帝竜ルシファー!」
「嘘でしょ!?」
流石にこの光景はびっくりしたようだね。僕の私兵たちまでビックリしてるし。ただまあ、この状況で一番恐ろしく感じてるであろう者は悪魔たちだろうな。
「さすがにこれは予想外だわ。でも、これくらいがちょうどいいわ! 面白そうだもの」
「その余裕すぐになくしてあげるよ!」
そういって僕はまずは彼女のさらに上空に転移した。本来ならこの後自由落下で落ちていくんだけど、僕は結界魔法が使える。
物理結界を足元に張り、その上に立つ。
そして、
「雷王の逆鱗!」
僕は雷の帝王級魔法を叩き込んだ。だが、彼女は結界魔法でいともたやすく防いで見せた。
「今のは結構凄い威力だったわ。でもまだまだ足りないわよ!」
「もちろん! 今ので死なれたら拍子抜けだ!」
僕らはお互いに接近した。そして彼女は懐から黒い鞭らしきものを出して振り回してきた。僕は自信の剣に雷をまとわせ、そのまま切り伏せた。と思ったのだが、
「マジか……鞭が剣と鍔迫り合いって……」
「私の鞭は特殊なのよ! 硬いわよ!」
「なら、ラー!」
「了解!」
ラーが炎のブレスを収束させてアリシアにはなった。これは僕が教えた方法だ。物体を放出するときは放射状に放つんじゃなくて、収束させて、圧縮して放つ方が威力も速度も上がるってね。
僕はそのイメージをわかりやすく伝えるためにわざわざ自分で魔法理論を構築し、熱収束砲という物を発明し彼に見せた。
わかりやすいイメージが目の前に体現されたことでラーもそのポテンシャルを活かして一瞬で体得した。
「チイッ!」
アリシアは流石にこれを受けるのはまずいと感じたのか、転移魔法を使って退避した。
まあ、そうなるだろうね。この魔法は使用している魔力量自体は帝王級だけど、その魔力を圧縮して収束させてはなってるので魔力効率がいい。
よって威力だけで考えるなら普通に災厄級だ。
「これはまずいわね。配下たちも坊やの配下につきっきりだし。ここは撤退するしか……」
「させると思う?」
「ふん、意地でもして見せるわ!」
「まあ、できる物ならお好きにどうぞ」
僕の物言いに疑問符を浮かべていたが、彼女はすぐに配下たちを呼び寄せ転移魔法の発動準備に入る。配下たちもボニファティウスたちとの戦いを中断してアリシアのもとに来た。
そして彼女は魔法を発動し、驚愕する。
「なッ!? どうして発動しないの!?」
「そりゃそうでしょ。殲滅対象の敵をみすみす逃がすわけにはいかないからね。退路を断つ手段として空間干渉を妨害する結界を張った。これで転移魔法は使えない。ああ、でも安心しなよ。この結果以内でなら使えるから」
「冗談じゃないわよ……」
彼女は絶句した。撤退ができない。それは二択しか今の彼女たちには選択肢がないことを意味する。それは彼女が死んで僕が目的を達するか、彼女が買って僕が死に、拠点に逃げられるか。
二つに一つである。
「いいわ。ここまで来たら覚悟決めないとね! あんたたち、もう一度あの手ごわい人間どもの相手をお願い」
「「「承知」」」
彼らはまた転移してボニファティウスたちの元へ戻っていった。
「さあ、坊や。準備は万端よ!」
「では遠慮なく。ブイ!」
「任せて!」
ブイは氷の槍を百本ほど頭上に顕現させた。それを一気にアリシアに放つ。
「流石は竜! 魔力が常識外ね! 誘惑の闇!」
アリシアがそういうと同時にブイの氷の槍は全て戻ってきた。だが彼女は慌てず戻されてきた槍に対処する。
永久氷獄の魔法で全て防ぎ切った。流石だ。まだ年齢的には幼いはずなのに僕があまりにも戦闘に巻き込まれるから僕の竜たちはものすごく実戦慣れしている。
ルシファーは言わずもがなだ。
そんなどうでもいいことを考えていると、ポセイドンが動いた。最近は僕がわざわざ指示を出さなくても自ら考えて動いてくれるんだよな~僕の竜たち。
ものすごく助かっております。
「串刺しにしてやる! 『大地の剛槍』!」
地面から幾百もの鋭い槍が撃ち放たれ、アリシアを狙う。
「次から次へとしつこいなぁ! 冷気爆裂冰波!」
まさか闇魔法や誘惑の闇以外に氷まで使ってくるとは。やっぱり悪魔は人間に比べてポテンシャルが高いのかな?
