開会式!
最後の方、性的描写というほどではないかもですが、敵の悪役感を出すためにそれ方面の描写を書きました。苦手な方はご注意ください。
さて、今日は学級対抗戦いよいよ本番だ! まず大まかな流れとしては、はじめに対戦会場である特殊闘技場に集まる。
この闘技場というのは基本的な訓練場とは違い、大掛かりな造りで建てられているうえに魔法にも強力な耐性があり、とにかくデカく観客も入ることができ、その数は10000にも上る。
10000というのは学園の生徒数に比べると多いが、学園創立から5年くらいたったタイミングでこの対抗戦が行われることになり、生徒数が入る程度では全然足りないとなり、今の大きさやデザインとなった。
大掛かりなデザインとしたのは国営という意地を見せるためでもあるが、貴族や豪商なども生徒のスカウトに訪れるからである。
そんなわけで、もうすぐ開会式が始まる。そして僕は仮設の演説台のようなところの前にいた。
「ああ、緊張する~……」
「ふふふ。アレン様なら大丈夫です」
「いやー、でも……」
「今まで、不思議に思っていたのですが、アレン様のお話はいつも説得力と言いますか、人を納得させる力があるといいますか、とにかくそのようなものがあって、不思議と共感させられる部分が多いのですよ」
「ほんとに?」
「はい!」
まただ……ほんとにこの笑顔にはかなわないな。今まで何度この笑顔に元気づけられたことか……今度お礼に休日の日にどこか一緒に遊びに行く約束でもしよう!
僕はこの間の上位悪魔の討伐も評価されて、さらに自身の開発した魔法具の利用料や発案料的なものをもらい続けてるから、すでに平民なら一生遊んで暮らせるだけの財産があるんだよね。
なのでそのデートでかなり奮発してもし足りないくらいなんだ。おいしい食事とかもたくさんご馳走しよう! それに今日だって僕の試合は午後からだし午前は時間がある。
エレオノーレもそんな感じだし、朝は一緒にそこら辺に出てる屋台とかを見て回るのもありだ。
「エレオノーレ」
「はい」
「いつもありがとね」
「え?」
「いつも君の笑顔には助けられてばかりだし、もちろん笑顔だけじゃない。ほかにも君にお世話になってることがたくさんある。だから今度そのお礼に休日にどこか遊びに行こう! そんでもって美味しい食事をたくさんご馳走するよ!」
「い、いいんですか?」
「もちろん! これは感謝の気持ちなんだから、その休日の時は遠慮しないでね! それに今日は午前は君も空いてるでしょ? だから一緒に屋台めぐりとかしない?」
そういうとわかりやすいくらいにエレオノーレの顔がお花が咲いたような笑顔になった。本当に綺麗な笑顔だな。
そして、
「はい! 喜んで!」
「やった! なんか楽しみができると、急にやる気がわいてきた! エレオノーレの言葉でずいぶんと気持ちも軽くなったよ! それじゃあ、ちょっと頑張ってくるね!」
「はい! 行ってらっしゃいませ!」
そういってエレオノーレは綺麗に腰を曲げてお辞儀をしながらぼくを送り出してくれた。僕はそのまま控えの場所に移動した。
ちなみに学級対抗戦というのは国営なので当然王族の方々が来られる。今も陛下が直々に挨拶を述べられ、そのあとに順番に各学年の首席代表が開会の挨拶をする、僕が一番最初で、その次に2年生、3年生と続き、最後の三年生が挨拶と同時に軽く注意事項などを述べ、その後開会の言葉を宣言する。
ここでようやく対抗戦の始まりだ。
「それでは、余の言葉はこれくらいにして次は各学年の主席に開会の言葉を述べてもらうとしよう」
いよいよだ。ここには多くの重鎮の方々もいらっしゃる。失敗はできない、練習通りに行こう。
「皆さま、おはようございます! 一年生主席のアレン・ベッケラートと申します」
そこまで言ったところで会場内でざわめきが起こった。なんだ? よく聞いてみると、
「アレン・ベッケラート!? あの6歳で爵位を授けられるほどの功績を上げたという……」
「まさか、師団員育成学園の学生だったとは……」
「あらあら、主席ということは頭脳の方も明晰ということですわね。それでいて師団員育成学園に入学できるほどの強さでありながら、さらに主席、将来有望ですわね」
