表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/168

アードラー大公領、援軍到着

 私はまだかまだかとこないかもしれない援軍に期待を寄せながらも、最悪の事態をも覚悟しながら全力で指揮を取っていた。


 そして屋敷に設立した本陣に次々と嫌な報告が入ってくる。皆頑張ってくれている。師団員たちは命懸けで戦ってくれている。

 しかし、


(これ以上、私にできることはないのか……!?)


 自分に腹が立って仕方がない。私は部隊の指揮はできるが、それが役に立つのは人間相手の戦争だ。相手は一応人間のようだが、竜魔導師の集団と聞く。

 人間であって人間とはかけ離れた力を持つ者たち。そんな者たちに対抗する力も指揮方法もあるわけがない。


(一体どうすれば良いのだ!!)


 ドンッ!!


 思わず机に当たってしまった。部屋にいた指揮官たちも驚いたようだが、私の表情を見て心情を悟り、何も言わずにいてくれる。


 本当にどうすれば良いのか……途方に暮れていたまさにその時。


「急報!! 急報!!」


 伝令係の団員がものすごい形相で部屋に突入してきた。本来ならば大公の部屋に許可も無しに入るのはとんでもない不敬なのだが、今は何も気にすまい。

 仕事ができる人間ならば、こう言う非常事態ではなんでも許される。と言うよりそうあるべきだからな。


 私は彼に視線を向け、報告を促す。


「ご苦労、早速だが頼むよ」

「はは! 大公閣下、もう大丈夫です!」

「ん? 何がだ?」

「あのお方が、あのお方が援軍に来てくださいました!」

「……!? まさか!?」

「はい、そのまさかでございます! アフトクラトリア副団長閣下とアデナウアー大隊長閣下がご到着なさいました!」


 その言葉を伝令係が言い終えた瞬間、司令室代わりだった執務室は大歓声に包まれた。


(この士気の高揚っぷり……凄いものだな)


 私はそう思わずにはいられなかった。たった2人の人間が到着したと言うだけで、ここまで場の雰囲気を変えてしまうのだ。それも一瞬で。恐らくだが、こんな芸当は歴戦の猛者である師団員幹部でも、ましてや上級貴族や王族であっても普通ならば成し遂げるのは不可能だろう。


 それは何故か? その多くが人間同士の戦争で強いというだけだからだ。人間という生態系の上位に位置する生き物をここまで圧倒するような存在とやりあえる人間の方が少ない。


 その点アフトクラトリア公爵をはじめ、その同世代の者たちは若くしてすでに天魔大戦や六カ国を相手にする大戦争を経験し、今では竜魔導師が集まる集団と熾烈な戦いを繰り広げている。当然民からの信頼は厚いだろう。

 正直自分ではあそこまで落ち込んでいた師団員たちの士気を復活させるのは不可能だと思っている。



 はっきり言って、かなり落ち込みそうだが今は堪える。現在必要なのは私ごときの誇りや意地などではなく、確実に敵を撃滅できる戦力だ。彼らが協力してくれるというのならば心強いなんてものではない。


 私は皆を一旦落ち着かせるために言葉を発した。


「皆、一度落ち着こう。2人が援軍に来てくれたのならば、もはや恐れるものは何もない。今は皆で今後どう乗り切って行くかを話し合っていこう」


 私のその言葉に多くの指揮官たちが頷き、冷静さを取り戻してから席についた。そしてそれからは順調に会議を進めていった。





 僕達はひたすらに進撃していき残党どもを葬っていった。そしてついに大公家の屋敷が見えてきた。僕らの姿を視認すると、門周辺で警戒任務にあたっていたであろう師団員がこちらに剣を向けながら戦闘態勢に入った。

 だけどアンドレアス王国の師団の装備だと分かると途端に安心し切った顔になって警戒を解いた。


 門番としてはどうなのかとも思うけど、でも状況が状況だ。援軍の到着に喜ぶのも無理はない。幸い僕らの部隊はほぼ無傷だしね。


「お待ちしておりました! アフトクラトリア副団長閣下、アデナウアー大隊長閣下。ささ、アードラー大公様お待ちですのでどうぞ中へ」

「この状況下での門番ご苦労様。それにしてもこの辺りは随分攻撃が収まってるんだね」

「はい、実はとてつもない強敵もいたにはいたのですが、突然どこかへ向かってしまって。恐らく貴方様方の方へ向かったのではないかと」

「ああ、強い敵が何度も現れたり、やけに妨害が多いなと思ったらそういうことか。僕らの気配に引き寄せられてきた感じかな?」

「間違いないかと。そのおかげで我らはなんとか屋敷を守り切ることができました。感謝いたします」


 僕らは大公様を助けないとと必死だったけど、結果的にそれが屋敷と大公様を救うことにつながったのか。そしてそれ以降強敵が現れていないとなると、今回の強い敵はあの2人だけだったんだな。

 なら後はアードラー大公と協力して敵の残党を殲滅するのみだな。


「いや、当然のことをしたまでだから良いんだよ。むしろよく諦めずに持ち堪え続けてくれたね。それじゃあ、早速だけど閣下のところへ案内してくれるかな?」

「はは!」



 そうして部隊の者はそのまま警戒と防衛に当たらせ、門番に案内されながら歩くこと5分ほど、屋敷の執務室に到着した。


「アフトクラトリア公爵とアデナウアー子爵がご到着されました」


 案内役の人がそう言うと、凄い勢いでドアに人が近づいてくる気配がして、直ぐにドアが開いた。


「お待ちしておりました。アフトクラトリア公爵。さぁ、どうぞ中へ」

「ありがとう」


 僕とツェーザルは執務室の中に入って直ぐにアードラー大公を視認したので、片足を軽く引き90度に腰を折り曲げて最敬礼をした。


「閣下、遅くなってしまい誠に申し訳ございません。アフトクラトリア公爵とアデナウアー子爵、ただいま参上いたしました」

「うむ、本当によくきてくれた。まずはそこの席に座ってくれ、敵の攻撃が一時的でも緩くなっているうちに色々と情報を共有しておきたい」

「かしこまりました」



 そうして僕らはお互いの戦況や戦果、部隊状況について話し合い、僕らが敵の幹部らしき者を2名蹴散らしたことも伝えた結果、このまま大きく動くことはせずに屋敷周辺の防衛に専念し、少数精鋭の部隊を出陣させて残りの敵を討つと言う作戦に決まった。


 うん、僕もその方がいいと思う。今は戦況が安定しているんだから下手に犠牲が出やすい大勢での作戦行動は控えるべきだ。



 そうした方針が決まった僕たちは、早速それぞれの持ち場について行動を開始するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