新章開幕、入学試験!
ここからは第二章開幕です! 少し長くなってしまいましたが、お楽しみいただければ幸いです。
陛下との謁見から早半年ほどが経ち、僕はすでに7歳を迎えていた。最近は何を頑張っているのかというと、勉強と魔法と剣術の研鑽だ。ダンスや礼儀作法についてはすでに合格をもらっている。
勉強に関してだが、魔法学はもうほぼ完ぺきで歴史も学園入学に必要な知識と覚えておいた方がいい知識はすべて頭に入っている。地理はこの国はほぼ完ぺき、これから実際執務についてより知識を深めればいいだろう。読み書き計算なんてものは4歳の時点でマスターだ。異世界なので当然少し勝手が違うものの、やることは基本地球の学問と変わらないので4歳から読み書き計算を始めてその年にマスターした。
魔法学がほぼ完ぺきというのは、家で学べる限界に到達してしまったからだ。あとは学園に行って応用を学ぶしかない。
というわけで、
今家で頑張れることと言えば、魔法の実戦練習と、剣術くらいだ。今までは剣術は専門の講師の人が来てくれていたんだけど、ついこの間いい勝負ができたと思ったら、ここまでくればもう教えられることはないといわれて、免許皆伝をいただいたのだ。お世辞かと思ったら顔がマジだった。で、詳しく話を聞くともう僕はすでに上級レベルの剣術ができるようで、その辺の貴族の子息にはまず負けない上に、近衛師団は無理でも、一般的な騎士さん達にもかなりいい勝負ができる領域らしい。
意味が分からん……上達できてるとは思っていたけど、まさかここまでとは……ははは。
「そういえば、今日はツェーザルが来るんだったよな? あれからどんな調子なんだろう? ちょくちょく会ってたけど、ここ最近は会ってなかったから楽しみだ! あと一か月ほどで入学試験だし、一緒に好成績を収められたらいいな~」
そう。なんとこの世界の学園は義務教育なのに試験があるのだ。別にこれで合否を決定するとかそういうわけじゃないけど、この試験の成績でクラス編成され、優遇制度の有無も決まる。もちろん今回の試験の結果が悪くても、今後定期試験などで成績を上げれば、優遇措置を享受できる。
「ん? ああ、あの我らが同胞の一体と契約を交わしたという少年か。下位の者とはいえ我が同胞が気に入ったのだ。素晴らしい才能を持っているであろうからな」
「うん。でも本人は下位竜との契約からむしろ今までより一層頑張ってるみたい。竜はかなり才能ある人でも降臨してくれないこともあるんでしょう?」
「それもそうだが、一番大きな問題は相性だな」
「相性?」
「うむ。我はおぬしを見た瞬間にこの者との契約以外ありえないと思った。才能ももちろん必要だろう。ある程度の器がなければ人間では竜の力に耐えられん。だがやはり重要になってくるのは相性なのだ。そうでなければ、とてつもない才能を持つおぬしの父親に竜が降臨しなかった説明にならんであろう?」
いわれてみれば確かに。普通ならおかしいよね。伝承にあるように人々の才能いかんによって竜が降臨するかが決まるのであれば、そもそも父上に降臨しない時点でその理論は破綻している。
つまり、
「人間の伝承に伝わる、すごい才能を持つ者だけが竜に認められるって理論がそもそも間違っているってこと?」
「ウーム、半分正解で半分間違いといったところか。竜をその身に宿すに足る器が必要なことに変わりはないからな」
「なるほど、結構難しいところなんだね」
「うむ。逆に一切文句なしの契約相手だと感じる者も当然いるだろう。おぬしと我の関係のように。見定める必要もなくおぬしなら何の弊害もなく、我を受け入れてしまうだろうという確信があった。そしてそれは実際に間違いではなかった」
なるほど、人々が考え付いた理論や伝承が完全に間違っているわけではないのか。難しいな。
「とにかく、今回も色々教えてくれてありがとねルシファー」
「問題ないとも。我とおぬしは一心同体、何も遠慮することはない。いつでも頼るがよいぞ」
「うん。ありがとう」
