予選開始!
あれから2時間ほどエレオノーレと屋台めぐりや二人だけでの談笑を楽しんだ。学園には喫茶店のようなお店や学食だけでも結構な数がある。
寮の質に関しては成績が関係するが、食堂などに関しては一般的なものもあれば、高級店も当然ある。だが成績不問なのだ。だからみんなすごく利用するのだが、今回はそれに加えて屋台なども飲食関係の商人などが来て出店されている。
なのでせっかくだから今回は昼ご飯は屋台で食べて、その後学園運営の喫茶店に入った。そこでお茶をしながらゆっくり話をした。
最初は先ほどの事件の件についていろいろ話を聞き暗い話題になってしまったけど、そのあとは普段女の子の友達とどういった風に過ごしているのかとか、この半学期間で個人個人で起こったいろいろな出来事をお互いに語った。
その時間はあまりにも幸せでずっと続けばいいのにとさえ思ってしまうほど。彼女の話をうんうんと聞いているだけでも面白い。これが人を好きになるってことなのか……本当に素晴らしいものだよね。
「おっと、そろそろ時間だ。本当に楽しい時間って速攻で過ぎていくよね」
「そうですわね。それに……」
「それに?」
「アレン様は基本的に笑顔でわたくしのお話をうんうんと聞いてくださるからか、とってもお話ししやすいです。普段ほかの女生徒さんとお話ししていても聞いてくれはするんですけど、すぐに話題が変わったり、皆さんがご自分の話題をたくさん持ってらっしゃって、あまり自分のお話が長々と聞いてもらえることがないんです」
「そ、そうかな?~。僕はいつも通り話してるんだけど。でもそういってもらえて僕も嬉しいよ!」
「はい! これからわたくしもたくさんアレン様のお話をお聞きするので、わたくしのお話も聞いてくださいね!」
「もちろん! 喜んで!」
その後は喫茶店を出て、そろそろ予選が始まる頃だったのでそれぞれの待機場所に向かう。元の世界でもあったように予選は少人数のブロックで構成されていて(といっても数十人単位だが)、そこで勝ち上がれば次のブロックでの試合、どんどん上がっていけば準決勝や決勝に上がっていくという実に単純明快なものだった。
「ここが僕の待機場所か……」
そんなことを考えていると、
「お前がアレン・ベッケラートだな?」
と声をかけてくる人が……だから……はぁ~。 僕は身分を気にしないとは言うけど、それは平民たちのように身分を気にしてもしょうがない相手に対してだ。つまりああだ、こうだ言ってもどうにもできない、そんな人たちに対してだけだ。
だが目の前の人のように明らかに貴族の子息で礼儀や身分制度を教え込まれている者なら話は別だ。その場合は僕も周りの大人のように身分について多少はうるさくなる。
僕はすでに爵位持ち、つまりお家の当主なのだ。なのでいくら上位貴族の生まれでも、たかが一貴族子息が偉そうな口をきいていい理由にはならない。
これは権力の乱用ではなく事実、法として定められているからだ。どんなに爵位の高い家の子供であろうと相手が自分の家より爵位の低い相手であろうと、貴族家当主には敬意をもって接すべし、不敬な態度をとってはいけないと。
そんなこともわからないのか? この人は……まあ、いい。とりあえず何となくやり過ごそう。向こうが礼節をわきまえないなら、こちらも相手が上位貴族の子供と思われるからと言って、へりくだる必要はない。
うーん。でも今回のエレオノーレの件のように理不尽な逆恨みをされるかもしれない。こんな相手一瞬で論破して黙らせられる自信はあるけど、もう面倒な人の相手をするのはごめんだ。
というわけなので、
「左様ですが、どうされましたか?」
「ふん。生意気な奴だと聞いていたが、意外と話が分かりそうなやつだな」
ああ、もうすでに面倒くさい。消えてくんないかな? 僕の視界から。
「はあ。それでご用件がおありだったのでは?」
「ん? あ、そうだった。お前の恋人か? あの女はなかなかいいではないか……」
あ、なんか嫌な予感がする。とりあえず君、その口閉じた方が身のためだよ。僕さっきの件もあって機嫌はだいぶ落ち着いたけど、良好ってわけじゃないからさ、それ以上は言うな。
「だから、俺によこせ。そうすれば俺の取り巻きにしてやらんことも……」
言いやがった。ああ、ほんとにイライラする。
「もう口を閉じてくんない? うざいから」
「な!? 貴様誰に向かって……」
「誰に向かってというのならそれは君の方だよ。そもそも僕らは同い年だし、学園では権力乱用は厳罰対象。そのうえ、僕の名前を知っているのなら、少なからず僕の立場も知ってるんじゃないの? なら君の態度が相当まずいものだってわかるでしょ? ほんとそういうの面倒くさいからやめてほしいな」
「き、貴様この俺に向かってそんな口をきいてただですむと……」
「へえ、どうするつもり?」
僕はそう言って黙らせたうえで、この控室内にとどまる程度ではあるが、英竜闘気を放った。相手の貴族はこらえるので精一杯そうだ。
ここでグスタフやツェーザルのように普通にふるまえない時点で彼の強さの程度はたかが知れている。もし仮に彼がグスタフやツェーザルと対峙することになれば秒殺されるだろう。
それくらいの開きがある。相手するのもばかばかしい。
