初の師団員としてのお仕事!
何とか復帰できましたので本日から再開させていただきます。申し訳ありませんでした。
魔法具開発ですごい貢献をしたとお国に認められ、あの後とんでもない報酬金を渡された。この世界には魔法収納具という物があるから、大きな荷物も外見は少ない荷物として運ぶことができる。なので多少大きい荷物や量が多い荷物、もしくは貴重品、そういったものを手軽に保管できる。
僕が小さい頃よく見ていた、某魔法使いの映画、あの額に稲妻の傷がある少年が女の子と男の子の友達と一緒に成長し、史上最悪の大魔法使いを倒す話。
あれに出てきた小さな袋にいろんなものを詰め込むやつ、あれと同じ感じである。その袋に金剛貨5枚、白金貨7枚、金貨8枚、といった持ち歩くには恐ろしすぎる金額を入れて帰った。
日本円に換算すると、5億7千8百万。ね? こんなの持ち歩いてたらただのアホだよ。だから僕はすぐに最寄りの国立金庫に貯金しに行った。
担当してくれた受付の人は腰を抜かしていたけどね。そりゃそうだよ。前世でも普通、直接現金を手に持って貯金しに来る時なんてせいぜい多くても数万円だろう。数十万とか数百万とかそういった金額のやり取りは基本的に講座に直接振り込んでもらうのが主流だろう。
現金で手渡しで受け取ってから、直接銀行に出向いて貯金する人なんて少なくとも僕は見たことがない。あまりにも危険すぎるからね。
世界でも相当治安がいい国として評判の日本でもお金に関しては盗まれない保証はない。だから口座振り込みが一般的だと思う。
この世界でも口座はあるんだから口座振り込みとかにすればいいのに。
でもまあ、それは無理か。貴族や王族というのは基本的には形式や手順といったものを重んじる傾向にある。今回の報酬金の件だってそうだ。国王陛下が自ら渡すことに意味を見出している感じだったからな。あの感じでは口座振り込みの考えは根付かないだろうな。
とまあ、こんなことを考えてはいるが、今はもうすでに貯金は終えているから問題はないんだけどね。今はエレオノーレと一緒にゆっくり朝食を楽しんでいる。現在、朝の8時。天候よし、気分最高、なんて気持ちの良い朝なんだろう。
こうやって大切な人と朝食をとれるって当たり前じゃないんだよな。前世で一回死んでしまってからそれをよく痛感した。
別に元の家族と仲が悪かったわけでも、食事を一緒にしなかったわけでもない。むしろ関係は良好だった。だけど本当の意味で大切な人が隣にいてくれる幸せっていうのをわかってなかった気がする。
「ま、それを今はしっかりと実感できてるんだ。あの時には戻れなくても成長はしてるだろ」
「ん? アレン様、何か仰いました?」
「ううん。何でもないよ」
「そうですか?」
「うん」
僕が小声でつぶやいたから彼女には聞こえていなかったようだけど、気にはなったようなのでそう答えた。彼女はまたおいしそうに朝食をほおばっている。
本当に可愛いなあ。おっといけない、いけない。仕事に行かないとな。
「そろそろ時間か」
「そうですか、わたくしは今日、治療院でお仕事ですわ」
「そっか、エレオノーレも仕事だったね。僕は今日師団員で仕事でしばらく家に帰れなさそうなんだ。だから執務もデニスにできることはお願いしてる。でも何かあるかもしれないから、その時はデニスを手伝ってあげてくれる?」
「承知しましたわ。ではわたくしはお仕事が終わり次第、おうちに戻りますわ。わたくしはお仕事といってもアレン様ほど本格的なものではありませんから」
彼女の仕事は陛下からの依頼で、王都中の治療院を回ってその類まれな治療能力で治療院の従業員の負担を減らすことだ。
だが彼女自身が言ったように、仕事の時間などは短い。魔力が尽き次第、他の従業員のように休んだりして復帰せず、すぐに帰宅だ。
これはまだ学園に興味のある科目があって、僕の婚約者にもなっていて僕の館を守る役目を果たしたいと考えてくれている彼女が国からの要請に妥協できる最終ラインだったということだ。
王国は基本強制はしない。なので理由があれば条件などを提示しても結構すんなりと受け入れてもらえるのだ。
僕は、本当にいいお嫁さんに巡り合えたと思う。彼女の僕に尽くしてくれる姿勢と、期待に最大限こたえられるように頑張らないとな。
そして今回師団員としてお国の任務で動くけど、お国にも精いっぱいの恩返しとして仕事をしっかりと全うしよう。
王政なのにここまで国民の意見を聞き入れてくれるってきっと当たり前というわけではないと思うから。
すべてに感謝だ。そしてその感謝の気持ちを一番示せる方法、そう、行動で示してもっともっと世の中に貢献していこう。
「わかった。じゃあ、また屋敷のことは頼むね。でも、無理はしないで? 最近料理とかも使用人さんから教わってるって聞く。お嫁さんとして頑張ってくれることは本当に嬉しいし感謝してる。でも僕にとっては君が一番大事だから、体にはくれぐれも気を付けてね」
「はい、ありがとうございます! でも、アレン様だって気を付けてくださいね?」
「うん、ありがとう。それじゃあ、頑張ってくるよ」
「お気をつけて!」
そういいながら彼女は元気に手を振ってくれている。こうしていると、日々夫婦に近づいていけてるような実感がする。もっと頑張る必要はあるだろうけど。
