妻たちとお出かけ!
午前中に執務を片っ端から終わらせていった僕は約束通りに午後になるまでに仕事を終えた。
そして出かける準備をして馬車に向かったのだけど、エレオノーレとビアンカの姿が見えない。
「あれ? 彼女たちはまだなのかな?」
御者の使用人にそう尋ねた。すると、
「どうやら奥様方はお部屋で戦いをされているらしく、もう少し待ってほしいと……」
「戦い? なんの?」
「さて、わたくしには分かりかねます。申し訳ございません」
「あ、いいよいいよ。気にしないで」
そういって御者の人には下がってもらった。仕方がないので彼女たちの部屋を見に行ってみる。
途中でものすごい勢いで仕事をしている使用人を見かけ、何事かと尋ねたら、
曰く、彼女たちはお洋服選びやお化粧の戦いの真っ最中だそうで、いつになく気合が入っているのでそれを尋ねたら、
『アレン様が久方ぶりにわたくしたちをお出かけに連れて行ってくださるとおっしゃっているのですよ!? 雑な準備であの方の前になど出られますか!』
とは、エレオノーレの言葉。
『主人と久しぶりにお出かけができる絶好の機会なのです! しっかりと準備をしなくては! そうこれは戦よ! 出陣前にしっかりとわが身を整えておかなくては!』
とは、ビアンカの言葉。こっちは完全にテンション上がりすぎてちょっと壊れかけてる気もするけど……なんなのさ、戦やら出陣やらって……そんなに嬉しいもんなのかね?
いやそうなんだろうな。それに僕はこれほどまでに自分との時間を幸せに感じてくれている妻たちに感謝するべきなんだろう。
実際にそこまで僕とのお出かけにテンション上がって準備してくれてるなんて嬉しいしね。
それを聞くと、なんかすごく可愛いな僕の妻たちは。ああ、ダメだ。絶対今日は彼女たちを甘やかしすぎてしまう。
お出かけ前にこんな可愛いことされてたら愛おしくて仕方ないよ。
よし! 僕ももう少し、身なりを整えよう! そしてこの後のお出かけでも精一杯彼女たちに喜んでもらえるよう努力しよう!
そうして15分くらいして、ようやく馬車の前に三人集合できた。
「あ、あのアレン様。お待たせしてしまいましたか?」
「私も準備に時間がかかってしまいましたわ」
「ううん。言うほど待ってないよ。僕もちょっと前まで用事してたし」
「そうだったのですか? お仕事の残りですか?」
「ううん。仕事は全部終わってる。それとは別にちょっとね」
「は、はあ」
エレオノーレはなんか不思議そうな顔をしている。だが今は彼女たちに言うべき言葉があるだろう、僕!
「それにしても、エレオノーレもビアンカもとっても可愛いね! 服も凄く似合ってるよ」
「ほ、ほんとですか!?」
「私も、おかしくはないでしょうか?」
「うん。二人ともバッチリ! 完璧だよ」
「よかった~」
「ほんとです~」
よかった。取り敢えず喜んでもらえたようだ。それにしても服だけでなく、綺麗にお化粧もされてて、なんというか……すごく可愛い。
普段から可愛いのに、今日のは一段と破壊力が……ダメだ、なぜかうまく直視できない。
「そ、そろそろ行こうか。予約の時間までもう少しだし」
「そ、そうですね!」
「遅れてはいけませんからね!」
そういって三人そろって仲良く馬車に乗り込んだ。
30分ほど馬車を走らせたころだろうか。ようやく目的の店に着いた。実はこの町、いやあれから特産品などを出しまくって、魔法具専門学校を建てて、魔法具も普及しだしてからはこの町は街と呼べる規模になった。
二年前、増築工事をしたからね。今はだいぶ空き地だったところに家も立ち始めて活気が出だしたころだ。
だが元からこの町は町という表現が正しいのかというくらいの規模だった。
それが僕が領主になってから本格的に大きな街になったのだ。移動一つとっても時間がかかる。
11時くらいに屋敷を出たので余裕をもって到着はしたが、やはり移動が大変だ。
これは本格的に魔法車みたいなのを開発した方がいいかもね。そして道路の整備にももっと力を入れた方がいいかも。
この町はしっかりと石畳の舗装をされているんだけど(僕が領主になってから計画を進めた。今では王国全体で道路整備が一般化している)、歩道や十字路などでは信号はないから警備員みたいな人を配置して誘導を行ってもらった方がいいかも。
まあ、今は一旦仕事の話は忘れよう。今日は存分に楽しむと決めたんだから。
コンコンッ
馬車の扉がノックされた。
「着きました。こちらがご予約されていたお店でございます」
「うん、ありがとう。ご苦労様。このお金で何か美味しいものでも食べてきて。この馬車はお店の人が管理してくれるから」
「い、いただけません! 旦那様に昼食代を出していただくなど!」
「いいのいいの。いつもなら仕事で移動するからお金を回すという意味でも一般の仕事に就く人よりも給料がいい伯爵家使用人の君たちにもお金を出してもらってるけど、今日は仕事は午前で終わっているんだ。本来なら仕事での僕付の使用人は早上がりでよかったんだ。そこを引き留めて仕事をさせてしまっているんだからこのくらい当然だよ」
「は、はあ。では、お言葉に甘えて、ありがたく頂戴いたします」
「うん。いっぱい食べておいで」
そういうと使用人は少しうれしそうに足早に飲食街の方に駆けていった。
「よし、じゃあ、二人とも。入ろうか」
「はい!」
「ええ!」
そうしてお店に入り、名前を言うとすぐにオーナーがすっ飛んできた。いやそんな飛ぶ勢いで来なくてもよかったんだよ?
