アレン、防犯魔法具開発に挑戦!
あの、前に進めているのかいないのかはっきりしない会議から二週間ほど、僕はいま、自宅の研究室にて魔法具開発を行っている。元から魔法具には興味があって開発などをするが、僕はあくまで竜魔導師、つまり武官としての貴族を目指したわけだ。商業や研究業など、いわゆる文官として貴族になったわけではない。
なので最終的には武官としての仕事を優先することになるのだが、なぜ今日に限って執務そっちのけで研究をしているかというと、アンドレアス王直々のお願いだからだ。なんでも最近各地で犯罪が横行しているらしいのだ。
そこで魔法具を使ってどうにかできないか? と、持ち掛けられたのだ。というわけで僕が陛下に伝えたのは、犯罪記録器のようなものを作ってみてはいかがですか? というものだ。
防犯カメラって言いたいんだけど、やっぱり英語がないから防犯は通じてもカメラは通じないんだよね。
なので記録器と呼ぼう、ってまだ完成すらしてないんだけどね? でも何となくできそうなんだよね。よく前世の異世界漫画とかでアイテムボックス~だの、魔道具で映像を映し出すものを作った~だの、やりたい放題やってたけど、この世界の魔法理論はあくまでも属性と理論に偏ってる。
なのでいきなりそんな便利なものは生まれない。
なら、前世にあったような便利なもの、作れないのかな? と言えばそうでもない。
「要は、魔法だと理論が確立してなければ発動しないけど、魔力にイメージを込めるだけのあのやり方ならなんとかなるだろう」
あのやり方とは、いわゆる属性魔力をイメージに沿って使うやり方である。例えばみんながよくやる自然属性の炎や雷、そういった属性を刃にまとうイメージで剣を強化したり、体を強化したりするアレである。
魔法っぽく見えるから一応魔法名のようなものを付けるけど、実際にはあれは魔法ではない。便宜上区別するのが面倒だから魔法として扱われてるだけだ。
僕はまずカメラ本体を作り上げる。そしてそのカメラの先端部分にあたる場所にガラスを突っ込む。ガラスはこの世界でも普通にあった。
そして今回作るのは魔法具なので普通のガラスでは絶対に魔力に耐えられないので、鋳造の時からゆっくりと一緒に魔力を練りこませてある、魔力鏡と呼ばれるものを使う。(この世界にはガラスという言葉はないので、鏡と呼ばれている。自分の姿を反射してみることができるためだろう)
「よし、魔力鏡設置完了っと! あとは映像を記録して、他の部屋にあるモニター代わりの魔力鏡に投影されるようにイメージして無属性を扱う時の魔力を込めれば終わりだ」
そうして一時間ほど、魔法具開発と格闘して、やっと完成した。ばっちり映像を記録して巻き戻しとかもできるようになっていて、大きな長方形の魔力鏡に投影されている。
我ながらグッジョブ!
