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魔天教視点で映る戦争の光景

 魔天教大司教コンラート


 正直意味が分からなかった。何故あの戦力で負けるというんだ? と言うよりもどうすれば負けることができると言うんだ? でもまぁ、ドゥンケルハイト王国側の指揮官が無能だったかと言えばそうでもなかった。的確に指示を出していき、色々な対策も練っていた。しかしそれでもアンドレアス王国を倒しきれなかった。つまりは敵が強すぎたと言うことか……


 私は近くに控える側近に対して話しかける。


「今回の戦いでアンドレアス王国の戦力をあまり削らなかったのは痛いな」

「そうですね……とは言え、あの場にいたアンドレアス王国の師団員はほぼ消滅しました。取り敢えずは結果を残しているのではないかと」

「母数が違うだろうが母数が……全戦場でアンドレアス王国の師団が削られていっていたのならば、まだ言いたいことは分かる。だが、あの国であの場にいたのはせいぜい数万人。対するドゥンケルハイト王国は10万以上。明らかに釣り合いが取れてない。他の戦場では終始アンドレアス王国が有利だったそうだしな……」

「それは……」

「ともかく、奴も生きているようだし、その友人で強い奴も何人か残ってる。今回起きた戦争で合計で7つの国が被害を被ったのは良かった点だが、今後我らが活動していく中で確実に障壁となるであろう国の人間を減らせなかったのは痛すぎる……」

「確かに……仰る通りでございます」

「とにかく、今後は直接我らが動くしかないだろう。あの六カ国以外にはアンドレアス王国に喧嘩を売れる地盤や度胸がある国がない」

「承知しました。では何名か様子見で派遣してみましょう」

「ああ、頼む」


 

 こうして指針が決まった私は行動に移すため、上級幹部の皆様にご報告に向かう。私は中堅幹部の中でもそれなりの権限を与えられているので大抵のことは即断即決で行動できる。だが今回は自分たち魔天教が直接人間界に介入するという方針だ。今までのように裏で愚か者どもを操るようなやり方ではないため、報告すべきと判断した。


「さてと、今回の活動は果たして良い結果に終わるのか悪い結果に終わるのか、少し楽しみだ」




ーーーーーーー


 教祖

 テオドール・ラディーレン


 我輩は今、そこそこ機嫌がいい。それは何故か? 目障りな愚か者どもが勝手に殺し合って、勝手に疲弊してくれたからだ。これから私たち魔天教が新たな世界を築いていこう、と目標を掲げている矢先にこんなことが起こったのだ。

 天は我々に味方しているのでは? と錯覚を覚えたほどだ。まぁ、実際にそんなことは関係なく、単純に人間が馬鹿なだけだと思う。だが、それでも我らにとって都合がいいのは事実だ。


 そんなわけで今目の前にいるコンラート大司教の話を聞きながら今後の展開を考える。


「……そう言うわけでして、ここからは我々が直接介入していく方針で進めようかと考えております」

「ふむ、良かろう。どのみち我らの存在は天魔大戦でバレているのだ。いまさらコソコソ動く必要もなかろう。好きに暴れてくるが良い」

「はは!」


 我輩の言葉に丁寧に頷く部下を見て思う。こうやって我輩の理想のため、そして本人たちの理想のため、忠実に付き従ってくれるこの者たちを幸せにしてやらなければならない。

 彼らは事の大小はあれども皆、過去に壮絶な経験をして世界に絶望した者たちだ。過去に大小があるならそれぞれの想いの強さも違うのでは? と考える者もいるだろう。


 だがその大小というのはあくまでも彼らの身に起きた出来事そのものの大きさのことであり、その本質は全てこの世に憎悪を抱くには十分な内容であった。

 つまり仮にこの魔天教のに入った者で、過去に経験した出来事が比較的小さなものであったとしても、それは思いの弱さとはイコールにならない。


 皆、この世を憎悪している前提に変わりはないのだから……




 かく言う我輩もその1人だ。元はとある王国の貴族であったが、醜い上に出来損ないの底辺貴族に足を引っ張られたせいで、我輩の人生だけではなく、我輩の家族や友人などの知り合い全般にまで被害が飛び火してしまった。

 そのせいで自ら命を絶つ者まで現れた。我輩は激怒した。怒り狂った。まずはその下級ゴミ貴族を家ごと潰してやった。そしてその事件に関わりのあった貴族家は全て皆殺しにしていった。中には伯爵位以上の上級貴族もいた。

 しかし我輩や我輩と関係のある人間に手を出した以上、身分が自分たちの身を守ってくれると思ってもらっては困る。我輩は竜魔導師であり、1人で軍を相手取れる。人間社会での反乱くらいやろうと思えばやれるのだ。


 だがそれでも人間社会に馴染んで生きてやっていたんだ。誰がどう見ても私は人間の枠を超えた存在であるにも関わらず。なのでその事件をきっかけに我輩は王国中の有権者を潰していった。それが理由でその国は今は小国の一つと成り果てた。


 だが我輩の知ったことではない。もはや我輩の心はあの時にすでに死んでいる。いまさら慈悲の気持ちなど微塵も湧かない。それは現在の我輩を取り巻く状況にも言えることである。時間はかかったが、準備は整った。優秀な竜魔導師だけを集めて結成した魔天教。

 この組織でもって、この世界を完膚なきまでに滅ぼしてやる。


「今宵は満月か……行動を開始するには絶好の日だな。コンラート大司教よ、しっかりと役目を果たすのだぞ」

「仰せのままに!」




 

 その後、世界に激震が走る。竜魔導師が暴れ回るという前代未聞の大事件が世界各地で連続的に発生したからだ。各国は先の大戦争での傷を癒すことができぬまま、この絶望的な戦いへと身を投じることとなる。



 

 

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