名銃誕生!
師団用魔法具の開発を依頼されてから早二か月。影の月も過ぎ、森の月に入ったころ。
依頼されていた魔法具の開発の方はというと、実はあまりうまくいっていない。
王宮にも初めからかなり時間がかかるかもしれないって伝えたんだけど、そしたらせかされるどころか『時間を存分に使え、今のあの銃の魔法具だけでもかなり助かっている。開発を依頼したのはあくまで性能のいい魔法具がより多くあった方が助かるからという理由だから』と言ってもらえた。
せかされないならまだいいかと思い、さっそく開発に取り掛かったんだけど、これがかなり難しい。
付与自体は僕の専門分野でもあるのですぐにできる。問題は銃本体の構造設計だ。ある程度知識をかじっていたので、発射できるものを開発するのは落ち着いてやればできると思う。簡単ではないけどね。
ただ問題なのは作りたいと思う銃の種類によっていろいろ構造も変わってくるだろうから前世のどの銃を参考にしようか迷っているところだ。
やはり今はまだ銃を作ることになれていない職人の方が圧倒的に多いから旧型のものにした方がいいよね?
ということでいくらか試したんだけど、一つに的を絞るのに苦労する。
もうこうなったら、
「好きな種類で、そして旧型で、見た目も特徴的でとっかかりやすそうな銃、例えばワルサーP38とかコルトガバメント、そういった銃を参考にしたらとっかかりやすいかも! でもP38は少し複雑な構造とも言われてるしやっぱりベースはシンプル、頑丈、バカみたいな火力のコルトガバメントにしようかな」
やっぱりはじめは旧型からはいる方がいいだろう。急に発展しすぎてもこの世界が追い付けないというのもあるけど、何より僕自身銃の開発を専門にやってたわけではない。
ただ興味があって調べて人より知識があるだけ。そん中でワルサーP38は特に好きな銃だ。一般的にはルパン三世で知られてるのかもしれないけど、僕はそういう理由で好きになったわけではない。
単純にカッコいいから! バレルが飛び出して特徴的なデザインなのがいいよね。そして右側じゃなく、左側に俳莢するってのもかなり特徴的だ。
まあ、とにかく現代地球の高度な技術を用いた銃なんかは流石に作れないから、今は単純な構造が多い昔の銃をベースにしよう。
いつかこうやって銃の開発をしているうちに自分も高度なものを作れるようになるかもしれないしね。
そうしてその後も自宅の研究室にこもり続けた。まだ完成しないかもしれないけど、またアイディアを思いついたので頑張ってみる。
数週間後、ついに完成した。
見た目はすごくワルサーP38に近いんだけど内部構造はガバメントのように頑丈でシンプル。ただ助かったのは、ある程度魔法のごり押しに頼れたこと。
前世のようにすべてを機械仕掛けで動かすわけではないので、所々妥協してもしっかりと動作する銃が完成した。
付与って偉大だね。こういう風に動けって付与するだけで、前世ならいろいろなバネやねじが組み合わないと動かないところを、魔力で勝手に動かしてくれる。
これは非常に助かる。
もっと専門知識がいるのかとも思ったけど、割かしこっちの技術の応用で何とかなった。
最初にあんだけびくびくしながらやってたのがバカみたいだ。
実は最近陛下のお誕生日が近づいているんだ。一週間後だ。これから王都に向かう予定だ。
なのでその際にお誕生日プレゼントとして、サプライズとして渡せたらいいなと思っている。
本来なら別のものにしたんだけど、なぜか陛下はあのリボルバーがたいそう気に入ったらしく、毎日訓練場で射撃をしているらしいのだ。
毎日、これのおかげで我が師団はいままでよりもなお強くなれたと同じ話を繰り返しているらしい。
嬉しい限りだ。
なので、今回の銃にも一番期待してくれているのは陛下なのだ。そういうわけでプレゼントとして、そして報告もかねてその場で渡すのがいいだろう。
というわけで、
「やった! やったぞ! 試作品が完成した! でも最近エレオノーレたちとゆっくりもできていなかったし、少し休憩にしようかな」
そう思って研究室から出ると、ぷっくりと頬を膨らませた可愛い少女が二名、仁王立ちしております。
「何か言い残すことはあります? 貴方?」
「言い訳なら聞いて差し上げます」
とか言い出した。あ~やばいわこれ、本気で怒ってる奴だわ。
というか何? いきなり言い残すことは? って、悪役に殺されかけてる物語の主人公じゃあるまいし。
いきなり殺されそうでびっくりしたわ!
