両幹部対峙!
僕たちが敵の拠点に突入してから数十分後、かなり大きな造りだが、大きい広間のような所に出た。
そこに二、三十人ほどの敵構成員と、その少し手前に三人の人物が並んで立っていた。見ただけで伝わってくる覇気。
間違いない。六大聖人だ。
それにしても一気に戦力を投入してきたもんだな。流石にこいつらが出てきたってことは向こうも攻められてることは認識したってことか。
まぁ、そりゃそうだよね。流石にここまでドンパチやってて気づかないわけない。
だけどそうなってくるとそれなりの戦力をこちらもぶつける必要がある。ここはカールとグスタフに出てもらう必要がある。問題は後1人に誰を当てるかだけど……
「私が出ましょう。アフトクラトリア公は先に進んでください。私が残るより、貴方が残った方がいい」
「ですが……」
「私が団長の座についているのなんて、指揮能力の経験の差、それだけです。実力ではもう貴方の方が上だ。ならば最高戦力は最後まで残っているべきだ。戦いはまだ始まったばかり。消耗するにはまだ早すぎますよ」
コルネリウスさんの言い分に僕は頷くしかなかった。自分で言うのは気が引けるけど、確かに竜魔導師である僕の方がコルネリウスさんよりも強いだろう。指揮能力はまだまだ及ばないけどね。
そんなわけで、僕は数百名とグスタフたちをこの場に残して、先に進むとする。残り数千名いるけれど、それでも不安が残る。魔天教は幹部とは戦ったことはあるけど、大将とはまだだからね。油断はできない。
そんなことを考えながら先に進もうと踏み出すと、そこに炎魔法が飛来した。僕が咄嗟に結界を張ったから何事もなかったけど、結界を張れる人がこの部隊にいなかったら、今のは本当にヤバかった。
攻撃が来た方向を見てみると、先ほどの六大聖人らしき三人のうちの1人が魔法を放って来たようだ。
「何の作戦会議をしていたのかは知らんが、我々がここを通すと思ったのか? 悪いがここから先は一歩も通さん!」
相手はやる気満々のようだ。だけど敵の男が放った言葉に対して、
ズドーンッ!!
強烈な炎の伝説級魔法が返ってきた。
男はかろうじて身体強化が間に合い、結界ほど完璧ではなくとも防御に成功している。ただしかなりダメージを喰らっている。
「貴様こそアフトクラトリア公に気を取られている余裕などあるのか? 悪いがその程度で傷を負っているようでは話にならんぞ?」
グスタフが男に対してそう告げる。それに対して男は返事をするでもなく、すぐさま魔法を発動した。すると、みるみるうちに傷が消えていく。
あれは……回復魔法か……面倒だな。今のグスタフからの攻撃、わざと避けなかったな? この程度ならいつでも治せるから大したことないっていうデモンストレーションを披露するために。
「逆に聞くが、この程度で私に致命傷を負わせられるとでも思っているのか? 甚だ愚かだな」
「むしろ効かないでくれて感謝する。伝説級程度で逝かれては、これまでの特訓の成果を試せないからな」
2人がそこまで言葉を交わし合うと、途端に場に重苦しい緊張感が漂い始めた。すぐに戦闘が始まると、誰もが理解しているのだ。
「ならばその特訓の成果とやらを見せてもらおうか! 愚かにも我らに抗う人間どもがどれほど成長したのかをぜひ見せてほしい!」
男がそう言った直後、頭上に超位竜と思われる炎の竜が出現した。流石は数百年単位で生きているであろう竜魔導師が召喚する竜だ。ものすごい重圧と貫禄が伝わってくる。
やっぱり六大聖人は強いな。だけどこちらだってあれから成長した上に、武器も一新した。今のグスタフたちには彼らでも苦戦するんじゃないかと思う。
「それではアーベントロート卿、あとは頼みます」
「えぇ、お任せください!」
ここは彼らに任せて僕らは先を急ぐ。そう思って部隊の皆を引き連れて拠点の奥深くへと更に進んでいく。
敵の拠点は地下に作られているようで、進めば進むほど地下深くに潜っていく。スペースも当然地上よりもあるのでとんでもない広さだ。
全く……これだけ広いのならば、ルセルクも連れてからば良かったよ。流石に巨大すぎるから拠点に進入できないと思って、街に待機させたんだよね……
こんなことなら連れてきたかったよ……
さてと、そんなことを考えているうちに次の広場に到着した。何だか薄暗い部屋だ。だけど視界が完全に閉ざされるわけではない。その証拠に前方で揺らめく2つの影……。
別の幹部か? そう思って近づくと向こうから声をかけてきた。
「お前が魔将帝や聖天将を殺ったっつう、アンドレアス王国の竜魔導師か……よく見るとまだ成人して間もない青年じゃないか」
「まぁまぁ、コンラート殿。年齢など今はどうでもよろしいではないですか。実力があるならそれで良いかと私は思います」
「まぁ、確かに」
なんか好き勝手言ってくれてるけど、怒る気にはなれない。だって今まで会った奴らの中でもコイツらはずば抜けてる。一言で言い表すならば、
"異次元"
魔将帝や聖天将なんかよりもよっぽど強いだろう。彼らは魔将帝や聖天将をある程度評価していたような口ぶりだけど、僕からすれば、魔将帝たちは自分たちのポテンシャルに頼りすぎだった。それに比べて魔天教の者たちはみんな技術も兼ね備えている。
天使や悪魔なんかよりもよっぽど手強いと思う。そんなことを思っていると、男たちが話しかけてきた。
「それでは自己紹介と行こうか。私は魔天教の大司教、コンラートだ。二つ名は双聖剣・黒炎のコンラートだ」
「私は魔天教の枢機卿を務めております、双聖剣・地雷嵐のヨーゼフです。貴族の出なので苗字もあったのですが、国を捨てたと同時に苗字も捨てました。これから短い間でしょうが、よろしくお願いしますね」
2人はそう名乗ると同時に竜を顕現させた。どれもこれも超位竜だ。しかも相当に長き間生きているのが分かる。その辺の竜魔導師とは貫禄に天と地ほども違いがある。
これは厳しい戦いになりそうだね。僕だけでやらないといけないのか……今回ばかりは他の大隊長の者にも参戦してもらわないといけないけど、流石に犠牲は避けられないだろうな……
僕が怒り、憎悪、虚無感など、色々なものを感じている中、敵は早く戦いを始めたいのか準備を着々と整えている。すでに全ての竜を顕現させ、武器も構え終えていた。
「やれやれ、今回も大変だな……」
僕はそう呟くしかなかった。