5年後……
僕が王家直属近衛師団副団長に任命されてから早5年がたった。
僕は14歳となり、あと一年で成人しこの世界では相続権も持ち、貴族ならお家の爵位継承、そしてお酒なども飲める年になる。今はまだ無理だが、あと一年でそれらができる年になる。
身長も170センチほどになり、順調に成長している。ツェーザルも相変わらずで172センチほどだ。
最近は特に成長の激しい時期なのでみんなそういう話題になるのだ。グスタフは168センチほど。カールはちゃんと伸びているのだが少し小柄で159センチほど。ダミアンは最近急激に伸び始めて163センチほどになっている。ただカールは小柄のわりに結構食べるのですぐダミアンにも追いつくと思う。
これは魔力が関係していると最近では言われている。放出系の魔法に才があると使う魔法も増えるので自然と体のエネルギーもたくさん消費することになる。結果的に体格に見合わぬ食事量になったりするという訳だ。
女の子連中も順調だ。エレオノーレは165センチほど。ビアンカは163センチ、ベティーナは少し小さめで160センチほど。
やっぱり女の子は男の子よりも成長が早いようだ。体つきも成長するところは成長して女性らしくなってきている。
最近僕も妻たちを意識しすぎてしまってどうしても感情の高ぶりが抑えられないときがあり、そういう時は夜にこっそり寝室を抜け出してリビングで一人で眠ることもある。
最近ではもうお互いに体も大きくなってきているので、夫婦で話し合って真剣に子供について考えてもいいかもしれないとか思ったりもしている。
この世界では成人前後のある程度体が大きくなってきている時期なら子供のことを視野に入れるのも珍しくはない。(貴族は結婚していること前提。平民はそうでもないらしいが)
特に貴族はお家の存続が最優先事項。子供を作るのは半ば義務みたいなものだ。なのである程度お互いの体が性に目覚め始めてしっかりしてきているなら行為に及ぶ家庭も少なくはない。
まあ、その辺はおいおい考えよう。
最近は天使と悪魔の活動が比較的穏やかになってきたのだ。僕が副団長就任当時はあの隣国での戦闘に気づいた他の天使たちが攻めてきたりしたのだけど、今ではおとなしくなってきている。
もしかしたらむやみに攻めても討伐されるだけだと気付いたのかもしれない。
でも油断はできない。こういうのは何もないときが一番怖いんだ。
今は食堂で妻たちと三人で朝食を楽しんでいる。
「今日は領地内でのお仕事ですか?」
エレオノーレがそう切り出した。
「うん。今日は特に王都に急ぎで転移したりといった用事はないよ。ずっと領内で仕事だよ」
「そうなんですね! じゃあ、今日は時間があればどこかにお出かけできたりしますか!?」
ビアンカがそう尋ねてきた。これも仕方ない。結局のところ師団も研究所も本部はすべて王都なので、転移であちらに向かうことの方が多いのだ。
陛下からは式典に出たりするときや、急ぎの仕事でない場合は馬車で来てほしいが、それ以外は転移で構わないと言われている。
なので必要な時はほとんど王都に行っている。それが理由で基本的に一日執務室にこもって領内から出ない日はあまりない。
なので今日はかなり特別な日とも言える。
「そうだね。昨日の時点で今日やらないといけないであろう仕事は大体終わらせてあるから、午前中はさっさとその仕事を片付けて、お昼から昼食も合わせて一緒に出掛ける?」
僕がそう言うとエレオノーレとビアンカの顔がみるみるうち笑顔になっていき、
「はい!」
「ぜひ! それじゃあ、どこか美味しいお店でお食事でもどうですか?」
さっそくデートの話である。ほんと、女の子はお出かけの話になると元気と体力が無尽蔵になるからなあ。
まあ、そんな様子も可愛らしいから見ていて幸せなんだけどね。
「そうだね、この町で一番のお店を予約しておこうか。この間僕の派閥に所属しているアルフォンス・バルシュミーデ男爵と仕事の話で食事をした場所があるんだ。そこがとてもおいしくて、しかもこの土地の名物である、山々に囲まれた自然が見える場所なんだ。とても綺麗だったよ」
僕がそういって提案すると妻たちは目をキラキラさせながらうんうんと頷いていた。
「じゃあ、決まりだね。昼食はそこにしよう。夕食は別のところを予約しておくよ。昼間は久々にいろんなところに出かけようか」
「ええ! とっても楽しみですわ!」
「私も! 装飾品のお店などにも寄っても?」
「もちろん。二人にはいつも助けられてばかりだから好きなものを選ぶといいよ」
「本当ですか!?」
「うん。今日は久しぶりのお出かけなんだ。金額なんて気にしなくていいから。装飾品でも何でも言ってね」
「ありがとうございます!」
「貴方も行きたいところがあればぜひ仰ってくださいね! どこでもお供しますから!」
「うん、ありがとう」
二人と大まかなこの後の予定を話し合った後、すぐに執務室に向かって仕事を始めた。
