新たな婚約者?
祝いの夜の宴が開かれてから数日後、僕は王城に向かっていた。宴の時に王子ともう一度個人的に会うというあの約束だ。
それにしても最近はいろいろと順調だな~。トントンと爵位も上がっていってるし、執務も順調。学園の方はもう選択科目しか受ける科目がなく、それもせいぜい数個。
そのうえで成績はいまだ主席から変わってない。必修に関してはもう自動的に満点認可確定だからほかの生徒が僕と勝負する必要があるのは選択科目だ。
だがそれも安定で90点以上は確定で、調子いい時なら満点もざら。難しくて全体で平均が下がる科目も80後半とってるしな。
だが油断はしない。何故ならまだ元特1の上位陣も僕と同じように選択科目を受けてるからね。自分で言うのもあんまり良くないんだろうけど、それでも我ながらよく頑張ってるとは思う。
だが自信を持つのはいいことだけど、それが変な過大評価にはならないようにしないとな。
これからも自分の将来をより豊かなものにしていくため、油断せず、謙虚に頑張っていこう。
とまあ、そんな最近の自分の自己評価をしていたところで王城に到着。再帰王城にばかり足を運んでいるな。
少なくともこんなちょっくら友達んところ行ってくる! みたいな感覚でしょっちゅう王城にお邪魔する貴族なんていないだろう。
しかも先日の宴から5日もたってない。
「あれから一か月もたたないうちにまた登城することになるなんてね。なんともまあ、不思議なことも起こるもんだなぁ。第一王子殿下にお呼びいただけるなんてなかなかないだろうしな」
そんな感じで王城を見上げながら独り言をつぶやいていると、
「そうだな。私もどうでもいい相手をわざわざ王城に呼んだりはしない。貴殿が特別なのもあるが、貴殿の父上殿と同じように我が一族がそれだけ期待させてもらっているということだ。アレン・ベッケラート卿」
「え?」
「ん?」
ええと、少々お待ちください? 僕の目が節穴でなければいま目の前にいて僕に話しかけている人物は第一王子殿下ですよね?
ん? こういう時って普通使用人とかが迎えに来るんじゃないの? 王族がこんなところにいるわけないよね? 普通に考えて。
でもまぎれもなく殿下だ。どう見ても殿下だ。何度見ても殿下だ。
なんでやねん?
「えっと、第一王子殿下、おはようございます! お約束通り本日登城いたしました」
「うん、ありがとう。それで、驚いてくれたかな?」
「いや、それはもう勿論でございます。心臓が止まってしまうかと思いました」
「ははは、作戦は成功のようだな。今までにも貴殿を見かける機会はあったんだけどな、その時から思っていた。貴殿は妙に落ち着いていると」
「そ、そうでしょうか?」
「ああ、だからそんな貴殿を驚かせてやりたくなってな。どんな顔をするか見てみたかった」
ん? ちょっと性格悪い? このお方は? 今ちょっとびっくりしたんだけど?
だって女の子ならみんなすぐに赤面しそうな爽やかな笑顔で『僕を驚かせたかったから』って言った後、二パッ! ってさぁ。
二パッ! じゃないよ。でもまあ、わざわざ僕の為におもてなしをしてくれたのは事実だし、これ以上失礼なことを考えるのはやめておこう。
「取り敢えず中に入ろうか。まだ冷える時期だからな」
「お気遣い感謝いたします」
「そんな堅苦しい言葉遣いじゃなくていいよ」
「え、いや、しかし……」
「いいんだよ。今は周りに二人しかいないし、それに私は貴殿と仲良くしたいのだ。妹の為にも」
「え?」
「あ、いや、何でもない。とにかく私といるときはそこまで堅苦しくしなくていい」
「は、はい」
そう返事をすると殿下はうれしそうに笑ってくれた。でもこっちとしてはなかなかに心臓に悪い事ばかりだ。
そんなこんなで殿下とワイワイやりながら歩いているとある部屋の前に到着した。
「この部屋だ。さあ、入ってくれ」
そういわれ、殿下に示されるままに部屋に入った。
「失礼します」
そういって入った部屋には驚きの光景が。
「おお、ようやく来たかベッケラート卿」
「待ちくたびれましたわ~」
「数日ぶりですわね、ベッケラート卿」
「こ、こんにちわ! ベッケラート卿」
という風になぜか王家全員大集合のご様子。はい? 聞いてませんけど?
