幻獣の力!
幻獣の居場所を突き止めた僕たち。今まさに対峙しているところなのだが、
(これは……凄まじいな……間近で見るとより強烈に覇気が伝わってくるよ)
『そうだな……まさかこれほどとは』
(ねえ、確かルシファーが戦った時は超位竜の上位くらいの強さがあったって言ってたよね?)
『ああ、いったな』
(でも、こうやって近くで見るとあの幻獣さぁ、やばいよね?)
『そのようだな。確実に竜でいう神位級に足を踏み入れているな。残念だがラーたちではもし戦いになれば、歯が立たんだろう。経験の差がありすぎる』
(ははは……)
もう乾いた笑いしか出てこないよ。でも今さっき、幻獣の方から声をかけてきてたよね? それにしゃべれるってことは、知性は確実にあるってことか。
とりあえず何か答えないとまずいよね?
「えっと、幻獣、さんだよね?」
「ほう? ワレの存在を知っているとな? 貴様、わっぱにしてはなかなか博識だのう?」
「そう?……」
「ああ、いや博識なのは貴様ではなく、貴様の中にいる……竜か?」
僕は自分がルシファーに出会った時以来ずっとかいていなかった嫌な汗を今かいている気がする。
「ほう? その動揺っぷり、やはり貴様、竜魔導師か」
「なんでもお見通しってわけかな?」
「ふん。やわな竜を従えている程度ならそもそも眼中にないから気づきもせんわ。ならなぜ気づいたのかは言うまでもなかろう」
「なるほど……」
(えーと、ルシファーさん? あなたのことし〜っかりと気づかれてますけど?)
『ふん。仕方あるまい。奴は我がかつて戦った幻獣よりも確実に強い。強い気配に気づく程度の力が備わっていても不思議ではあるまい』
(言われてみればそうか)
『ああ。まさか、今になって出会うとはな。奴はおそらく幻獣ヴェルセルクという種族だろう。獅子型の魔獣からまれに進化する者たちだ』
(戦ったことはないの?)
『そうだな。種族名を聞いたことがある程度だ』
(そっか。とりあえず、できればそうならない様に持っていきたいけどもし戦いになったらよろしく)
『任せておけ』
「そうだね。確かに僕は竜魔導師だよ。神位竜を従えている」
「やはり、な。どうりでただならぬ気配が近づいてくると思ったわ。で、本題に戻るが、何用で貴様たちはワレが守護するこの森に来た? 返答いかんによっては貴様はともかく、そのほかの人間は骸すら残らんことを覚悟しろ」
「どうして僕は別みたいな言い方なのか聞いても?」
「貴様ならいい勝負をしそうだと思ってな。ワレは調子には乗らん主義なのでな。強い者は強いと認める」
なるほど、こういう冷静沈着でスキを見せないタイプが一番厄介なんだよな。しかも強いときた。マジで戦いになったら弱点なんかないな。
「そういうことね。とりあえずさっきの答えについてだけど、僕らは別にむやみやたらとこの森をどうこうしようってわけじゃない。ただ何か人類にとって危険なことが迫っていないか、それを確認するために探索していただけなんだ。ここは僕たちの国の王都にとても近い位置にあるからね」
「なるほど、事情は理解した。それで? 結論は?」
「あなたたちが我々人間に危害を加えないでくれるというなら我々もこれ以上この森に過度な干渉をしないように努力する。ただ僕は人間の国の一貴族にすぎない。だから国王陛下にもこのことをお伝えしないといけない」
「貴様はそれだけの力があるというのにそんなに低い地位にとどまっておるのか? ならば貴様を使っている上の人間は知れた程度の器しかないのだな」
「な!?……」
いきなり何を言い出すんだ! こいつは!? ほかにも権力者がいる前で!
