アードラー大公領の行く末
そこは、アードラー大公家の屋敷の一室。
私は今絶望の淵にいる。数日前、アフトクラトリア公爵に救援要請を出したが、果たして無事に届いているのやら、それすらも分からない状態であり、現状、我が戦力は着実に敵戦力により削られている。
今の所私が雇っている私兵で優秀な竜魔導師が応戦してくれているので何とかなっているが、その最高戦力にもし何かあった場合は最早、何も出来まい。
私もそこそこなレベルで剣術・魔法共に修めているが、当然奴らに敵うレベルでは無い。
最早ここまでなのか……?
私は諦めかけた。しかし、その瞬間に窓の外で我が領地のために必死な形相で敵と戦ってくれている師団員の顔を見た。その瞬間、己の愚かさを痛感した。
自分に付き従って命をかけて戦ってくれている者たちはまだ諦めていないのに、上に立つ者である自分が折れかけていた。本当に情けない。
もう少しだけ、後もう少しだけ! そう思った私は必死に指揮をとった。援軍が必ず到着してくれると信じて。
一方、戦場にて。
(はぁ、はぁ、はぁ……)
やばいな。早くみんなに合流しないと。僕は痛む体に回復魔法をかけながら、ツェーザルの気配がする方向に歩いて行く。すると戦闘音が聞こえた。
(戦っているのか!?)
僕は足を引きずりながらではあるけど、何とかツェーザルたちの姿を視認できた。ボロボロの姿で敵と戦っている。その瞬間僕はいてもたってもいられなくなり、全力で回復魔法を全身にかけまくり、無理やり傷を治して戦闘に加わった。
ちょうど敵がツェーザルに大技のようなものを仕掛けそうな雰囲気だったので、結界魔法を展開して2人の間に割って入ったのだ。
「アレン!? どうしてここに!? と言うより敵は?」
「何だい、君は。邪魔をしないでっ……君は一体何者だ?」
ツェーザルとしてはまさか僕が現れるとは思っていなかったのだろう。任務中なのに完全に言葉遣いが崩れている。まあ、それも仕方ないよな。六大聖人は本当に強かったからね。でももう大丈夫だよ、ツェーザル。あいつはちゃんと倒してきたからね。
「ツェーザル、大丈夫だよ。あいつは倒してきたから」
「それは本当なのかい!? あんな強敵を……やっぱり君は流石だな」
そうしてツェーザルに敵を倒したことを伝えると、僕はツェーザルと戦っていた男に視線を移した。
「どうやら、君は只者じゃないようだね。しかし気になるね。どうして君だけが別行動だったんだい? 君がいればこの隊はもっと安全だったんじゃないのかい?」
「へぇ、僕がこの隊で1番強いって分かるんだね」
「当たり前さ」
なるほどね。結構手強そうじゃん。でもやっぱり思うけど、アダムスほどじゃないね。彼に比べたら威圧感とかもいくらか足りない。
「ならさっさと……」
「閣下、お待ちいただきたい」
終わらせようか、そう言おうとした僕の言葉を遮ってツェーザルが言葉を発した。
「どうしたの?」
「誠に勝手ながらこの戦い、私にお任せいただけないでしょうか?」
「何故?」
「いつまでも貴方に頼っていては今後の彼らとの戦いについていけなくなると思った次第です」
なるほど、危なくなったら僕に頼めば良いやではダメだよね、と。でもなぁ、言ってることは理解できなくもないけど、僕ら2人は今大きな部隊を抱える司令官なんだ。あまり博打はしてほしくない。
「アデナウアー卿、君の言うことはわかるけど危険を犯せない状況なのは理解できているよね?」
「承知しています」
こうしている間にも敵さんは攻撃を仕掛けてこようとしていたけど、僕が睨みを効かせるとその隙が無いことは理解したみたいで今は大人しく待っている。
取り敢えず敵の心配は無くなったところでもう一度ツェーザルに向き直る。するとすぐに彼が口を開いた。
「しかし、我々が成長しないといけないのも事実です」
「それは、確かにそうだね。僕も今さっき実感してきたところだよ」
「なら!……」
「では一つ条件がある。危なくなったら私の参戦も認めること。いいね?」
「……そうですね。承知しました」
僕らはそうやって小声で作戦会議を終えた後、敵に向き直った。
「遅くなってごめんよ」
「いやいや、構わないさ。それで? 作戦は決まったのかい?」
「うん、そうだね。取り敢えず僕は一旦待機しておくよ」
僕がそう言うと、敵はあからさまに表情が不機嫌になった。まぁ、そりゃそうなるよね。自分を倒せるかもしれない敵が2人いて、でも片方は様子見しますって舐めてると取られても文句は言えない。
「はぁ〜、随分と舐められたものだね。まぁいいけど。そこのもう1人の君、続けようか」
「ああ」
そう言葉短かに2人はやり取りをすると、すぐに戦闘に入った。
20分ほど経っただろうか? 今戦況は五分五分と言った所。互いに魔法と剣技をぶつけ合い、2人とも消耗してきたと言ったところか。ツェーザルも思ったよりも踏ん張っている。これならばいけるかもしれない。
そう思ったところで、ついに動きがあった。敵が剣で撃ち合っている最中に手元を狂わしたようだ。その隙を見逃さず、ツェーザルは相手の剣を弾き飛ばした。
だけど敵も流石で、弾かれたと認識した途端に後ろは飛び退いた。だけど、それこそツェーザルの狙っていた瞬間だったようで、すでに伝説級の水魔法『渦巻き千刃』を放つ準備を終えていた。
敵はしまったと言う顔をしたが、もう遅かった。
「僕を舐めた事、せいぜいあの世で後悔するがいい!」
ツェーザルのその言葉の後、魔法は発動し、敵に向かって行く。ツェーザルはそこで力尽きたようで、バッタリ倒れた。そして敵の男は……
「おのれ、人間風情が! あり得ない! 僕ら竜人が負けるなど、あり得ないんだー!」
そう言いながら渦の中に飲み込まれていった。
その後僕らは周囲の瓦礫などを街の大通りなどの邪魔にならない場所に撤去し、すぐにアードラー大公家の屋敷に向かった。
この勝利がこの地での激戦に終止符を打つ決定的な一撃となったのであった。