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怒れる怪物たち

 その報告は全ての戦場に知れ渡った。


 "ダミアン・アードラースヘルム子爵がドゥンケルハイト王国の部隊によって行われた夜襲にて、重傷を負う。最高位回復薬と回復魔法にて完治はしたものの、経過観察の為に安静にしており、現在はグスタフ・ベーレンドルフ公爵が代理で総大将を担っている"


 この報告にダミアンと1番最初に知り合ったカールが特に激怒した。


「何をトチ狂ったのか知らないけど、あの国はとうとうやらかしてくれたようだね……下手をすれば自分の同盟国にすら見限られるかもしれない悪手だと言うのに。まぁ、そんなことはどうでもいい。今、問題なのは……」


 そこまで言った後、カールは急に体から魔力を放出した。そして、


「僕の友人を卑怯な方法で陥れたことだ!」

 

 そのセリフの後、魔力圧が一段と増した。

 今までにないほど激情に満ちた重圧。魔力に感情など含まれるわけがないのだが、居合わせた幹部や師団員たちはそう感じた。

 そしてなんと言ってもその魔力圧の密度だ……

 カールは竜魔導師ではないので、決して魔力量が多いわけではない。しかし長年の修羅場を潜り抜けてきた経験とそれによる洗練された魔力操作技術、そういったものが無意識で行われているからこそ、怒りに身を任せている場合でも洗練された魔力を扱うことができる。

 故にそれが放つ圧力は重く強い。熟練の幹部や師団員たちですら、この状態のカールには恐れ(おのの)くしかなかった。


"下手な慰めや気休めは逆効果だ。今は余計なことを口にしないほうがいい"


 カールに付き従っていた皆が全会一致でそう思った。そして黙って彼の指示を待つこと数分。


「はぁ〜、こんなことをやっていても仕方ないね。さっさとこの戦場を片付けよう。もう開戦して何日も経つけど、そろそろ主力を送ろうか。僕も後方から支援する。こんな開戦初っ端からどこかの誰かさんがやられちゃったから援軍を向こうに送らないといけないだろうし……」

「……かしこまりました。ではそのように指示を出して参ります」

「うん、頼んだよ」



 この場にいた皆が思った。


"こんな厳しいことを言ってはいるが、早くアードラースヘルム卿の容態を確認したいんだろうな"


 と。だが口にはしない。それが空気を読むと言うことだから。そして彼らは実際それが正しかったのだと後に痛感した。

 アードラースヘルム子爵の現状報告が終わった後に行われた戦闘ではカール・ブラント子爵による後方支援の下、ただ一方的に蹂躙が行われた。


 開戦早々に敵が全体で一気に距離を詰めてきたので、アンドレアス王国側は側面をなるべく戦線維持しながら、中央部隊だけ退がっていった。

 これにより敵は押せていると勘違いしたのだろう。より強く内側に切り込んできた。

 しかしそれは完全にカールの策略による罠で、側面部隊が一気に攻勢に出た。そして数が減っていたフックス公国の側面部隊はなす術なく中央方面に押されていった。

 これによりフックス公国の中央部隊は前方と左右後方から包囲される形となった。

 自分達が押していると思っていたら、いきなり後ろに敵が現れたのだ。

 そしてそこにカールの魔法具の矢や、魔法、竜魔導師達の総攻撃が叩き込まれ、戦線は完全に崩壊した。

 最早そこに戦いは存在せず、アンドレアス王国側の一方的勝利で幕を閉じた。


 これはまだ少し先の話だが、この敗北によりフックス公国は国家師団の約8割を喪失する大損害を被った。この戦乱の時代にて国家師団がいない国などただのエサでしかなく、今後様々な国から干渉を受けるだろう。それだけでなく、魔物などの自然界の敵からも身を守る術を失ってしまった。

 そんなわけで最早国体を保てる見込みなど無くなってしまったフックス公国はこの機に属国ではなく、完全にバサルス王国の領土として併合される道を選んだ。

 こうしてフックス公国は滅亡し、地図から姿を消したのであった。



 


