動き出す魔天教幹部!
大変遅くなりました! 申し訳ありません。
僕は今、自分の新領地であるアフトクラトリア公爵領の屋敷の執務室でとある問題と格闘していた。
それは……
「あ〜あ!」
「う〜っ」
息子のジークフリートとアルベルトがエレオノーレとビアンカに見守られながらソファの上でハイハイしたり、子供用の積み木のような玩具があるのでそれで遊んだりしているのだ。彼らが可愛過ぎるせいで仕事が全く手につかない。
(はぁ……なんて幸せな光景なんだろうか。ずっとこんな時間が続けば良いのに)
まだ喃語が多いな。でもちょくちょく拙い単語を喋ったりはする。子供が日々成長している姿を見るのはとても良いものだ。
それにしても、この子達が生まれた当初は凄かった。国中大騒ぎだったからな。いくら僕が公爵で王族の一員になっているとは言え、まさかあそこまでお祭り騒ぎになるとは思いもしなかった。まるで新しい王子か王女殿下が生まれた時みたいだった。他の貴族からも沢山のお祝いの品が届いた。
そんなわけで僕の後継者が生まれた事で人々に安心を与えることができたのならば良かった。僕自身も素晴らしい家庭を築くことが出来て今とても幸せだし。
色んな意味で本当に良かった。
そんな感じでこの微笑ましい光景を眺めていると、ドタドタと執務室に向かって走ってくる音が聞こえた。
(ん? 何だろう? 何か嫌な予感がする。こういうパターンは大抵大事件の報告なんだよな〜)
そんなことを考えていると、
ドンドンドンッ!
勢いよく扉を叩く音がした。すぐに入室許可を出すと、案の定すごい顔をした伝令係が中に入ってきた。
取り敢えずあのままではしんど過ぎて喋れないだろうから、まずは呼吸を整えてからで良いと伝えた。
妻と子供達にも一度部屋から出てもらうように頼んで席を外してもらった。
「はぁ、ふ〜。失礼しました。お待ちいただきありがとうございます」
「良いよ良いよ。いつも一生懸命報告に来てくれるからね。こちらとしても頼りにしてるんだ。このぐらいなんてことないよ」
「お心遣い感謝致します。それでは早速ご報告申し上げます」
彼の言葉に頷いて先を促す。
「先日、我が国の領土内で大規模な破壊活動が行われました。主犯は傍に竜を控えさせていたため、竜魔導師で間違いないと思われる。との報告が上がっております」
ついに来たか1番聞きたくない報告が……
「それで、だいたいどのあたりの領地とかそういうのは分かるかな? 何も聞いてない?」
「はい、それに関しても報告は上がっておりますのでお伝え致します」
「それは良かった。頼むよ」
「はい。具体的な場所についてですが、アードラー大公閣下の領地との情報であります」
僕は報告を聞きながらも目の前にあった書類にサインをしたり、目を通したりしていたのだけど、流石に手が止まってしまった。
王弟殿下の領地に手を出したとなれば笑い事では済まされないし、実際に殿下に何かあれば大惨事だ。
「そうか、それは流石に普通の貴族では手に負えない案件だね。僕や他の公爵方が動かないといけないようだ。報告ありがとうね」
「いえ、これが仕事ですので。あぁ、それともう一つお伝えすることがございます」
「ん? そうなの? じゃあお願いね」
「は!」
その内容とは要は具体的な戦況の話だった。しかし中でも重要そうなのが……
「敵の主力についてですが、それはもう凄まじい勢いで我が国の師団員たちを蹴散らしているようです。その中でも特に警戒すべきなのが、六大聖人と呼ばれている者です。このものの快進撃が止まらぬようで、現地の指揮者たちも頭を悩ませているようです」
「なるほどね。分かった参考にするよ。ありがとね」
「お役に立てたのならば光栄です。それでは失礼いたします」
僕は伝令係が部屋を出て行ってからも思案を続けた。アンドレアス王国の師団員たちがこうも圧倒されている相手となると思い浮かぶのは現状では数少ない。
(魔天教、か。戦後のゴタゴタで忙しくて考える余裕がなかったけど、とうとう動き出したのか……)
これは本格的に介入して徹底的にあいつらを倒していくしかなさそうだ。
報告を聞いてから数日後、僕はアードラー大公領に来ていた。そしてその凄惨な惨状を見て、言葉を失った。
"死屍累々"
まさにこの言葉が適切な状況に陥っていた。街のあらゆる場所が破壊され、至る所に人々の死体が見受けられ、空気は煙と血の匂いで満たされていた。
戦闘が起こったであろう地点も見られるとこから見ても、おそらく師団員たちも駆けつけて戦ったのだろうが、それでも防げなかったのだと思う
それだけ敵が強いということだ。今回の遠征にはツェーザル率いる一個大隊とクラウス中隊長率いる一個中隊という編成だ。この部隊で敵の殲滅に取り掛かる。
ただ悪魔と天使との戦いで何も学習しなかったわけではないので、敵の主要人物を討ち取るのは全て幹部が引き受ける。それ以外の敵を今回連れてきた大部隊で殲滅してもらう。
そういうわけなので、早速大公邸に向かわねばならない。恐らくそこに立てこもって作戦を考えているだろうからなるべく早く参戦して、迅速に事態に対応しなければ大公領民全てが息絶えてしまう。
そう思って大公邸に向かおうとしたその時、暗闇の中から1人の人物が現れた。
そしてその人物をよく観察すると、どうにも以前に見たことがあるような見た目をしていると感じた。黒一色に統一され、まるでアサシンのような見た目をしているにも関わらず、その身に纏う衣は聖職者の装束のようなデザインだ。
(間違いないな。彼らだ……)
魔天教……世界に破滅をもたらそうとしている集団。そして目の前の男はその集団の中でもかなりの実力者と見る。立ち居振る舞いからすでに達人の領域だ。正直純粋な戦闘技術の力比べならば僕の方が分が悪いかもしれない……
それほどの圧を感じる。ツェーザルも流石にいつものような陽気な雰囲気はどこにもない。既に剣に手を掛け、臨戦態勢に入っている。
僕も剣に手を掛け、戦闘準備をしようとしたその瞬間だった……
ヒュッ!! シュドーンッ!!
僕は間一髪で黒ずくめの男の剣を体をのけぞらせることで回避できた。
「嘘だろ……」
僕は無意識のうちにそう呟いていた。まさかあそこまで凄まじい攻撃をしてくるとは思わなかった。多分、回避行動を取るのがあと2、3秒遅れていれば、僕の体と首は寸断されていただろう。
そして今の一連の動きを見て、ツェーザル以下一同の緊張度がマックスまで引き上げられた。
(これは本当に大変だ)
真剣に対処しなければ、一瞬で死ぬかもしれない。それも大した活躍もできないままに。
とにかく今はこの緊張感をずっと維持したまま、この目の前にいる強者を討ち取らねば。みんなそう考えたのか、一気に殺伐とした雰囲気に早変わりしたのだった。