そう思っていると、
「国王陛下を侮辱するとはなんという不敬! 貴様どういうつもりだ!」
ああ、他の隊の中隊長が反応しちゃったよ……取り敢えずあなた、死にたくないなら黙っててくれない? 事態をややこしくしないで。
ベッカー侯爵たちだって僕を信じて任せてくれてるのに。
「ああ、そこの中隊長さん? 今は話をややこしくしたくないので黙ってていただけるかな?」
「な!? き、貴様! 自分の国の陛下が侮辱されたのだぞ! これで怒らずにいられるか!」
うわぁ、マジで? この人自分の階級も考えずに僕に貴様って言ったよ。しかも確かあの人は騎士爵だよね? うん、ベッカー侯爵も眉をひそめているし、あなたの出世コースは閉ざされましたね。
とにかく面倒くさいので、
「あぁ、確かに僕も今の発言はどうかと思います。なので僕が話します。少し静かにしていてね」
「!……」
とりあえず外野は黙らせた。
「それで、いきなり我が国の国王陛下を侮辱するとはどういう了見かな?」
「言ったままだ。貴様なら一人で国を守ることもできる力を持っていよう。なのにそんな人物を重宝せず、下働きでとどまらせている。これを無能と言わずしてなんという?」
「あなたは人間の国の何を知っていると? 物事には順序や決まりという物がある。そしてとくに人間はそういうことに敏感な生き物だ。それを守ることによって秩序も守っている。陛下も僕には期待しているとおっしゃってくださった。別に僕のことを見てくれていないわけではないと思うよ? ただいきなりそんなに強い権力と地位を与えるわけにはいかないから、ということではないかな? それに僕自身、自分で努力して成り上がるつもりだったしね」
「ほう? それは面白いな。確かにワレは人間の国を知ってるとは言え、その決まりや制度までは知らんかったな。なるほど、そういうこともあるのか。知らずに偉そうなことを言ってすまなかったな」
「いや、僕より国王陛下に直接謝ってくれればそれでいいよ。僕たち人間と仲良くしてくれるのならね?」
そういうとヴェルセルクは何やら考え込んでいる。
「ふむ。仲良く、か」
「そう。できればそうして欲しい。おそらく人類はあなたが害ある存在ならば討伐も視野に入れると思う。勝てるかどうかは置いといてね。でもあなたが人類に危害を加えないなら僕は国王陛下にもその旨を全力でお伝えするつもりだよ」
「ふむふむ。人間と魔獣、ワレは幻獣だが。とにかくそれぞれの種族が共存できるように考えるのなら貴様が言ったことは筋が通っているだろう。よし、良かろう! その話乗ってやろう」
「本当に!?」
「ああ、だが一つ条件がある」
「条件?」
「ああ」
なんだろう? 条件って。面倒なものじゃないといいなぁ
「ワレと一対一で戦うことだ。ああ、もちろん貴様は竜魔導師なので竜を使役するのは構わんよ。ただほかの人間を入れるなっということだ。それで貴様を本当に信じていいのか判断させてもらう。ワレを納得させることができれば、これから森に入ってきた人間などがいても手は出さんし、他の魔物や魔獣にも言い聞かせておこう」
「なるほど、そう来たか……」
戦いは嫌だと思っていたらこれだよ……ちょっと状況は違うけど、いやな予感は当たるっていうの、あながち間違いではないね。
「わかった。その申し出を受けるよ。ただ戦って君を満足させることができたならこの話に協力してね?」
「もちろんだ」
話が着いた後、僕たちは戦う準備に入った。みんなは止めてきたけど、僕はやるしかないとだけ答えた。それにベッカー侯爵たちも納得したというのが皆の反発を抑えるのに一役買ってくれた気がする。ここに父上もいればより反対意見は出にくかっただろう。別にこれはベッカー侯爵がいまいちと言っているわけではない。
父上の威光がすごすぎるだけなのだ。だがいない人の話をしてもしょうがない。父上は王都に駐在するために領地から呼ばれたのだから王都を無策で出てくるわけにはいかないので、今回は来ていない。
とにかく、戦いに集中しよう!
そして五分ほどたって、
「そろそろ良いか?」
「うん」
「では、行くぞ!」
「!?……」
こ、これは!? ヴェルセルクが覇気を放ってるんだろうけど、その覇気がすごく冷たくて、体がビリついて少し痛い。
覇気に自分の能力を上乗せしているのか!? クソ、凄い威圧感だ……これが神位級の力なのか。
今まで敵として神位級の生物と対峙したことなかったから余計に驚いてるんだろうな。
「ほう、やはり貴様は面白い。ワレはかなり強めに覇気を放っておるのだが、これに耐えられるものはそうはおらん。実際、数百年前に小生意気な”何とか教”とか言った宗教団体をまとめる者の一人がワレの覇気に耐えたが、それ以来面白味のあるやつはプッツンと来なくなった」
「そりゃこんな覇気喰らってケロってしていられる人は少ないよ」
事実ほかの団員は皆気絶していた。かろうじてコルネリウスさんとベッカー侯爵が膝を付きながら耐えているくらい。
でも実質膝を付いた時点で戦場では敗北だろうな。事実上この場で戦闘行為が可能な状態でこの覇気に耐えているのは僕だけか……本当にばかげた力だな。
「当然だ……ワレは幻獣だぞ? 貴様もワレを魔物や魔獣と一緒のように考えているのなら……死ぬぞ?」
「当然、一緒になんてしないさ。僕だってそれなりの場数を踏んでいる自信はあるんだ」
そういって僕はヴェルセルクに覇気をぶつけ返した。
「!……ほう、これはなかなか。では始めようか小僧!」
「そうだね。全力でいかせてもらうよ!」
お互い威嚇のしあいはもう終わりだ。ここからは本格的な戦いだ。まずは、
「『獄炎乱舞』!」
僕はあいさつ代わりにラーに力の供給だけしてもらって炎魔法を放った。
「なかなかの威力だが、それでは足りん! 『暴嵐壁』!」
「風魔法も使えるのか……」
「どんどん行くぞ!」
ヴェルセルクの風魔法で獄炎乱舞はすぐにかき消された。そして相手が動き出したので、僕も動く。
これはなかなかきつい戦いになりそうだ……
すみません。遅くなりました。




