謁見 その2!
あれからどういった状況で悪魔と戦っていたのか、どうやって倒したのかを根掘り葉掘り聞かれた。今は移動しながら話している。
だが僕にはそれより重要でもっと聞きたいことがあったのだ。
「陛下、恐れながら一つお伺いしたいことがございます。お聞きしてもよろしいですか?」
「うむ! 国家機密以外なら教えよう。おぬしは近衛師団副団長を見事守った。むしろ情報だけでは見返りが足らんくらいだからな」
「感謝いたします。それではお聞きします。悪魔についてなのですが、以前私が契約している竜も言っていて、父上も先日申していたのですが、復活した、とは一体どういうことなのでしょう? わたくしはまだあまり悪魔のことには詳しくなくて、お教えくださるととてもありがたいのですが……」
「ああ、そのことか。確かに悪魔に関しては基本おとぎ話として伝承されておるので大貴族か、一部優秀で余が大丈夫だと見込んだ者にしか情報が出回っておらん。理由は民衆に混乱を起こさせないためだ」
「確かにあれほどの力を持つものが実在しているとなると混乱もしましょう」
そういうことか。だから貴族である僕でも知らない情報だったんだ。父上が知っていたのは優秀だからで、もし僕も優秀だったら教える、とかだったのかな? まあ今はどうでもいいけど。
「うむ。なので最小限に情報の拡散はとどめておったのだ。あの場にいたのは全員が大貴族でな。だから今回の話題も出したのだ」
「そうだったのですね」
「それで話の続きだが、伝承には悪魔以外にもう一つ強力な種族がいる。それが天使だ。かの者たちはお互いを怨敵であるかのように憎みあっておっての。かたや大暴れする悪魔を止めたいと思っており、かたやただ破壊衝動や誘惑衝動といった本能からくる精神的不満を発散しているだけなのに攻撃してくる天使をうっとおしく思って反撃する、といった感じだ。もちろん、中には悪意を持って破壊などに興じる輩もおるようだがの。ただどちらかというと天使の方が攻撃的な性格をしておっての、それ故に正義をはき違え、独りよがりに争いをはじめ、人類や竜にも被害を出していたと記述に残っておる」
なるほど、典型的な自分たちの正義を信じており、かえって視野狭窄になり、いらない争いを巻き起こす面倒なタイプだな。天使全員がそうとは限らないだろうが、悪魔同様警戒しておく必要がありそうだ。
「そして、あまりにも両族の争いがひどすぎる上に、まともに戦えば竜にも人にも被害が出る。そもそもこの世界にとって邪魔な存在でしかないので、当時の国王および優秀な魔法師や竜魔導師が封印することを決意し、それぞれの世界へ封印した」
「ん? 一つよろしいですか? それぞれの世界とはどういうことなのですか? 天使や悪魔はこの世界の生物ではないのですか?」
「そうだな。それぞれ、冥界、天界と呼ばれる世界を有しており、これらは我々の世界とは違うようなのだ。ただその世界とこの世界を結ぶ入り口のような場所はあるので、竜魔導師や魔法師たちが無属性の応用魔法のようなもので『強制送還』という魔法理論を確立し、その後、竜魔導師が実行部隊として、両族ともに元の世界に送り返したのだ。弱体化という効果のおまけつきでな。なんとも偉大な者たちよ」
多分、竜魔導師しか実行しなかったのはその確立した魔法理論が大規模すぎて、一般的な魔法師では魔力が足りなかったんだろうな。
「そういった歴史があったのですね」
「うむ。だからこそおぬしに頼みたいことがある!」
「な、なんでございましょう?」
そういうと、陛下は強い眼差しで僕を見た。
「おぬしがまだ子供であってこんなことを頼むのも筋違いとは理解しておる。だが悪魔を倒したのだとしたら、此度の件、おぬしに力を借りることがあるやもしれん。その時は協力してくれるか?」
「もちろんでございます。陛下、頼むなどと仰らないでください。不肖このアレン、物心ついたときから陛下に、お国にしっかりとお仕えしたいと思っておりました。強制的にご命令でやれ! と命じていただければ、わたくしにできることであれば、粉骨砕身働かせていただく所存です」
「ふ、ふはははは! こりゃ参った! 良い! おぬしとても良いぞ! ではその時は遠慮なくこき使わせてもらおう!」
