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怒れる怪物たち その2

 僕はダミアン負傷の報告を受けて直ぐにドゥンケルハイト王国との戦いが行われている砦にやって来た。

 そしてダミアンの容態を確認しにいって、問題なさそうに休息をとっているのを確認出来たから、グスタフに会うため、城壁に登って来たんだけど……


(うん、分かってた。こうなってるのは……)


「業炎竜、焼き尽くせ!」


 グオーーーーッ!!


 ドガーンッ!


 グスタフの竜が炎のブレスを辺り一面に放ちまくって、そこかしこから断末魔が聞こえてくる。


「ギャーーッ!! 熱い! 死ぬ!」

「腕がーッ! チキショウ! 化け物が!」

「おい、しっかりしろ! 目を開けるんだ! あぁ、クソ!」

「水……水をくれ……熱い……」


 この惨状を見て僕はやってるな〜と思った。そしてなんだか相手がかわいそうになって来た。他人が激怒してめちゃくちゃやってると、妙に冷静になるよね。

 それにしてもこれは結構エゲツないな……なんて言うか、今この状況を端的に言い表すなら、そこらじゅうから聞こえる断末魔や悲鳴がこの戦場を形容する楽曲のよう。ほんとにそんな状況としか言いようがない。

 曲名は"愚か者の末路"みたいになりそうだな。


 ホント、最早戦いになってないもんな。正に一方的な虐殺だ。でも確か偵察部隊の話じゃ敵はまだ後衛部隊を用意していると言う話だから、今のうちに出来る限り敵の人数を削るのは有効な手段だ。

 取り敢えず僕は後衛部隊の相手をすることにしよう。怒りが完全に消えたわけではないし、それにせっかくここまで来たんだしね。前衛はグスタフに任せよう。



 さてと、ざっとこの戦場の状況を確認できたところで、僕は再びグスタフが居る方に向かって歩き出した。


 僕が近づくと気がついたみたいで、グスタフは僕に声をかけて来た。


「アフトクラトリア卿か。確か貴殿は王宮で待機ではなかったか?」


 部下たちが居るからかしっかりと貴族モードだ。おっとそんなことはどうでもいい。早く返事をしないと。


「そうだね。でも敵が何やら卑劣な手を使ったみたいじゃないか。流石に許せるものではないからね」

「なるほど、だがここの指揮官に任ぜられたのは私とアードラースヘルム卿だったはずだが? まさか私たちには任せられんと?」


 まぁ、そうなるよね。普通なら自分の腕が信用されていないと考えても仕方ない。

 この場に居合わせた幹部やお付きの師団員たちもこの異様な空気に居心地が悪くなっているみたいだ。

 あまり良くない雰囲気だな。取り敢えず誤解を解くべきか。


「落ち着いて欲しい。僕は別に君達の手腕を信じていないわけではないよ」

「では何故?」

「そうだね、それは単純に報復をしに来たと言うだけかな? 深い理由はないよ。だから安心してくれ。そんなわけだから今戦っている部隊は完全に君たちに任せる。後衛に関しては、僕に幾つか出陣の出番を作ってくれればいいから」

「なるほど、承知した。ではそのように」

「ご理解感謝するよ」



 こうしてグスタフとの話し合いはひとまず終了した。





 そして数時間後、


「お出ましのようだな」

「そうだね」


 敵の後衛部隊がようやく到着したようだ。それも相当な数。僕たちが真剣な眼差しで敵師団を眺めていると、後ろから足音が聞こえて来た。


「おやおや、あちらはかなりの数を揃えて来たようですね!」

「はぁ。ベーレンドルフ公、この者はどうにかならないのですか?」


 2人の人物が声をかけて来たけどその人物のうち、1人は知らない人だった。そしてもう1人は言うまでもない。


「アードラースヘルム卿! もう動いて大丈夫なの?」

「ええ、お陰様で。よく休ませていただきました。貴方こそ、こちらへいらしてたんですか?」

「うん、どうやら敵は最低な手段で君を負傷させたそうじゃないか。国際的に取り決められているわけではないとしても、これは放っておくことはできないと思ってね」

「左様でしたか。この戦線の総指揮官が早くも離脱とは面目ありません」

「いやいやそんな事はないよ。これからどんどん活躍してくれればいいだけさ」

「そう言っていただけると心が救われます」

「ところで、そちらはどなたかな?」


 僕がダミアンと一通り会話した後、気になったことを尋ねた。すると、


「この者は元々ドゥンケルハイト王国側の竜魔導師の1人です」

「へぇ……」


 僕は自分の目が据わっていくのが分かった。そしてダミアンたちが慌てた様子で説明を始める。


「あ、えっとですね。敵側だったと言ってももう向こうに未練はないようです」

「どう言う意味?」


 僕は訳が分からず質問した。すると今度はグスタフが答えた。


「奴はただの戦闘狂なのだ。つまり自分の立場を保証してくれて、戦場に出してくれるならちゃんと従うと言うことだ」

「それってお国への忠誠心とかとは無縁って事だよね? 普通に問題だと思うんだけど」

「確かに、それもそうだな。しかし、それは我々幹部がしっかりと手綱を握っておけばいい話。実際、この者にはこちらに協力するなら立場を保証すると伝えてある。つまりはそう言うことだ」

「なるほど……分かった。その人のことはベーレンドルフ卿とアードラースヘルム卿に一任するよ。ただ、これが原因で師団運営に問題があったら2人の責任となるんだよ?」

「それも承知している」

「覚悟の上での敵戦力引き抜きです」

「そっか。それならもう何も言わないよ。何かあったら僕にも報告してくれ。ただ僕もこの男と話してみたいから少し席を外してくれないかな?」


 2人は僕の目をまっすぐにみた後でダミアンは深く礼をして、グスタフは軽く目礼して下がっていった。

 そしてその問題の男だけがこの場に残り、僕に向き直った。


「さてさて、初めましてだね」

「えぇ、お初にお目にかかります。アレン・アンドレアス・ベッケラート・アフトクラトリア公爵」

「へぇ、僕のこと知ってるんだ」

「今や、貴方がその胸につけてらっしゃる家紋を見て自分が今誰と話しているのか分からない、と言う者はおりますまい」

「ははは、それはあくまで貴族やある程度裕福な家庭で勉強することができる人に限られるでしょ」


 僕は彼とある程度のやり取りをした後、今度はそっちが話してくれというふうに視線を向ける。


「おっとこれはこれは、失礼いたしました。名乗るのが遅れていましたね。私はアレックス・ヘルムート子爵です」

「そっか。よろしく頼むよ」

「えぇ、私こそ。宜しくお願いします」



 僕らはそこで一旦会話を終え、ドゥンケルハイト王国側の陣地を睨みつけた。これから起こるであろう闘いに備えて、しっかりと作戦会議を行う必要がありそうだ。


「取り敢えず、アードラースヘルム卿達のいる場所に向かおう。君も会議に参加してもらうからね」

「仰せのままに」

「よし」


 

 そして、幹部が集まる天幕に行くとすでに皆が着席して僕らを待っていた。


「お待たせして申し訳ない。彼も連れて来たし、人は揃ったね。それじゃあ始めてもらえるかな?」

「はい」


 僕の言葉に中隊長の師団員が早速、作戦の説明を始めた。


(さぁ、いよいよだ。ここでの戦いは、おそらくこれが最終決戦になるだろう。しっかりとみんなで話し合わないとね)


 こうして、僕を含めた幹部全員による作戦会議が始まった。

遅くなりました。すみません。

そして、皆さんあけましておめでとうございます。今年も一年、宜しくお願い申し上げます!

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