長期休暇 その2!
翌日、アレンたちは王都の正門の前に馬車に乗って待機していた。朝とはいえ早朝から並んでほかの街に行く商人などもいるので、門の前は混むのだ。
馬車にはアレン、父上、ツェーザル、エレオノーレだ。
僕らで馬車を借りていくという話だったけど父上が速攻で、張り切って、嬉しそうに馬車を借りてきたのだ。そしてみんなで乗るぞと……なして?
まあ、別に僕としてはもともと三人で行こうって話してたから全然いいんだけど、残り二人が緊張してるね。ツェーザルは普段は父上とも親しいんだけど、それはあくまでもプライベートでの話で僕や父上だけならよかったけど、ここにはエレオノーレもいるので迂闊な態度はとれない。
いくら仲の良い友達ではあっても他の人、という点においては変わらない。なので公共の場で接するときのような態度が求められる。
「アレン、ツェーザル本当に久しぶりだな。本当はもっと会いたいが学園の規則上なかなか学外にお前たちが出られないからな。致し方ない。だがやはり文通のみというのはさみしいものだな」
「はい父上。お久しぶりですね。確かにお手紙のみでのやり取りとなりますのでさみしい部分がどうしてもあります。ただ僕は不思議と深刻なほどさみしいとは感じません。理由はおそらく父上が王都にいて、近くにいてくれているとわかっているのと、かけがえのない友人がたくさんできたことだと思います」
「そうか? そうなんだな……それは本当に良かった」
よかった。父上最初は少し寂しそうに話していたけど、今の話を聞いて少し安心してくれたみたいだ。
「そうですね。僕もアレンやほかの友人たちと出会えたので実家の両親と妹に会えなくても、不思議と孤独感は感じません。しかしそれでもお久しぶりにベッケラート男爵にお会いできてうれしいです」
「そうか、ツェーザル、君にも新しい仲間ができたか。そうそう今も言っていたが最近妹が生まれたんだってな。ようやく1歳になったあたりかな?」
「はい。生まれてすぐにこっちに来たので顔を見て少し一緒に時間を過ごした程度ですが……」
「そうか、でも妹には変わりないし、実家に帰ったら存分に遊んであげなさい」
「はい! もちろんです!」
と和やかに再開のあいさつを済ませ、お次は
「そして君がアレンやツェーザルのご友人かな?」
「は、はい。初めましてベッケラート男爵様。わたくしはエレオノーレ・ブラームスと申します。ブラームス準男爵家の次女でございます。アレン様とツェーザル様とともに勉学に励ませていただいております」
「これはご丁寧にどうも。いやはやこんな素晴らしいお友達ができて本当にうれしい限りだよ! アレン、ツェーザル。何かあったら男として、貴族紳士として、師団員を目指すものとして彼女を守ってあげなさい。守るといっても戦いだけとは限らないからね。私からは以上だよ」
「はい! 父上、肝に銘じておきます」
「もちろんでございますベッケラート男爵!」
やっぱりすごいなあ父上は。エレオノーレも驚いているけど、それも含めてみんなの緊張をすぐに解いてしまった。それと今の話、地球に住んでいたころの考え方だと、別家の当主の息子に説教してる偉そうな人みたいに受け取られるかもしれないけど、この世界では割と一般的みたい。親が子供をしつけるのではなく、大人がしつけるみたいな? 僕もはじめは少し戸惑ったけどね。
そんな感じで馬車での旅はいったん終わり、中継地点の街に着いた。ツェーザルは途中で別れ別の馬車に乗っていった。そしてエレオノーレと僕はこれから一緒に実家に向かう予定だ。僕がエレオノーレも我が家に三日ほど泊まってもらう予定という旨を話したら、父上がはじめは驚いていたけど、次にはそれはいい! ではブラームス卿には私から連絡しておこう! と言ってくれた。快く受け入れてもらえたので、僕もエレオノーレもとりあえず一安心だ。
「この街にもずいぶん久しぶりに来た気がします」
「そうだな。実際のところ約二か月ほど来てないからな。そう感じるのも無理はない」
「わたくしも実家からどこか遠い街へ向かう時はよくこの街に立ち寄らせていただいてます」
「そうなのか。ならここにいる者全員がこの街の勝手を知ってるのだな。なら話は早い。とりあえず近場に宿をとって今日は休むとしよう。時間ももう遅いしな」
「はい、父上」
「承知しました」
そして、時刻は深夜2時頃、本来ならあたりは静寂に包まれ、寝静まっているころ……そう、本来なら……
ドーンッ!