とりあえず目先の目標は挙式だな。早くエレオノーレに綺麗でかわいいドレスを着せてあげたい。お互いの実家もそれを強く望んでくれているしね。そうだな、本当に近々挙げるのもありだな。考えておこう。
そうして、馬車で揺られること十数分。王城に到着した。僕の家の家紋を見るなり、衛兵が王城に一人向かわせた。そしていつも通り簡単な受け答えだけして、ほぼ顔パスで通してもらった。
「お気をつけて、良い一日をお過ごしください」
「ありがとう」
お礼を済ませてすぐに入場、馬車置き場に馬車を止めて降りるとすぐにクリストフさんが来てくれた。
「おはようございます、ベッケラート卿。師団員の皆様はもうすでにお待ちです。団員会議所へご案内いたしますのでこちらへ」
「ありがとう」
案内してくれるので、そのあとをついていった。
「こちらでございます」
「わかった。ありがとう」
そういって僕は団員会議所に入った。するとすでにベッカー侯爵にコルネリウスさん、そして何人か幹部と思われる人たちが待っていた。
「おお、ついたかベッケラート卿よ! さあ、こっちだ。空いている椅子に適当に座ってくれて構わない」
「おはようございます、皆さま。お待たせして申し訳ありません」
僕がそういうと、みんな驚いたような顔をした。ベッカー閣下とコルネリウスさんを除いて、だけどね。
「皆さん、どうかされましたか?」
「い、いや。何でもないよ」
「は、はい。私も少し考え事をしてて」
なんか歯切れの悪い返事をされた。あとで聞いた話だが、若くして貴族になった身だからもっと身の程をわきまえない偉そうなやつだと思っていたらしい。
そういうことね。
「いいんだ。気にしないでくれ。もともと君は今日はゆっくり目の出勤だったのだからな」
「ベッカー閣下の言う通りだベッケラート卿。君はもう少し偉そうなぐらいでもいいほどだ。細かいことは気にせず、どんと構えていればいい」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて失礼します」
そういって僕は椅子に座った。もちろん下座だ。爵位が低いのだから当たり前だ。ここにいる幹部の人たちはみんな中隊長以上という話だ。
なので当たり前のように爵位持ちだ。中隊長なら騎士爵かよくて準男爵といったところ。大隊長なら男爵以上は普通らしい。
なので準男爵の僕が大隊長を任されているなんてかなりの破格待遇だ。
「それでは会議を始めさせていただきます」
「うむ、アーベントロート卿、よろしく頼む」
ベッカー閣下の承諾により会議は始まった。内容は副隊長補佐兼大隊長の僕を含めた大規模な編成で『魔大樹の森』と呼ばれる場所の定期探索に向かうという任務。
これは三か月に一度行われるらしい。いきなり大規模軍事行動に編成されているのだが、なぜかそれを不思議がったり、質問する人がいないのはなぜだろう?
まあ、いいや。とりあえず足を引っ張らないように、ポカをして失望されないように慎重に慎重を重ねて行動しよう。
「というわけで、今回の遠征の編成はベッケラート卿の隊には最後尾をお願いしたい」
そういわれた。その時なぜかみんなの視線が僕に集まったが、よくわからないので気にせず僕は、
「承知いたしました。軍略の定石通りということですね? 魔法師や竜魔導師は魔法が主流戦法なので後衛の方が効率的ですからね。ですが一つご質問させていただいてもよろしいですか?」
「なんだね?」
「私はアーベントロート卿の補佐のお仕事も任していただけるそうですが、後衛だとそのあたりはどうなるのでしょう?」
「そうだな。常時は今言ったように後衛を頼みたい。そして一旦幹部で集まったり、何か相談事などがあるときはアーベントロート卿の補佐をしてほしい。どうかね?」
「承知いたしました。ではそのつもりで動かせていただきます」
「うむ」
そういって質問を終えたのだが、他の隊長方が、こっちをすごく見てる。え? なに? このすごく緊張する空気……そう思っていると、
「はははは! やはり傑物ですな! ふつうその年ごろでこれだけもてはやされ、優秀だ優秀だと言われながら地位まで得てしまえばもう少し傲慢でもおかしくはないというのに。全く上司の指示に歯向かうこともせず、しっかりと人の話を聞くことができる。簡単なことのようで誰にでもできることではない! 私は気に入りましたぞ、ベッカー閣下!」
「そうだろう、そうだろう。なにせ陛下が初対面で即お認めになった逸材だからな!」
そういってみんな僕のことを褒めだした。なるほど、そういうこともあるのか。確かに周りから褒め続けられて育ってきた人なら傲慢になってしまってもおかしくない……のか?
よくわからないけど、一応褒めてくれてるので、
「おほめいただき光栄でございます。ベーレンス伯爵、ベッカー閣下」
「良い良い」
「事実を言っておるのだ! ははは」
そうしてしばらくお褒めの言葉をいただき、さっそく、行動を開始した。今回遠征となるのだが、期間は一週間ほど。
馬車で揺られながら目的地に向かう。『魔大樹の森』の場所は決まっているのだが、調査する場所は毎回違う。そして今回は少し遠めなのだ。
この『魔大樹の森』めちゃくちゃ強い魔物たちがうようよいるそうだ。気を抜かずに行こう。
こうして僕たち一行は『魔大樹の森』に向かって進軍していった。
本日もありがとうございました。