 もう一つの報告は戦場ではなく、王宮に届いていた。そしてそこで死んだ魚のような目で報告書に目を通している人物が一人。

 一見した感じでは冷静そのものを装っているが、心の内側では激しい怒りの感情を押し殺すのに苦労していた。


「つまり、彼らは負けそうになったけど敗北を認めたくないから国際的に禁忌視されている夜襲を行ったと……あぁ、あれだね。国家滅亡志願者か何かかい?」


 アレンはそんなふうに冗談を言って気持ちを紛らわせていた。そうでもしないと心が怒りに飲み込まれてしまいそうで……

 前世の記憶から、もっと容赦ない戦争の歴史を知っているので耐性はあると思っていたが、やはり大切な友人を卑怯な方法で負傷させられたと聞くと、腹が立つ。

 

(いや、結局のところ戦争なんだから人が殺し殺されってなるのは分かってた。その対象に自分の友人達も例外なく入っていることはね……)


 結局のところ、覚悟が足りなかったことを痛感させられたのだとアレンは考えた。

 つまり、夜襲云々関係なく自分の大切な人が傷つけられたからムカつくのだと。

 側から見れば自分達だって相手のやっていることと大差ないということは自覚している。

 敵にもそれぞれ大切な人がいて、それが日々アンドレアス王国師団員によって殺されていってる。

 戦争に良いも悪いもなく、始めた時点でダメなのだと。だから自分に相手を責める権利なんかないと。しかしそれでも相手のやったことが卑怯であることには変わりない。

 故にアレンは、


(僕はムカついたのでドゥンケルハイト王国、ぶちのめします)


 この報告をアンドレアス王にすると、すんなりと許可が降りた。理由をアレンが尋ねると国王曰く、そもそも国家存亡の危機が迫っている中で、戦場に出せば間違いなく活躍するであろう戦力を温存しているということが間違いだというふうにアンドレアス王は話した。

 理由はどうあれアレンが戦場に向かい、その戦線が有利になり、早期勝利につながるのであれば出陣するべきであるということのようだ。

 王宮にはアーベントロート侯爵もいる上に、王家直属の優秀な竜魔導師も一定数待機しているので、心配せずに出陣して欲しいとのこと。

 アレンはアンドレアス王に感謝の言葉を述べた後、直ぐにドゥンケルハイト王国戦線に向かった。

 今回は緊急事態なので転移の使用許可が降りたため、直ぐに戦場に着いた。

 あらかじめ重要戦線となるであろう場所には顔を出しておいて良かったとアレンは心底思った。

 



 そしてそのままアンドレアス王国の砦に城壁の上から入場した。団員達は驚いたが、アレンを見た瞬間直立不動となる。そして最敬礼をして出迎えた。


「あ、アフトクラトリア閣下! ご機嫌麗しゅうございます。一体どうなさい……」

「ねぇ君、ダミアンはどこかな?」


 一体どうなさいましたか? と尋ねようとした団員の言葉に被せてアレンは質問した。

 そしてその内容でなぜアレンがここにいるのか理解した団員は直ぐにダミアンのところに案内した。


 そしてダミアンが治療を受けている天幕の近くまで来た。


「ありがとう、ご苦労様」

「い、いえ! では失礼いたします!」

「うん」


 短いやり取りでも、アレンに感謝されて嬉しそうな団員は張り切って持ち場に戻っていった。


 そしてアレンは天幕の中に入る。するとそこには眠っているダミアンがいた。

 体の傷はもう治っているようだが、負傷による体力低下はどうしてもポーションや魔法では回復できない。

 なのでこうしてダミアンは安静にしているのだ。それを見てアレンはさらに怒りが増してきた。


 取り敢えず顔を見にくることには成功したアレン。その後は直ぐにグスタフがいると言う場所に向かった。

 夜襲が既に終わっているとはいえ、まだ戦争自体は終わっていない。なので二人で作戦を話し合い、確実に敵の息の根を止める算段を立てようとアレンは考えたのだ。


(グスタフも相当怒っているだろうな……)


 そう思い、作戦の話し合いができるか少し心配になるアレンであった。


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