幹部激突! コルネリウス一行
アレン達が敵の大将を倒すために先に進んだ後、私とブラント卿、ベーレンドルフ公は目の前の集団に集中する。
正直な所、不安でしかない。この場で私たちが負ければ、それ即ち部隊の者達も皆蹂躙されてしまうということだからだ。しかし泣き言は言っていられない。やるしかないのだ!
「ところで、先程のやり取りで聞くのを忘れていたが、君たちは幹部なのかな?」
私の問いに対して、男達は当たり前だろう? というような態度で返答してきた。
「当然だろ。後ろに控えている者達を見れば、我ら三人が責任ある立場なのは明白だろう。というよりもお前達ほどの実力者ならば、我らが六大聖人なのは見当がついているだろう」
「まぁね」
六大聖人の三人のうち、真ん中の男と私の会話が終わると同時に、広場には沈黙が流れた。まさに静寂といった感じだ。
そして互いに示し合わせたわけではないのだけど、これ以上会話は不要と言いたげに、私たちは突撃した。
「遂にこの新しくなった"真剣カイザー・爆滅"のお披露目だね」
「確かに、私も新しい魔法具を使うのは初めてだ」
「ベーレンドルフ公もですか。いいですね」
「僕も新しいのを用意してもらいました。これを使ってお互い頑張りましょう!」
「えぇ」
「あぁ、そうだな」
私たちのその会話が聞こえたのか、六大聖人達は興味深そうな視線を送ってきた。それがきっかけで一度全員の動きが止まった。
「へぇ、武器を新しくしたのか? 面白いな。是非とも楽しませてもらおうか! 私は爆炎卿オスカーだ」
「じゃあ、ボクも楽しませてもらおうかな? 煌輝卿ヴォルフラムで〜す。宜しく」
「私は冰水卿アウレリアよ名乗るつもりはなかったのだけど、まぁ流れでね」
なんともまぁ、不思議な連中だこと。私はそう思った。別に私たちは名乗っていないのだから、名乗らなくていいものを。まぁ、でもこうやって名乗られたら武人として礼儀を尽くさないわけには行かない。
たとえ相手が悪人だとしても。
「それじゃあ、是非ともこの剣の味を楽しんでもらうとするかな。私はアンドレアス王国近衛師団団長、コルネリウス・アーベントロート侯爵だ」
「ふん、貴様らなんぞに名乗る名など無いと思ったが、アーベントロート卿が名乗ったからには名乗らぬわけには行かないな。私は大隊長のグスタフ・ベーレンドルフ公爵だ。死ぬ前の土産にすると良い」
「同じく僕も大隊長で、カール・ブラント子爵だ」
大隊長の2人が私と同じように自己紹介をした。だがそのうちの1人は明らかに相手を挑発している。
一体どこからそんな自信が湧いてくるのか私には甚だ疑問だが、今はそんなことはどうでも良い。とにかく闘いに集中だ。
「ふははは、なかなか面白いのがいるではないか。死ぬ前の土産だと? 出来もしないことをぬけぬけと。恥ずかしいとは思わないのかね」
「まぁ、良いんじゃない? 強そうなのは間違いないし。久しぶりにそこそこ楽しめる闘いになると思うんだよね」
「私はどうでも良いわ。ただ目障りな虫を排除するだけ」
敵の三人はそんなふうに話している。そして感じる相手の余裕。やはり油断できないと心から思う。
とにかく集中していこう。
「それじゃあお二人とも、そろそろいきましょうか」
「承知した」
「ええ、そうですね」
私は2人に行動開始の是非を問うた。そして答えは是。ならばもはや気にかけることは何もない。ただ全力で相手を討つのみ!
