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まさかの助太刀!?

 エレオノーレは今放てる中で最も派手で、かつ使いやすい魔法を選択し上空にめがけてはなった。これで誰かが気付いてくれるはず。

 あわよくばあの人に……本当は自分の力で何とかしたいけど、今の自分の状況では何とかしようとしても逆に自分の立場を悪くし、空回りに終わるだけ。だったら素直に第三者に助力を求めよう。

 まだ幼いながらにエレオノーレの考えは実に冷静だった。そしてその狙いに気づいた令嬢が、


「まさか、他の人に救援を望んだというわけですか……はぁ、あなたには貴族令嬢としての誇りはないのですか? 状況が悪くなればすぐさま応援を呼ぶなんて」


 その言葉にエレオノーレは思わず笑ってしまう。なぜならこの令嬢は思いっきり自分に対して言ってるようなものだから。

 貴族令嬢としての誇り、ねぇ~。


「何を笑ってるんですの?」

「いえ、あなたが貴族令嬢としての誇りを語るだなんて、実におかしくて。つい」

「どういう意味ですの?」

「いえ、わからないのならいいですわ」

「くッ! この!……」


 そうしてまた令嬢が抵抗もできないようなあられもない姿のエレオノーレに対して何かを仕掛けようとしたその時、


「おい! 貴様ら何をしてるんだ!」


 この声は!? エレオノーレは驚いて振り返る……そこには意外な人物が……


「あ、あなたは!?」

「あなた様は!」


 そういって令嬢たちは驚きすぎているのと、そして声をかけてきた相手があまりにも自分たちが気軽に声をかけるのは恐れ多い相手だったので何もできないでいる。


「ぐ、グスタフ様?」

「お前は……エレオノーレか。どうしてそんなありさまなんだ?」

「い、いえこれは、その……」


 アレン以外の男性にこんな恥ずかしい姿を見られるなんて本当に情けないと思い、すぐにグスタフに背中を向ける。


「あ、あのグスタフ様……」


 そういって令嬢が声をかけようとすると、


「なんだ?」


 と、身がすくむような低い声でグスタフが令嬢たちを威圧する。もともとグスタフは武に秀でていていろいろと場数も踏んでいるので、かなりの覇気がある。そのうえ公爵家長男としての立ち振る舞い。

 大抵のものはこの状況で恐れ多く腰が引け、へりくだってしまう。事実令嬢たちは何も言い返せない。


 そして、グスタフはグスタフで聞かなければならないことがある。


「貴様ら一体ここで何をしていたんだ? ここは基本立ち入り禁止で学園の生徒なら立ち入ることは可能だが、それでも対抗戦が始まり、皆そちらに集中している状態。逆にここに用事があるものなどほとんどいない状況だ。もう一度聞く、何をしていた?」

「そ、その……」

「エレオノーレは自ら進んでそのような破廉恥(はれんち)な格好をするような者ではない。貴様らがやったのか?」

「……」

「どうなんだと聞いている!!」

「は、はい!……その、申し訳ございませんでした!」

「そこのお前、お前も加担者か?」


 本当にすごい、一怒鳴りしただけで場の空気を支配してしまった……伯爵家令嬢という大貴族の娘でこのざまだ。グスタフがどれだけ凄いかの証明だろう。

 もうこの令嬢たちは完全にグスタフの勢いにのまれている。そしてもう一人も頷いた。

 これでもう終わりだ。彼女たちは罰せられるだろう。


 グスタフについてきていた何人かの生徒に事務室にまで連行されようとしたその時、


「エレオノーレ!? いるの!?」

「あ、アレン様?」

「よかったぁーー!? どうしたのその恰好!?」

「あ、す、すみません!?」

「い、いや、びっくりしただけだから大丈夫だよ。それよりいったい何があったの?」


 ようやくアレンが来たのだ。多分相当遠い場所にいたのだろう。急いできたのがわかるくらいのすごい汗をかいている。


「そこの者たちにやられたようだ」

「ん? グスタフ!? どうしてここに?」

「さっきの魔法を見て違和感を覚えたが、この魔力の波動は彼女のものだとピンときた。そしてそんな彼女が意味もなく禁止されているはずの訓練場以外での魔法行使をした、などということはないだろうと思ったのだ。何か嫌な予感がしてな」

