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災厄の正体!

 そこは現世から閉ざされた空間である。ただ外の世界の様子を確認することはできる。

 その場所の名は、『冥界(めいかい)』である。 常に嵐が吹き荒れ、地面は灼熱で真っ赤に染まり、上空は常に氷点下。そして自分を見ろとばかりに降り注ぐ雷の雨あられ。そこはもはや普通の生物には生存権すら与えられない空間である。 そこにとある種族が住んでいた。それは……悪魔。

 もちろんほかにもこの空間に適応し、住み着いている種族はいる。ただ彼らは口をそろえてこう言う。

 『悪魔には手を出すな。奴らは生まれながらにして別次元だ……。身の程をわきまえないと、早死にするぞ』と……。


 今日も今日とて悪魔は静かに暮らしている。


「暇だな。なんて退屈なんだここは~。人間や竜どもはいいよな~外の世界で楽しそうに好き放題やりやがって……。ほーんと、殺したくなるぜ!」

「ははは。気持ちはわかるが同胞よ、脆弱(ぜいじゃく)な人間はともかく竜まで殺したいは欲をかきすぎだと思うが?」

「はー? なに言ってんのさ、兄弟! 上位竜4、5体ぐらいからならともかく、俺たち下位悪魔と呼ばれる者たちでさえ、上位竜1体か2体くらいなら秒殺だぜ? まあさすがの俺も相手は選ぶさ」

「わかってるならいい。我らは生まれながらにして強大な種族であるが、もちろん上には上がいるからな。超位竜などに出てこられれば、歯が立たん。悔しいがな……」

「確かにな。それに俺が言ってる上位竜ってのもせいぜい数十年生きてる程度の雑魚どもだ。数百年くらい生きてる奴なら、負けはしなくても腕の一本や二本は確実に飛ばされるな」


 悪魔は超再生能力を持つとはいえ、腕そのものを吹き飛ばされたりして戦闘力が全く落ちないなんてことはあり得ない。腕の修復にも時間がかかる。


「まあ、今はできねー楽しみを語ってたって仕方ねえ。それよりあの羽虫どもの調子はどうなんだよ? 『天界(てんかい)』で何か動きあったか?」

「いや、表立った動きはない。ただ我ら悪魔が次々と眠りから覚めておるのだ。向こうもそれなりに力を取り戻しているといってもいいはずだ」

「だよな~。あいつら面倒なんだよな~。『正義の名のもとに!』 とかわけわかんねえガキっぽい正義感で特に何にもしてねえ俺らを目の敵にしてきやがる。あいつら正義って言葉の意味わかってんのか?」

「そうだな。それはわれも思う。それでいつも分かり合えなくて、数千年おきに戦争になるのだからな」


 そう。悪魔と天使は超が付くほど犬猿(けんえん)の仲なのだ。どちらかといえば攻撃的なのは天使である。悪魔は基本行動目的を持たない。ただ定期的に来る破壊衝動や誘惑衝動を他の生物、またはその辺のものの破壊で発散しているだけだ。誘惑はまだしも破壊衝動に関しては本当に適当に発散しているだけで、悪意を持っているわけではない。ただそれでも天使からすれば極悪な行動に映るので排除に動くといった感じだ。まあもちろん。悪意を持つものもいるが、割と少数派だ。


「というかあいつら全然学習しねえよな。いつも喧嘩売ってきてはヴォルドール様やほかの七つの大罪の方々にボコボコにされてんのに」


「ふん。それは仕方のないことだ。奴らの最高幹部、七大天使は天界でふんぞり返って下っ端の働きを鑑賞していることが多いからな」

「え?」

「ん?」


 そこに、この場にはいるはずのない者の、そう、重低音で聞くものの肝を一瞬で縮み上げるような恐ろしい声が聞こえてきた。


「!? ゼローグ様!? 何故ここに?」

「も、申し訳ございません! あなた様の気配に気づくことができないなど、一生の恥でございます!」

「そう慌てずとも良い。本当にたまたまこの付近で復活したのだ、封印のせいで力も弱まっておる。そのうえ、我はほかのやつらのように油断はしない主義でな。気配は常に消して居る。貴様らのせいではない。ただこの程度の気配も感知できぬようでは上位悪魔への進化などまだまだ先になるぞ? 精進せい」

「左様でございましたか。おっしゃる通りにございます。私もこれからはより一層、鍛錬に励む所存です」

「私めも、このものと同意見であります」

「うむ。精進することだ。上位種族への進化は我ら悪魔やあの忌々しい天使どもの特権だからな。竜どもに関しては、進化はできん代わりに、その属性の種族特有の不思議な力がある。それで進化制限への不利点を補って居る。だがせっかく進化できる可能性がある以上、それを目指さぬ手はあるまい?」


 上位種族への進化は暴食のゼローグが言ったように悪魔と天使だけの特権だ。だからこそみなその高みを目指す。それ故に彼らもまだまだ先を目指さねばならない。

 人間と竜に関しては進化などというものはない。ただ竜はその種族特有の力と魔法と果てしなく長い寿命による経験による成長で補う。なら人間はというと? 彼らのような優等種族と戦える力、それが竜魔導師になることである。それ以外にはない。