「行きますよ! 『破壊斬』!」
「出でよ、我が竜よ! 全てを焼き払え! 『業炎の蹂躙』!」
「天をも穿つ我が弓よ、敵を貫け! 水球矢!」
相手を切り裂き、そして爆発四散させる私の魔法とベーレンドルフ公のとてつもない火力の爆炎を相手に叩きつける魔法が敵に向かっていく。そしてそれに合わせてベーレンドルフ公の竜が同時攻撃している。爪に炎を纏わせて切り裂くつもりのようだ。
さらにブラント卿が弓に水魔法を纏わせて、もの凄い魔力の矢を放っている。
しかしこれらの攻撃に対し、敵もすぐに対応してきた。
「なかなかの攻撃じゃないか! ならこっちも、『百連灼熱槍』!」
「『輝煌』! 僕の光に耐えられますか〜? 楽しみですね〜」
「『凍てつく雫』!」
向こうも我々と同じようにオスカー、ヴォルフラム、アウレリアが同時攻撃を仕掛けてきた。
オスカーは炎の槍を百本撃ちまくるシンプルながら凶悪な魔法を使ってきた。
ヴォルフラムは顔を逸らしたくなるほどの眩い光をじわじわとこちらに向けて放ってくる。ただ、光を放つだけならば意味はない。目眩し程度にしか使えないと思っていたのだが、この魔法は浴び続けると肌が火傷を起こしてくるのだ。
物凄くタチの悪い魔法だと素直に思う。まさに全てを浄化し抹消するような光だ。
続いてアウレリア。彼女もヴォルフラムと似た傾向の、状態異常を狙ったような魔法だ。ものすごい勢いで水飛沫を飛ばしてきたのだが、その雫一つ一つが対象を凍結させるような効果を持つ。
これら一連の攻撃が我らの攻撃とぶつかり、凄まじい衝撃波を生み出した。しかし残念ながら向こうの敵は私たちに迫ってきてしまった。
それもそうだろう。相手は百本の炎の槍と、光る波動、そして凍る水飛沫。全て防ぎ切れるわけがない。案の定喰らってしまい、炎の爆発で火傷を負った。そしてそこに体が凍ってしまう水魔法が……
「しまった……何発か喰らった!」
「回復隊員! すぐに回復を!」
「は、はい!」
私の状態に気づいたベーレンドルフ公がすぐに回復隊員に魔法の使用を指示した。流石だ。判断が早い。
そうやって私が手こずっている間も、ブラント卿は戦っていた。
「『水刺突』!」
ブラント卿は水を鋭利にして矢の切れ味を最大化するような魔法を発動し、矢を発射した。それも連射で、ものすごい速さで。
おそらく水の強化魔法を掛けているのだろう。普通の人間では肉眼で追えない速度で次から次へと、矢を射っている。
オスカーたちは流石にこの猛攻には避けるしか手段がないのか、回避に専念している。だが少しでも綻びができれば、反撃できる体勢をとっている。隙が全くと言っていいほどないのだ。
これはさっさと私も復帰するしかない。どれだけブラント卿が強いとは言え、流石に竜魔導師を三人同時に相手するのは不可能だ。現に敵の3人はだいぶ矢の速度に慣れてきている節がある。ベーレンドルフ公も援護しているが、私を護衛しているせいでまともに戦闘に参加できていない。
「これで大丈夫です!」
回復隊員が治癒を終えたようだ。痛みはない。よし!
「すまないね、君は下がっててくれ! 今はまだ本格的な動きがないから助かっているが、彼ら3人の後方に待機している構成員たちがいつ動き出すか分からない。実力のある者を先頭に置いて対処に当たらせるんだ。 良いね?」
「はは!」
隊員は良い返事をして後方部隊に戻って行った。
「さて、お二人ともお待たせしてしまいましたね。私も復帰です」
「本当に貴殿が戻って来れてよかった。流石にブラント卿だけに攻勢を任せるのはだんだん危険になってきていたので、ね!!」
ガキンッ!
私とベーレンドルフ公が話していると、もうブラント卿の攻撃に慣れたのか、こちらにちょっかいを出してくる余裕が敵に出来始めたようだ。早いこと参戦しよう。
「すみません、これで戦えます。ブラント卿も申し訳ない!」
「良いんです! この国で騎士最強のあなたが戻ってきてくだされば、それで十分です。後衛はお任せください!」
「承知した!」
私は再び戦いに意識を集中して、今度こそ被弾しないように慎重に、それでいて思い切りも持ち合わせた最高の剣撃を敵に叩き込んでいく。
その思い一撃一撃に敵の筆頭と思われる、炎の竜魔導師が私の対処に手一杯になる。
行ける! このまま油断しないで徹底的に相手を追い詰めていければ。
そう考えた後、私は深い集中に潜り込んでいくのだった。