「な、なんだ!?」
強烈な地揺れと、強烈な魔力反応で飛び起きるように目を覚ますアレン。
そして急いで外に向かおうと外套を羽織ってドアに向かったそれとほぼ同時に、激しくドアをたたく音が鳴り響いた。
「アレン様! 何かあったみたいです!」
エレオノーレだった。僕はすぐさまドアを開けて顔を出した。ちなみにエレオノーレはすっぴんだった。でも超絶可愛かった。すごいなほんと。とそんなどうでもいいことはおいといて、
「うん。わかってる。父上は……心配するまでもなかったみたいだね」
「そのようですわね」
「二人とも無事だったか!?」
「はい、父上。大きな爆発のようなものが起こっているようですが、幸いここには被害が及んでいないようなので」
「そうか、それならよかった。すぐに外に向かうぞ! エレオノーレ、君はここに……」
「わたくしも向かいますわ!」
「な、何を言って!?……」
「父上、何の問題もございません。彼女も後方支援の師団員ではなく、前線での戦闘員の志願です。魔法戦闘も当然のようにこなします」
「そうなのか?」
「はい」
「なら問題ないな。しっかり働いてもらうぞ。これは魔力反応だから、おそらくは襲撃だ! 二人とも気を引き締めてな!」
「「はい!!」」
話し合いが終わると、僕らはすぐに外に出た。目をそむけたくなるような惨状が広がっていた。
僕らの宿まで被害が及ばなかったんじゃない……ただ運が良かっただけだ
「そ、そんな。いったい何が起こっていますの?」
「なんとむごい……この建物に魔法が当たっていなかっただけだ」
「とにかく元凶の魔力反応が濃い場所に向かいましょう! これは……二人ですか。そして片方の魔力には覚えがあります。しかもこの反応あの時よりはるかに上です!」
「悪魔か……こんな時になんということだ!」
この身の毛がよだつような圧倒的威圧感……あの時は最終的にルシファーたちに力を供給してもらったから大した脅威に感じなかったけど、ルシファーたちに頼む前までは本当に鳥肌が立つくらいには脅威を感じたんだ。
中位悪魔でそのレベルだ。今回は気を抜くと死ぬと思った方がいい。
そんなことを考えながら魔法が飛んでくる元凶のところにたどり着くと、
「ああ、もう! うっとおしいな~お前! 俺が何したっていうんだよ? ああ!?」
「何をしたって……それ本気で言ってるんですか? あたり一帯なりふりかまわず破壊しつくしていたくせに、よく言えたもんですね……本当にこれだからゴミムシどもは」
「お前死にたいのか? ああ、そうだよな。そうらしい! じゃあ死のう! な? お前だけ」
「弱い虫ほどよく吠えるとはこのことですか」
「ああ、俺も昔聞いたことあるぜ~。弱い羽虫ほど見栄を張るってな」
「は~もういいです。あなた死になさい」
「お前がな!」
なるほど、天使と悪魔というわけかな? 片方は見るからに悪魔だけど、片方は純白の翼を生やしてるからな。そして犬猿の仲というのもどうやら本当のことらしい。人間なんか眼中になく自分たちの世界で話してる。
そりゃ、迷惑な存在認定されるわな……
「あの~すみません。喧嘩ならよそでやってくれます? 面倒だし迷惑なんで」
「アレン、我々はどうする?」
「とりあえず父上は聖杖でいつでも戦える準備をお願いします。エレオノーレは少し距離をとって遠距離支援と、回復を頼む」
「わかった!」
「承知しましたわ。でも悪魔と天使ですか……おとぎ話だと思っていましたが、実在したのですね」
「そうだね。その辺は後で考えるとしよう! とにかく今はこの街の防衛が最優先だ」
そうやって、手早く作戦会議を終えたその時、
ヒューーードガンッ!