僕の副団長就任、あれから5年、いろんなことが起こった。
あの後すぐに王都の近くで上天? だったっけ? まあとにかく上位悪魔と互角にやりあえるほどの天使が侵攻してきたんだけど、それを父上が聖杖を装備してなかなかの激戦の末排除に成功した。
その功績を讃えられ、そして今までのベッケラート男爵家としての貢献も踏まえ、父上には金剛一等勲章一つ、そして金剛三等勲章二つが授与された。
それを機に父上の家はついに陞爵された。子爵家になったのだ。本当は侯爵家くらいになってもという話が出たらしいんだけど、やはり少しずつということで決定が下されたらしい。
ついに我が家の爵位止まりの呪縛がなくなったのだ。それを諸手を振って喜んでいたら、これには僕も深く関係してると言われた。
意味がわからず当時説明してくれたベッカー侯爵に尋ねたら、僕の家が強大になりすぎて楯突くものがいなくなった。そしてそのラント伯爵は元々はベッケラート家の出だ。
よってベッケラート家にもよほどの愚か者でない限り手を出すものはいなくなったということで陞爵の話が出てきたらしい。
それ以外にも陞爵されたもの達がいる。まず第一にダミアン。彼はもともと平民だったので陞爵されるというよりは叙爵されたと言ったほうが正しい。
ぽつぽつと小なり中なりの天使を討伐しただけと本人は言っているが、一般の人間からすれば腰を抜かしそうなほど驚きの功績の連続だ。
そして今までの学園での生活ぶりや対抗戦での功績、そして隣国へ赴いたときの功績などを鑑みて、陛下から準男爵の位と金剛二等勲章二つ、白金二等勲章一つが授与された。
勲章に関してだがれっきとした基準は僕ら貴族にも知らされていない。決めるのは王家だ。
なんかそういうのカッコいいし特別な感じするよね? おっといけないいけない。話がそれた。
ようは何が言いたいかというと、本人は謙遜しているが、勲章は王家が決める権限を持っている。つまりは金剛二等や白金二等を与えるにふさわしい貴族だと、ダミアンは王家に認められたというわけだ。
これでダミアン一家は正式に上流階級の仲間入りだ。今回の叙爵で受け取った報酬金も金剛貨3枚、
白金貨10枚、金貨14枚と大金だ。
ぶっちゃけると元平民のダミアン一家の生活スタイルなら豪遊しまくっても一生そのお金で暮らせるほどの金額だ。
まあ、これをどう使うかは本人たちが決めることだ。
お次はツェーザル、彼はお家の継承があるので叙爵を断っていた。代わりに金剛二等勲章を一つ、金剛三等勲章を二つ。
そして金剛貨4枚、白金貨12枚、金貨13枚だ。
あとはグスタフくらいにしておこう。他のみんなもいろいろあるんだけど、挙げだしたらきりがないからね。
エレオノーレやビアンカにも勲章に関しては授与されてるわけだから。
そういうわけでグスタフさんに関してですがね、ヤバいよ本当に。
まず彼は公爵家としての籍は残すと言っていた。叙爵されてしまえば間違いなく今よりも地位が下がるから。だがその後の政務方針は完全に父親の真反対を行くと言っていた。
これに逆らう者がいれば公爵家の人間に要らないので全員排除するとまで言っていた。
そしてこの発言力を増すためにそういった事態が起きた際には僕の口添えも欲しいと言っていた。
伯爵である僕もグスタフの方針に賛成であると言葉と態度で示せば隠居して何も権限のない父親と母親へのけん制には十分な効果を見込めると(もちろん僕との秘密の会話にとどめてある)。
そして隣国に住み着いてしまった天使からの度重なる侵略行為にも大活躍を見せたため、勲章に関してもすごいことになっている。
あれからさらに力を増したグスタフは上天3体、中天4体、下天6体の討伐に成功し、金剛一等勲章二つ、金剛二等勲章一つ、白金一等勲章二つを授与された。
そしてその功績が認められ、第一王女との婚約が決定した。これで益々将来のグスタフに物を申せる貴族や使用人、家族はいなくなったな。
これは現ベーレンドルフ公爵も驚くだろうな。彼は僕と仲良くしているグスタフを見ても、所詮は子供が仲良くしているだけで大人の貴族の腹の探り合いは無理だろうと踏んでいるらしい。
なのでグスタフが僕と仲良くしていても全く気にも留めていないようだ。
これで益々僕らの世代は安泰だろうと思える。あとは邪魔な不穏分子をこの世から消すだけだ。
仮に無理でも封印という手札もある。こうやって地道にコツコツ討伐しているのはもう封印などという先が不安な方法ではなく、根幹から彼らを根絶やしにしようという方針だからだ。
これからもやるべきことは多い。だがそんな忙しい日々にも安息は必要だ。というわけで今日はしっかりと可愛い妻達と三人でキャッキャ、ウフフとしてきましょうかね。
そう考えるとがぜん仕事のやる気が出てきた。よーし、あと一時間で終わらせるぞ!
ようやく主人公たちが大人になってきましたね(笑)。




