本格的な貴族生活、始動!
エレオノーレと卒業資格取得後、食事に行ったあの日から約1週間たった。本来なら、これから後期試験に向けて勉強したりするんだろうけど、僕たち特1の上位陣は全員、無事卒業資格を得ているので受けるか受けないかは自由となる。
ただ僕は勉強だけはしとこうと思う。せっかくこの後期に勉強したことを短期記憶だけで終わらせるのはもったいない。しっかりと復習して、仮にこれから必要になった時スッと知識を引き出せるくらいにはしときたい。
例えば第二次世界大戦または太平洋戦争、それらの戦争が終わった西暦は? 1945年みたいな。小学校から高校までずーーッと身近に教えられてきた知識。そんなレベルでの習得を目指したい。
とまあ、そんなことを考えながら今はとある場所を目指している。ちなみに移動方法は馬車である。なぜそんな贅沢な移動方法かというと、今は王城に向かっているのである。
王城に向かっている理由は当然資格試験の件である。毎年恒例で卒業資格を得た者は王城に招かれ、盛大に祝われる。
そして今回特1のみんなは僕と仲がいいということで一緒に王城に来れるように王宮の方が直々に手配してくださったのだ。
本来ならどれだけ優秀でもこんなことは基本ないそうだ。だが例外があり、それが一年生という立場で資格を得たものだ。
これに関しては学園も了承していることである。正直言うとこういう待遇の差は不公平になるのでダメなのだが、学園は義務教育であっても良くも悪くも実力主義である。
なので、卒業資格を一年生でとる、こればっかりは本当に実力と努力を両方お国に示したことになるので、その褒美の一環として学園もこの好待遇を了承しているのである。
なので、みんなが正装に身を包み王家が手配してくれた馬車に乗っている。だがここで驚いたことが一つある。
ダミアンが一切といってもいいくらい緊張していないのだ。理由を聞くと、『俺の友人たちがみんなお偉いさんの息子娘だろうが、いまさらだ』ということらしい。
ほんと、彼は大物になるよ。そんなことを考えていると、ダミアンが、
「それにしても、アレン、お前だけが貴族当主としての服装とかすごく違和感があるな」
「そう?」
「あたりめぇだろ。グスタフやツェーザルですら貴族子息としての服装だぞ? すでに肩章が胸付近や肩にたくさんついて、貴族当主としての証まで胸についてんのはお前だけだ。なんか友人が貴族って実感わかねぇけど」
そんなことを言い出した。確かに言われてみれば僕だけ貴族当主としての服装だね。しかも普通の貴族でもそんなにないくらいの肩章がたくさんついてる。
これは悪魔と天使の討伐、コルネリウスさんの救出、銃の魔法具の開発・改良、他にもいくつか開発し、それが国家で正式採用されてるものばかり。さらには魔法に関してもいくつかは王家直属近衛師団でも正式採用されている。それらの功績のあかしとして正装には取り付けられている。
デニスがちょくちょく王城に訪問し、それらを受け取って僕の服に取り付けていたみたい。あとでそれを聞き、僕は慌てたんだけど、デニスが、『陛下がそれでよい、あ奴も忙しいだろうし学園はなかなか生徒を外に出してはくれん。だから気にせずとも良い。と仰っていました』と報告してきた。
まあ、その時は一応それで納得はしたんだけど、それでも僕自身で出向くべきだったと思う。
でも、陛下がそれでいいと言ったならそれ以上、そのことについて言及する方が逆に不敬だ。なのでそれ以上深く考えないようにしたのだ。
「まあね、一応貴族に連なるっていう意味ではダミアン以外そうなんだけど、本当の意味で貴族、つまり当主っていうことなら確かに僕だけだもんね」
「ああ、不思議なもんだよな~」
そんな感じでごくごく平凡な(この世界での)学生の会話をしていると、王城に着いたようだ。御者の人が知らせに来た。
コンコンッ
「皆さまお待たせいたしました。王城に到着いたしましたのでお降りくださいませ」
「ありがとう。ここまでご苦労様。あとは僕の側仕えのデニスが引き継いでくれると思うから、あなたは上司に職務完了の報告とかあるだろうから下がってくれていいよ」
「お気遣いに感謝いたします」
「うん」
そういって御者の人に下がってもらった。ここからは僕の使用人の出番だ。そんな風に思っていると、みんながこっちをじっと見ている。
なんだろう……するとベティーナが、
「見ました?」
「見ましたわ」
「ああ、見たぞ」
「僕もばっちり」
「僕も」
「俺も」
はい? 何のこと?
