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魔天教大司教 コンラートの誤算

 私は目の前の惨状が信じられない。


 いったいどういうことだ? あれだけの戦力を用意して、あれだけの兵器を開発・配備して、それでこの有様? 正直意味がわからん。

 しかもこの私と同じ超位竜を従える竜魔導師までいてこの結果なのだからつくづく笑えない。こちらの指揮官が相当無能なのか、それとも向こうが優秀なのか……まぁどちらにせよ、最早私には関係のないことだ。

 この国は世界の変革にそこまで貢献はできなかったが、別の意味での貢献ならできた。それは、この戦争によってこの国の人口を大量に減らすことに成功したということだ。


「まぁ勿論、人類全体に比べたら微々たるものだろうがそれでも少しは役に立っただろう」


 心の声が口に出ていたので焦ったが、幸い誰も見ても、聞いてもいなかったようだ。


 だが、私はすでに方針を固めている。最早この国がアンドレアス王国に勝つことなど不可能だろう。いくら主力を後衛に集めていたとは前衛がすでに半壊以上の損害を被っていたのだ。それに加えて後衛もこの様だ。


「引き時、だな」


 私はそれだけ呟くと、気配を極限まで消して陣地を離脱した。





 ドゥンケルハイト王国側陣地ーー


 後衛部隊を引き連れてきた中隊長である私、アドリアン・ベーアはこの状況に非常に混乱していた。


「一体どうなっとる?……」


 今回の戦争、周辺の6カ国まで巻き込んで大戦力を用意した。しかも新しい兵器の開発にまで着手し、たった一国では相手にならないほど準備してきたはずだ……


 だというのにいざ出陣し、現場に来てみれば、前衛はすでにボロボロで、私が率いてきた後衛部隊も押され気味だ。

 別にやられているわけではない。向こうにも確実に被害を蓄積させていっている。だが、致命打になるほどではない。


 こんな事態を誰が予想できようか……今まで三大列強と呼ばれて恐れられていた我らがドゥンケルハイト王国が、同格の国とは言えここまで圧倒されるなどと……


 と、そこまで考えてダメだダメだと自分に言い聞かせる。


「指揮官たる者が、作戦行動中に諦めてどうする!」


 小さい声で自分を叱咤する。前線部隊はボロボロでも元々の人数が相当なものなので、共に行動すればそれなりの部隊にはなる。

 なのでまだ焦る時ではない。それよりも今どうすればこの状況を打開できるのかを考えるのが賢明であり、すべき事である。


「ただそれ以前にやるべきことがあるな……あの男、本当に忌々しい」


 私は自分が指揮する巨大魔装砲に接近してくる男、アレン・アンドレアス・ベッケラート・アフトクラトリア公爵に目を向ける。

 おそらく結界魔法と身体強化魔法を使用しているのだろう、物凄い速さで獲物に突進し、破壊している。遠方の獲物には魔力換算で最低でも上級以上の魔法を叩き込み、対処していっている。

 

 それと噂は本当のようだ。彼は武人以前に熱心な研究者であるという噂……


 実際に彼の放つ魔法はほとんどが見たこともないようなものばかり。時々我々も使うような魔法も使用しているが、魔法学の教科書に載っているような魔法は最早ほとんど使用していないと言って良い。


(一体何なのだ! あの男は……)


 私がそう嘆きたくなるのも無理はないというものだ。おそらく竜魔導師でもない限り、皆そのように考えるだろう。



「はぁ、まずはこの状況をどうにかしなければな……」


 私は自分の運の悪さに辟易した。






 場所が変わって、バサルス王国との戦場ーー


 ディルクとツェーザルは苦戦こそしていないものの、所々出てくる敵の竜魔導師のせいで、作戦を妨害されたりして敵を完全に撃滅できずにいた。


「厄介ですね……敵を押し込むところまでは出来るのですが、そこからがなかなか進展しない」


 ディルクの貴族モードでの呟きに周囲にいる幹部たちは皆頷く。それも全くの不快感もなさそうに。


 と言うのもこの場ではディルクが1番階級が下だ。ツェーザルは大隊長なので1番上。その次が中隊長1人、小隊長2人と言った感じ。その下にようやくディルクだ。階級は分隊長。なのに皆、ツェーザルならともかくディルクにまで付き従うような姿勢を見せる。異様な光景と言えよう。


 ディルク本人もそのことに違和感を覚えていたのだが、周りがあまりにも自然に自分の意見を真剣に受け止め、そしてそれに従うことも(やぶさ)かではないという姿勢をとる。兄の威光故なのか、それとも自分の実力を認めてくれているが故なのか、いや考えるまでもなく兄の威光は理由に入っているだろう。

 そして父親であるエトヴィンの影響もあるだろう。とにかくどう言う理由にせよ、あまり素直に喜べない敬意の払われ方だとディルクは考えていた。

 いつか自分の実力で敬意を払ってもらえるようにしなければ、そう心に誓うのであった。


 だがそんなディルクの決意など知ったことかと言うように、この場の幹部の1人、中隊長であるウーベ・デーニッツ伯爵は意見を述べ始める。


「ベッケラート伯の仰る通り、戦況はこちらが押しているのにも関わらず、何故か押し切ることはできない。ここは一旦策を練り直す必要がありましょうな」

「しかしですな、それはもう既に何度も挑戦したことでしょう?」


 小隊長の1人、エリアス・ドッペルバウアー子爵は、ならばどうすると言いたげな反応をした。


「1番有効であろう方法は、やはり敵の竜魔導師の排除を優先することでは?」

「やはりそうなるであろうな」


 もう1人の小隊長、グントラム・ドレーアー子爵の意見にデーニッツ伯爵は同意を示す。


 皆が分かっているのだ。所詮、敵の部隊そのものは烏合の衆でしかないと。ならば何故状況が進展しないのか?

 そんなのは考えるまでもなく、敵の竜魔導師が優秀で、こちらの動きを全て察知されているからだ。ならばその者たちを最初に排除すれば良いと。


「私もあなた方の意見に賛成です。今までは戦力を温存するため、主力を一極集中させることを躊躇っていました。ですが最早そんな悠長なことを言っている場合ではありません」


 ツェーザルの意見に異論は出ない。皆が静かに頷くのみである。


「それでは早速行動を開始しましょう。部隊の竜魔導師らを一旦集めてください。向こうが竜魔導師ならこちらも当然竜魔導師で行きます。そしてこの部隊にベッケラート伯、貴殿も参加していただきます」

「はい」


 ディルクは大役を任されたことになるが気負いもなく、しっかりと了承の意を示した。


「それでは作戦がまとまったので、行動を起こしましょう! 全員の武運を祈ります!」

「「うぉーーーッ!」」


 こうしてバサルス王国の迎撃部隊として出陣していたツェーザルたちの部隊も、いよいよ本格的な決着をつけるため、動き出したのであった。


ディルクの名字にミスがあったので修正しました。申し訳ありません。

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