「そうだったんだ。てことはこのエレオノーレの状況は誰かにやられて、その犯人がそこの人たちってこと?」

「その通りだ」

「なるほど」


 そこまで言った瞬間、アレンの雰囲気が変わった。そして次の瞬間ものすごい魔力圧があたりに巻き散らかされた。


「君たちがエレオノーレにこんなふざけた真似をしてくれたの?」

「わ、私は……」

「あ、あぁ……」


 彼女たちは夢にも思わなかっただろう、自分が愛されると思い込んでいたアレンにこのような怒りの形相でにらみつけられるなどと。


「その辺にしておいてやれ。それ以上やると気絶してしまうぞ」

「別にしてくれてもいいんだけど、そうだね僕はことが終わってからようやく来ただけだし、そろそろやめておくよ」

「その方がいいだろう」

「あ、あのアレン様……」

「ごめんね、エレオノーレ、守ってあげられなくて」

「い、いえ! アレン様がどれだけ急いでここまで来てくれたのかはわかっております。その汗の量から見るに、学園の全く真反対の場所におられたんですよね?」


 そう。おそらく学園は一つの町ともいえるほど敷地が大きいのでアレンは相当遠い場所にいたはずだ。それなのに10分ほどで見つけてくれた。こんな誰も寄り付かないような場所にいたのにだ。

 感謝することはあれど、責める気なんて一切起こらない。むしろしっかり見つけてくれたことが嬉しいのだ。


「うん。朝、開会式が終わってからエレオノーレを全然見かけないから北校舎の方まで探しに行ってたんだ。すると反対側の南校舎の方から君の魔力を感じ取ってルシファーも間違いないって言ってて……心配になってきてみたんだけど。まさかこんなことになってたとは」

「全くだ。まさかこのようなくだらない真似をするものが学園にいたとは」

「グスタフ様、あ、あの、ありがとうございました」

「気にするな。これが本来のお家などの力の使い方だろう。ようやく公爵家の者としての責務が果たせた気がする」

「はい、本当に感謝しております」


 グスタフには本当に感謝だ。危ないところを助けてもらった。アレン自身が本当は助けたかったのだが、どうしても間に合わなかった。

 なので、


「グスタフ、本当にありがとう」

「ふん。別に大したことではない。そもそもこの取り締まりの役割もお前が指名してきたんだろ。役割を全うしたまでだ」

「うん。そうだね。本当に君に任せてよかったよ」

「ただ……」

「ただ?」

「今度はお前が守ってやれ。俺ではなく、お前がな」


 その言葉は重くアレンの心に響いた。一度彼女を守り抜くと決心したそばからこのありさまだ。彼がいなかったら本当にエレオノーレは何をされていたかわからなかった。

 だからこそ、真剣に彼の言葉を受け止める。


「うん。必ず」

「アレン様……」

「では俺はもう行く。まだ昼まで時間はある。もう少し見回りをしなくてはならないのでな」

「うん。ありがとね」

「ありがとうございました」

「ふん」


 最後の最後で絶対不愛想なのがとても面白い。


 


 そんなこんなで事件は一件落着。なので、


「どうする? 一緒に回るつもりだったけど、そんな格好だし、あんなことがあったばっかりだし……休憩場所で休む?」

「そ、それは嫌です!」

「え?」

「せっかくお気遣いいただいたのですけれど、わたくし今日を本当に楽しみにしておりましたの。明日の時間のある時にすればいいのでしょうけど、わたくしにとってはこの初日という大事な日にアレン様と過ごせるというのが重要なんです」

「で、でも、服はどうするの?」

「そ、それは……」


 そこでアレンははっと思いついた。そういえば自分は中に黒いシャツを着ていると、なので同じ上の白い制服のシャツだけかして、購買部に行ってエレオノーレの新しい制服を買ったらいいんじゃないかと。名案だ、と思ったのでさっそく、