「は! ご命令の時をお待ちしております」
「うむ」
そんな感じで10分ほど話していると、近衛師団の訓練場に着いた。ここで竜をお披露目する予定だ。
「では、アレン。よろしく頼む」
「はい。陛下。では行きます! 顕現せよ!」
そういうと久しぶりに(実際には数日しかたってないが、かなり久しぶりに感じる)ルシファーたちが顕現した。
「ようやく外の空気を吸えるな。この数日間、実に退屈であったぞ、アレン」
「「「「キュウ! キュウん! キュキュ! ガウ!」」」」
「ごめんね。少し忙しくて。中で話しててもらうしかなかったんだよ」
「それなら仕方あるまいな」
とそこで気づいたことがある。以前僕や家族のみんながルシファーを初めて見たとき、みんなビビって動けない状態だったよね? え? これやばくない? 恐る恐る後ろを振り返ると……やっぱり。
「こ、これが神位竜!? そして何だその真ん中にいる巨大な竜から感じられるこの圧倒的な覇気は!?」
「も、申し訳ありません! 陛下、この竜はルシファーという名前なのですが、古代竜なのです」
「な!? 古代竜!? あ、いやそういえばアーベントロート卿がそんなことを言って居ったな。だがしかし強烈なものだな。信じられん。神位竜というだけでもとてつもないというのに、さらに古代竜ときたか……」
「この驚かれよう久々な気がするな」
「ははは。そうだね。そもそもルシファーに会う機会のある人なんてめったにいないもんね」
そんなことを話していると、なんか陛下から呆れのような視線を向けられているようなのだが、それは気のせい?
「私も初めは驚きました。竜が降臨してくれるだけでも大変なことなのに、神位竜5体、そのうち一体は古代竜だなんて。しかし、とても強く頼りになる存在です。彼ら5体の竜が力を貸してくれるだけでも悪魔を一方的に蹂躙状態でした。それが彼らも戦闘に参加するとなるととんでもない戦力増強です」
「もうおぬしらを止められる者を探す方が難しいな。なるほど、あい分かった! おぬしの言葉とアーベントロート卿の報告に偽りはないと確認できた。そこでいったん玉座の間に戻ってやらねばならんことがある」
「やらねばならないこと、ですか?」
「そうだ。それは、報酬授与の儀だ」
「え!? 報酬!?」
「ん? いらなんだか? 近衛師団副隊長を救った上に、悪魔討伐。これで報酬を与えん国がどこにある」
そっか、改めて言われてみれば、我ながらとんでもないことばっかやってるな。でも報酬って何だろう?
そうして来た道を戻って、玉座の間にたどり着いた。
「では、謁見の続きを始める。まず、はじめに報酬をアレン・ベッケラート、そなたに授けたいと思う。ではバルツァー公爵、読み上げてくれ」
「かしこまりました。では、アレン・ベッケラート! 此度の活躍にかんがみ、貴殿に白金貨20枚と金貨100枚! そして……騎士爵位を叙爵するものとする! 以上報酬の授与の儀を終了する」
え? 今なんて? 騎士爵位に叙爵!? え、僕正式に貴族家当主になっちゃったよ。え、でもこれって、
「謹んで拝命いたします。ただ一つ陛下にお伺いしたいことがございます」
「なんだ? 申してみよ」
「はい。私が騎士爵になるということは実家とは別家になるという認識でよろしいのですよね?」
「ああ、分家という扱いでベッケラート男爵家の下に付くことになるな。ただおぬしの懸念していることもわかっておる。実家を継ぐつもりだったのに、別家の人間になったらこれからどうしようか、ということだろう?」
「は、はい」
バレっバレじゃん。ははは……
「心配するでない。この国では貴族が実家とは別に爵位を与えられた場合に限り、実家の領地の内政に深くかかわる権利を認めておる。特に長男が別家の当主になってしまった場合はな。つまりこの国では分家ができてしまってしかもその分家の当主が優秀で実家の力になれる場合は、実家の内政への干渉を認めておるのだ」
「そうでありましたか。お教えくださりありがとうございます」
「おぬしも貴族の子息なのだ。自分があまりにも優秀であれば、その実績から家を継ぐより前に爵位を与えられてしまう可能性も覚悟しておったのだろう? もちろん執務に関して人を何人か派遣しよう」
