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奴らの封印を解いたのは?

 時は少しさかのぼる。

 アレンの謁見と爵位の授与が終了した後の王城のとある一室。そこで現状に対して深刻そうな顔で考え込んでいる一人の影が……


「全く、此度の件、アレンがアーベントロート卿を救ってくれていなければ、王国の最上級戦力をむざむざ失うところであった。竜魔導師は何人か王国に直接使えてくれているが、アレンほどの者はいない。それに強い者は相応に癖が強く束縛を嫌う。大体が冒険者だ。アレンがこちらについてくれて本当に良かった……」

「陛下のおっしゃる通りかと。国家存亡の危機になれば冒険者も緊急招集できますが、あまりその手を使いすぎると国家の信用が揺らいでしまいますから」

「クリストフ、これから忙しくなるだろう。また今回のように職務範囲を超えて仕事を頼むこともあるやもしれん。その時は頼む」

「もちろんでございます陛下。一使用人ににまで重要な任務をお与えくださり、光栄の極みでございます」


 今回の件、悪魔や天使が復活したとなると、いろいろと不可解な点が多すぎる。まず第一に誰がどうやって復活させたのか? というところだ。一つだけ心当たりがある。それが、アフトクラトリア帝国である。

 あの国は征服ばかり考えている。国民は一定の生活を保障されているものの、アンドレアス王国とは比べ物にならない貧しさだ。なぜか? それは国の経済発展に必要だと思われる産業の教育しかしておらず、それ以外の職に就く平民には一切、教育が行き届いていないからだ。理由は簡単、国民全員に知識を与えると仮に革命などが起きたとき、国をひっくり返される恐れがあるからだ。自分たちが教育を受けているからこそ、知識を得た人間の恐ろしさを理解もしているし警戒もしているというわけだ。


「なんとも狡猾(こうかつ)な奴らだ。とにかく彼の国を警戒するべきだな。あの国なら世界を征服するために悪魔や天使と手を組もうなどと考えるやもしれん。できるかどうかは別の話でな。ほかにも彼の国に便乗している国などがないかも調べんとな」


 なぜここまで国にこだわるかというと、はっきり言ってその辺のちょっと悪だくみを考えている程度の組織にあの封印を解くなどということは不可能に近いからだ。もしかしたらその可能性もあるかもしれないがおそらくはないだろう。なぜなら、そもそもあの封印を考えたのは我が国において、最高峰の魔法師や竜魔導師である。

 彼らが『強制送還』の魔法を行使したことによって世界各地の悪魔や天使までも封印した。だからこそ、それまで敵対していた国なども我が国に友好的になり、輸入や貿易などにも積極的になってくれて、国の重要度が上がった。そして結果的に大国に上り詰めることができたのだ。

 だからこそ言えるのだが、あのような大規模な封印を解こうとすれば、同じ領域にいる魔法師や竜魔導師を何十人、何百人という数で集め、同じ規模の特殊な魔法を開発、そして行使しなければならない。


「そんなことはいち私営集団では論外、国であっても小国では難しい規模だろう。我々の国はたまたま腕のいい竜魔導師や魔法師たちがいたから可能だったのだ。そうおいそれと集まる戦力ではない」

「そうですね。歴史書に乗っている規模の戦力を本当に集めるのならば小国でも厳しいでしょう」

「やはりおぬしもそう思うか」

「はい」

「クリストフ、すぐにギルベルトとアーベル、エトヴィンを呼んできてくれ。それと、フェリクスもな。エトヴィンに関してはできるだけ急がせてくれ。奴は確か3日ほどは一般の貴族街にある宿に泊まるといって居ったからの」

「仰せのままに」


 今回の件、本当に早急に手を打たなければこの大陸が地図から消えるかもしれない。それだけは何としても防がねば。

 そう考えて数十分たったころだろうか、扉をノックする音が聞こえたので入るよう促す。


「陛下、アードラー閣下、バルツァー閣下、ベッカー閣下、そしてベッケラート卿をお連れしました」

「もうか!? 早いな。さすがだ」

「ありがとうございます」

「陛下、お呼びと伺い、参上いたしました。私やバルツァー卿、ベッカー卿それにベッケラート卿までお呼びとは何かございましたか?」

「そうですね。私も驚きました。まさかアードラー閣下までお呼びとは……この国の大公閣下まで……」

「理由はすぐに話そう。それともう態度は崩して構わんぞ。余達以外にはクリストフしかおらんからな」

「承知しました」


 そこからは考えていたことを彼らに話した。


「しかし兄上、そうなってくると天使や悪魔以外に人間とも戦わないといけないかもということだよな」

「そうなる。余の推論が正しければな」

「話は分かったよ。そういうことなら我々を呼んだ理由も嫌でも理解させられる」

「なるほど、久しぶりに俺もこいつと暴れることになるのか。何年ぶりだ? エトヴィン」

「おそらく、少し前にあった隣国との戦争以来だから、12年ぶりくらいになるな。この中で私が一番皆との付き合いが短いがそれでも優に10年以上の歳月がたっていたとはな」

