準決勝 その2!
戦闘が始まり5分ほど経過した。そしてわかったことが、この人相当強い。特1のクラスの人がやられたっていうのも理解できる。
戦い方は基本的にシンプルで直剣と体を身体強化で底上げし、叩ききっていくスタイルのようだ。完全な騎士スタイルなのだ……と思いきや、先ほど大地魔法も使ってきたのだ。
というわけで彼がもし師団員になれたら職業は魔法騎士だな。ただどちらかというと騎士よりだけど……。
「さすがだな! 結構本気で攻めに行った技がいくつもあんのに、そのことごとくを無効化してきやがる! これだよ、これ! 俺が求めてた戦いっていうのは!」
「ははは、僕も楽しいね。でもその余裕が命取りにならないといいけど」
「へへ、敵の心配とはあんたいいやつだな!」
「そうかな?」
彼は知っているはずだ。僕が竜と契約を結んでいることを。それでもなお戦いを楽しむっていうのか……何か策があるのか、それともただの本当の意味での戦闘狂なだけか……どちらなんだろう?
「さて、そろそろ終わらせるかな?」
「ほう? ついに本気か!? 竜か?」
なぜそこで喜ぶ? ふつう緊張するところじゃない? 何となくわかってきた……本当に戦闘狂なだけだ……愉快でとても気持ちのいい人だけど、ここはいわば戦場、勝つためには相手を蹴落とさなければならない。
いつまでも付き合ってるわけにはいかない。残念だけどね。ただとどめを刺すときが一番スキが生まれるともいうからね。油断せずに行こう。
「よし、それじゃあ、出でよ! 氷皇竜ブイ!」
「ブイ? 竜に名前つけてんのか? ていうかそれよりも、やっぱりすげえ覇気だな、おい! それにあんた複数体の竜と契約してんのかよ! しかもこんな位の高そうな竜を何体も!? この竜の位階ってホントなんなんだよ!」
「そうだね、別に隠してるわけじゃないから教えてあげるよ。僕が契約している竜は5体、すべてが神位竜と呼ばれる位階の竜だ。そして5体のうち1体は古代竜だ」
「こ、古代? ん? よくわかんねえけど、神位竜っていやあのおとぎ話とかに出てくる最強竜たちかよ!?」
そう彼が叫んだところで会場がざわめきだした。
「なんと! 複数の竜と契約しているというだけで国家の最高戦力にもなれるだろう勢いだというのにそのすべてが神位竜だと!?」
「しかも、今の話聞きました? 彼、5体のうち1体は古代竜と言いましたわよね?」
「つ、つまり彼は歴史上に数えるほどしか存在しないといわれる英雄級の竜魔導師になれる素質があるということか……全く、なんということだ……」
「これも神の思し召しか。今現在、王族や貴族にだけ情報が流されていますが、なんとあの悪魔や天使が復活したとか……もしかすると彼は今後の王国の命運をしょって立つほどの偉人になるやもしれませんな」
「然り。有望なものにはぜひとも今後も励み続けてもらいたいものよ」
いろんなところから驚愕や称賛の声が聞こえる。中には危ない思想がわかりやすいくらいに顔に貼り付いている人もいるけど、今はそれは後回しだ。それにちょっかいをかけてきたらそれ相応の報いを受けてもらうだけだ。
貴族なら腹芸、からめ手、直接的な武力行使、全部あり得る。陛下や父上からは別に口止めはされてなかったから、今言ったけど、これからは僕の力を悪用しようとする連中もいるかもしれないから、気を付けないとね。
「さあ、舞台は整ったよ。そういえば君の名前、聞いてなかったね」
「はん、もはや周りのことは眼中にありませんって感じだな。おもしれえ! 俺はエルヴィンだ!」
「エルヴィン、か。いい名前だね。それじゃあ、始めようか」
「ああ!」
そういって僕は動き出した。彼も僕に合わせて動き出した。しょっぱなから身体強化増し増しで剣をぶつけ合った。剣戟から生じる火花が飛び散る。