そして僕はもう一つ、頼まれてはいないけどプレゼントとして一番実用的であろう防犯魔法具を開発した。
これを、後日王城に献上しに行き、研究所所長にも見てもらう。
翌日、朝9時に王城の門の前で入場検査を軽く受け、いつも通りあっさりと中に入れてもらい、クリストフさんに案内してもらいながら、応接間に通してもらった。
するとすでに所長と陛下が座って待っていた。
「おお、ベッケラート卿! よう来てくれた。さあ、さっそく座ってくれたまえ」
「失礼いたします、陛下。本日もお忙しい中お時間をいただき誠に感謝いたします」
「良い良い。それより、例の件、早くも完成したそうだな!? はよう、見せてくれ!」
「陛下、お気持ちはよく理解できますが、ベッケラート卿も困ってしまわれます。焦らずとも我が研究所の筆頭研究員の彼の作品が逃げることはございませぬ」
「そうであったな……すまぬな」
「い、いえ! お二方に良くしていただいて、常々感謝いたしている次第であります。お顔をお上げください。今回陛下にご依頼いただいた魔法具だけでなく、もう一つ僕からの自主提供ということで作らせていただきました」
そういうと二人はとても驚いたような顔をした。まあ、納得できないこともない。僕だって陛下や所長と同じ立場ならそんな顔をしただろう。
だって自分たちができそうかな? って感じでお願いした物を作るついでにもう一品魔法具作ってきました! って言われたらまあ、普通に絶句するよね。
「それは誠か? つまり、頼んだものに加えさらに別のものまで用意してきたと?」
「全く、ベッケラート卿様様ですな」
二人ともとりあえず喜んでくれているようだ。ちなみに所長という立場の人間がどうしてこうまで僕に下手に出ているのかというとそれは単純に立場の違いだ。
僕は準男爵家当主で彼は地方の男爵家の三男、そして籍はその男爵家のままだけど、実質独り立ちしてるだけでまだ貴族家の子息という立場なのは変わりないからだ。
だから僕にも年上でありながら敬語で接さないといけない、ということなのだ。面倒だね、身分制度って。
「おほめいただき感謝いたします。それではさっそくではございますが、作品のご説明に移らせていただきますが、よろしいでしょうか?」
「もちろん、構わんとも!」
「ぜひお願いしますよ」
「それでは……」
そうして僕は説明を始めた。まずは頼まれていた防犯カメラの方だ。これの説明に陛下たちは終始口をぽっかーんと開けたままだった。
「まさか、これほど便利なものとは……」
「左様ですな。お見事というほかありませぬ」
「ありがとうございます。では次の作品ですが、これは魔力線探知機というものです」
「ん? どういうものなのだ?」
「はい、これは魔力を細い線のように凝縮して、進行方向にまっすぐ伸ばすものです。例えば部屋の壁から壁までといった風に。そしてこれをあらゆる角度から部屋中に放射します。この線に触れてしまえば、たちまちこの魔法具に埋め込んである感知魔法の術式が発動し、甲高い警報音を鳴らす仕組みとなっております。この魔法具の解除方法は、魔法具に登録した魔力波動を持つ人物がここにある突起のような場所を押すだけでございます」
「なッ!? なんという常識はずれな、犯罪者殺しの魔法具なんだ……」
「ええ、陛下。わたくしも同じことを考えましたとも……」
確かに、こんな現代地球でも使われていたような圧倒的文明の利器が登場すればこの世界のゴロツキ程度なら秒殺で捕まるだろうな。
プロの犯罪者たちですら前世と比べるとお粗末なものだ。おそらくこの警備装置が実装されれば、向こう百年くらいは大丈夫なんじゃないかな? あくまでもこの魔法具を取り入れてる場所に限るけど。
「このような物をすぐさま作ってくるとは……やはりおぬしは稀代の才能を持っておるな」
「同感でございます。わたくし魔法具にはかなり厳しいので、研究員にもなかなか合格を出さないのです。そんな私が絶句してしまうほどの代物なのです。おそらく本当に高度な訓練を受けた者でもなければ、そしてこういった装置がある、と分かっていなければ突破は不可能でしょう」
「お気に召していただけたようで何よりでございます」
そうして、その後はこれらの魔法具を大げさなと思ってしまいそうなほど褒められ、これを増産するためにぜひとも研究所のみんなに作り方をレクチャーしてほしいと言われ、困ったものだ。
何せ、僕が作る魔法具はほとんどが前世の知識を基に作ったものだ。つまり、想像力や発想力の基準が全て向こうの世界なのである。
できる限り頑張るが、もしかしたら理解してもらえないかもしれない。そうなると僕一人で量産せねばならないが、それはまあ別の時にでも考えよう。
今はとにかく陛下のお役に立てたことを喜ぼう。
メンテナンスまでに投稿できず遅くなってしまいました。今日も読んでくださりありがとうございます




