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竜魔導師の戦い その2

 グスタフは目の前の男を見て思う。


 "この男、覇気がかなり強い"


 故にグスタフはすぐに目の前の男が竜魔導師だと見抜いた。

 しかしそんなことは直ぐに頭から離し、目の前の男にさらに歩み寄る。

 男もそれに合わせるように近づいてくる。


 そして両者がほんの数メートル程の距離にまで近づいた。すると次の瞬間、両者の間で途轍もない英竜闘気同士のぶつかり合いが起こった。この覇気のせいで一般の師団員達はその場に留まるので精一杯になってしまう。

 まさに2人だけの舞台である。



 しかしそんな周囲の状況などお構いなしに雷の覇気と炎の覇気がぶつかり合う。ただ少しだけ相手の方が強いようで、若干グスタフが押され気味である。しかし相手の男は感心したような顔をした。


 その後一旦覇気のぶつかり合いが収まり、男が最初に口を開いた。


「ほう? 私の覇気を耐えますか。やはりアンドレアス王国の竜魔導師。悪魔や天使の上位個体を倒しまくっただけのことはありますね」

「ふん。逆に聞くが貴様の竜は強いのだろう? 私も同じ竜魔導師だ。対峙すれば直ぐ分かる。なのになぜか貴様の覇気は思ったほどではない。私にはそちらの方が不思議で仕方ない」

「ははは、こちらは褒めて差し上げたのにそちらは貶してきますか。あなた、今まで性格で苦労してきたことありません?」

「……」

「やはり。その顔は図星ですね?」

「そんなことはどうでも良い」

「フム、仰る通りですね。なら始めましょうか」


 2人は少し距離を取り、さっそく互いの力をぶつけ合う。


「『焼滅弾(しょうめつだん)』!」

「早速強そうな攻撃ですね! いいですよ、受けて立ちます! 『雷獄(らいごく)』!」


 グスタフの上級の攻撃が男の防御魔法と激しくぶつかり合い、やがて防がれる。


「ははは! やはり良いですね、竜魔導師との戦いは! たかだか上級程度の魔力量でこの頑丈さ! 普通の魔法師たちと戦えば、よほど高性能な魔法具を向こうが装備していない限り、大抵相手の魔法をかき消して終わってしまうので、こういう競り合いは久々でとても嬉しいです!」


 男が興奮したようにそう述べた。それに対してグスタフは冷静に相手の様子を観察する。

 それが今は1番重要と考えて。実際、今の攻防で上級程度ではあの男は倒れないということがはっきりと分かった。

 戦場において、この攻撃は効き、この攻撃は効かないというのを少しでも多く理解しているのと、していないのとでは天と地ほども差が出てくる。

 

 改めて気を引き締め直し、グスタフは男と対峙する。


「貴様、やはり強いな……」

「当然でしょう? 私、強さと功績だけで爵位まで手にしたんですよ?」

「ふん。そんなものは自慢するほどのことではない。我が国では多くの者がそうだ」

「まぁ、そうでしょうね。強い武人はそれだけで功績を残しやすいですから」

「分かっているのなら自惚れないことだ。それより貴様、名は?」

「つくづく失礼な人ですね……。アレックス・ヘルムート子爵ですよ」

「覚えておこう」

「いえいえ必要ありませんよ? だってあなたここで死ぬんですから」


 アレックスと名乗った男はものすごい速さでグスタフの懐にまで肉迫してきた。

 そしてどこからともなく取り出した短剣でグスタフに切り掛かる。


(身体強化か……。自分が使う分には便利なものだが、やはり敵が使うと面倒なことこの上ない魔法だな)


 しかしグスタフは接近戦が下手なわけではないので、当たり前のように腰に携帯している剣を取り出して身体強化を瞬時に発動、更に炎の強化魔法も上乗せで上段から叩きつけた。


「……!? クッ!」

「油断したな。私は魔法の方が得意だが、剣が扱えないとは言った覚えがないぞ?」


 ドゴーンッ!! バキーンッ!


 グスタフの本気の振り下ろしにアレックスは耐えられず地面に叩きつけられる。

 しかも嫌な音が……


「まさか……金貨数百枚もかけて発注した武器をこうも容易くへし折りますか……」


 男は急いで立ち上がり、グスタフから距離を取った後にそう呟いた。


「ふん。私は竜魔導師なので当然魔法が専門だが、剣も下手ではないと自負しているぞ? 一体誰と鍛え合ってきたと思っている」


 グスタフはそう言うと、少し体を半身にして砦の城壁部分を見せる姿勢を取る。

 その先に映るのは……


「なるほど、ダミアン・アードラースヘルム子爵ですか。数多の悪魔や天使達、そのほとんどを優れた剣術だけで葬ってきたと言うあの……」

「そう言うことだ」

「しかし彼は確か魔法騎士だったはず。剣術だけと言うのは……」

「言うまでもないだろう」

「まさか……」

「そのまさかだ」


 アレックスは空いた口が塞がらないといった心境だった。つまりグスタフはこう言ったも同然だ。


『あの男は魔法も使えるが、その必要がないくらい剣術が強く、悪魔や天使たちが相手になっていなかった』


 もちろん、無属性などの魔法は流石に使っていたと予想されるが、それは近接戦では魔法として考えられていない。騎士や魔法騎士達のいち能力として考えられている。

 つまりは本当にあの大戦の中で、ほとんど魔法を使っていないと言うことになる。

 

(そりゃ、そんな相手と切磋琢磨していれば剣術も化け物みたいな練度になりますよね)


 アレックスは今更ながらにグスタフの"ヤバさ"というものを実感し始めていた。

 剣術は敵わない。魔法に関しても少し分があるだけ。


(でもまぁ、どうせ戦う以外に道は無いのですから。やるしかないですね!)


