戦の行方
僕は自分の目の前に、いや辺り一面に広がっている光景に言葉を失った。
"無慈悲"
この一言以外では言い表せない、いいやそれでも足りないくらいの光景が広がっている。無事なのは僕たちが全力で結界を張った砦と敵の陣地のみ。
それ以外は全て更地となり、砦の左右に広がっていた森林も最早面影すら残っていない。
自分たちがいる場所以外、土地が丸ごと消えた。そう表現するしかない。
だが何より受け入れ難いのは、
「う、そだろ?……」
僕たちが全力で結界を張っていた砦を周囲の国境防壁も巻き込みながら通り越して、アンドレアス王国にまで魔法が侵入していたことだ。それはつまり、
「ま、さか……部隊は全滅?」
「間に合わなかったか……」
「逃げるには、時間が足りなさすぎた」
僕は自分の心臓が握りつぶされていくような感覚に陥った。何故なら砦より後ろに師団員が殆どいないということは、つまりはそういうことだからだ。
ただ実際には何名かはちらほらと体の原型を残して倒れているのが見える。勿論防具などはボロボロだが……しかし彼らはおそらく優秀な魔法師か魔法騎士か何かだろう。竜魔導師も混じっているかもしれない。
とにかく僕ら三人以外はみんな撤退させた。だがそのほとんどが見当たらないということは、助からなかったということだろう。
そんなことを考えていた僕は突然何かがプツンと切れたような気がした。敵は僕らがまだ生きていることを知ってあたふたしているようだけど、そんなの知ったことではない。
最早講和などどうでもいい。二度とアイツらがアンドレアス王国に牙を向かないように徹底的に潰してやろう。
僕は魔力を全力で解放した。これにはグスタフたちも驚いたのだろう。一瞬ビクッとしてから僕の方に振り向いた。そして何かを言おうとしていたようだけど、もう遅い。僕にはもう誰の声も耳に入ってこない。
「おい! アレン落ち着け! 気持ちはわかるが、今は感情を……!?」
グスタフが何かを言ったのと同時に僕は竜を全員解放した。グスタフたちは、もうどうしようもないという顔をしていた。
さてと、じゃあ掃除の時間と行きますか。
ブォーーンッ!!
僕は英竜闘気を全開で解き放った。既に敵陣地はビクビク状態だ。だが知るかという感じだ。お前たちの行いの結末だ。因果応報。大人しく受け入れろ。
「皆今回は全力で容赦なく暴れてくれて構わない」
「良いのか? いつもならそんなことは言わんのに」
「えぇ、良いのアレン?」
僕の指示にルシファーとブイが確認を入れてきた。だけど、言った通りだ。敵の師団員一人一人は命令に従っただけであったとしても、それは最早言い訳になどできない状況になっている。
何故ならこちらの部隊はほぼ消滅したからだ。こちらの被害とあちらの被害、懸命に戦っていたにも関わらず、割に合わなさすぎる。故にもう手加減など考えない。
「やってくれ」
"コクリ"
ラー、ブイ、ポセイドン、インドラそしてルシファー。全員が承諾の意を示し、首を縦に振ってくれた。
「それじゃあ、やるよ」
僕の呟きにみんながまた頷く。そして手を上に挙げた僕は、大きな声で号令をかける。
「薙ぎ払え!」
グォーーーッ!!!
ルシファー達は雄叫びを上げると、それぞれがブレスを吐き、魔法を使い、敵陣地を蹂躙していく。
敵は結界で防ぐので精一杯で完全に防戦一方になっている。今はかろうじて防げているけど、そのうち力尽きて一方的に攻撃を喰らうだろう。
さて、僕も行くとしますか。
「『蒼き雷鳥』!」
僕は雷の災厄級魔法。"蒼き雷鳥"でまずは攻撃した。目の前では蒼く輝く大きい鷹のような鳥が縦横無尽に敵部隊を蹂躙しまくっている。もう既に敵は限界だったようで所々に結界の綻びが出来始めている。
なので蒼き雷鳥で楽に仕留められる。
最早環境への配慮など考えない。この場所は高濃度魔力に汚染されているから既に普通の人間が住める場所ではなくなっている。鍛えている騎士や魔法師、魔法騎士でさえキツイだろう。
だが、元から内包魔力が多い者は大丈夫なようだ。これは文献に書き足しておかないといけないな。過去にも気づいた人がいたのかもしれないけど、そもそも使われる機会が無いわけだから情報がうまく伝承されていなくても不思議じゃない。
とにかく今は戦いに集中だ。ここにいる僕含め、3人は魔法に才能があり、かつ魔力量が多いから耐えられるだけのようだが、いつ予期せぬ異変が起こるか分からない。手早く済ませた方がいいと思う。
そんなわけで、僕は次々と魔法を発動させていく。伝説級に帝王級と、とにかく容赦なく乱発した。
アレックスの相手をしていた竜魔導師も突撃をしてきたが、炎と雷の強化魔法を発動し、身体強化も纏っている僕の敵じゃなかった。突き出してきた剣ごと叩き切ってやった。
相手の指揮官は動揺したのか、僕に向かって巨大魔装砲を発射してきたけど、帝王級結界2枚を張り、無効化した。
その後底上げした身体能力で一瞬で魔装砲の場所まで行き、"岩突"という魔法を2発撃ち、2門とも破壊した。
最早敵に反撃能力は残っていない。そう考えた時、グスタフとダミアンも敵本隊の攻撃に出たようだ。こっちも一方的だ。この戦いもようやく終わったな。
一時間後、
「どうだった?」
「辺り一帯見回ったが、責任者はどうやらその2人のようだ」
「なるほど、他には何かあった?」
「走り去る者を何人か見かけた。既に遠方だったので、見逃した。まぁ、あの者達が今回の件を報告してくれるだろうさ」
「そっか。つまりは他には幹部らしき人物はいない、と……そして肝心のこの2人も既に死体となっているから、実質全滅だね」
「ああ」
幹部であろう者は少し豪華な鎧をつけていたのですぐに分かった。でも、それは先ほどの戦闘で既に亡くなっていた者のものだった。
なので、これからドゥンケルハイト王国と講和条約を結ぶにしても向こうから使者が来るのを待たないといけない。少し面倒だけど、これでようやくドゥンケルハイト王国との戦争に勝ったんだという実感が湧いてきた。
「これが他の戦場での戦局に影響を与えてくれればいいね」
僕がそう言うと、グスタフが返事をした。
「そうだな」
そして数日後に向こう側から使者が来て、正式に講和条約が締結された。