待望の結婚式!
僕は今日純白のテレストールに身を包みとある大聖堂の大廊下を歩いている。
ついに、ついにこの日が来たんだ。
「この大聖堂を予約するのは本来苦労するはずだったんだけど、なぜか僕が予約に行ったときはすんなりと対応してもらえたな。多分王族がかかわる婚約っていうのが大きな理由なんだろうけど」
ここはアンドレアス王国で最大にしてもっとも有名でそして宗教としての影響力も最大級の大聖堂だ。名前は”アンドレアス大聖堂”。
この世界にもちゃんと宗教は存在する。そしてその中で一番有力な宗教はこの国の国教とされている、”英霊教”だ。
名前の由来は凄くシンプルで、かつてこの国を建国したのは武に秀でていた人物で、この地に住んでいた強大な魔物を討伐して国を作ったと言われている。
仲間たちと協力しながら町を作るところから始め、それがいつしか街と呼べる規模になり、都市と呼べる規模になり、大都市と呼べる規模になり、小国と呼べる規模になり、そこからどんどんと発展し、今の大国のレベルにまで到達したと言われている。
そしてそんなすごい偉業を成し遂げた人物を英霊としてたたえ続けた影響から、前世の宗教のほとんどの信仰の対象であった神を信じるというよりは自分たちの信じたいもの、つまりは身近に自分たちを実際に守ってくれる者を信仰するという形で宗教が定着したのだ。
その宗教の先駆者が初代国王ということだ。そして英雄を信仰するということはその時代その時代に生きている英雄と呼ぶに値する人物も信仰の対象になるらしい。
この世界の宗教は特殊なのだ。
そんなわけで国教が初代国王とそのほかの英霊たちを信仰する英霊教であるのだが、なぜその中でもアンドレアス大聖堂が最大の影響力を誇るのかというと、初代国王が息を引き取ったのがまさに今のアンドレアス大聖堂がある場所だったからだ。
もともとは一般の建物だったのだが、そんな質素な場所で英霊を眠らせるのはまずいということでこの場所を大聖堂に作り替えたのだ。
だがここで疑問を抱く人もいるだろう。亡くなった英雄を祭る大聖堂でめでたい行事を執り行うのか? と。
そしてその疑問は至極当然で正しいものだ。普通はそんなことはしない。別にこの世界の人もそこまで無神経なことをしているわけではない。
なんせ初代国王だけでなく、他にも偉大な英霊たちがこの国の未来をしょって危機に立ち向かってくれたのだ。
そんなことをしてしまってはあまりにも失礼千万。そういうわけで、英霊のご遺体自体は別の場所で大切に保護、保存されている。
そう、保存だ。この世界には結界魔法がある。そして結界魔法は種類によっては内部で時間が経過しないものがある。
その時間が経過しない結界魔法を英霊のご遺体には施されている。
それ以外の貴族や平民に関してはその時間関連の結界が使える人物がそばにいる家はご遺体に保護を施すみたいだが、当然みんながみんな結界を使えるわけではない。
なのでご遺体を保護できない家は火葬するか、土葬するか、もしくはそこそこのお金を払って結界魔法が使える魔法師に頼むかのどれかだ。
大体は大金を用意できなくて火葬か土葬になるらしい。
話がそれたが、要は英霊のご遺体は別の場所に保護されているので、アンドレアス大聖堂で式を挙げること自体は不謹慎ではないということだ。
そんなわけで僕も結婚式はこの素晴らしい大聖堂で挙げたいと思ったのだ。
「お、見えてきた。あそこの部屋だな」
僕はとある部屋が見えてきたので、その部屋の前で止まってノックする。
コンコンッ
「おお、来たか。ささ、入れ入れ」
陛下だ。いつになくノリノリだな。そして部屋の中には格家族全員がそろっている。
王家、ベッケラート家、ブラームス家。これだけそろうと壮観だな。
「ついにこの日が来たな、アレン」
「はい、父上!」
父上が優しい顔で頭をなでながらそういってきたので。僕は元気よく返事をした。
「アレン君、君なら私の娘を幸せにしてくれるだろうと思っていたが、まさかここまですごい男になるとは。むしろ私の娘を選んでくれてありがとう」
「い、いえ! 私こそエレオノーレさんにはものすごく助けられています。辛い時でも彼女と一緒に過ごしているととても癒されて疲れも吹き飛びます。私こそエレオノーレさんとブラームス家の皆さんには感謝しかございません」
「そういってもらえると嬉しいよ」
そして次は……
「アレンよ、ようやくこの日が来たな」
「ええ、陛下。改めてお礼申し上げます。ビアンカ王女との結婚をお認め下さり、誠にありがとうございます」
