激闘
私が戦線に復帰して、強敵相手にたくさんの工夫をしながら戦い始めて約1時間ほど。
六大聖人も私たちも互いに消耗してきた。だがまだ彼らを討ち取れていない。流石に乱戦にもなってきたので、オスカーたちの後ろに控えていた部隊も我々の部隊に攻撃を仕掛けてきた。
何が恐ろしいかって、この敵部隊の者たちが全員竜魔導師だと言うことだ。なんとか中隊長以上の魔法騎士や何名かいた竜魔導師が対応しているが、それでも厳しい。
彼ら主力に援護をする形で、師団員たちが魔法銃やその他魔法武器で応戦している形になっている。本当にギリギリの状態で拮抗を保っているのだ。
しかし互いに消耗しているこの戦い、流石に相手も体力が減りすぎたようだ。
攻撃が止んだのだ。これは好機だと思った私はベーレンドルフ公とブラント卿に駆け寄る。
「お二人とも、今のうちに少しいいですか?」
「ええ」
「どうされましたか?」
私は自分が思いついた作戦を彼らに話した。
「これからとある作戦をやってみようと思います。具体的には私が前衛になり、彼らを全力で足止めします。そしてあなた方は後衛からの援護と同時に隙を見て必殺の一撃を彼らに叩き込んでください」
「なるほど、単純で分かりやすいな。しかし、だからこそ成功もしやすいだろうし、強力な一手になりそうだな。よし、やってみましょう団長殿」
「僕も賛成です。やはりこう言う強敵には下手な小細工は通用しない。単純で強力な一撃を叩き込む方がいいです」
「決まりですね、では早速行動に移しましょう!」
私たちは前方と後方、それぞれ別れて敵に対峙した。彼らもその行動に気づき、警戒を強めた。
「ほう、まだ何かやろうというのか? 面白い! とことん付き合ってやる! 『爆滅の砲弾』!」
「ほんと、もう疲れてきたんですけど〜? まぁ、いいや。とにかく、そろそろ決めに行きますか。やれ」
「どうだっていい。とにかく敵を倒すだけでしょう? さぁ、あなたも『白牙』で攻撃して暴れ回るのよ」
オスカーたちはこちらに先手を打たれるのを嫌ったのだろう。警戒を強めながらも、先に攻撃を仕掛けてきた。オスカーは巨大な火の玉を10発以上放つ伝説級の攻撃をしてきた。そして彼の竜も同じ技を使うようで、その分も合わせて合計で約20発もの灼熱の球を撃ち込まれた。
ものすごい熱量と破壊力だと思うと同時に、それもそうかと納得する。なんせ相手は竜魔導師で、その彼の契約している竜はおそらく超位竜。
弱いわけがない。その上、先ほどから3体の竜で同時攻撃を行なってきていた。勿論六大聖人たちと一緒に。
現に今もオスカーに続くようにヴォルフラムとアウレリアも攻撃を仕掛けてきた。さらに当然の如く竜にも指示を出して、同時攻撃を行なってくる。
ヴォルフラムの竜は光の魔力を一点に集中して、こちらに放ってきた。凄まじい光量と魔力の力を感じる。
これは……帝王級に匹敵する威力だ。さらにそれに続くようにヴォルフラムも攻撃の準備をしている。
アウレリアも自分でも攻撃の準備をしながら、竜に指示を出した。巨大な氷の牙を放つ魔法。あれを防ぐのは難儀しそうだ。
そんなことを思いながら、私は自分の手足の部分と剣に最大限身体強化魔法をかけた。そしてこの魔法具の剣の効果も発動する。"切ったものを爆発させて滅する"
本当に相手を滅することだけを考えて作られた剣だ。正直凶悪すぎて使い所を探していた。これを使うだけの敵に最近は遭遇していなかったから。
なんせ対魔天教の為に、アレン君を始めとする魔法具研究の先駆者たちによって作られた宝剣。勝てる相手に使っても過剰攻撃なだけだ。
しかし今目の前には、これを使わないと勝てないであろう敵がいる。
