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団体模擬戦 その2!

 さっそく僕たちは行動を開始した。まずは見晴らしのいい場所、それでいながらこちらの場所を容易には特定されない場所が望ましい。

 今回の魔法学応用の実技試験は学外で行われているからだ。森林地帯で行われている。なので、いかに地の利を生かすかが勝敗の分かれ道なるだろう。


「とにかく、まずは場所を移そう! 見晴らしが良くてかつ僕たちの居場所を容易に見つけられない場所がいいと思う」

「それはいいけど、そんな場所すぐに見つかる?」

「あるさ。例えばあの高台のような場所とか。おそらく森だし高い場所にも木々はあると思う。絶好の場所だ」

「さすがだな。主席様! 俺は乗った!」

「わたくしも他にいい案は思いつきません」

「よし全会一致だね。それじゃあ行こう!」





 その頃とある班では、


「グスタフ様、これからどうされますか? まずは見晴らしのいいところにでも移動しますか?」

「そうだな。自分たちの居場所も容易に特定されにくい場所がいい。あの辺にしよう」

「承知しました。貴様らもいいな?」

「は、はい」

「問題ございません」


 グスタフの班だ。ここは完全にグスタフが牛耳っている。アレンの班もアレンを中心に回っているのは確かだが、その方向性が全くと言っていいほど逆だ。




 そしてもう一つの班が、


「さて、エレオノーレ、君には回復魔法での補助と、状況に応じて魔法での援助を頼みたいんだけど、いいかな?」

「ええ、ツェーザル様。いつでもいいですわ。準備はできております」


 そうやってそれぞれが準備を始めていた。そんな中でエレオノーレには迷いというか葛藤というかそんなものがあった。それは


(どうしてこんなに残念に思っているのかしら? どうしてアレン様と戦わないといけないと思うだけでこんなにつらいのかしら? もちろんこの広い会場です。戦わない可能性もありますが、それでもこのもやもやとした感情、調子が狂いますわ)


 そんなことを考えていた。その感情がとあることを示すというのに彼女はまだ気づかない。




 そのころアレンたちは既に高台に着いていた。ちょうど目の前が通路のようになっていて、それでいて自分たちの周りは木々に囲まれている。ここを通った者に奇襲をかけるのも悪くない。

 試験開始の場所からそんなに離れていない上に、この辺ではここしかまともな通路はないので大抵はここを通るだろう。そこを一網打尽にすればいい。


 そう考えていた時だった。

 ヒューーーー、ボワッ!


 風切り音が聞こえてきたので、とっさにみんな回避行動をとったが、かなり危なかった。


「みんな大丈夫!?」

「うん! 問題ないよ!」

「こっちもだ!」

「いつでも反撃可能です!」


 よしよし、思ったよりもみんな落ち着いてるな。これならすぐに立て直せそうだ。


「ふん。避けたか。勘のいい奴らだ。この高台がいいと思ってきてみれば、まさか貴様がいるとはな……アレン・ベッケラート」

「なるほど、結構ふざけた威力の魔法だと思えば、魔法成績上位の君なら納得だね。グスタフ」

「私を呼び捨てとは、本当にいい度胸をしているな。一度八つ裂きにされないとわからないか?」

「うーん、そういわれても、法律上、僕の方が立場は上だし。というかむしろ君の方が貴様とか言っちゃってまずいと思うけど」

「貴様はほかの下位貴族の当主が上位貴族の子息と会話しているところを見たことがないのか?」

「あるけど、それを参考にする必要がなかったから」

「どういう意味だ?」

「だってそういう人たちって少なからず、相手の子息に対して敬意を持ってるから敬語を使ったりするんでしょ? でも僕はそもそも君のような考えの人に対して敬意を抱けないから必要ないかなって」

「なるほど、わかった。貴様と私は未来永劫(みらいえいごう)分かり合えることはないということがな!」


 そういうと、グスタフは上級の炎魔法を使ってきた。彼の適性は炎か。ほかにもあるかもしれない、気を付けよう。それにこっちにはカールもいるし戦況は悪くない。

 そしてわかったことが一つだけ。僕は彼があの入学式の時以来、ましになってるならちょっとずつ仲良くなっていけばいいかなって思ってたけど、やはり無理だ。彼と話しているとどうしても不快感が勝ってしまって、余計な一言を言ってしまう。多分本当に根っから相性が悪いんだと思う。そもそも僕が1番嫌いな考えを持ってる人だしね。とりあえずこれからは本当にかかわらないに越したことはない。

 今後僕の貴族人生に邪魔をしてくる可能性はあるけど、それはその時対応する。


「『大地(だいち)大盾(おおたて)』!」


 大地属性の大きな盾を地面から突き出し、防いだ。そして、


「『水霊(すいれい)(ささや)き』!」


 カールが水の捕縛魔法を発動し、彼らを水の膜で覆った。一人捕縛できたようだが、そのほかはグスタフ含め健在だ。むしろ、


「ええい! うっとおしい!『断罪(だんざい)業炎(ごうえん)』!」


 前面に超火力で焼き尽くす中級魔法を放ってきた。さすがだな……これほど中規模、大規模の魔法を連発して汗一つかかないなんて……ん? 待てよ、それってもしかして……警戒しておく必要はありそうだ。もしそれが正しいなら僕も本気を出さないとだし、いくら属性が有利だからってカールでも相手するのは難しいかもしれない。