おっと、たくさん話し込んでいたらこんな時間だ。そろそろ家に戻るか。今日もいつも通り山奥に来て特訓をしていたので、早めに戻ろうと思う。確か、昼頃にはアデナウアー一家が到着するはずだ。
「そろそろ戻ろうか。今回はルシファーにも戦闘訓練に付き合ってもらったけど、やっぱり力を供給されてるだけの時とは次元が違うね」
「む? そうか? これでも我はだいぶ抑えたぞ?」
「嘘……あれで抑えてたってことは……」
「我が本気を出せばこの大きな山とて、地図から消せるぞ?」
「ははは……頼もしい限りだよ」
冗談だろ? 確かに全力ではないだろうとは思ってたけど、それでもまさかこれでかなり抑えてるなんて言われるとは思ってなかったよ……とりあえず帰ろう。見なかったことにすればいい。
そういって帰路へ着くアレンの後ろには、半径100メートルほど、直下には50メートルほどのクレーターのようにえぐれた空間が広がっている。まるで隕石でも直撃したかのような。これは、アレンの考えたオリジナル帝王級魔法である。効果範囲は広くはないものの(万有引力に比べての話)、威力が全くの別次元だった。魔法の名前は『闇の縮爆』というもの。闇の力で周囲を一気に包み込んで圧縮、そして爆散させる魔法。
伝説級の結界が張れる者か、もしくは身体強化で強靭な肉体を維持できるものでないとおそらく自身も巻き添えを食らう、世に広まれば禁呪指定されそうな魔法だ。
古代竜と契約した竜魔導師としての力の爪痕を残したままアレンは帰路に着く。
家に戻るとまさかのツェーザル一家はもうすでについていた。なんか今までもよくあったけど、この家族が家に来るとき絶対タイミングが合わないんだよね……
「ただいま戻りました」
「おお、アレン戻ったか! 今日の訓練の調子はどうだったのだ?」
「はい。順調でした」
「そうかそうか」
そういって父上が出迎えてくれた。そして、
「久しぶりだな! アレン、息災だったか?」
「お久しぶりです。エーヴァルトさん。元気でしたよ。この度はツェーザルの学園ご入学、誠におめでとうございます」
「うむ。ありがとう。」
と、そこでようやく
「アレン、ありがとう。君も入学だね! 一緒に学園に通えることが楽しみだ!」
「うん! 僕もだよ」
本当に楽しみだ。ちなみにエーヴァルトさんを敬称で呼んでいないのは、本人がそう望んだからだ。なんでも公私で呼び分けてくれないと壁を感じる! だそうで……
そんな感じでツェーザルと談笑していると、エーヴァルトさんが、
「それにしても二人とも大きくなったな~。ツェーザルは周りの貴族の子息と比べて大きめだと思っていたが、アレンもなかなかだな」
「そうであろう? 私も驚きなのだ。この年でこの身長だとかなりでかくなると思うぞ」
「だな。将来が楽しみな二人だ」
そんなことを話していた。そうなんだよ、僕らって結構7歳にしては大きい方みたい。めちゃくちゃとびぬけてでかいわけじゃないけどそこそこ大きいみたい。具体的にはツェーザルが143センチくらい、僕が138センチくらいだ。
これは日本の小学一年生の平均で行くと、大体15センチから20センチ近く差がある。つまり頭半分から一個分くらいの差だ。結構あるな……まあ、伸びてくれる分にはいいから気にすることないか。
「ありがとうございます。これからも規則正しい生活と、鍛錬に励みたいと思います」
「うむ。頑張りたまえ!」
まあそんな感じで和やかに時間が過ぎていき、その後エーヴァルトさんに爵位のことで褒められたり、ツェーザルに模擬戦を申し込まれたりといろいろあったけど、無事に祝いの集まりは終了した。
そして一か月後、ついに試験の日がやってきた! 今は王都に来ている。会場は王都だからな。落ちたりすることはないけど、不思議と緊張するな。多分ここでいい成績を残さないとどの道一年頑張って卒業資格取得なんて無理だってわかってるからだろ。頑張ろう!
隣にはツェーザルもいる。かなり緊張してるな。
「ツェーザル、頑張ろうね!」
「うん、もちろんだよ」
そんなことを話していると、前方から騒がしい声が聞こえてきた。なんだろう?