「エレオノーレ、これを着なよ」


 そういってアレンは自分の制服を脱いで渡した。


「え!? ちょ、ちょっとアレン様!?」

「ん? どうしたの」

「そのような格好、ダメです!」

「よりダメな格好をしてる人が何言ってんのさ」

「で、でも」

「いいから」

「は、はい」


 そこまで言うとエレオノーレは制服を受け取り、着用した。少しぶかぶかなのが可愛い……いかんいかん。と思い。すぐに視線を逸らす。

 そこで気が付いた。エレオノーレがこちらをちらちらとみているのだ。


「どうしたの?」

「い、いえ! 何でもありませんわ!」


 慌てて否定するので余計に気になり


「何もないってことはないでしょう」

「そ、その、他の女生徒さんがアレン様のそのような格好をご覧になったら、卒倒するだろうなと思って。少し……」


 そんなことないだろうに。男の子の肌着姿見て喜ぶ女の子なんかいる? 探せばいるのかもしれないけど、なかなかいなさそうなんだけど、そう思い、


「そんな気にしすぎだと思うよ? 男の子の肌着姿なんて需要ないでしょ?」


 そんな感じでさらっと流した。エレオノーレは不満そうだったが何も問題はないだろう。そう思いアレンたちはすぐに購買部に向かった。

 その途中で何人かの女生徒がアレンたちを見かけ、何人かは顔を隠して微妙に指の間からのぞいたり、はたまた興奮でテンションが上がったりとすごいことになった。

 当の本人はまったく気にしていないのだが、アレンのこの姿に女子が注目していたのには理由がある。

 まず第一にアレンは常に身だしなみをきちっと整えている。そんなアレンが今日いきなり上半身肌着というラフな格好をしだしたので驚いている生徒が多いのと、それからもう一つの理由がアレンの容姿だ。

 アレンはあれからまた体が大きくなっており、身長は1センチほど伸び、144センチくらいになっている。長期休暇中で143センチほどでそこから半月ほどの長期休暇プラス数週間、学園に通ってる期間だけでかなり伸びた。やはり成長が少しほかの生徒より早いようなのだ。

 それプラス竜魔導師を目指しものすごいトレーニングも積んでいるので体つきもがっしりしてきている。それらが注目を集めた理由だと思われる。


 そんなこんなで、購買部に向かうまではものすごい視線を浴びたのだが、当の本人は本当にどこ吹く風といった感じ。

 エレオノーレ第一なのだ……そのことに嬉しい気持ちになりつつもエレオノーレは、


「なんかすごい注目されてるね?」

「はぁ~。本当にすごい方ですわ……」

「???」


 


 とりあえず購買部にはたどり着き、そこでエレオノーレの服を買う。その際


「では、お会計をお願いします」


 と、アレンが請求書を会計場所に持っていこうとするので、自分で払おうとして止めたのだが、


「いいっていいって、これは一番君を守ってあげないといけなかった僕が守ってあげられなかったことへのお詫びだから」

「で、でも」

「お願い、ここはカッコつけさせてよ。ね?」

「は、はい。では、お言葉に甘えて」


 最終的にはエレオノーレが折れてくれた。ちなみに制服は上一枚、銀貨5枚だった。日本円に換算すると5万円だ。やっぱり国営の学園の用意するものは値段が違うな。でも性能がいいはずなのにどうして引っ張った程度で破れたんだろう?

 そう疑問を抱くとエレオノーレが、


「おそらく彼女たちは一応師団員志望ですので身体強化を使っていたのではないかと、わたくしが成績上位ということはわかっていたと思うので、いろいろ調べられたんだと思います。わたくしが肉弾戦はあまり得意ではないことも」

「なるほどね」

「とにかく、今回は本当にアレン様、グスタフ様のお二人には助けられましたわ。あの場で手を出していれば証拠不十分でむしろわたくしが不利になっていましたわ」

「だね。見た感じ、あの子たちの身のこなしから大したことなさそうだったし、確実に弱い者いじめ状態になってただろうね。おそらく自分たちが実力行使では勝てないことも計算に入れてたんだろう。本当にどこまでもこざかしい連中だよ。でも僕は大したことはしていないよ。感謝はグスタフにしてよ。彼のおかげなんだから」


 そこまでいうと、彼女は急にムスっとしだした。なんでだ?


「確かに実際に助けてくださったのはグスタフ様です! でもアレン様はすごく遠い場所にいたのにすぐに私の居場所を見つけてくれました。それがどれだけ嬉しかったことか! 安心できたことか!」


 そういうことだったのか、とアレンは思った。でもそういってもらえると気持ちも軽くなるというものだ。


「そ、そうだね。確かに見つけられたのは本当に良かった。遅れたうえに見つけられなかったとなればどうなっていたか……」

「そうです! ですから怖かったところに安心をくれたという意味ではアレン様も助けてくれたんです!」

「うん。そうだね。見つけられてよかったよ」

「はい! ありがとうございました!」


 そういって彼女はようやく笑ってくれた。ああ……僕、本当にこの笑顔好きだなぁ。とアレンは思った。


「じゃあ、いこっか!」

「はい!」


 そうして二人は約束を果たすため、屋台がたくさんある場所の方へ歩いて行った。


 

昔は自分にひどいことした人が仲直りをして、今は仲のいい友達になっていて、助けてくれるっていいなと思って書きました。うまく書けてるかな?(笑)

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