 とりあえず、


「『熱風牢獄(ねっぷうろうごく)』!」


 これで相殺した。あとはみんなにも指示を出してと思ったが、みんなそれぞれ動いていた。カールはすぐにグスタフへのけん制の魔法を放ち、グスタフはそれに対応する。ベティーナは風の中級魔法でグスタフの仲間の一人を攻撃していた。ダミアンは仲間全員の体の形に合わせて結界を張ってくれた。

 これはマジでありがたい。なんせ彼の結界、上級レベルだ! これはいいぞ!


「ふん! 仲間と連携とはずいぶんと仲がいいみたいだな? 特にそこの水魔法の奴からはお前への信頼がプンプンと伝わってくる。全く……反吐が出そうだ」

「なんだって?」

「だから、反吐が出そうだって言ったんだ。お仲間ごっこをして楽しいゴフッ!!」

「僕に対するあたりがきついだけなら見逃したけどさ、友人に八つ当たりすんのやめてくれない? 本気でうざいんだけど、君」


 そういって僕は少しムキになって身体強化してグスタフの顔面に思いっきり一発入れてしかも、インドラを召喚してしまった……まあいいや。こいつはどのみち叩き潰すの決定だし。と、その時、


『我は出なくていいのか? アレンよ』


 ルシファーだ。ありがたい申し出だけど、さすがに君が出たら弱い者いじめになっちゃうよ。だから、


『大丈夫、今回はいつも通り力の供給だけお願いね』

『了解した。だがアレン、あの者の覇気……』

『うんわかってる。多分彼も竜に認められてるね』

『油断するでないぞ』

『もちろん!』


 一瞬でそのやり取りを終わらせて、周囲に意識を向けるとみんな絶句していた。グスタフもかなり驚いている。


「き、貴様! まさか竜に認められていたのか! それになんだその強烈な覇気は!? 上位竜? いや超位竜か?……まあ、いい貴様がその気なら! 顕現せよ! 業炎竜(ごうえんりゅう)!」

「へー、まさか上位竜とはね」

「余裕そうだな」

「まあね。全く脅威を感じないし。とりあえずみんなは下がってて、危ないから」

「う、うん!」

「わかった」

「了解です」


 それと今気づいたけど、カール達、いつの間にかグスタフの仲間制圧してるし……すごいなこのメンツ本当に。


「ほう。気が付けば、俺の仲間が制圧されているではないか。なるほど、少しはやるようだな」

「さ、場は整ったみたいだし、始めようか」

「いいだろう。俺は貴様を倒し、一位の座を狙う!」

「僕も負けないように、少し本気で行くよ」


 そういい終わった瞬間二人は同時に動き出した。目にもとまらぬ速さで。グスタフは当たり前のように身体強化と転移を使ってきて機動力は抜群だ。天狗になる理由もわかる気がする。


「『凶星爆炎陣(きょうせいばくえんじん)』!」


 いきなり伝説級の威力の魔法を放ってきた。しかもその内容はとても悪辣(あくらつ)だ。炎の隕石のような塊が空から無数に降ってくる。

 それを僕は、


「『(いかずち)滅大鎌(めつだいれん)』!」


 雷の大鎌で切り裂き対処する。それだけで放電が無数にはなたれ、隕石は消滅した。そして同時にインドラに攻撃を仕掛けさせた。ちなみにいうとこの一年で小竜たちはとっくに成竜に近いくらいに成長していた。戦闘力は以前の比ではない。


「こざかしい! 『破滅(はめつ)煉獄将校(れんごくしょうこう)』!」


 なんと、彼は炎の魔法獣(まほうじゅう)を召喚してきた。それもかなりの力を内包している。魔法獣とはその辺にいる魔物や魔獣その他生物とは違い、魔法でしか生まれない意志ある獣だ。ただ術者の命令に絶対服従する性質がある。こんな高度な魔法が使えるとは……本当にその性格が惜しまれる。悲しい限りだよ、グスタフ。


 僕は大鎌で数合打ち合った後、一気に魔法獣を切り捨て、勝負に出る。


「まさか! 魔法獣をそんなに簡単に倒すだと!? クッ!」


 ほらほら僕にばかり気をとられているとインドラにやられるよ?