「よいよい。おぬしなら娘を幸せにしてくれる、そう確信しておる。それにのう、おぬしはこれからもより多くの功績を挙げ、大成していくことになろう。それだけの器を持っておる。そして余の娘と結婚する。よってすでに下地は出来ておるので、将来今よりも成功していけばいずれは大公の位にも上がれるかもしれん。ただそうなると異例の陞爵となるので、色々と手続きがあるがな」
ありがたいお言葉だ。そして陛下の仰る通りだ。僕は王族と結婚したことになる。だが血は繋がっていないので、法律を見直すことが必要なのかもしれない。物凄い話だな。
ただまあ、それはまだ先の話だろうし、そもそも慣れるかどうかもまだわからない。焦りは禁物だ。
こういうのはほかの貴族からの反感や批判を抑えるため、謁見の場で正式に手順を踏んで下賜する際にしか明言してはならないのだ。
僕だけをひいきしている、とか言われだしたら面倒だからね。
「陛下のご期待にお応えできるよう精進いたします」
「うむ、期待しておるぞ。それではアレン、親族との軽い挨拶ということだったが、それも無事終えたのだ。この後は手順通りしっかりやるのだぞ」
「御意」
そうして式の前の親族と親族になるであろう皆さんとのあいさつを終え、僕は大広間の扉の前に立っていた。
この後の手順としてはこんな感じ、
1.大広間に入り、一番奥にある祭壇のような場所に行く。
2.そこで英霊教に対しての敬意、そして英霊の方々に直接敬意を示す儀式を行う。
3.花嫁が保護者とともに広場内へ入場。
4.誓いの儀を執り行い、口づけを交わす。
5.その後は自分自身が花嫁をエスコートし、広場外へ退出
6.儀式終了
そのあとは王城の食事会に招待される手はずとなっている。そして今回は王族の結婚式というめでたい行事の祝いの席、余って侯爵以上の大貴族も当たり前のように大勢呼ばれる。
いろいろと忙しい一日になりそうだ。
そんなことを考えていると、
「婿殿、ご入場です!」
そういわれ、扉が開き、中から盛大な拍手が聞こえてくる。笑顔で拍手してくれている貴族の方もいる。彼らは多分僕のことを支持してくれている派閥の人たちだろう。
ありがたいことだ。
そしてついに、
「花嫁方、ご入場!」
さっきよりも盛大な拍手とともに、純白の美しいドレスに身を包んだエレオノーレとビアンカが入場してきた。
本当に綺麗だ。陛下、ブラームス卿二人に連れられ、花嫁たちが祭壇に到着した。
「それではこれより、アレン・ベッケラート子爵、エレオノーレ・ブラームス嬢、そしてビアンカ・アンドレアス第二王女の婚姻の儀を執り行います! 皆さまここからは静粛にお願い申し上げます!」
大司教の方が式を進めてくれるようだ。これも普通ならあり得ない。いち子爵といち貴族令嬢の婚姻の儀に大司教が出てくることなどあり得ない。
普通は良くても司教どまりだ。この世界の宗教にも階級が存在し、上から教皇・枢機卿・大司教・司教・司祭・助祭・修道士だ。
そんな中、上から三番目のトップクラスの聖職者が進行役を務めてくれるなんてめったにない。
おそらく今回の式は王族がかかわってるのが大きいだろう。
その後は何事もなく式が進み、そして遂に口づけの時がやってきた。
「エレオノーレ嬢、ビアンカ王女、僕は未来永劫この命尽き果てるまで、あなた方を守り抜くと誓います」
「アレン様、わたくしもあなた様と生涯を共にする覚悟です。永遠の愛をあなた様に」
「ベッケラート卿、私はあなた様の妻となることができて心から幸せです。今後永遠にあなた様の隣でお支えし続けるとお約束いたします」
お互いに愛を誓い合った。すると大司教殿が、
「では、誓いの口づけを」
そう促されたので、
「愛しています」
「わたくしも愛しております」
「私も、あなた様を愛しています」
ようやく一通りの儀式が終わった。あとは大司教の指示に従って手順をこなしていくだけだ。
「では、これにて婚姻の儀を終了といたします! 婿殿と花嫁方は退出をお願いします。御足もとにお気を付けください」
「はい。ありがとうございました」
そうして僕たちはゆっくりと広場を後にした。
こうして無事に結婚式を終了することができた。今後また忙しくなっていくだろうからいつできるかわからなかったから、早めに執り行いたいと思ってたんだよね。
本当に良かった。これで明日から僕らは晴れて夫婦だ。誓いでも言ったように、今後しっかりと彼女たちを守り続けよう。
それが僕の世界を救う以外の中で、最も重要な為すべきことなのだから。
本日もありがとうございました!