僕はすぐさま距離をとり、そこにブイが一点集中で収束した氷のブレスを放った。彼は後ろに飛びのきながら、大地の槍を僕に向けて放ってきた。
申し訳ないがその程度の威力では僕の結界は破れない。僕は全身にくまなく張り巡らせる形で結界を張った。半円状に張るのは魔力消費が激しいというのを修行の中で発見した。
これについては前世の漫画などの知識を基にしたんだけど、この世界では全く予想外の発想だったらしく、教授もこの発見は魔法理論の発展に大きく貢献するとほめてくれた。
そしてまさか8歳前の少年がこの理論を提唱したとなれば、確実に一財産を築けるほどになるとまで言っていた。それは正直ありがたい。僕はまだ駆け出し貴族だし、それに爵位は最低階級だ。どんなにきれいごと並べたてても、お金が必要なのは事実だからね。活動資金にはちょうどいいだろう。
というわけで教授にはさっそくお国にそのことを伝えてもらったのだ。そのうち正式に城に呼ばれるそうだ。
そんなことを考えていると、
大地の魔法が砕け散り、砂煙が晴れたとき、そこに無傷で立つ僕を見て、エルヴィンも観客も皆一様に絶句していた。
陛下も口をあんぐり開けている。陛下ダメですよ、あなたともあろうお方が公衆の面前で呆けた顔をするなど。
まあその元凶は僕だから口には出さないけどね。
「おいおい……マジかよ。完全に入ったと思ったのによ……あれを無傷って、あんた正真正銘の化け物だな……」
「それはどうだろう? 竜魔導師の力を持っていて結界魔法を使える人ならこの程度造作もないと思うけど? まあ、でも体に合わせて張る結界は僕も最近思いついたしまだ実践してる人はいないかもしれないけど」
「それって新理論確立じゃねえか!」
へえ、やっぱり師団員の学生ほどにもなるとそういうところには気づくんだな。戦闘狂だしてっきりそういうことには興味ないのかと思ったけど。
まあ、考えてみれば賢くないと学園には入れないわけだし、不思議でも何でもないか。
「そうみたいだね」
「本当に……どこまで化け物じみてるんだよ……」
「そんなに化け物化け物言わないでくれる?」
「だってそうだろうがよ」
「うッ、いや確かにまだ誰も思いついてないかもしれない、でも逆に言えば意外と単純な理論なんだから、どこかで誰かが使ってるかもしれないじゃん」
「まあ、そうかもしれないな。まあ、とにかく今はそんなことよりも続きだ続き!」
そういって彼はまた突っ込んできた。
「そうだね」
そういって僕はブイにとある指示を出した。それは
「ッ! なんだこれ! 足が」
「氷魔法はなにも威力が高いだけの魔法じゃない。大地魔法や水魔法みたいに拘束魔法もあるにはある。それを地味だからと練習を怠るか否かで戦いの幅は大きく違ってくる。まあ、今回使ったのは僕じゃないけど」
「くそ! なら!」
「ッ! よっと。今のはかなり危なかったね」
「ほざけ! 余裕でかわしやがったくせに!」
彼は拘束されてすぐに動けない、でも僕は攻撃してくるとみるや否や、すぐに地面から土槍の魔法を放ってきた。
さすがだ。機転の鋭さは超一流だね。
「さあ、そろそろ終わらせるよ!」
「くそ!」
彼は必死に身体強化をして剣に大地属性も付与して足元の氷を砕こうとしている。だがもはやそうなった時点で勝負はついている。
「ガウ!」
ブイが氷球と言われる氷の最下級魔法を放った。彼女も理解しているのだ、普段使うような攻撃をするとエルヴィンを殺してしまうと。
今回はあくまで模擬戦闘であって殺し合いじゃないからね。まあ、高位の回復魔法師がいて魔法具もあるから即死でなければ治療はできる。でもむやみやたらと相手を傷つける必要はない。なので、彼女の気づかいに感謝すると、すぐに僕はとどめを刺しにかかった。
