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長期休暇 その6!

 朝食の後ディルクと対決することになった。僕としてはそのつもりは全くなかったのだけど、ディルクも6歳でもう適正判断の儀式も済ませ、どんどんと立派な魔法師へと成長している。だが彼はどちらかというと魔法騎士だった。

 身体強化などで肉体を底上げし、剣でバッサバッサ斬っていくスタイルだ。

 ただ、純粋な放出系の魔法の方も適性があるならそれを生かさない手はないだろう。なぜなら無属性魔法はどちらかというと単体の相手か自分自身に効果を及ぼすものが多い。

 つまり攻撃手数が限られてくるのだ。それだったらその鍛えた剣技に合わせて、自然属性の魔法もたくさん使っていく方がいいだろう。それに彼は竜にも認められたんだ。その力は確実にディルクを圧倒的な高みに連れてってくれるはずだ。

 絶対に使うべきだ。なので今回の模擬戦から早速使っていった方がいいと思うのだが、さて、ディルクはどう出るのだろう……


「では、はじめ!」


 父上の掛け声とともにディルクが走り出した。さっそく身体強化を使って猛烈なスピードで距離を詰めてきた。

 だが、戦闘が始まってすぐに身体強化を使うのはその魔法が使える者なら当然だ。なので僕もしっかりと身体強化を使い、動体視力なども底上げしている。

 当たり前のようにディルクの剣を受け止めた。


「まさかそんな片手間で防がれるとはさすがに思ってなかったよ……」

「そう? 今まで僕も剣を鍛錬していたことは知ってるだろ? そりゃディルクよりは剣技に才能はなかったけど、そこは工夫だ」

「工夫だけでそこまでできるなんて、やっぱり兄さまは別格だね」

「とりあえず僕も本格的に動かせてもらうよ! ふん!」


 僕は思いっきりディルクの剣を振りほどき、動体がこんにちはしているとこにノーモーションからのサイドキックをお見舞いした。これにはディルクも驚いていた。

 全く防御が追い付かずもろにみぞおちに入ってた。だが、せき込みながらもディルクはすぐに立ち上がった。

 しかし、ディルクも今ので気づいただろう。すごく深刻な顔になっているのがその証拠だ。

 どういう意味かというと、今のは立ち上がれなかったらルール上ではディルクは負けになっていたからだ。

 有効な攻撃が入った時点でアウトというルールだからね。ただこの有効な攻撃というのは、戦闘不能状態に陥らせるような攻撃という意味だ。

 つまり、ディルクは今ので立ち上がれなかったら、たった一合剣を合わせただけで敗北していた可能性があったのだ。


「嘘だろ……ははは。下手をすれば今ので負けてたってことか。俺はそこまで体術の方は鍛えてなかったから、全然対応できなかった」

「ディルク、これは模擬戦であっても実践なんだ。僕らはお遊戯のために剣や魔法を学んでいるんじゃない。だから強くなるためにはあらゆる技術を磨く必要がある」

「わかってたつもりではいたんだけど、今のを見せられたら、自分が甘かったって認めないとね」

「さ、続きをやろう」

「うん!」


 そうやって模擬戦を行っていく中で、気づいたことがある。全く模擬戦とは関係ないけど、ディルク結構大きくなってるんだよな。まだ六歳だけど130センチ台前半くらいありそうだな。

 本当に大きくなった。

 僕はもうすぐ8歳にもなるしかなり伸びた。141センチくらいだ。大体3センチくらい伸びたのかな。学園では健康診断のようなものがあるので、これは確実だ。

 みんな大きくなってる。だから気を抜くと結構痛い目に遭いそうなんだ。気を引き締めないと。


「ドンドン行くよ兄さま!」

「よし、来い!」

「『火焔球(かえんきゅう)』!」

「甘い!」


 僕はディルクが放った炎の球を転移でかわし真横に移動、そして、


「『爆裂拳(ばくれつけん)』!」


 僕はあえて剣で行かずにこぶしに炎属性をまとわせてディルクの体を打ち据えた。確かに打ち抜いた。

 でも、耐えたようだ。


「へえ~、おなかに身体強化を集中させたんだ。面白い発想だね!」

「何度も同じように肉弾戦でもろにもらってたまるか! 『(はは)なる大地(だいち)抱擁(ほうよう)』!」

「うおっっと、『氷結刃(ひょうけつじん)』!」


 ディルクは局所的に強めた身体強化を瞬間的に解除し、全身にまんべんなくまとい直した後、大地属性の拘束系魔法を発動してきた。

 それに対して僕はさっきディルクがやったのをまねて足に身体強化を集中した後、飛び上がり、そのままの流れで氷属性の刃を形成する魔法を放った。


「せりゃぁぁぁ!」


 ディルクは僕が放った氷魔法を、気合でごり押しの、ただ剣の型だけは崩さず流麗(りゅうれい)に一閃した剣で木っ端みじんに砕ききった。

 だけど悪いねディルクそれはおとりだ。


「これで終わりだ! 『冷絶世界(れいぜつせかい)』!」

「くッ! これは!? 動けない!」

「終わりだ」

「な!?……ま、参りました」

「そこまで!」


 最後は僕の前世での知識、瞬間冷却器からあふれる勢いある冷気をもとにイメージした魔法。超低温の冷気を瞬間的にあたりにまき散らし、凍らせるというオリジナル魔法を放った。

