栄光を手にするのは?
決勝戦が開始し、僕たち全員が本当の意味で戦闘準備を終えたころ、僕はそのままダミアンと対峙していた。他のみんなはそれぞれ違う相手と戦っているようで、まずはそちらをどうにかするようだ。
「さっきは久々の竜の覇気に気おされたけど、今はもうだいぶ収まった。意外とこういうのも慣れるもんだな」
「いやいや、普通慣れないから。ここにいる面々か、いつもつるんでる皆ぐらいでしょ。自分で契約しといて言うのもなんだけど本来、神位竜っていうのは歴史上に数えるほどしか確認されていない。そもそもそんなすごい竜たちの威圧に慣れられる君の方がすごいんだからね?」
「褒めたってなにも出ねえぜ?」
「わかってるよ。さあ、余計なおしゃべりはおしまいだ!」
ガキンッ!
剣と剣のぶつかり合う音が鳴り響く。お互い身体強化をしているからより、ぶつかった時の衝撃や音がすごい。
「チィッ! 相変わらずなんつうバカ力なんだよ! 本当に体格と魔力量に恵まれてる奴は反則だよな~」
ダミアンは距離をとりながらそう言って愚痴をこぼす。ダミアンはもうすでに誕生日を迎え、8歳となっている。しかし体格的には僕より身長がかなり低く、134センチほど。僕が144センチなのでかなり差がある。
身体測定の時、もっと身長が欲しいとぼやいていた。ただダミアンは決して小柄なわけではない。いくらこの世界の人々が地球の日本人より平均的に大きくても、小学二年生の時点で134あるのはかなり大きい部類だ。
この世界の7歳から8歳くらいの子供の平均は地球の長さの単位で行くと、121センチから127センチほどというのを身体測定時に医療従事者の人から聞いていた。
まあ、これでも十分7歳から8歳の日本男児からすればかなり大きいけどね。とにかく何が言いたいかというとダミアンでもかなり大きい方なのに僕と並ぶとかなり差があるので彼は戦いにくそうだということだ。
これはかなり有利に働くと思うので、しっかりと利用させてもらう。
「そうかもね、じゃあとことんその有利点を利用させてもらおうかな?」
「ケッ! 嫌味な野郎だな!」
そうして話しながらもまた、つばぜり合いに持ち込んだ。
「ヘッ! これでも喰らいな! 『永劫埋没』!」
「上級の拘束魔法か! ふッ!」
僕は足に身体強化を集中して一気に飛び上がった。何とか拘束を回避できた。だが僕はしてやられたままで終わらない。そのまま自由落下していき、ダミアンの頭めがけて身体強化増し増しのかかと落とし!
「クソ! あっぶねえ……今のは真剣に危なかった……」
「とどめを刺すときや、特殊な攻撃をした後っていうのはスキが生まれるって相場が決まってるからね。でも、今のを避けるとか……いったいどんな反射神経してるんだか……」
「おほめにあずかり光栄だけどな。俺はそんなんじゃ満足しねえぞ!」
「もちろん僕だって。戦いはこれからさ!」
今度はお互いに距離をとった。肉弾戦はお互い相当な練度でできるので、差が出なくて埒が明かない。
なので今回は少し遠距離を試そうと思ったんだけど、向こうも同じものを感じたみたいだね。本能みたいなやつかもね。
「よし、ならこれで! 『静寂への誘い』!」
「ッ!」
僕は水魔法の一つ、霧で視界を奪う技を放った。それも指向性を持たせてダミアンのみに。僕は水魔法がいまいちだけど、それは戦闘においての話であって、こういうからめ手に使える魔法とか支援系の魔法は水でも問題なく使える。
あくまで、水の戦闘用の魔法が苦手なだけだ。そして今回使ったそれは実に効果的だったようだ」
「なんだ!? これは……視界を奪う魔法か」
ダミアンもはじめは驚いていたけど、すぐに持ち直して冷静に僕の魔法を分析する。さすがだ。並の人なら視界を奪われた時点で恐怖でパニックになるだろう。なんせ戦闘中だからね。敵を見失うなんて失態はそれすなわち、死を意味するからね。
「さあ、ダミアン、君はこれに対処できるかな?」
「クソ、いきなりお前の魔力波動を感じれなくなった。これは……この魔法の効果か!?」
さすがはダミアン、この魔法の恐ろしさに即行で気づいたね。そうなんだ。この魔法の恐ろしい点は何も視界を奪うだけじゃない。相手の感知能力まで奪うんだ。