「は、離してください! 私が何をしたというんですか!?」
「何もしていないさ、ただ何となくこう感じたんだよ。あれ? 教育ってのはさ、賢くなるためにあるものなんだよなって、だったら高貴で選ばれた人間であるものがより賢くなり偉大になるためにあるべきだよなって。だからさ、下級貴族とか、平民とか、その権利を享受する意味ってあんのかな? って思ってさ。まあ下級貴族でも優秀な者はいるさ。ただお前の家は違うだろ? 平凡だ。いたってな。だから邪魔なんだわ」
「な!? そんなこと、本気で言っているのですか? いくらあなたが高位貴族の生まれでも言っていいことと悪いことがあります! 私を侮辱するだけならまだしも実家まで馬鹿にされては黙っていられません!」
「ほう、威勢がいいな? それでお前に何ができるんだよ。聞いた話じゃ剣術もろくに使えない、魔法はそこそこできるようだが所詮そこそこ。はて? いったい何ができるんでしょ~うか?」
なるほど、そういうことか。見ているだけで虫唾が走りそうな光景だな。そんなに生まれがいいことを自慢したいもんかね? 愚かな……
「あー、失礼。今からみんな試験だし、そういった人の気持ちを乱すような行いは慎んでくださいませんか?」
「ああ? 誰だ貴様は?」
「ちょ! ちょっとあなたやめてください! 相手が誰だかわかっているんですか? あなた破滅しますわよ!?」
「あーあ、アレン、君って本当に弱い者いじめをする奴が嫌いだね? 昔からそうだったよね~」
「うん。なんかこういう情けないのが貴族にいると、僕らまで風評被害を受けそうで迷惑だし、見ていてほんとに不快だからね」
「ははは。確かにね。しかも女の子相手に容赦なく力で押さえつけようなんて……いったいどんな教育を受けてきたんだろうね?」
はい。実はツェーザル君も弱い者いじめ野郎が大嫌いです。二人そろって容赦ない暴言の雨あられを食らわせております。この貴族は確か……ああ、父上が言っていたあの貴族絶対主義のダメ貴族の息子かな?
「き、貴様ら覚悟はできているんだろうな? この俺に向かってそんな口をきいてただで済むとでも思っているのか!? お前たちの実家は終わりだぞ!」
「は~、一つ聞いていいかな?」
「なんだ?」
「君は自分が偉いと思っているの?」
「当たり前だろ!?」
「へー、何で?」
「なんでって、おま、ベーレンドルフ公爵家の嫡子だぞ! 偉いに決まっているだろう!?」
あーなるほど、典型的な生まれ良ければすべてよし、何でも手に入って、何でも言うことを聞いてもらって当たり前ってタイプのおバカさんだな。
「つまり、君自身は何も偉くないと、そういうことだね?」
「何を言っているんだお前は!? だから私は偉いと言って……」
「じゃあ、具体的に何を成し遂げたのか言ってみてよ? 君は何か偉業を成し遂げたから威張ってるんでしょ? さあ、君の偉業の数々を僕に教えてくれないかな?」
「は? え?」
「プッ、あはははは!」
「き、貴様! なにを笑っている!」
「あ、いやごめんよ。アレンは相変わらず君みたいな相手には容赦ないと思ってね。全然何も反撃できてないじゃん。それのどこが高貴なのさ、賢いのさ? ほんとおなか痛いからやめてくれる? ブふ、ハハハハハ!」
ツェーザルがツボに入ってるけど放っておこう。こういう馬鹿なのは一回本気で分からせないと同じことを繰り返すからな。まあ、言っても通じないひとは世の中いっぱいいるけどね。
「ま、そういうことだよ。君は何も偉くない。何もしていない。ただ公爵家に生まれただけだ。そんなの誰だってできることだ。生まれることは簡単じゃないけど、一度いい家に生まれてしまえば君のようにいい暮らしをするなんて誰にでもできることだ。君の今の立場は全部、君の家の先祖の人たちが作り上げたものだ。間違っても君の功績とは思わないことだ。他人の功績を我が物顔で語ることがどれだけ愚かな行為かか、さすがにわかるだろ?」
「くッ、それは」
「わかったかい? 君が今までどれだけ恥ずかしい行いをして、どれだけ我々貴族の名声を地に落としていたか、わかったなら今日からそういうことはやめるんだね。ちなみに君の実家にこのことを言いつけても何の効果もないと思うよ? その理由はいずれわかるさ。じゃあ、アレン、そこのお嬢さん、さっさと試験会場に入ろうか」
