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この世に怒りと憎しみと怨念を抱く集団

遅くなってごめんなさい! 本日もよろしくお願いします

 

 地獄……そうまさに地獄。それはおおよそ人によって作り出せる所業ではない。その場にいた者たちは皆そう思った。


 

 ここはドゥンケルハイト王国王都ーーーー


「あぁッ! 助けてくれ!! 誰かーッ!」

「お願い、もうやめて!! いやーーッ!」


 


 そこかしこで男性、女性、老人、子供、動物関係なく絶叫が轟いている。地面は燃え、凍り、変形し、空気は凍え、蒸し、稲光が(ほとばし)っている。

 上空には黒煙と霧が立ち込め、周りを視認するのも難しい。もはや太陽の昇り降りも確認する事が出来ず、今が朝なのか、夜なのかも分からない有様である。

 そんなもはや生物を完全に拒絶したような環境で、悠然と歩みを進める者がいる。もっとも、この男が今現在の状況を生み出している者の1人なのだから当然と言えば当然だが……



「やっぱり先の戦争で有能な人間は殆どが死んだみたいだな……何だよ、つまんねぇなぁ〜」


 男は元々この世界で酷い仕打ちを受けてきた人間のうちの1人だ。だからその恨みを此度の機会で晴らそう、そう考えていたのだ。だと言うのに、


「どいつもこいつも雑魚ばかりだし、もう王都も滅ぼし終わってしまうぞ……」


 男がそこまで言い終わった瞬間、何かが襲いかかってきた。



 ヒューンッ! ドッガーン!!


「何だぁ?」


 男はさも当たり前のように結界で攻撃を防ぎ切り、衝撃が来た方向に体を向ける。


「お前らが近頃噂になっている、各地で暴れ回ってる竜魔導師ってやつか?」

「おお、そんなに有名になってんのか俺ら。ははは、嬉しいね」

「何が面白いんだよ、テメェは!! ここは俺の故郷なんだよ! 今は冒険者だから違う地域で暮らしてたが、それでも俺の大切な場所だ! よそモンがふざけた真似してんじゃねぇよ!」


 冒険者だという男がそこまで言ったところで、途端にさっきまで楽しそうだった竜魔導師の男の目から明るさが消えていった。代わりにとてつもない冷酷さを帯びた色がその瞳に浮かび始めた。


 そして一言……


「で? それがどうした?」

「なっ!?」


 冒険者の男は絶句した。1人でやったわけではないにしてもこれほどまでの惨劇を生み出しておいて少しの罪悪感も抱いていないどころか、まるで自分を含め周りのもの全てに対して何の興味もないとでも言いたげな目をしていたからだ。

 

 そしてその冷たい目は次第に熱を帯びていき……


「それよりお前は誰に向かってモノ言ってんだ?」


 凄まじい憎悪と殺気を纏った、射殺すような視線で睨みつけてくる。冒険者の男も実は竜魔導師ではある。しかし直感した。


 "次元が違う……"


 と。竜魔導師としての格差はもちろんだが、それ以前に何か根本的な部分で違う気がしたのである。

 そしてそんなことを考えていた束の間の出来事であった。


 急に自分の目線が斜めになり、次第に景色が横向きに寝転がったような見え方になっていき、ついには完全に逆さまになって竜魔導師の男を見上げていた。


 そう、つまりは今の一瞬で首を跳ね飛ばされたのだ。


 "あり得ない"

 

 それが男が最後に考えたことであった。そして直ぐに意識が途切れた……。


「あぁあ、まぁたキレちまったよ。チッ、また魔天教の人間としてふさわしい言葉遣いや行動うんぬん言われるんだろうなぁ。面倒クセェ……」


 そこまで言って男は"元"冒険者の男に向き直る。


「ッたくよぉ、竜魔導師のくせして秒殺で殺られてんじゃねぇよ雑魚が。まぁ、仕方ねぇか。同じ竜魔導師っつってもこいつら所詮数十年しか生きてねぇもんな」


 男はそれだけ言うと暗闇の中に消えていったのだった。配下の黒装束の者数名を連れて……



 今はまだ誰も知らない。この男を含めた魔天教の精鋭部隊が世にもたらす混乱を……




 その他の国々ーーーー


「あぁッ!! お助けを! どうかお慈悲を!」

「助けてください! 我々が貴方たちに何をしたって言うんですか!? お願いですから……あぁッ!!」


 

 そこかしこから断末魔が聞こえてくる有り様。もはやそこに人権うんぬんといったものは存在せず、ただ弱いものから蹂躙されていった。


「うるさいですよ、貴方たち。少しお黙りなさい。確かに貴方方に罪はない」


 黒い装束を着て身分が高そうな雰囲気を醸し出す男の言葉に先ほどまで悲嘆に暮れていた者たちは少しだけ希望がその目に戻ってきた。

 しかし直後に放たれた言葉によって直ぐに絶望が再び襲いかかってくる。


「罪はないといってもそれはあなた方の行動に関してであって、罪になるような行いをしていないから罰せられないとでも思っているのですか?」


 男の言葉に話を聞いていた者たちは混乱した。彼らからすれば、男は今自分たちは何もしていないと言ったはず、そのように思ってしまうのも無理はない。


「あなた方の行いに対して我々がどうこうしようとしているのではないのです。と言うよりどうでもよろしい。それでは何故このようなことをするのか? それはあなた方の存在そのものが罪なのです」

「そんッ……な」


 命乞いをしていた集団には絶望しかなかった。そして悟った。


 "あぁ、これは何を言っても殺されるやつだ。対話など意味を持たない" と。



 


 その後は各地で同じような事件が多発し、次々と罪なき命が散らされていく結果となった。

 バサルス王国では戦争に負けてとんでもない負債を抱えている上に、フックス公国という負債まで抱えてしまう羽目になった。そのせいで国力、武力共に完全に疲弊していた。そこに魔天教の集団が襲来し、王都は無事だがそれ以外の都市は次々と陥落していった。


 ゾルダート王国は元々戦争に強い国だったので、そこそこ善戦している。しかし所詮小国は小国。国力の小ささゆえの持久力の低さは隠せない。徐々に押され始めている。


 パープスト皇国に関しても同様である。もちろん前者二国よりも経済、師団共に精強なので耐久力はある。しかしアンドレアス王国や旧帝国、ドゥンケルハイト王国のように超強力な竜魔導師がいるわけでもない。しかもそのうちの旧帝国は滅んでおり、ドゥンケルハイト王国に関してももはや強国とは言えない。かと言ってアンドレアス王国に頼れるかと言えばそれも無理。結果、この国も息が上がりかけている。


 ハンデル商国も元は商人の国。武力が突出しているわけではない。そのため、他の国とは地力の差が出始め、小国の中でも急激に衰えを加速させている。



 

 こうしてこの世界は徐々に巨悪に飲み込まれそうになっている。アンドレアス王国も一刻も早くこの状況を変える何らかの行動を起こさねば、滅びかけない勢いである。


 アレンたちはこの過酷な状況を乗り切ることができるのか……それは正に神のみぞ知ると言うものであろう。


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