その原理は実に簡単、自分の魔力で生み出した霧なのだから、僕の魔力とつながっているのは言うまでもない。なので言ってしまえば無意識にいろんなところにいる僕を感知してしまっている状態なのだ。魔力での敵の探知がうまい人ほどこの罠にはまりやすい。普段から視界に頼らず感覚を磨くいわば戦闘の達人ほど、どんどんと奈落の底へと誘っていく、そういう凶悪な魔法なのだ。
ダミアンの実力不足でこうなったんじゃない。むしろありすぎるから逆に僕を見失ったんだ。かといって今度は視力に頼ろうとしても何も見えない。だけど、僕は常に相手の位置を把握している。なぜなら、あらゆる場所に僕の魔力が散布されてる状態なので、ダミアンは常に僕とつながってる魔力に触れ続けることになる。
表現は汚いけど、こちらは鼻くそほじって寝転がってても相手の位置を特定できる。ちなみにこの魔法、僕のオリジナルです。前世での漫画や、軍事兵器のセンサーみたいなのからヒントを得た魔法だ。ステルス戦闘機がモチーフだ。
相手を探知しようっていうのは誰もが思いつく発想だ。その発想を逆転させて、探知させないようにする。
本当に前世の人たちは恐ろしいくらい頭がいい人たちがうじゃうじゃいたんだな~って、この魔法を作った時改めて思ったね。
「さあ、決着としようか! ダミアン!」
「クソ! お前には俺の位置がわかるってのか!? この魔法反則過ぎんだろ!」
仕方ないよね、魔法戦闘が本職の僕に距離をとらせたのが、君の最大にして最悪の失敗だね。
「ならそろそろほかの人たちとの戦闘も視野に入れないとだから、少し広範囲魔法を使うことにしよう」
「なに?」
「『千雷雨』!」
僕はとどめの魔法として千の雷をあたりかまわず放つ魔法を選んだ。そして、それが止んだ時、目の前にいたのは感電で体中から煙を上げて寝っ転がってるダミアンだ。
もろに入ったんだな。するとささ~と会場に入ってきた回復魔法師さんたちがダミアンを医務室に運んでいった。
周囲ではグスタフとツェーザル以外みんな焦げて倒れていた。やっぱりあの二人は残ったか……
「全く……でたらめな魔法を放って。対処するのにかなり魔力を使ったぞ」
「本当にね。まさか自分が戦っている相手以外にもついでとばかりに大規模魔法を放って来る余裕があるなんてね」
「そう? どうせ君たちにだってできるんだから、そんなに驚くことはないだろ?」
「ふん! 当然だ」
「まあね」
そういって開始早々、強敵のダミアンが退場し、そのほかには一番警戒していた二人が残ることとなった。
いよいよ決勝も大詰めだな。ほかの生徒があっけなく焦げて脱落したのは予想外だったけど、まあ、威力が威力だしね。あの魔法はもともと存在していた伝説級の雷魔法。相当強力なのを選んだからね。
決勝に進んでくるようなメンバーだと当たり前に強い結界や身体強化を使う。グスタフは炎と身体強化、ツェーザルは水と大地と身体強化などなどいろいろ使ってくる。無属性出なくあえて自然属性の魔法で相殺することもある。
それくらい高度な戦いになってくるのだ。
「それじゃあ、最終決戦と行こうか」
「ふッ、いいだろう。俺が成長したというのをしっかりとその体に教え込んでやる!」
「僕も勝たせてもらうよ!」
そういって、僕たち三人は一気に全力戦闘に移行した。そう、つまりは竜の召喚をして本当の意味での全力だ。
「それじゃあ、今回はこの子に頑張ってもらおう! 雷王竜インドラ!」
「出でよ、業炎竜!」
「来い! 水竜!」
それぞれ階級は違えど、経験や成長によりものすごい威圧感を放つ竜たちが顕現した。
また新たに会場内を圧倒的魔力圧の暴力が襲う。観客たちは皆その状況に強制的に緊張状態に陥らされた。
皆がしゃべることもできず、ただ黙って試合を見守っている。
「二人とも、悔いのない戦いにしよう!」
「言われなくてもそうするさ!」
「僕もはじめからそのつもりだよ!」
そういって三人は互いに緊張感を高め、相手を倒すため意識を戦闘に集中させる。もはや解説している放送員の言葉なども入ってこない。
決着の時はもう近い、相手が地面に背中を付けるその時まで彼らは絶対に集中を切らさないだろう。
そして雌雄を決するためのゴングが今、
バーンッ!
鳴り響いた。
2話で終わらなかった(笑)。多分次くらいで決着かな? と思ってます。