と悪魔が大魔法を打ってきた。だが、
「あっぶな。いきなりとは穏やかじゃないね、悪魔さん?」
「ほう? 俺のお遊び程度の魔法とはいえ、ようやく骨のある奴が現れたね~。だがあいにく今はこの羽虫と取り込み中なんだわ。死にたくなかったらおとなしくしてな!」
「ふん! ゴミムシとはいえ、我らと対等に渡り合う者の攻撃を捌くとは、あなた何者です?」
「ねえ、そんなことどうでもいいからさ、ここで暴れんのやめてくんない?」
「ああ? お前人間のくせにずいぶん生意気だな? まあどうでもいいやどのみちお前は殺す。俺はこいつのせいで死ぬほど虫の居所が悪いんだ。余計な真似しなきゃ長生きできただろうによ。哀れなガキだぜ」
「ふん。私もちょうどこのゴミムシを始末しようと思っていたのですが、とんだ邪魔が入ったものですね。人間風情がふざけた真似をしてくれる!」
ああ、この人たち退く気全くないわ。元から戦う気だったけど、なるべく場所を移したいんだよな。仕方ない。少し多めに魔力を消耗するけど、街の外にここにいるみんなごと転移させるしかないね。
そうと決まれば、せえの……は!
「な、なんだいきなり!?」
「ま、まさか私たちごと街から転移したのか? くッ! 全くでたらめな奴ですね! 雑魚と思っていましたが、どうやら誤解だったようですね。あなたも私の敵だ!」
「全く、アレン……お前は本当に規格外だな」
「す、すごすぎますわ」
「さ、早く始めようか。初めから全力で行かせてもらうよ。顕現せよ! ラー!」
「キュオーーーー!」
僕はさっそく炎凰竜ラーを顕現させ、戦闘準備に入る
「お、おい……まさかそいつ神位竜じゃねえのか!?」
「何!? た、確かに強烈な覇気だ……ですが生まれたてのようですね? どうにも今まで出会った竜どもと比べると物足りなさが残る」
「ふん、この羽虫が強がるのはいいが俺も相手だってこと忘れんな」
「むろん。あなたも相手取るつもりです」
「なんだかわたくしたち、置いてきぼりですね。まあそれでも役目は全うしますけど」
「そうだな。だが私も負けてられん……聖杖解放! ハーーーッ!」
そういって父上が聖杖の能力を解き放った。これで父上も全開だ。それにしてもすごいな聖杖……父上の魔力量が5倍くらいになったぞ。しかもこの圧倒的な魔力圧、あの時の中位悪魔なんて遊んで倒せるんじゃないか?
「全く、まだ面倒な奴がいやがったか……」
「人間にしてはなかなかです」
「よし、準備は整ったし、君たちにはさっそく退場してもらおうかな?」
「ふん! ぬかせ! 余裕ぶっこいてっと死ぬぞガキ! 上位悪魔なめてっと後悔すんぜ!」
「私も随分となめられたものですね……」
そうして、戦いは始まった。せっかくの長期休暇ではあるのだが、初日から波乱の展開となってしまった。だがここで奴らを放っておくわけにはいかない。
なのでアレンたちは覚悟を決め戦いに身を投じていく……
長期休暇、まだ続きそうです(笑)