「そういうことだよ。実力行使なんて意味ないからね? 仮に君の家の武力を行使したとしても僕には数百、下手をすれば数千の軍勢を相手にできる力がある。お家が迷惑をこうむるだけだよ? 君のせいで。僕はまだまだ未熟で使える魔法の種類も本職の竜魔導師の人たちに比べればひよっこ同然だろう。でもそれくらいのことをする余裕なら全然あるよ? だからあまり調子に乗らないでね? 僕には権力なんて通用しないと思っておくことだ」
そういってから僕は目を閉じて瞑想を始めた。なんかその間に仕掛けてきたみたいだけど、高濃度に魔力を練り上げている今の僕にその辺の貴族の子息が使うような武器で攻撃が通るわけもない。竜たちの力も完ぺきに制御するためにしている修行なのだ。当然竜たちの魔力も使ってる。
僕の周りにある魔力濃度は圧倒的なんだ。一種の壁のようになってる。貧弱な攻撃で通るわけがない。
もうしんどい。この人の相手するの。無視だ無視。
そして30分ほどしたころ、控室に音が響いてくる形で放送が流れた。どういう原理なんだろう? 多分風魔法の応用というので大まかな原理は言い当てられてると思うんだけど、とりあえず僕たちの出番のようだ。ちなみにエレオノーレの組はすでに終わっている。見てないので結果はわからないけど、エレオノーレが勝つだろうね。
「君たち、出番ですよ。私についてきてください」
そういって、事務の人が僕たちを試合会場まで案内してくれる。入口あたりまで来た時にもう一度放送が流れた。
「では、次の試合。もう学園中で噂になっているでしょう! たった六歳で偉業を成し遂げ、爵位を授かり貴族となった少年がいる枠です! どういった経緯で爵位授与されたかはわかりませんが、実力はうそをついておりません! 確か~あ、ありました! え~入学試験の時の成績だけで一発主席、その後も必修科目、選択科目合わせ、ものすごい高得点ばかり、戦闘訓練の成績に関しても文句なし! そのうえで魔法具学の授業を学び始めてすぐに新種の兵器を開発と報告があります。今となってはその魔法具は開発・研究ともに国家指導の下行われているようです! もはや天才としか言いようがありません! では紹介はここら辺にして、アレン・ベッケラート選手、彼がいる枠です。面白くなるはずです! ではさっそく今回の枠の選手たちに登場していただきましょう!」
ああ、そういや父上が言っていたな。対抗戦の試合開始前は優秀な生徒のことは紹介が入るって。でも正直恥ずかしいからやめてほしい。
それにどっかの誰かさんが不機嫌になってるって……
「ふん。調子に乗りやがって……」
ほらね?
まあ、そんなことはよそに僕はとある相手と会話中だ。
『やれやれ、久しぶりの戦闘だな』
(だね、今回は大事な試合だしみんなに力を供給してもらうことにするよ)
『うむ。そうしたまえ。我らもおぬしの精神の中でずっと修行しておった故、さらに強さに磨きがかかっておるぞ』
(それは……戦う敵がかわいそうになるね)
『ははは、神位竜5体が修行するのだ。確かにそうかもしれんな』
(ほかのみんなも準備はいい?)
『『『『ギャウ~!!!!』』』』
(ははは。元気そうだね。問題なさそうだ)
そうして会話を終え、舞台に上がっていく。するとものすごい歓声と拍手が鳴り響く。
「キャー、アレン様ーー!」
「確かに、体もおっきくて強そうだよね」
「でも、声は結構可愛らしかったわよ? この間特1教室の前を通りかかったときにお友達と話されてるところを見かけたの。体は大きくても、バキバキという感じではないし声も優しい感じだったな~」
「ええ、いいなあ~。私も特1に行きたかったなあ点数ギリギリ足りなくて一等教室1だったのよね~」
「とにかく今はそんなことよりアレン様を応援しましょ! 頑張ってーーー!」
と、様々な応援をいろんな人が投げかけてくれる。素直に嬉しいので僕も手を振ってこたえる。
「さあ、いよいよ選手もそろって、準備万端! それでは審判、開始の合図をお願いします!」
「それでは、構えて~、用意、はじめ!」
バーン、とよく格闘技などであるめちゃくちゃデカいシンバルのようなあれ。あれが鳴り響き試合が開始した。
しかもなぜかいきなりみんなが僕の方を向いて襲ってくる。それあり!?
「ま、わめいても仕方ないよね! だったらやってやろうじゃないの!」
そういって僕が体に結界魔法や身体強化魔法を組み合わせて準備を整えたところに、一気に三人切りかかってきた。
「もらったー!」
「『水流拳』!」
「うりゃー!」
一人はシンプルに直剣で、一人は水の魔力を体にまとい肉弾戦を行うタイプ、一人は鈍器使い。みんなバラバラに攻め込んできた。
ちなみに武器は当然模擬試合用ですよ?
「甘い!」
なので僕はまず転移魔法で全員の後ろに移動し木剣の腹で首筋を叩いて気絶させ、魔法騎士の部類に入る肉弾戦の相手には、僕も同じ土俵に立って、雷撃を手にまとい、
「『雷鳴拳』!」
シンプルなだけに強い。魔法理論も何もないただ魔力をまとうだけなので練習次第で誰でも習得可能。でも理論上の強さ関係はある。つまりは雷は水に強い。
一瞬で彼の体を殺さない範囲でしびれさせて場外に吹っ飛ばし、お次の鈍器使いがようやくこっちを向いたので、
「『業炎球』!」
「グハッ!」
彼もやけどしながら場外まで吹っ飛んだ。一連の動きは3分にも満たないまさに一瞬の出来事。
会場は一瞬で静まり返った。僕にとっては何気ない動きの連続だったけど、観客にとってはそうでもなかったようで。
「「「「「「「ウォーーーーーー!」」」」」」」
ものすごい歓声だ。喜んでもらえたのなら何よりだ。
さあ、まだ始まったばかりだ。気を引き締めていこう!




