精霊降臨
僕は双聖剣と名乗った目の前の2人と静かに対峙する。そして竜たちを顕現させていく。だけど、いくら巨大な地下空間とは言え、地上と違って5体全員召喚はできない。なので召喚する竜を選ばなければいけない。
今回選んだのは、ルシファーとインドラ、そしてブイだ。彼らを中心として戦っていく。もしかすると、戦いの最中に交代する場面もあるかもしれないけど、よっぽどの理由がない限りは彼らでいく。
「宜しく。ルシファー、インドラ、ブイ」
「うむ、任せておくが良い」
「やってやるよ!」
「任せて!」
頼もしい返事を聞いたので、あとはやる事をやるだけだ。
「ははは、流石だな。全てが神位竜とは恐れ入る」
「ですね。本当にどこまでも竜に愛された存在のようだ。それなのに全く、惜しいですね」
「仕方ないだろう。我らの側に付こうとしないのだから、救うことは出来ない」
ルシファー達を見ても驚かないのは、彼らが歴戦の猛者だからなのだろう。
「自分たちが絶対勝てると思ってるようだけど、勝負は始まってみないと分からないよ?」
「フッ、分かるさ。私達が一体何百年生きて来たと思ってるんだ? 経験が違う」
「そう言うことです。分かりましたか?」
ふむ、それは一理あるな。確かに彼らを見る限り、油断はできない。でもこちらとしても勝たないといけないから、何かしら戦い方に工夫を凝らす。
勝機があるとすれば、彼らが油断しているということと、こちらが創意工夫をしながら戦うということ。
とにかくやるしかないのだ……
「確かに君たちは強そうだね。見ただけで分かるよ。でもこちらとしても負けられない理由があるんでね」
「ま、そうでしょうね」
「ならば話はこれで終わりだ。さっさと始めるぞ」
互いに戦う覚悟を決め、戦闘態勢に入る。そして数秒が経った頃、僕から先制した。
「ルシファー! 『重力牢獄』!」
「あいよ!」
「それじゃ僕も、『閃雷爆弾』!」
ルシファーが闇魔法で重力力場を作って敵を足止めしてくれた隙に、僕はすかさず巨大な電気の玉を発射する魔法を発動した。
いきなりその場に釘付けにされた敵2人は流石に驚いた様子だったけど、直ぐに追加の攻撃が来ると分かると、防御魔法を展開した。
「『黒炎壁』!」
「『大地の剣』六連!」
おそらく結界と闇魔法、さらに炎魔法も上乗せした防御魔法をコンラートと名乗った男は使い、僕の攻撃を防ごうとする。もう1人のヨーゼフと名乗った男は、地面から剣のような形をした大岩を6本自分の前に突き立てて防御した。
ドガーンッ!!
僕の魔法と双聖剣の2人の魔法がぶつかり合い、衝撃波が辺り一帯を蹂躙する。本当は地下施設だからもっと配慮した戦い方をしないと危険なんだろうけど、元々この施設はかなり広大に作られているようだから部屋を完全破壊するような魔法を撃たなければ大丈夫だろう。
「なかなかの威力だな。だがそれも当たらなければ意味がない。重力をかけられた時は一瞬焦ったが、何も対処できないほどでもない。残念だったな」
「いやぁ、久しぶりに楽しめそうですね! それじゃあ、次はこちらから!」
そう言ってヨーゼフが突っ込んできた。
「さっきの雷魔法のお返しですよ! 『十閃雷槍』! からの『大地の剣』八連!」
「私のも喰らっとくと良い。700年以上生きた竜魔導師の攻撃など滅多に見れるものではないぞ。『黒炎乱舞』!」
ヨーゼフが十本の槍の形をした雷魔法と、先ほどの剣形の大地魔法を8発撃ってきた。コンラートは闇と炎の魔力を同時に練り込ませて、より火力が増した炎魔法を放ってきた。
どれもこれも伝説級に相当する威力。今までにもたくさんの伝説級魔法は目にしてきた。しかし今回のは中身が違う。
長きにわたる技術の研鑽によって、無駄なく、そして乱れが一切なく均一に練り込まれた魔力。
これは、重いぞ……。
「『氷結女王の抱擁』! 『雷帝の盾』!」
ドスドスドスドスドス、ドスンッ!!