「ごめんよ。今回は師団の重要な開発で個人で好き勝手に時間をかけていい物じゃなかったから、急がないといけなかったんだ。ただでさえ二か月も待たせてるんだからね」
「わかっておりますわ。アレン様がとっても大事なお仕事をされてるってことは。でも少しだけでもいいので構ってほしかっただけですわ!」
「そうです、貴方にはこうして豊かな生活を与えてもらってますし、感謝もしています。それに開発が少し時間がかかっていたことも承知しております。でも、だからこそ、私たちで貴方の疲れなどをいやすことが少しでも出来たらと思っていたのです」
そういうことだったのか、最近は一緒に寝室で寝ることも少なくなっていたから申し訳ないことをしたな。
まあ、確かにいくら仕事が忙しいとはいえ、妻たちをないがしろにしすぎたな。反省だ。
「そうだね。じゃあ、今日は大好きな妻たちにいっぱい癒し貰おうかな?」
僕がそういうと、二人は少し恥ずかしそうに頷いた。
勿論、癒してもらうと言っても大人の営みを意味しているわけじゃない。僕たちにはまだ早いからね。
もしそうしたいと願うなら、自分で避妊具の開発をするのもありかもしれない。
一般の道具としては難しくとも、魔法具としてならなんとかなるかも。
これも検討してみるか。いまだこの世界には避妊具がない。なのでそういった意味でも避妊具の完成は喜ばれるだろう。
望まぬ妊娠の数を減らすことができる。
ただまあ、いくら夫婦とはいえ、そして避妊具を開発できたとして、それでもなお僕らはまだ年齢が一桁台だ。
そんな危なっかしい年齢で彼女たちを危険にさらすような行為はできないからね。
あくまで甘えたりする程度の範囲で抑えておくべきだ。
そうしてしばらく彼女たちとイチャラブした後、すぐに王都に向けて出発の準備をした。
別にそんなに急いで出発しなくても、僕なら転移魔法が使えるからすぐに到着できるんだけどね。それにエレオノーレたちも僕に体が接触していれば転移できる。
だけど、僕らは貴族家だ。故に経済を回す役目がある。
その最も手っ取り早い方法として、自分たちがお金を行く場所行く場所で使うことだ。
これが一番確実で手っ取り早い。なので馬車で出向く必要がある。転移してしまうと途中で中継地点としてよるはずの町や村をすっ飛ばしてしまうから。
「よし、準備完了っと。あと一週間は自分の仕事をして待つだけだ。あ、でも明日はちょうど魔法具学応用上級の授業の日か。ははは、忙しい毎日だね」
そして待ちに待った一週間後、ついに陛下のお誕生日だ。この日は盛大にパーティーが開かれる。
当然名門貴族家に大豪商の家や、この世界にも演劇などがあるのでその世界での大物などなど、名だたる重要人物が集まる日だ。
粗相のないように気を付けないとね。
そんなことを考えていると、エレオノーレが手を握ってきた。心なしか震えている気がする。
「エレオノーレ? 大丈夫?」
「だ、大丈夫です。少し緊張しているだけなので」
ああ、そうか普段から大物貴族に囲まれている僕や元王族であるビアンカはともかく、エレオノーレは本当の意味で下位貴族だったんだ。
今となっては子爵夫人だ。それなりの人物との付き合いがあるけど、それでも普段から伯爵や侯爵以上の大物貴族や王族に直接商品を卸しているような大豪商とはまだ経験が浅いので付き合いがないのだ。
今はさっきも言ったように子爵夫人、なので場合によってはそういった人たちと付き合いがあるかもしれない。
だがやはりまだ夫人になってから日が浅いのでそれほどの大物たちと接してこなかったのだ。緊張して当然だ。
するとビアンカが、
「大丈夫です、エレオノーレ。私がついてます。何か分からないことなどがあれば私に聞いてくださいな」
「ビアンカ……ありがとう」
やっぱりビアンカは王家の血を引いてるよな~。こういう時の頼れる感じが半端じゃない。
「それじゃあ、ビアンカ、もし僕がほかの貴族やその他参列者たちと話をしていたりする時はエレオノーレのこと頼めるかな?」
「もちろんです! 貴方はどんと構えて、陛下にその素晴らしい発明を披露なさって?」
「本当にありがとう。君がいてくれて僕もエレオノーレも本当に助けられてる。ありがとう」
「いいんです」
初めて会ったころはおろおろしている感じで頼りなさそうだったけど、それは後で話を聞いたら、昔から僕のことが気になっていたみたいで、それで夫婦になれると聞いて緊張していたらしい。
ほんと可愛らしいよね。
でも今は頼れる妻の一人だ。彼女の存在は本当にありがたい。
というわけで僕も頑張ってきますかね。偉い人とのあいさつ回りが終われば後は陛下やその他仲のいい貴族の方たちとゆっくり食事を楽しむだけだ。
そうこうしていると、陛下や大貴族たちが入場してきた。
「皆の者、今日はよく集まってくれた。感謝するぞ。今宵は祝いの夜だ、飲んで、食べてゆっくりと楽しんでくれ」
パチパチパチ!!
陛下が宣言した後、宴は始まりを迎えるのであった。
陛下へのお披露目、どうなるのでしょう