「とにかく、お前たち、天使どもの動きだけでなく外界の種族にも注意しておけ、我らはまたあの羽虫どもと戦うことになろう、その時竜や人間に邪魔されないとも限らん」

「し、しかしゼローグ様。竜はともかく人間までも警戒する必要が? 我ら悪魔が魔力を解き放っただけで吹き飛ぶような脆弱な生き物ですよ?」

「貴様は最近の若者であまり見かけたことがないのか。教えておこう、人間にも我ら悪魔や天使、竜どもと戦えるような化け物がたまにいるのだ」

「な!? そんな馬鹿な! あり得ません!」

「事実だ。実際我も前回の天使どもとの抗争の途中でその人間らに邪魔をされた。この我がだ!」


 その時ゼローグの周りに、彼が封印で弱っているなどとは考えられないほどの魔闘覇(まとうは)が猛威をまき散らした。下位悪魔たちはビビりすぎて声も出ない。


「しかも我らを封印し、決着の邪魔をしたのもその人間らだ。スキを突かれたのだ! いくらその人間どもが強いとはいえ、全盛期の我らとまともにぶつかればただではすまんからな」

「まさか!? ゼローグ様方を封印したのも人間……? は?」

「我もまだ信じられません」

「気持ちはわかる。我ら最強悪魔が人間に敗れたなど、我らの証言なしにはほかの悪魔に言っても、鼻で笑われてしまいだろ。とにかくだ。油断は許さん! 羽虫どもだけではなく、竜や人間も敵と思え!」

「「はは!! 御心のままに!!」」




 ここははるか裂空のそのまた上空。 現代日本の戦闘機や、飛行機でも墜落の危険性があるほどの高さ。そこに背中から美しい純白の翼を生やし、優雅にくつろぐ者たちが……


「それで? あの汚らわしいゴミムシどもの動きは? 何かつかめたかしら?」

「は! セレーヌ様、まだ明確な行動に出てはいないものと思われます」

「そうなの? つまらないわね……。汚らわしいけど、わたくしたち天使に対抗できるだけの力があるのも彼らや、そうね。竜たちくらいかしら? ああ、そうそうなんか人間にも私が腰を抜かしそうになるような者たちも数名いたわね」

「な!? そんな! お戯れはほどほどにしてくださいませ! 最強天使であらせられるあなた方七大天使にかなう者? そんな強者が人間になどいるはずが……」

「あなた、私の目が節穴だって言いたいの? ん? どうなの?」

「い、いえ、そのようなつもりは……」


 その天使、七大天使、閃光のセレーヌの側付き、アシュリーナ天軍中隊長は自分がさりげなく地雷を踏みぬいたことに今更気づいた。セレーヌの周りに自分では千年修行しても到底追いつけないほどの圧倒的な天聖気(てんせいき)が吹き荒れた。


「も、申し訳ございません! ただ、七大天使様にあこがれて天軍に入隊希望を出した自分としましてはどうしても納得がいかないのです。セレーヌ様が人間の力に驚くなど……」

「まあ、そうね。確かに普通ならだれも信じないわね。私自身の証言がないと、七大天使絶対主義の天使たちには話そうとしても門前払いされておわりね」

「そうなのです。なので、具体的にどのような者たちだったのか教えていただけないでしょうか?」

「そうね。まず、強かったわ」

「はい」

「そして強かったわ」

「はい……」

「以上よ」

「え!?」


 そ、そんな要領を得ないなんてものじゃない。説明にそもそもなってない!


「あの、ほんとにそれだけですか?」

「何よ? あたしがうそを言ってるっていうの? あなた生意気ね。悪い子にはお仕置きが必要かしら?」

「い、いえ! そういうわけではなく。例えば具体的にはどのような攻撃を使っていたのかとか、そういった意味だったのですが……」

「うーん、それはあんまり覚えてないわ。ただ人間ではありえないような威力の魔法を使っていたのは

覚えているわ。それ以外は気が付いたら、スキを突かれて封印されてたから覚えてないわ」

「つ、つまり……私もいきなり封印されていましたが、まさかその人間どもに封印されたと?」

「おそらくね。それ以外にある? 悪魔は私に気をとられていたのよ?」


 アシュリーナは絶句した。その人間のあまりの強さに。そして人間の狡猾さ、頭の良さをなめていたと改めて認識したのだ。自分なら戦うのに必死で、敵を封印なんて考えるどころか思いつきもしないだろう。


「なんかそのふざけた強さの人間がいきなり複数人一か所に集まったと思ったらいきなり大規模詠唱を始めたのよ。嫌な予感がしてすぐに止めに行こうとしたら、あんのゼローグとかいう、うざいくらい油断も隙もなく強いやつに邪魔されたのよ! あいつなら気づいてもおかしくないと思ったのだけれど……」

「おそらく目の前に倒せば戦局を覆せるほどの大物がいたのでそちらに気をとられすぎていたのでしょうね」

「おそらくわね。油断しないあいつらしくもないと思ったわよ。とりあえず、あなたも油断しないこと! いい?」

「はは! 肝に銘じておきます!」

「それならいいわ。じゃあお茶のお替りお願いね?」

「お任せを」


 そんな感じで二人の話は終わった。かくして人類にとっても、竜たちにとっても共通の脅威が数千年ぶりに到来しようとしている。これからぽつぽつとではあってもこういった強敵との戦いは避けられないのかもしれない。

 アレンの知らないところで脅威はひっそり動き出す……



しばらく一話ずつの投稿で申し訳ありません。休みにはなるべく2話くらいは投稿したいと思っております。

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