エルヴィンは今の攻撃をもろに喰らい、意識が飛びかけてる。
「終わりだよ、『氷結魔塊』!」
実にシンプルな魔法だ。ただひたすらに硬い氷の塊を対象にたたきつけるだけの魔法。だが古来から投石という手段が戦争に使われたりするのと同じで、硬い塊を投げつけるというだけでものすごい殺傷能力があるのだ。
これは中級魔法なので極端に威力が高いわけではないけど、それは結界や身体強化などで防御されたり、回避された場合だ。
今回のように直撃すればただでは済まない。そして事実……
「え、エルヴィン選手戦闘不能! 勝負あり! アレン・ベッケラート~!」
勝負はついたようだ。今回の戦いは実に勉強になった。相手と攻撃のぶつけ合いをしている最中に地面から攻撃したりなどの戦術は実に合理的で恐ろしいものだった。
勝ったのは僕だけど、それでも新しい学びをくれたエルヴィンには感謝している。戦闘においては総じていえることだけど、やはりすべての局面に備え、すべてのものに意識を向け、集中しないといけない。当たり前のようで実は戦闘においてはこれが一番難しいといっても過言ではない。
相手を倒すためのすべを学ぶのも難しいけど、やはり当たり前のことを当たり前にする、これが一番難しいと思う。何事もね。
「ブイ、ありがとう。今日は僕の中でゆっくり休んでね」
「ガウ!」
ブイは嬉しそうに頷いた後、僕の中に戻っていった。
そうこうしているうちに僕は会場から退場して、すぐに案内員さんが控室に案内してくれた。初めに使ってた控室はもう次の選手が使ってるから終わった後はいつも別の場所に案内されることになってる。
そこでさっと訓練着から制服に着替えて、観覧席に戻った。そこではグスタフと、ツェーザル、エレオノーレがいた。周りからすごく視線を感じるけど、僕は自然に見えるように笑顔で会釈する程度にあいさつして、すぐにみんなのいる席に座った。
「なかなかの相手だったな」
そうやってすぐにグスタフが声をかけてきた。
「ほんとにね。いろいろ学びもあって、すごく充実した試合だったよ」
「アレン、君が言うくらいなんだから相当すごかったんだね」
「うん」
「お疲れさまでした」
そういってエレオノーレが飲み物を渡してくれた。ありがたい。ちょうどのどが渇いてたんだ。
「ありがとう、エレオノーレ」
そういって受け取った。すると
「ふふ、もうすっかり夫婦だね。二人とも」
「うん。そうだね」
「はい」
「おや? 今までならあたふたしていたけど、何かあったのかな?」
「別に何も。ただ自覚が生まれてきただけさ」
「なるほど、自覚ねえ。いい事じゃないか」
「うん!」
エレオノーレは少し赤くなってる。僕もはたから見れば赤くなってるかもだけど、でも、もうあたふたはしない。
僕たちは正式に婚約したんだ。堂々としていればいいんだ。
そうしてその後はみんなのうち何人かが会場に行ったり、戻ってきたりとしながら試合を観戦していた。
ちなみに僕の後から二番目ぐらいにエレオノーレが回ってきたんだけど、残念ながらダミアンに勝つことはできなかった。ただいい勝負はできていたんだよ?
お互いに満身創痍という感じだったし、ものすごい名勝負だったよ。多分学園の歴史にも語り継がれると思う。それくらいの戦いだった。
というわけで、着々と決勝までの駒が進んでいった。この大会少し特殊で、途中から個人での試合になっていくんだけど、最終的にはそのブロックでの一番を決める形になっていて、それぞれの一番が決まったら、その複数人の一番の人たちと決勝ではバトルロワイヤルという形になっている。
まあ、参加人数が多いから仕方ないのかもね。
そんなこんなで明日からはいよいよ本当の一番が決まることになる。気を引き締めていこう。
遅くなりました。すみません!