「ようこそおいでくださいました! 我が料理店、金の食卓へようこそ! ささ、特等席へご案内いたします」
「ありがとう」
そういって僕らはオーナーについていった。だが他のお客さんはまさかいちお客を相手にするだけにオーナーが出てきたことに驚いているんだろう。
僕らを興味深そうな視線で見つめたが、何人かは僕の家の家紋を見て顔を青ざめさせ、こちらをじっと見ている人たちを肘で小突いた。
「な、なんだよ! 店長が出てくるぐらいなんだから大物だろうって思ったら子供だったってのが興味深かっただけだろ!」
「それを、やめなさいって言ってんの!」
「なんで?」
「なんでって、貴方知らないの? あの方の羽織ってらっしゃる上着、剣と魔法の杖と竜を象った文様、あれはこのラント領の領主さま、アレン・ベッケラート・ラント伯爵様の家紋よ!」
「なッ!? 伯爵様! あの子供が!?」
「シィー---ッ」
「あっ」
男はそういって口を押えた。伯爵家当主を子供呼ばわり。立派に侮辱罪が適用される案件である。
「分かった?」
「じろじろ見るのも失礼だし、もうちょっと考えて発言しなさい」
「あ、ああ。ワリぃ」
とまあ、そんなやり取りがあったようだけど、どうでもいいので案内についていく。
すると、山々が見え、広大な森が見える部屋に連れてこられた。
「ここで食事するんだよ」
「わあ、綺麗ですね~!」
「ほんとです~」
「お気に召したかな?」
僕はそろってこの大自然に囲まれた景色を楽しんでいた二人にそう声をかけた。ここは都市部から少し離れていて、山や森に囲まれている。
知る人ぞ知る名店って感じなのだ。山に狩りや採取に向かう平民たちには結構知られてるようだけど。
ただ実際に入店する人はそんなに多くはない。何故なら平民では一回の食事で払うのは少し躊躇われる金額だからだ。
そんなんじゃお客来ないだろう、と思う者も居るだろう。だがそこは問題ない。ある程度の貴族には知られてるし、あくまで一回の食事では出そうと思わないって程度の値段だ。
平民でも入れないことはない。
だが今はそんなことはどうでもいい。問題は二人が気に入ってくれるかだ。
「「はい!!」」
そろって返事をしてきた。本当に仲がいいな、二人とも。
そんな感じでその後に運ばれてきた食事もめいっぱい楽しんだ。
昼食を済ませた後、僕たちは近くの装飾品店に来ていた。
もう凄いよ、さっきから。二人がすごい剣幕で僕に買ってもらう装飾品を選んでいる。
今日は久しぶりのお出かけだからなるべくいろんなものを買ってあげようと思ってるから複数あるなら言ってくれればいいのに。
「二人とも、別に一つに絞る必要はないんだよ?」
「わ、分かっています。何個かかってもいいとさっきアレン様が仰ってくれましたから。でもそれでもある程度の数に絞っておきたいのです」
「そうなの?」
「はい」
「まあ、二人がそれでいいのなら僕は別に構わないけど」
ビアンカも必死なって2つか3つに絞ろうと頑張っている。
そうして1時間ほど選んでいたのだろうか。二人が戻ってきた。
「す、すみません。やっぱり4つになってしまいましたわ」
「私も3っつになってしまいました」
「いいよ。買ってあげるから、一緒に清算口に行こう?」
「はい。でも、あのこの2つはわたくしに出させていただけませんか?」
「私もお願いします」
「あ、うん。二人がそれでいいなら」
それにしても、二人とも同じ種類のものを2つくらい持ってたな。あれでいいのかな? それに心なしか恥ずかしそうだし。
どうしたんだろう。
僕も何個か選んでいたので一緒に清算台に持っていく。
「いらっしゃいませ」
そういって店員さんが次々に清算して言ってくれる。
「お会計は全部で銀貨3枚と大銅貨2枚になります」
高いと思うかもしれないが、このお店は貴族も来るお店だ。むしろ僕たちは倹約しすぎているくらいなのだ。
「はい。これで」
「お買い上げありがとうございました! またお越しくださいませ!」
エレオノーレたちのお会計も済ませたの僕たちはお店を出てさっそく袋に包まれた装飾品を開けた。
「二人は可愛いのを買ったね。でも2つくらいは可愛いというよりはどっちかって言うと綺麗だね」
「ほ、ほんとに!? そう思いますか!?」
「私のもそう思いますか?」
「う、うん。どうしたのさ」
いきなりすごい食いつかれたので疑問に思い、尋ねてみると、
「あ、あのアレン様。これ、いつもわたくしたちに優しくしてくれて、幸せにしてくれているのでその、お礼です! それからわたくしのとお揃いです!」
エレオノーレがいきなりそんなことを言い出した。え? 何、可愛い。この女の子ものすごく可愛い。抱きしめたい。
今は往来のど真ん中なのでだめだけど。
そんなことを思っているとビアンカが、
「私からも貴方に贈り物です! こちらもお揃いですよ!」
え、マジ? めちゃくちゃ嬉しんですけど! なにこの可愛い贈り物は! というか忘れてた!
「二人とも、すごく嬉しいよ。ありがとう。大切にするね」
僕がそういうと、二人はすごくうれしそうにしていた。なるほど、そういうことか。それで自分が払いたいと。
やっぱ好きだわ。大好きだわ、彼女たちのこと。これからも大事にしていこう。
「あ、そうだ。僕からもこれ、二人にね」
「わあ、綺麗な流線形ですわ」
「本当です。薄い青色、惹き込まれる色です」
「気に入ってもらえたかな?」
「はい! 凄く」
「もちろんです!」
そういって二人は喜んでくれた。よかった~。取り敢えず今回のデートは成功かな?
また機会があれば二人と出かけたいなあ。