「何言ってんだ。付き合いが短いのは実家の爵位の違いもあったんだ。それもお前ん家の場合、実力がなくて爵位が低いんじゃなくて、ありすぎて低いままにいるんだろ。そういう理由があっただけで、ヨアヒムはかなり前からお前に目を付けていたよ」

「そうだね。どうにもならないことを気にしてもしょうがないよエトヴィン」

「そうだぞ、エトヴィン。余ははっきり言うと、学生時代におぬしを一度見かけたことがあってな、その時からすでに目を付けていたのだぞ?」

「そ、そんなに前から!? 全然気づいてなかったよ」

「ま、とりあえず本題に入ろう。余の考えはあらかた言ったが、対策はこれから考えねばならん」


 そうやって、久しぶりに旧友や兄弟たち全員が集合した状態での会議は滞りなく進んだ。



 ここは、とある国の廃屋の一室。そこに黒ずくめの装束を着た一団が何やら怪しげな会話をしていた。


「なるほど、つまりことは順調に運んでいるというわけか。侵略しか頭にない阿呆どもが見事にえさに食いついたわけか」

「はい。その通りにございます。あの古代魔法具が天使や悪魔をも操れる正に禁忌級の魔法が行使できるとそそのかすと、一発で首を縦に振りました」


 集団のうちの一人、ひときわ大柄で、ひときわ魔力圧の強い人間がその報告を耳にして上機嫌になる。大国だなんだと偉そうにしていたアフトクラトリア帝国の首脳陣を完全に手中に収めてしまったも同然だからだ。彼らはこちらを利用しているつもりだろうが、真に利用されているのはあちらである。

 悪魔や天使のことなど何も知らないくせに本気で操れると思ったのか、即行で魔法具を発動させたのだ。それがただ単に『強制送還』の魔法を崩す力を持つだけの道具だとも知らずに。


「大司教様、密偵を放ってあの国を観察させましたが、確かにそいつの言う通りもはや反乱がおこりそうな勢いでもめているようですよ」

「ハハハハハ! 愉快! これは愉快! 本当に情けない奴らだ。竜やその竜の力を身に宿した竜魔導師、そういった者たちと平然と熾烈(しれつ)な戦いを演じられるあの者たちをたかが普通の人間ごときが従わせられるわけがなかろう。今は下位や中位の悪魔がぽろぽろ外界に出始め、好き放題やって天使も下天や中天のものが暴れてる程度だ。だが上位やその上の階級の悪魔や天使が暴れだしたら、まとまりのない国なんて一日で滅びるだろう」

「そうですね。我らは天使や悪魔について、より明確な情報が載った書物を保持しておりますし、なんなら竜の力をその身に宿しその竜から情報を得た人物や、より上級の竜に認められその寿命を延ばされた方もおられます。大司教コンラート様、あなたのように」

「ええ、そうですね。炎と闇の超位竜に認められ700年の時を生きるあなたが当時まだ残っていた書物や当時の知識人から得てくださった情報は白金貨2000枚でも価値を満たせないでしょう」


 そう。現代では竜魔導師の数も減っているわけではないが劇的に増えているわけでもない上に、人間の寿命も100年前後なのですぐに代替わりしていく。だからあまり知られていない情報だが、竜魔導師となった者は一般的な人間よりかなり寿命が延びるのだ。

 アンドレアス王国に関しては国家所属の竜魔導師に関してはその戦力数の情報漏洩を危惧して情報開示を行っていない。なのでより竜魔導師の寿命が長いことは知られていない。国家所属でない竜魔導師の冒険者も拠点を転々としていたりするのでやはり情報が伝わりにくい。

 昔はかなりの数の竜魔導師がいたのだが、天魔大戦争で亡くなった者も相当数いて、その影響もあってか最近はなかなか竜魔導師を見かける機会がない。


「大げさすぎるんだよ。とにかく我ら魔天教のこの世界の救いようのない人間を滅ぼし、選ばれた人間や種族だけが生きることを許される世界を作るという悲願のため、お前たちにはこれからもより一層働いてもらうぞ」

「「はは!! 御心のままに!!」」


 

 こうして、世界各国が予想もしない日陰の世界で恐ろしい陰謀がうごめきだす。この世界は果たしてこの危機を脱することができるのか? 強大な悪意はひっそりと、ゆっくりと着実に地盤を固めていく……






 


 

すみません。めちゃくちゃ遅くなりました。

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