「もちろんでございます、陛下。これからも日々邁進していく所存でございます」
「うむ。ではアレン・ベッケラート! 此度の活躍、誠に大義であった!」
これからどうするかは父上と相談すればいいだろうけど、一番の心配は実は別のところにあるんだな。とりあえず、謁見は終わったので、僕たちは王城を後にし、宿に向かった。
ちなみにこれから父上はしばらく王城で働くことになるので、三日後、宿の契約期間が切れると王城に住むことになるそうだ。
王都勤めの貴族なら、自分の領地と別に王都に別荘を持ってるけど、父上は完全な地方貴族なので、貴族街に家はない。
「全く、たった6歳で爵位を拝命とはアレン、お前の実力は本当に天井知らずだな」
「いえ、そんなことはありません。まだまだ父上の威光の足元にも及んでいません」
「そう謙遜するな。お前はすごいよ。実家のことは気にするな。それにもし大変な時は陛下も仰っていた通り、お互いの家で支えあう権利が認められている。気負うことは何もない」
「はい。もちろんです。ですが今は少し別の懸念がありまして……」
「ディルク、か……」
「はい。今までは僕が兄妹を引っ張ってきました。ですが正式に貴族としての活動が始まれば、その役目は一気にディルクに押しかかる上に、間違いなくディルクは優秀なので我が家を継ぐことになるでしょう? 僕が完璧な嫡子だったなどとおこがましいことを言うつもりはありませんが、少し心配になって」
「全くもってその通りだな。とてつもない重圧になるやもしれん。ディルクやアンナにとってお前の存在はとても大きな意味を持っていただろうからな。それがいきなり兄の代わりになれるよう頑張れと言われて、果たして何人の貴族家の子供がそれを成しえるだろうか。全く、お前は叙爵されて喜ぶどころか弟の心配とは、本当によくできた長男に育ってくれたものだ」
「いえ。当然のことです。ですがあまりこれ以上心配しすぎてもディルクのこれまでの努力をすべて軽んじてしまうような気がするので、あとは本人を信じるしかないのかなと思っているのです」
そうだ。今までの自分がディルクにとって完璧だったなんておこがましいことは考えられない。だってそれほどまでにディルクは頑張っていたんだもの。僕がいなくても頑張っていたんじゃないかと思う。年齢が近いというのもあって僕が家庭教師の先生から教わっていることを少しだけレベルを下げた状態で教わっていた。それでもしっかりと着いて来ていた。本当にディルクは凄いのだ。
すると父上が、
「そうだな。お前の言う通りだ。ただ、そこまで心配することもないかもしれんぞ。何せあいつは常に兄さまのようになりたい、と言っていたからな。だからこそお前の言う通りとてつもない努力をし続けてきたのだからな」
「そう、ですね。よく考えてみれば以前、母上にもディルクがそのようなことを言っていたと聞いたような気がします。かなり前なので忘れていました」
「ははは。まあ、そういうことだ。案外、杞憂に終るだけかもしれんぞ? 何せお前のようになりたいといっていたのだ。家を継がないといけない、今度は自分が兄の役目をこなさないといけないとなれば、むしろ今までのようなムキになる性格が顔を出すかもしれんな」
「なんかそういわれると、そのような結果にしかならないような気がしてきました……」
「ははは。そうだろ? まあ、とりあえず今は宿に戻ろう」
「はい」
そして宿に戻り、謁見の結果を報告しました。その結果、
「それ本当!? 兄さまもう爵位をもらったの!? すごい! 俺も負けられないね! というかさ、俺が頑張っても頑張っても、いつも兄さまは先を行くよね? 本当、いつになったら追いつけるのかな」
云々かんぬんわめいておりました。はい、ものすごくお恥ずかしい話ながら、父上の言う通り杞憂でした。
ま、そんなこんなで謁見に関してはこれにて一件落着だね。
それに僕にはもう一つこれからすごく頑張らないといけない案件があるが、それはまたもう少し後のお話。
謁見、長かった。すみません、書きたいことが多すぎて何とか2話で収まりました。お楽しみいただけたら嬉しいです。それから、ブックマークを付けてくださった方本当にありがとうございました。これからも頑張ります。