「アレンさん、完全に貴族姿が馴染んでますわね」
「だな。公爵家の出の俺からもなかなかのものに見えた」
「僕もびっくりしたよ。アレン、また君においていかれたね」
「この方がわたくしの未来の夫になられるお方……」
「そうですわね。正直ものすごくうらやましいですわ」
「僕も一応貴族の出だけど、あんなに堂々としたふるまいはなかなかできないな」
「俺も結構ビビったぜ」
みんなでそんなことを言ってきた。そんなことを言われても慣れるべきものは慣れるしかなかったからね。気にせずふるまっていたけど、みんなにはかなり堂々としているように見えたようだ。
別に普通だと思うけど……
「いや、馴染んでると言われても、慣れるしかなかったから自然とそういった振る舞いができただけなんじゃない?」
「いえ、そもそもその慣れるっていうのが難しい方もいるんですのよ?」
「まあ、僕も最初は人をこき使うようなやり方になじめなかったときがあったけど、そんな甘えたことを言ってるようじゃ、貴族は務まらないでしょう?」
「それは……そうですわね」
そうやって、貴族の振る舞いについて話していると、
「アレン様、そろそろお時間です。資格取得者歓迎の宴会が始まります。早く移動しなければ間に合いません」
「そうだね」
そう答えて、僕らは王城の入り口に向けて歩いて行った。途中、何人かの先輩やら、歓迎に来てくれていた貴族の方たちとお話をしてそして、ようやく、宴会会場に着いた。
僕らがかなり来るのが早かったようで。会場にはまだそこまで人が集まっていなかった。だがこれは好都合である。基本的に下級貴族はよほどの用事がない限り上級貴族よりも遅れて登場することは許されない。不敬にあたるからだ。
ここからはみんな真剣モードになっていた。何故ならグスタフ以外はみんな完全な下級貴族の子息・令嬢か平民という状況だ。
僕は一応爵位持ち、つまり貴族家当主だし、グスタフも公爵家の子息だ。そこまで緊張する必要性はない。
だがそれ以外のみんなは緊張するだろう。なんせ貴族とほとんどかかわりを持たなかったから。もしくはカールやベティーナ、エレオノーレやツェーザルは男爵家以下なのでかかわりを持つといってもそれは、結局はお家の格が一緒ぐらいの相手までだ。
なのでそんなに上級貴族と関わりを持ってこなかったため緊張しているのだ。
でも問題はないだろう。みんななんだかんだで大変なこともあっさりとこなしてしまったりする人たちだし、何かあっても僕やグスタフが対応すればいい話。
そう考えて宴会開始の時間を待っていると、続々と上級貴族や上級生の人たちが入ってきた。
ここからはみんな子爵家以上とかが当たり前だから礼節はしっかりとしなければならない。
「お、おいアレン。思ったより緊張するんだけど……」
「……」
そんな感じでダミアンが小声で話しかけてきた。いや当たり前でしょ。むしろなんで今まで緊張していなかったのか……
まあ、今はそんなことよりアドバイスかなんか明日あげないとやばいよね。
「取り敢えず、話し方はいつも僕たちが誰か他の子息や令嬢と一緒に会話してる時ので大丈夫。それ以外の礼節に関しては学園で習ったもので十分だよ」
そういうとダミアンだけでなく、他のみんなも露骨に安心していた。
そんな感じでみんなへのアドバイスを一通り終えたところで、今回の宴会の主催者が入場した。陛下だ。
「皆のもの。本日はよくぞ集まってくれた。そして、本日の主役、学園の生徒たちには心から敬意を表する。大変な学生生活を送る傍らよく勉強もサボることなく励んできた。そんなお主たちにはこれから精一杯自分の人生を歩んでほしい。それを応援する儀式のようなものとしてこの宴会は毎年開催しておる。是非とも今後のことを考えつつ楽しんでいってほしい。余からは以上だ」
そう言ってはいかが挨拶をされた。その後はすぐに宴会に入り、みんな楽しみながらも他の家族との人脈を広げようと奮闘していた。
なぜか僕や他の特1メンバーは自分から行かなくても向こうから来てくれていたけど。
平民のダミアンも例外なく。平民に対して酷い態度をとる家族もいるみたいだけど、優秀なものに関しては例外みたいだ。
そのような感じで皆がそれぞれこれからの抱負などを抱きながらたくさんの人と交流をして宴会は無事に終了した。
その後なぜか僕らだけ陛下直々にお呼びいただいてお話をする機会があったのだが、その内容は簡潔にいえば、僕を除いた他のメンバーに可能なら是非とも国家の重要戦略として活躍してほしいというもの。
そしてみんなはそんな要請にポカンと口を開けて驚いていたが、その後には力強く頷いて了承していた。
そんなこんなで、卒業資格取得試験終了後の日々は怒涛の勢いで過ぎ去っていった。
学園卒業、それは一つの節目である。故に皆今後に向けて真剣に備えていくもの。
そしてそれはアレンも例外ではない。今後幾度となく、壁が彼の道を阻むかもしれない。それでもアレンは進むと決めた。この世界をそして大事な者たちを救うと決めた。
だから彼は今後もひた走る。自分が守りたいもののために!
ここで、二章完結です。次からは三章に入っていきます! ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。
それから申し訳ありません。前話の卒業資格の話の中で3年生の話題があったのですが、そこが少しおかしかったので、編集させていただきました。