そんな感じの話声が聞こえてきた。ああ、そういえばまだ悪魔のことも公表していないんだったな。たまたま強すぎる悪魔は僕が倒していたし、各地では名のある騎士や魔法師、魔法騎士、そして竜魔導師などが協力して何とか奴らを撃退出来てるって話だし、まだ公表する場面ではないという判断らしい。
まあ、その辺は俺にはまだあまり関係のない話だ。僕はまず僕のお家の経営と僕が守るべき人たちを守ることだけを考えよう。
万人を救おうだなんて今の僕の力では傲岸不遜も甚だしいって話になるからな。
「初めにご来場の皆様、本日はお忙しい中お越しくださり、御礼申し上げます。そして我々学生が最大限実力を発揮できるようにと、こうした素晴らしい舞台を準備してくださった教授の皆様、さらに運営補助に携わってくださった生徒の皆さん、心からお礼申し上げます。そして生徒の皆さん、いつもは激しい戦闘訓練に加え、難しい授業の数々、由緒正しく歴史ある学園の生徒としての礼節を意識した振る舞い、どれもこれも大変なことだと思います。ですので本日は気分転換も含め、お祭り気分を楽しみながら、対抗戦も頑張って、盛大にこの行事を盛り上げていきましょう! 最後までご清聴下さりありがとうございました。 一年生代表 主席 アレン・ベッケラート」
そうして、心臓バクバクの状態で壇上から降りるとその直後、会場が揺れるんじゃないかっていうくらいの盛大な拍手と歓声が聞こえてきた。
僕はその後すぐに儀礼服を着替え、制服にチェンジしてから指定された道を通ってみんなが並んでいる場所にたどり着いた。そこではみんなが”すごかったぞ!”とか”さすが我らが特1教室の首席!”とかいろいろほめてくれた。
そしてエレオノーレがいい笑顔で、
「お疲れさまでした! 素晴らしい演説でしたよ……」
とそこまで言ってくれたんだけど、そこからなぜかもじもじして言わない。なんでだ?
そう考えていると、後ろの女子が肘で着いてから『さっさと言ってあげなさいよ!』と言っていた。
「あ、あの、カッコよかった、です……」
ちょ、いきなり何を言い出すかと思えば、ここ思いっきりみんながいるとこだよ? エレオノーレってこんな大胆なことする感じだったっけ? そう思っていると何人かの女の子と男の子がにやにやしながらこっちを見ている。その中にはツェーザルもいるわけで……ああ、何となく察した。
彼らに言わされたんだな? ならここは男としてエレオノーレに恥をかかせてはダメだろう
というわけで、
「ありがとうエレオノーレ、すごく嬉しいよ。じゃあ隣、並んでいいかな?」
「は、はい……」
エレオノーレは顔が限界なんじゃないかと思うほど真っ赤だ。相当勇気を振り絞っていってくれたんだな。
すると周りからヒュー! ヒュー! って聞こえてきた。僕はなるべく笑顔で振るまった。
ただ内心どんな感じだったかっていうと……死ぬほど恥ずかしい! はい。こんな感じでございます。
とまあ、こんな感じでいろいろありながら、次々に開会の言葉が述べられ、三年生代表まで言い終わった。
その後は意外とあっさりと対抗戦に移行し、みんな試合がない人は屋台めぐりをするなり、彼女とイチャイチャするなり、友達と仲良く日ごろの話題で談笑するなり自由に過ごしていた。
なので午前は僕もエレオノーレといろいろ回ってみるつもりだったのだが、ところがどっこいエレオノーレがどこにもいない。
なんでだろう? とりあえず探してみるか。
そのころ学園の誰も立ち寄らない少し路地のようになっている場所で。
「さて、これはいったい何のおつもりかお聞きしても?」
「はぁ~、ほんとに腹の立つ女ですこと」
「そうですわね。ちょっとアレン様に気に入られたからって図に乗りすぎですわこの女」
「なるほど、大体事情が呑み込めました」
そう、今エレオノーレは二人組の女子生徒に絡まれていた。一人はなかなかに美人で、もう一人は美人とまではいかないかもしれないが、それなりにこの子を好みだという男もいるだろう、そんな感じの風貌の女子。
そして当然ながらこの程度の女子ではエレオノーレの美貌と成熟しているかのような大人の気品あふれるたたずまいには遠く及ばない。
「何が分かったというのかしら?」
「いえ、別に。ただわたくしはこれからアレン様と屋台めぐりなどをする予定でしたの。邪魔しないでいただけますか?」