あ、ツェーザルがとどめ刺した……僕はあの辺でやめようと思ったけど、真に容赦ないのツェーザルでは? これは、多分しばらくあのグスタフ・ベーレンドルフは立ち直れないだろう、もしくは自暴自棄になって僕らに襲い掛かり処罰を受ける羽目になるか。まあどちらにせよもう終わったことだし、興味もない。
そんなことを考え、ツェーザルとさっきの女の子のところについたところで、
「あ、あの、先ほどはどうもありがとうございました」
そうやってお礼を言われた。別に大したことはしていない。どっちかっていうとこの子のためというよりは僕がああいう理不尽なことをする輩が嫌いなだけだったんだし。
「いえ、むしろ余計なお世話になってしまったかもしれませんが、正直あの光景は見ていられなかったので」
「そうだね、僕も不愉快だったよ。彼の行動は」
「いえ! 余計なお世話だなんて、助けていただけなかったら、力でも、お家でも勝てない相手に感情的になって無謀なことをするところでした。どうもありがとうございました」
「お力になれたのならよかったです」
「ですが、よろしかったのですか? あの人は公爵家の人間。簡単に言ってしまえば何か困ることがあったら権力で片づけてしまえる家の人です」
「ああ、大丈夫ですよ。僕たちの実家はどちらも一貴族がどうこうできる家ではないですから」
「そうなのですか?」
「はい」
「うん。そうだね」
そう。今僕たちの家って言ったけど、実はツェーザルの家もかなりすごい。すでに昔から何度も昇爵の話が来ていたのだ。幾度となくあの土地を集中して治めたいからという理由で昇爵を断っているほどお国に貢献しているのだ。僕の実家は言わずもがなだ。
「そうなのですか。本当にありがとうございました」
そういって彼女は僕らに頭を下げた。この女の子とてもかわいいから、なんかこうやって感謝されるとすごくかっこいいことした気分になる。まあたぶん気のせいだけど……
「とにかく、会場に入ろうか」
「そうだね」
「ええ、遅れたら受験資格を失いますものね。あ!?」
「ん? どうされました?」
「い、いえ、わたくし助けてもらったのにお礼は言っても、名前を申し上げてなかったと思いまして。では改めて、ブラームス準男爵家が次女、エレオノーレ・ブラームスですわ」
「そ、そうでした。では僕も、ベッケラート男爵家が長男、アレン・ベッケラートです。今は訳あって、陛下から爵位を授かり、ベッケラート騎士爵家として独立しております」
「では、僕も。アデナウアー男爵家が長男、ツェーザル・アデナウアーです。よろしく」
「え? アレン様は爵位をお持ちなのですか?」
「ええ。まだ最下級ですが、一応」
「すごいですわ! 道理であの場で一切動揺されなかったのですね。すでに爵位をお持ちならたとえ相手が公爵家嫡子であろうと立場は上ですから」
そう、この国では爵位を持っていたなら、相手がたとえ上位貴族の嫡子であろうと立場は上なのだ。
もちろん。態度に関してはしっかりとしなければいけないが、ああいう間違ったことをしている相手にまで、気遣う必要はない。でもまあ、彼ならなんだかんだで、明日には復活してそうだけど。
「さて、自己紹介も終わりましたし、会場に行きましょうか」
「ええ、遅れるのだけは避けませんと」
「そうだね。行こうか」
こうして試験を受け終えた。試験内容はシンプルに魔法学や歴史などの勉学と軽い剣術の実技、簡単な魔法行使である。一時間後の結果発表の際、なんと、僕は主席だった! そしてツェーザルが第三席、エレオノーレが第六席だった。受験番号しかわからないから、次席と第四席、第五席はわからない。とりあえずみんな好成績でよかった。
この後三人は仲良く、足取り軽く、とっていた宿屋に戻った。まさかのエレオノーレも同じ宿で驚いた。知り合いが近くに泊まっていてよかった。実家にはあとで手紙を送ろう。
その後みんなそれぞれ眠りについた。これからの新生活に希望を抱いて……
何とか、嫌なやつを口で言い負かす展開が書けたかなと思います。もしご指摘などございましたら、感想の方からアドバイスなどいただけると、とても参考になります。これからもよろしくお願いします。