 あとは凍って動けなくなった相手にさっきのように首筋に剣を一閃すれば終わりだ。今回はあくまで模擬戦なので首筋に当てるだけで終わりだけど。


「もうほんとに、兄さま強すぎ! 竜から力を供給されてなくてその魔力量っておかしいでしょ! 上級魔法はポンポン撃ってくるし、伝説級もいくつか混じってたし。さらに兄さま自身の練度が合わさってって……逆にスキを見つける方が難しいよ」

「いやそんなことはない。正直あの、あえて炎のこぶしを避けたり剣ではじいたりせず、体で受けてから大地魔法で拘束というスキの付き方はものすごく合理的な作戦だった。僕はすぐにしっかり入ってないなっていうのを感じたから次の手を予想したけど、自分の強さに胡坐(あぐら)をかいて油断するような相手なら十中八九引っかかってたろうね」

「そうだぞディルク、お前は私が見ていない間に立派な魔法剣士に成長していたんだな。今は竜魔導師にもなれる可能性がある。これは今までお前がずっと兄の背中を追い、妥協せず、とことん努力し通してきたからこそ実った成果だ。アレンまでの道のりはまだ100歩も1000歩もあるかもしれん。だがお前ならきっと素晴らしい師団員になって、兄と比べられても何の問題もない男に成長できると私は確信している。まだこれからも人生は続いていくが、それでもディルク……よく頑張ったな。私はお前を誇りに思う」

「父さま、兄さま……ありがとうございます! 俺、いや僕はこれからも今の自分に満足せず、立派な師団員、そして貴族になれるように努力し続けることを誓います! そして兄さま! 僕は絶対あなたに追いついて、いつか、竜魔導師として貴方に勝って見せます!」


 全く、本当にうちの兄妹はすごい子たちばかりだな……アンナもどんどんと魔法の腕も令嬢としてのたしなみも上達してる。ディルクだって今目の前で宣誓してるようにすごいスピードで大人になっていってる。

 僕だってまだ完璧じゃないんだ。それでもディルクは僕を慕ってくれて、僕を目標にするというような宣言までしてくれた。

 僕もうかうかなんてしてられない。僕だって常に高みを目指す。最高の竜魔導師になるために!


「わかった。兄さんもディルクに負けないよ! ずっとずっと高みを目指し続ける! 最高の竜魔導師になるために! いつでも挑戦は受けて立つ。そして、お互いにこれからも精進していこう」

「兄さま……はい!」

「全く、私は本当によくできた息子や娘たちを持ったものだな。二人とも、これからのお前たちの活躍、期待しているぞ!」

「「はい!!」」




 そうして、僕とディルクの模擬戦闘は終わりを告げた。その後はいつも通り、魔法や剣の修行をしたり、ディルクやアンナに遊びに連れまわされたりと、忙しい一日を過ごした。

 そして、日も沈み夜になった時、


「あ、あの! アレン様!」

「うおッ! びっくりした~。エレオノーレか、どうしたんだい? そんなに真剣な顔をして」

「あ、その実は先日こちらのお屋敷にお邪魔してすぐにアレン様のお父様がわたくしの父上にお手紙を書いてくださいましたよね?」

「ああ、そういえばそうだったね。確かに自分の実家に帰ってくると思ってる娘が数日とはいえ他家の里帰りに参加してるってなったらびっくりするもんね」

「はい。それでその件で実は昨日、実家から私宛にお手紙が届きましたの」

「そうなの?」

「はい」


 そこまで言うと、エレオノーレはすごく緊張した面持ちになった。まるでこれから言おうとしてることは、自分のこれからにも影響してくるほどに重大なことだとでも言わんばかりに……


「あの、エレオノーレ? 本当にどうしたの? 大丈夫? 具合悪いなら部屋で休む?」

「い、いえ! 大丈夫ですわ。その……」

「うん」

「あ、アレン様に……」

「僕に?」

「アレン様にわたくしの実家についてきていただきたいのです!」

「……へ?」


 待って待って!? 今めちゃくちゃ思考がフリーズしたよ! どういうこと?