「ならこっちは、火炎爆裂熱波!」
「ちょっと!? 真似しないでくれる!?」
「何が?」
僕は笑みを浮かべながらアリシアを見た。
「この……ならとっておきよ! 『氷帝』! それから、『暗黒帝』! そっちが使役するならこっちも使役よ!」
「おいおい、嘘だろ……」
このお姉さん禁忌級の魔力波動を放ってる使役魔法を使ってきたよ。
魔法には魔力を物体として、特に動く動物のように(実際には生物ではない)具現化して戦うことができる魔法がある。
だがそれらは魔力制御、魔力使用量ともに膨大なもの。故に理論上存在するけど一般の魔法師や格の低い物なら竜魔導師ですら使えない魔法とされ、禁忌指定されてる魔法だ。
当然だ。魔力制御をミスったり、魔力が足りず魔力不足に陥り意識が飛んだりすれば魔力暴走を起こし、その魔法が魔法師の制御から解き放たれた状態で猛威を振るってしまう。
だから人類が使うことは固く禁じられていた。ましてや二体同時召喚などあり得ない。
だが彼女は魔将帝である。そしてその肩書にふさわしく、二体同時に召喚し、特に疲労感も漂わせていない。
全く次から次へと強敵ばかり。勘弁してほしいものである。
「数はこっちが上だ! ブイ、インドラ! 二人で頼む!」
「分かった!」
「任せて!」
これで何とか邪魔は二体だけど減らせたわね。
「僕も正直これは予想外だったよ」
「そうでしょうねえ。普通人間ならできないでしょうし」
やっぱり人間には難しいのか。それをいとも簡単にやってのけるとは……。
今僕のもとにいるのはラー、ポセイドン、ルシファーだ。相手は強敵だけど何とかなるだろう。
「じゃあ、最後の勝負だね」
「絶対に勝ってやるんだから! 『氷塊弾雨』!」
「火炎殲滅弾!」
氷の弾丸の連射と炎の弾丸の連射がぶつかり合う。そして拮抗する魔法、いや拮抗しているようで確実に片方が押し始めていた。
アリシアの顔がだんだんと疲労にゆがむ。
「クソ、どんな化け物染みた魔力量よ! この私が押されてるなんて……」
「僕は君と同等かそれ以上の竜たち五体から魔力を供給してもらってるからね」
「ふざ、けん、じゃないわよ! ガハッ!?」
何発かアリシアに入った。僕の方はまだまだ余裕はありそうだ。魔力の消耗具合は半端ないけど。僕だけの魔力量ならもう尽きていたと思う。
それだけ子のアリシアという相手は別格だったのだ。
「これで終わらせる! ポセイドン、ラー、ルシファー! 一斉攻撃頼む!」
「承知した」
「了解だよ!」
「分かった!」
ルシファーからは万有引力の降嫁をまとったブレス。ポセイドンからは土槍の魔法10連発、ラーからは熱収束砲2連撃。
全て彼女に命中。
「こんな、こんなはずじゃ……はぁ、はぁ。クソ!」
「君たちはこの世界にふさわしくない。相手の土地に移り住むのならその土地の規則や習慣、秩序を守らないといけない。でも君たちはそれができない。いや、しようとしない。だから迷惑なんだ。お互いを尊重しあえるような関係ならもっと良き隣人として接することができたかもしれないのに……残念だよ。万有引力!」
僕が彼女の目の前に万有引力の魔法を放った。その直後彼女は塵となって闇に飲み込まれた。
終わった。果てしなく長く感じる戦いが、ついに終わった。
その後、僕はルシファーたちにお礼を言って戻ってもらった。すると次の瞬間、ものすごい脱力感に襲われた。
多分竜たちからの魔力供給が切れたけど、自分の魔力は完全に枯渇してしまった状態だから力が出ないんだろうな。
まいったな。こんなにボロボロになった戦いは初めてだ。そして、
「うッ!」
僕は腹部に痛みを感じた。実は魔力的にはまだいけたんだけどアリシアの魔法が二発ほどお腹に命中したんだよね。
これは早く治療しないとまずいな。ああ、ダメだ疲れた。もう何も考えたくない。
そんなことを思っていると、
「アレン様!」
「伯爵様!」
冒険者たちが戻ってきた。あれ?アリシアの配下は?
「あれ? 君たちの敵は?」
「敵の首魁が打ち取られた後、こちらをものすごい形相でにらんだ後撤退しました。普通に飛んでいってね。多分アレン様の結界魔法も解けてたんでしょうね。あっさりこの場から離脱で来てましたよ」
「ああ、さっき脱力した時に集中力切れたからね。その時かな?」
「かもしれませんね。とにかくすぐにこちらに治癒魔法師が向かってきます。落ち着いて休んでいてください」
「了解、もう疲れた。お言葉に甘えさせてもらうよ」
その後僕の意識は闇に落ちた。
ようやく、本格的な相手を倒しましたね! よくやったアレン!