「それに行かせると思う? 何のためにあなたをこの場に連れてきたと思ってますの?」
「あなた方に別に通してもらう必要はありません。気にしなければいいのですから」
「で、す、か、ら、通さないって言ってますよね?」
そういって、彼女たちを無視して戻ろうとしたエレオノーレのゆく手を美人な方の女子が遮った。そしてもう一人の方が後ろに陣取った。
「はぁ~、本当に面倒な方々ですこと」
「なんですって?」
「ですから、面倒くさいと申したのです」
「あなたさっきから思ってたのですけど、ふざけた口を利きすぎではなくて? 私の家がどういった家か知ってるでしょう?」
「ええ、存じておりますよ。伯爵家ですわよね」
そう、この女子、ただの無謀女かと思いきや結構な後ろ盾があった。
「なるほど、それで自分が相手にされず、私がアレン様と婚約しているのが許せない、そういうことですか?」
「こん、婚約!? ま、まさかそこまで進んでいたなんて。ま、まあそんなところですわ。言い方に多少の不満はありますが、おおむね間違っておりません。むしろわかっているなら即辞退するべきでは……」
「なら余計に相手にされませんわよ」
「なんですって?」
そこまで言うと、明らかに伯爵家令嬢の顔色が変わった。
「ですから、そんなくだらない考えの人など、アレン様はなおさら相手にしないと申したのです」
「準男爵家の令嬢風情が中々に言いますね。ただ私は一応相手の話は聞く主義ですの。どうしてそう思われるのかお聞きしても?」
「いいでしょう。そもそもアレン様は貴族絶対主義に相当な忌避観をお持ちです。家の権力に頼って自らの研鑽を怠るような人間など、眼中にすらありませんわ。門前払いが関の山ですわ。もちろんわたくしだって令嬢としてのたしなみが完璧とは言えないでしょう。それでもあなたよりはましな自信はありますわ」
「くッ! この!」
「いいのですか? 感情に任せて武力行使に出ても。この国において正当防衛の主張権は絶対です。あなたが手を出し、わたくしがが自分の身を守るという構図なら仮に大けがで医務室沙汰といった大ごとになっても罰せられるのはあなたですわよ?」
「それは証人がいて初めてっというやつでしょう」
なるほど、とエレオノーレは思った。だからこのような人気のない場所にまで連れ込んだのかと。
確かにこの場所で戦闘になったとしても、状況的に証人がいないのなら伯爵家の発言の方を信じる人が多いだろう。
まあ、どのみちこんな救いようのない連中を相手にするのはまずい、そう思い、
「そうですか、ではわたくしは立ち去らせていただく、それが最善の解決策ですわね」
そういって立ち去ろうとしたとき、
「だから待ちなさいって言ってるでしょ!」
そういって肩をつかまれたとき、かなり強い力でつかまれたのか、
ブチッ、ブチッ、
「きゃぁーー!」
上の服のボタンが弾けてしまった。今はまだかろうじて日の月なので気温もある程度高く、薄着で上着など着ていなかったのも不幸だったといえよう。
思いっきり下着が丸見えな状況になってしまい、その時に伯爵家令嬢の方がにやり、と嗜虐心丸出しの凶悪な顔をした。
「意外とそれらしく可愛い声出るじゃない。そんなことするつもりはなかったけど、それはそれでいい気味ね。ふふふ」
「最っ低ですわね」
「いくらでもののしってくださって結構よ? ねえ、あなたもそう思うでしょ?」
そういうともう一人の女子の方に伯爵家令嬢は向き直った。すると、
「は、はい」
震えた声で、返事をした。初めは意地悪な顔をしていたのは目の前の女と同じだけど、それがエスカレートしすぎて逆に引いているのだろう。
「ほら、この子もこういってることだし、続きを始めましょうか」
まずい、早くこの状況をどうにかしなければとエレオノーレは思った。おそらく攻撃してしまえばこの証人が誰もいない状況では自分が不利になるだけだ。
どうすれば、どうすればいい……そう考えていると、名案のようなものが浮かんだ。
エレオノーレはすぐさま呪文を詠唱し、速攻で空に向けて魔法を放った。そしてその魔法が空ではじけた。
これで伝わるはず! そして、彼が来てくれるのを待つ。
この令嬢、最低を極めてますね。自分で書いておきながら、いやな奴だな~と思ってました(笑)。