「えっと、それは君のお父上が送ってこられた手紙に書いてたってこと?」

「は、はい。なんでも『私もそのアレン君に会ってみたい!』ということらしく……」


 ははは。愉快なお父さんだね。いや別に訪問すること自体は問題ないよ? ただ、相手が自分の好きな女の子のお父さんだっていうだけで緊張で心臓破裂案件なんだよね?


「えっと、とりあえず話は分かったよ。僕は別にいいよ。ただ、また数日家を空けて戻ってくることを父上たちに報告しないとね」


 そう答えると、エレオノーレは一気にぱあっと花が咲いたように可愛らしい笑顔を浮かべて話をつづけた。


「ほ、本当ですの?」

「う、うん。僕もエレオノーレのお父上に会ってみたいと思ってたし」


 とりあえずその近すぎる顔を離してください……笑顔も合わさって可愛すぎて直視できないので困ります……


「う、うれしいですわ……本当に、もし断られたらどうしようと思うとどうしてもお声をかけづらくて……」


 そういって泣き出してしまった。えっと、どうしよう? 僕こういう経験ないのでどうしたらいいかわかりません。

 誰かPlease tell me what I should do! 本当にそんな状況なんだよね。

 とりあえず僕なりに声をかけた方がいいのかな?


「そんな、断ったりしないよ。むしろ誘ってくれてありがとね。さっきも言ったように僕もエレオノーレのお父上にお会いしてみたかったんだ」

「本当に、本当にありがとうございます」

「どういたしまして。ほら部屋に行こう? 今日はディルクたちに連れまわされて疲れたでしょ?」

「アレン様は本当にお優しい方なんですね」

「そうかな? 好きな子にどうすればいい印象を持ってもらえるかって考えるからかな?」

「え?……」

「え?……」


 僕はここで自分の人生最大の失敗に気づいてしまった。いや、人生最大は言い過ぎかもしれないけど、さすがにこんな場所で、こんな状況で、しかも心の声が漏れてただけなんて言う状況で告白なんて!

 ムードがないなんて次元をとっくに通り越してる!


「あ、えっと、これは、その……」

「いま、アレン様、わたくしのこと好き、と?」

「あ、いや、その……はい」


 ああ、最悪だ……こんな告白、仮にいい線行けてたとしても断られたって文句言えないぞ! 

 僕は今までに経験したことがないくらい心臓の鼓動が早くなり、多分顔も真っ赤だと思う。

 こんな姿恥ずかしすぎて、人に見せられない!


 すると、エレオノーレがまた泣き出してしまった。え? なんで?


「あ、その、ごめんなさい!……」


 ああ、そうだよな。こんなダサい男、いやに決まってるよな……とそんな感じで意気消沈していると、


「その、あまりにもいきなりだったのでびっくりして、それに……うれしくて」


 え? うれしい? それって、つまり……


「わたくしもずっと好きでした。アレン様のこと。ずっとアレン様の恋人さんになれたら幸せなんだろうなぁと思ってたので、今でも少し信じられないです」

「え? ほんとに? 僕でいいの?」

「僕で、というのはどういう意味ですか? 僕だからこそですよ!」


 そういって、エレオノーレはさっきよりも破壊力抜群の笑顔を僕に向けてきた。そ、その笑顔は僕に対しては効果も抜群です!


「ありがとう。ありがとう。じゃあ、えっと、僕の恋人になってくれますか?」

「はい! もちろんです! よろしくお願いしますね!」


 だめだ、ほんとに可愛すぎる。性格なんて考えるまでもなく完璧だし。女性としても完ぺき。ほんとにこんなに素晴らしい女性が僕の恋人に? 前世では考えられないな……


「エレオノーレ」

「はい?」

「大好きだよ」

「!?……は、はい、わたくしもアレン様が大好きです」


 そうやり取りをした後、僕はエレオノーレを抱きしめた。嬉しい。このぬくもりをずっと大事にしたい。絶対守り抜いて見せる。これからも修行を頑張ってもっと強くなって、彼女を守り抜いて見せる!

 そう考えていると、エレオノーレも抱きしめ返してきた。ここは廊下だし恥ずかしいんだけど、でも……今はこの幸せな時間を堪能したい。そう思った。

 その後はアレンがエレオノーレを彼女の部屋まで送った後、アレンも部屋に戻り、二人ともその日はうれしすぎて眠れなかった……



 こうして、新たにアレンには守るべきものが増えたわけだが、それは枷となるどころかむしろ、アレンにより強固な決意と覚悟、そして成長をもたらすこととなる……

 アレンはこれからも走り続ける。この幸せな日々を守るために……


 



少し遅くなりました! 申し訳ありません。そしてついにやった! 二人がくっついた!(笑)

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