長期休暇!
アレンが銃の魔法具を開発してから二週間後、学園では一年生にとっての最初の関門、中期試験がついに行われた。
結果は皆上々だった。唯一変化があったのはエレオノーレで、いつも第三席だったグスタフを抜いて順位が入れ替わったこと。僕が主席、ツェーザルが次席、エレオノーレが第三席、グスタフが第四席、カールが第五席、ダミアンが第六席、ベティーナが第七席だ。
本当にみんなすごい。まさに死闘だったよ……今回は僕もかなり危なかった。あと二教科くらいツェーザルに追いすがられたらマジで同列に追いつかれるか、抜かれるかしてたかもしれない。
それほど熾烈だった。
「やぁ、みんなほんとにお疲れ様! 中期試験ほんとに難しかったけどみんな安定のすごさだね!」
「ふん。安定で主席をいつも維持しているくせによく言う」
僕がそんな感じでみんなをねぎらうと、グスタフが反論してきた。ただ、今までのように棘のある反応ではなく、茶々を入れるような感じだ。
本当に良かった。学園始まって以来いろんな勉強を頑張って、いい成績を収めるようにして、知識を付けてきたけど、グスタフと仲直りできたのが一番の収穫だと思う。人間関係的にも、貴族として公爵家の人間と仲良くできたという打算的にも。
なんか最近貴族の執務もちょくちょくこなすようになってきて、こういったずる賢い考えも身についてきた。貴族として成長できてるって面で考えると、うれしいんだけど一人間的にはあんまりうれしくないかも。
ただ、これも必要なスキルだから贅沢は言ってられない。むしろ腹芸はもっと覚えるべきだと思う。
「そうかもしれないけど、僕だってかなり危なかったんだよ?」
「わかっている。お前がツェーザルにあそこまで追いすがられたのは初めて見た。だがそれよりも、俺はお前に負けたというのが一番大きい」
そういうとグスタフはエレオノーレに向き直った。真剣なまなざしで。
「そうですわね。わたくしもはっきり申し上げると、総合であと2、3点低かったらグスタフ様に負けていましたわ。ほんとに辛勝でしたわ。ぎりぎりです。確かにグスタフ様に勝てたとはいえ、うぬぼれる余裕なんて一切皆無ですわ」
「そうだね。今回僕たちの中で成績争いが最も激しかったのは間違いなく二人だろうね」
「うん。僕もそう思う」
「わたくしは、またダミアンに負けてしまいましたわ。次は負けませんわよ!」
「俺だって順位を下げるわけにはいかないね。俺たちはこの学園において既に優遇措置を入学時から受けれていて、特等教室の成績を維持し続ければそれは永遠に変わらないとは言え、成績を簡単に下げていいというわけではないしな」
「ああ、そこは激しく同意する」
そうそう、今気づいてもらったと思うけど、ダミアンとグスタフの関係についてもすごくよくなってるんだよ。本当にいい関係だと思うよ僕たちは。自分でいうのもあれだけど。
「まあ、とにかくみんな無事に乗り切れたということで! あとはゆっくり次の学期まで長期休暇を楽しもうよ!」
「そうですわね」
「うん! 本当にみんなと仲良くなれてよかったよ! 来学期もよろしくね」
「そうだな! 俺もまさか平民でこの輪の中に入れるとは思ってなかったからすごくうれしいよ」
「うん。みんなの元気な顔を来学期もまた見たいな」
「本当ですわね。また来学期もよろしくお願いしますわ」
そんな感じでみんなで今学期の締めくくりをして解散した。
学園では基本的に学期の授業が終わったらもうそれぞれ自由にしていいという感じなので、みんなすぐに実家に帰る準備を始めたりする。僕もその一人だ。
「よし準備完了っと」
僕は部屋で帰る準備を終えると、共同スペースの談笑室みたいなところに向かった。
「お、来たねアレン」
「今支度が終わりましたの?」
「うん。お土産とかいろいろ詰めたりしてたら結構時間かかっちゃった」
「ああ、あの休日に見て回ったお土産ですか?」
「そうそう。あの時はありがとね。エレオノーレ」
「い、いえ。わたくしも少しはしゃいでしまったし、すみません。あの時は長時間おつきあいしていただいて」
「全然いいよ! 楽しかったし!」
「ほ、本当ですの?」
「うん!」
そこまで話していると、なぜかツェーザルがにやにやしていた。何さ、その気色の悪い笑みは……
「ほうほう、なるほど。二人はこの間の休日に一緒に遊んでいたわけだ……ふむふむなるほど」
「な、なんなの? ほんとに」