「今こそこの剣の真の力を試してみる時だね。さぁ、竜人とやら! 人間の力を思い知るがいい! 『崩破殲滅斬』!」
技名を唱えながら魔法具を発動し、私が剣を一閃すると強大な魔力を帯びた斬撃が放たれた。そしてその斬撃はオスカーたちの攻撃とぶつかり合い、激しい衝撃波を放つ。
だが拮抗したのは一瞬だけ。すぐに私の斬撃が彼らの攻撃を打ち消してそのまま本人たちの元へと向かっていった。
流石にオスカーたちもこの結果は予想していなかったようで、急いで防御態勢に入った。しかし防御がギリギリ間に合ったは良いが、3人とも大きく態勢を崩された。
その隙を見逃すベーレンドルフ公とブラント卿ではない。すぐさま攻撃態勢に移り、極大の魔法と竜の攻撃を六大聖人たちに叩き込んだ。
「相棒、好きなだけ焼き払え! 私も後に続く。『真紅の大鎌』!」
「これが今の僕の最大の攻撃だ! 『四連水爆矢』!」
私の攻撃で無防備になっている六大聖人に向けて、ベーレンドルフ公と竜の同時攻撃、そしてブラント卿の四連攻撃が炸裂した。
ベーレンドルフ公の攻撃は巨大な炎の大鎌を作り出して相手を切り裂く技で威力は帝王級に匹敵する。そしてブラント卿の攻撃は4発の衝撃によって爆発する水魔法を纏わせた矢を放ち、敵を吹っ飛ばす。これは単発の威力に関しては上級程度だが、それが4発もとなるとそれなりに防御しなければ普通に致命傷だ。
そんなわけで3人同時に連携をとりながらの必殺の攻撃がオスカーたちに決まった。これで決まったはず、そう思いたいのだが……現実はそんなに甘くなかった。
3人はボロボロになりながらも、ゆらゆらと立ち上がってきた。驚愕するベーレンドルフ公とブラント卿。
しかし私はこの時、ものすごく冷静だった。何故か、彼らはあの攻撃を耐えてしまうのではないか? そういう考えがあったのだ。
故に備えていた。最悪の事態に。そして、
「だと思ったよ! これで最後だ! 崩破殲滅斬!」
私が口にした言葉と同時に斬撃が剣から放たれた。これに驚愕する六大聖人。しかしもはや、彼ら3人に私の攻撃を凌ぐ力は残っていない。
いくら竜魔導師とは言え、満身創痍と言えるほどに消耗した敵を仕留められないほど私は弱くはない。
「お、のれ! 人間のくせに!」
「ぬかりましたね……」
「流石にもう抗う気力はないわ〜。ここまでね」
私の今回の攻撃までは予想していなかった敵は、もう自分の死は避けられないと分かると、抵抗もしなかった。
そして、
ズドーンッ!!
ものすごい轟音と共に3人の六大聖人が私の攻撃により、滅殺された。
その光景を見ていた敵の構成員は唖然とした顔を晒した後、力無く地面にへたり込み、武器を手放した。
この地での戦闘は終結したのだ。
「もっと時間がかかるものと思っていましたが、スムーズに行きましたな、団長殿」
「ですね、それにしても団長はどうして彼らが生きていると思ったんですか? あんな完璧な瞬間を捉えての攻撃なんて、普通予想していなければできません」
勝利の確定と同時にベーレンドルフ公たちが話しかけてきた。そして予想はしていたが、先程の攻撃について質問された。
「簡単な話ですよ。あなた方のような、特に竜魔導師と戦っている時は嫌でも自分と相手の頑丈さと生命力の差を自覚します。故にトドメを刺し切ってこの目で確認するまでは油断できなかっただけです。普段からあなた方と訓練しているからこそ気づくことができた視点かもしれませんね」
「なるほど……」
「そこは盲点でしたね」
私と2人はそんなことを話しながら、敵の構成員を片っ端から縛り上げていった。
急いでアレン君に合流せねば! その思いを胸に私たちはただひたすらに後始末の作業を行うのだった。