「これで終わりだ!『月下雷鳴(げっからいめい)』!」


 そういって僕は雷をまとわせたこぶしを飛び上がってから地面にたたきつけた。

 すさまじい轟音とともに、あたり一面に百いや、千は超える青色にまで変色した高温の雷が降り注ぐ。カール達にはあらかじめ伝説級の結界を張っておいた。

 この魔法は帝王級の威力だが、しっかりと術式を丁寧に組み込んでおけば伝説級の結界でも防ぐことは可能だ。こういうところが防御魔法のいいところだよね。術式を丁寧に組む必要はあるけど、少ないコストで性能のいい結界とかを打ち放題。実に便利だ。


 砂煙が晴れたその先には、大やけどでただれたグスタフとダメージ蓄積が許容量を超え動けなくなり、そろそろ自動的に宿主の体に帰ろうとしている業炎竜がいる。


「ベティーナ、今の僕の回復魔法じゃ完全には治せないだろうから君にお願いできないかな?」

「任せてください。お安い御用です」


 そして彼女はグスタフに回復魔法を使った。するとグスタフはのそのそと起き上がってきた。


「俺は……負けたのか」

「そうだね」

「俺を治療したのは、そこの貴族令嬢か?」

「うん」

「ふん。そうか。無様なことだ」

「そんなことはないと思うけど。僕の友達を罵倒するようなことを言ったのは許せないけど、君の魔法の実力は間違いなく本物だった」

「圧勝しておいて何を……」

「そうかもしれない。けど僕は本当に君のオリジナル魔法の数々に驚いた。教科書に載っているような魔法だけでなく、自分で考えた魔法も織り交ぜてた。ここは先生が感知魔法を発動して試験を監督してるから先生には君の魔法は絶対に見えていたはず。間違いなく最高評価だよ」


 そうなのだ。彼は本当に剣術も数合打ち合ったがすごい力を持っている。惜しむべきはその性格のみなんだ。僕は真剣なまなざしで彼を見た。


「ふん。さっきまであれほど俺のことをバカにしていたくせに。よく言う。ただ、なんだかなあ、これだけ完膚なきまでにやられると、かえってすがすがしいな。まあいい。アレン・ベッケラート」


 そういって彼は僕をまっすぐ見た。


「俺は貴様のことを少し誤解してたようだ。自分より下のものを、気に入らないものを見下しているだけの奴かと思ったが、違うようだな。剣を交え、魔法を撃ち合い何となく察した。おそらく、いいや俺が間違っていたのだろう。昔は無我夢中で魔法や剣術を磨いていたのに、いつしかお家の格や名声にしかこだわらなくなっていた。情けないことだ……。少しだけだがお前に感謝しているぞ。ベッケラート卿」

「そう思ってくれてよかったよ。できればこれから仲良くしてほしいんだけど、どうかな?」

「ふん! まあ、考えておこう。次は負けん!」


 グスタフ、勘違いしてたのは僕の方だよ。多分君は被害者なんだよね。お父さんからずっと間違った教育を受けていて、いつしかそれが普通ととらえるようになった。多分それが真相だろう。

 だったら僕がやることは一つだ。


「ねえ、グスタフ」

「なんだ?」

「入学式の時、あんなにキツいこと言ってごめんね?」

「なんだ、そんな前のことか。別に今更気にするようなことでもないだろう。だがまあ、謝罪は一応受け取っておく。では俺はもう行く。お前に負けたのだ。次の相手を探さねばならん」

「そうだね」

「ふん」


 何とか謝罪を受け入れてもらえたみたいだ。やっぱり仲直りって気持ちがいいね! ツェーザルやエレオノーレにもこのことを後で伝えなくちゃ! まあでも、エレオノーレに関しては直接脅された形だから許せないかもしれないけど。それはそれで仕方ないか……


「えっと、ずっと気になってたんだけど、あのグスタフさまと何か因縁でもあったの?」

「そうだな、俺も気になった」

「何かあったのですか?」

「そうだね。入学式の時にいろいろとね」


 それだけ言うと、みんなそれ以上は追及してこなかった。ほんとにみんないい人たちだ!



 その後、ツェーザルと戦うことも想定していたのだけれど、完全に反対側のエリアで彼らは試験していたみたいで、結局会うことはなかった。試験は終了し、僕の班が1位、そしてほかにもすごい成績を上げた班がいたみたいで、その班が2位、そしてグスタフの班が3位、ツェーザルたちが4位となった。

 ツェーザルたちはかなり悔しそうだった。まあ、彼らからすればグスタフは因縁の相手のままだからね。その後僕の話を聞いて、二人は何ともあっさりとグスタフを認めた。エレオノーレに関しても、『貴族家ではよくある洗脳教育というやつですわ。彼もその被害者だったのですね。それなのに私は何も知らずに彼のことを極悪人のように恨んでしまった』 と言っていた。

 いや、脅されまでしたんだから結構普通の感情だと思うよ? むしろそれをあっさりと許してしまえるその懐の深さ、器のでかさはマジで見習いたい。



 とまあ、こんな感じで、小試験は幕を閉じた。何とかグスタフとも関係を持ち直せてよかった。

 これからもこの素晴らしい人間関係が続くといいな。よし、明日からも頑張ろう!

結局ツェーザルは戦闘に出さない方針で行きました。いずれ戦ってほしい!笑 今回も楽しんでいただければ幸いです。

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