「そ、そうですわ。なんかツェーザル様……不気味ですわよ?」
「そうかな? ふふ」
なんだかよくわからないけど、ツェーザルが少し楽しそうだな。まあ、いいや。
それよりあの時は本当に楽しかったな……実をいうとここ数週間でエレオノーレが急にこう、なんていうのかな? 女の子っぽくなった? っていうのかな? 今までは普通に友達って感じだったんだけど、急に色っぽくなったというか……だから正直最近、何かとこの子を意識してしまってる気がして、普通に話すのも苦労してる気がする。
なのであの時誘うのもかなり勇気が必要だったんだよね。なんなんだろうねあの気持ち。
前世の時からあんまり女の子とのかかわりはなかったから、すごく対応にも気を使っちゃうよ……ははは。
とそんなことを考えていると、
「そういえば、よく考えたらなんだけど、ブラームス準男爵家と言えばアレンの実家のさらにさきを行ったところじゃなかったっけ?」
そうツェーザルが切り出してきた。
そういえば、地理を勉強したからあらかた立地はわかる。それによると確かに僕の実家のさらに先を行ったところにエレオノーレの実家がある。
「確かに言われてみればそうだね。なんかすごい偶然だね!」
「そ、そうですわね。これもご縁か何かでしょうか?」
「かもしれないね!」
「本当に僕たちは出会うべくして出会ったって感じだね」
まさにツェーザルの言ったことがすべてだと思う。前世でも人とのつながりはご縁が関係しているみたいな感じで親に教わったしね。
「だったらいっそ途中まで、三人で一緒に帰って、僕が別れた後は二人で一緒に実家に向かいなよ!」
「え?」
「あ、あのツェーザル様!?」
「そんな驚くことかな? 全然普通だと思うけど」
「ま、まあ家が近いなら普通なのかな」
「そうですわね。言われてみれば」
「だからいっそ一緒に帰って、途中アレンの家によるのもありなんじゃない? 確かアレンは家族から友達とかはぜひ紹介してほしいって言われてるんだよね? ならちょうどいい機会だと思うし」
「そ、そっか。それもそうだね。全く考えつかなった」
「ほ、本当にいいんでしょうか? せっかくのご家族との再会にお邪魔してしまっても」
「全然いいと思うよ! 父上とも一緒に実家に帰るけど、むしろ張り切りそう……父上は常に僕の友達とも会ってみたい! とかって言ってたから」
「左様でございますの? では、アレン様がそれでも良いとおっしゃるのでしたら、ぜひお邪魔いたしますわ。うう、緊張します……」
ははは。そんなに緊張しなくてもいいのに。なんかわくわくしてきた! でもなんなんだろうこの無性にうれしい気持ち? よくわからないけど、とにかく大事な友達をようやく紹介できるということが大事だよね。
本当はグスタフやカール、ベティーナやダミアンも紹介したかったけど家が全く違う方向だから仕方ないか。もし今度また機会があれば考えよう。
「とりあえず、エレオノーレ、今回はよろしくね!」
「は、はい! こちらこそよろしくお願いします!」
「ははは。なんか結婚を申し込んだ男性に女性側が笑顔で答えてるみたいな場面だね」
「な!? ちょっとツェーザル!? 変なこと言わないでくれよ!」
「そ、そうですわ! びっくりしましたわ!」
「でもその割には、二人とも嬉しそうだよ? なんかまんざらでもないような感じ」
「そ、そんなこと……」
「ははは。アレンどうしたんだい? 顔が真っ赤だよ?」
もう、ツェーザルがいきなり変なこと言いだすからだよ! 心臓が止まるかと思った!……でも今言われてみて何となく腑に落ちたというか、もやもやしてたものの正体にたどり着いたというか……
も、もしかして僕、エレオノーレのこと……好きなの? 多分そういうことなんだろうと思う。
自分で気づいてなかっただけで、でもどっかで彼女のことを意識してたんだろうな……じゃなかったら今みたいなこと言われてもこんなにドキッとしなかったと思う。普通に笑って流してたと思う。
「まあ、とりあえずからかうのはここまでにして、君たち二人が無事に帰省を終えられることを祈っているよ」
「う、うん」
「は、はい」
その後、アレンとエレオノーレはお互いの顔を直視できないほど赤らめて、部屋に戻り眠りについた。
うーん。恋愛シーンは小説自体初執筆なので当然ですが書くのが難しい。うまく書けてるといいんですが、お楽しみいただけると嬉しいです。