何とか、氷と雷の防御魔法の組み合わせで防ぎ切ったけど、予想通りかなり重い攻撃だった。これの何がヤバいかって、攻撃が複数ある上に、全ての攻撃を合わせて重いのではなく、一撃一撃が重いことだ。実際一瞬でも気を抜いたらやばかった。
これが経験を積み、数多の修羅場を潜り抜けてきた竜魔導師。マジで気を引き締めていこう。油断は一瞬であの世行きだ。
「確かに、僕はこれまでたくさんの修羅場を経験してきたつもりだったけど、さっきの攻撃は今までに経験したことがなかった」
「だろうな」
「だからこそ思ったんだけど……超えたい。君たちを!」
「良いですねぇ! それ! 物凄くそそりますよ! ぜひ試してみてください! 応援してますから」
ヨーゼフが何かスイッチ入ったみたいだけど、放っておく。とにかく今思うことは、同じ竜魔導師として、
彼らには絶対に負けたくない。
「ルシファー、インドラ! 同時攻撃だ! ブイ、君は僕の援護を!」
「「「了解!」」」
僕と竜達は一斉に動き出した。
「喰らうが良い! 『漆黒の剣』二十連!」
「『千雷爆裂陣』!」
ルシファーの触れた者の魔力を吸い取るという効果を持つ剣が20本敵に向かっていった。インドラの魔法はその身から終わりが見えないほどの数の落雷を敵に向かって乱発するもの。どちらも強力であり、帝王級だ。
僕はポセイドンから魔力を供給してもらいながら、土魔法を発動する。
「『怒石流』! 大地の怒りを存分に味わうと良いさ!」
まるで大地が怒り狂っているかのように土砂が敵2人に向かっていく。ブイは僕の正面を除いて、周囲に伝説級の氷魔法で防壁を作ってくれた。これで側面と背後を気にせず戦える。
そうして双聖剣の2人に僕らの魔法が衝突した。今回も攻撃魔法で相殺せずに、防御魔法で耐え抜いたようだ。
「ほーんと、こんなに防御で魔力を喰ったの久しぶりだな」
「そうですね。これは、私たちもいよいよ本気でやらねばならないようですよ?」
「そのようだな。ここまで全力を出す戦いは、ここ200年は無かったのにな」
2人はそう言うと、今まで押さえていたのであろう、魔力を全力開放したようだ。
「これは……凄すぎだろ」
僕は思わずそう呟いた。仮にも僕は神位竜を従える竜魔導師。本来なら超位竜と契約している彼らより上位の存在のはず。なのに、確実に勝てるという確信が持てない。
「六大聖人に初めて会った時も、こういう緊張を感じだけど、君たちのはさらに強烈だよ」
「ふんッ、当然だ。私たちわあんな雑魚と一緒にしないでもらいたい」
「えぇ、その通り。我々は数多の修羅場を潜り抜けて来た上に、竜魔導師としての才覚にも恵まれている。正直その辺の者達と一緒にされるのは不愉快極まりないですね」
「随分な物言いだね」
「当然です。私達が彼らと一緒にいるのは、あくまで使えるから利用してやってると言うだけです」
「そうかい、分かったよ」
僕はもう彼らの話を聞く気が失せてしまった。これ以上聞くと、感情の制御ができず、冷静さを欠いてしまいそうだったからだ。戦いにおいてそれは致命的だからね。
「おぉ、お分かりいただけたのなら良かったです」
「うん、よく分かったよ。君たちが救いようのないクズだってことはね」
「お喋りはもう良い。さっさと始めるぞ小僧」
今からこの状況を1人で打開しないといけない。かなりキツイな……
そんなことを思っていると、目の前に巨大な魔法陣が現れて、強烈な威圧を放ち始めた。何が起こったんだと一瞬焦ったけど、この威圧感はどこかで経験したことがある気がする……
「ああ、間に合ったようですね。貴方を助ける約束だったのに、遅くなってしまってごめんなさい」
「ノルデ! 来てくれたんだね」
「勿論ですわ。そのために私の所に話を持って来たんでしょ?」
「うん、ありがとう」
「良いのですよ」
これはありがたい。正直1人ではキツイと思っていたんだ。ここでルシファー達と同等の力を持つ存在の助力はありがたい。そんなわけで、僕は一度ルシファー達に僕の元に戻ってくるように伝えて、態勢を整える。
「ん? 何だその強烈な魔力を感じる存在は……」
「お仲間のようですね」
「ほ〜う? まぁどのみち倒すことには変わりない。ヨーゼフ、お前は新手の方を頼む」
「了解」
向こうも準備が整ったようだ。ノルデを見ても動揺しないなんて流石だ。でもこれで形勢が五分になった。後は全力で戦うだけだ!