「こ、これは失礼いたしました! 陛下、王妃様」
「よいよい。堅苦しい挨拶は不要だ。とりあえず座れ。それからエルヴィンから言われてるかもしれんがここには余達しかおらん。かしこまった態度は不要だ。余は自分が認めた者には砕けた態度を許して居る。良いな?」
「は、はい。では、失礼します」
そうしてその後はこれが一体どういった状況なのかの説明を受け、事態を理解したはいいがその先がまた強烈だった。
失礼かもしれないが、本当に殿下は陛下の破天荒な性格を受け継いでいるんだと思う。
陛下から状況説明を聞かされた時、『親子だ』と本気で失礼なことを考えてしまった。
「というわけだ。アレンよおぬしにビアンカを貰ってはくれまいか? 最愛の娘だ、どこかに降嫁させるにしてもなるべく良いところに嫁がせてやりたい。だがほとんどの貴族が打算ありで近づいてきよる。信用して任せられるものがおらんのだ」
「そ、それはつまり。私とビアンカ王女が婚約する、ということでしょうか?」
「そういうことだ」
えぇ、これはどうなんだ? まあ、この世界には妾とか第二婦人とかそういう存在がいるのは知ってるから、自分もそういった女性をお嫁さんに貰わないといけないのは理解しているけど、この場合どうなんだ? 僕は何においてもエレオノーレ優先だから、いきなりエレオノーレを正妻の座から降ろせとか言われたらさすがに陛下が相手でも僕は怒る。
相手がどれだけ偉かろうが越してはいけない一線という物がある。
これは陛下の返答次第だな。
「陛下、お話は理解しました。ですが一つ確認させていただきたいことがございます」
「なんだ?」
「エレオノーレはどうなるのでしょうか? 仮にこのお話をお受けさせていただくということになれば自然と正妻、第二婦人という順番を決める必要があります。失礼千万なのを承知で申し上げます。私の今の婚約者、エレオノーレは私のすべてです。彼女がいるから頑張れる、彼女がいるから癒される。ですので私にとっては彼女が第一優先です。そのあたりをどう考えてくださっているのか、ご意見をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
僕は陛下にはすごく良くしてもらってるし、このお国の為に尽くしたいとも思っている。でもエレオノーレの件だけは話が別だ。なのでこの問題ははっきりさせておきたい。
ほかの貴族がいたら陛下に対して無礼だぞ! とか騒ぎ始めてたかもしれないけど、この場にいる皆さんは流石王族。一人も焦りもしない、取り乱しもしない。冷静に今僕が言ったことを吟味している。
すると陛下が、
「ふん、おぬしの婚約者は幸せ者だな。貴族社会という過酷な世界でお家存続が絶対視される世界でここまで純粋に愛情を持って接してくれる者が未来の主人で。これならば安心だ。最悪の事態などはあり得んだろう。皆もそう思うな?」
「ええ、すごく感動しましたわ。ほんと、8歳とは思えないほど素敵な殿方ですわ」
「わたくしもそう思いましたわ母上」
「わ、私もです!」
え? え? どういうこと?
「アレン・ベッケラート!」
「は、はい!」
「さすがは余が認めた男よ。余に対してものおじもせずに大事な、一番はっきりさせておくべき点を物申せるその度胸、非常に気に入った。ビアンカよ、良いな?」
「もちろんですわ!」
「えっと……」
ん? つまり、どういうことなんだ?
「アレンよ、今回の縁談の件、もし引き受けてくれるのならおぬしの好きに進めてもらって構わない。余はおぬしの決定に異論は申さん」
え? マジで? マジで言ってんの?
「あ、あの、本当によろしいのですか?」
「ああ、勿論だ。あくまでも受けてくれればの話だ。王女を正妻にせぬとは何事だ! などと面倒なことをほざきおる連中にも目を光らせておくと約束しよう」
「か、感謝いたします! そこまでしていただいて、お断りするなんてありえませぬ。僭越ながらこのアレン・ベッケラート、陛下の縁談のお申し出お受けさせていただきたく存じます」
「うむ。なかなかの決断力だ。よかったな、ビアンカ」
「は、はい! あ、あの、アレン様! よろしくお願いしますね」
「こ、こちらこそ、あなた様にお選びいただき光栄でございます」
うーんっと、今のはどういうこと? よかったな? なにそれ? よくわからん。
とりあえず、ビアンカ王女が嬉しそうでよかった。
と、そんなこんなで縁談の話がさっさと決まってしまった。いくら何でも即断すぎると思われるかもしれないが、この世界の縁談なんてこんなものだ。結局のところ当主本人が同意すれば、周りの意見は関係ない。
ただ、僕は筋は通すべきだとは思うからエレオノーレのお父様にも父上にも、エレオノーレにもしっかりと話そうと思う。
相談はしなかったとしても、話はしておくべきだ。みんなもわかってくれると思うし。というよりそもそも政略結婚とか親が決める結婚とかが当たりまえのこの世界では相談なんてこと基本しない。
本当に当主本人の意見が尊重される世界だ。なので逆に僕のやることに対して驚きや戸惑いを示されるかもしれない。
それでも僕は話だけはしておこうと思う。
本当に貴族社会って大変だなあ。
政略結婚とか親が決める結婚とか、今の時代はほとんどないだろうけど、もし僕がそれをしろって言われたら嫌ですね(笑)。
本日もありがとうございました!