 アレックスはそうやって気持ちを固めると、一度深呼吸をしてからグスタフに向き直った。

 それに対してグスタフも構える。もはや互いに言葉はいらないとばかりに、2人の間には一切会話がなかった。


 そして少し強めの風が吹いた後、2人は動き出した。


「『雷爆(らいばく)』!」


 グスタフにギラギラと光り輝く雷光が迫ってきた次の瞬間、


 ドゴーンッ!!


 大爆発が起こった。威力は伝説級。アレックスは決まったと思った、しかし、


「そんな単調な攻撃、甘すぎるな! 『無双爆剣(むそうばっけん)』!」

「ああ、決まったと思ったのに、仕方ありませんね! 『雷刃(らいじん)』!」


 グスタフの炎の剣とアレックスの放った雷の斬撃を飛ばす魔法。両者がぶつかり、激しい衝撃波が辺りを蹂躙する。


「もうここまできたら余力など考えませんよ! 出てきてください、我が友よ! 一緒に敵を滅しますよ!」

「グウォーッ!」


 アレックスの呼びかけに、今まで彼に力の供給だけしていた竜が姿を現す。

 黄金色で巨大な体躯、全てを痺れさせ、焼き殺しそうな爪と牙。激しい閃光に目が眩みそうになる雷で構成されてる翼。

 そして現状、全ての生き物の頂点に立つであろう、竜の一族の上位者たる貫禄から放たれる威圧感。

 それら全てがグスタフに極限の緊張という形に変換されて襲いかかってくる。



「クッ! この肌がビリつくような感覚、超位竜か。これほどの竜魔導師と戦うのは、ボニファティウスと特訓をした時以来だな……。良いだろう。私もそろそろ本気を出そうか」

「是非」

「出でよ、業炎竜! さあ敵を焼き尽くせ!」


 グスタフがそう命じると、大量に空気を吸い込んだ業炎竜がアレンの得意技、万有引力を超えるほどのエネルギーで爆炎を撃ち放った。

 近寄るだけで防御力のない者は、全身黒焦げになりそうなほどの、いや骨の髄まで焼き尽くされそうなほどの威力だ。


 対してアレックスの雷轟竜は、


「迎え討ちますよ!」


 アレックスがそう指示を出した直後に、(かみなり)のような轟音と共に蒼く光る(いかずち)が業炎竜の炎を迎え討った。激しい競り合いの後に、爆発して相殺された。


「まだまだ!」

「望むところだ!」


 

 

 その後も業炎竜と雷轟竜の激しい戦いとグスタフとアレックスの2人の戦いは続いた。

 周りの師団員達は最早戦ってすらいない。完全に2人の圧倒的な戦いに魅せられていた。

 自然と戦場は2人と2体の竜の、それぞれの一騎打ち状態になっていた。




 だが決着がつく時というのはどんな戦いでも例外なく呆気ない。


「うおぉラァ!」


 グスタフが手にしていた剣がアレックスの右腕を捉えた。


 バシュッ!!


「うぐッ!? しくじった!」

「そうだな。戦場での高度な戦いにおいて決着が決まるのはいつもどちらかが気を抜いたり、しくじった時だ。どうやら武の女神は私に味方をしたようだな」

「全く、ついてませんね。せっかくここまで登り詰めたと言うのに……」

「仕える国を間違えた、としか言えないな。もしこちら側に付くつもりがあるのなら、便宜を図ってやらんこともないが? 優秀な人材はいくらいても足りないからな。それに私は公爵位だ。貴様にその気があるのなら力になってやれるが?」

「その言葉がどれほど信用に足るのか……」

「私は優秀な人間がこちらについてくれれば良いと思っているだけだ。それ以上でも以下でもない。此方は戦力が増え、向こうは消耗する。それだけのことだ。この方が信用できるだろう?」

「確かに」


 アレックスはそう呟くと、少し俯きながら何やら考え始めた。そして、


「師団員としての立場は?」

「当然確保してやる。それが貴様の本職だろう」

「決まりですね。ならば……」


 お世話になります。そうアレックスが言おうとした次の瞬間、


 バキーンッ!!


「やっぱりね〜。嫌な予感がしたのよ〜。あなたって基本戦いたいだけだから〜。ちょーっと戦う場所を用意されて、2、3個良い条件を出されれば、すぐにコロっといっちゃうんじゃないか? ってね〜」


 もう1人、グスタフが警戒していた人間が細剣を突き出しながら迫って来た。

 グスタフはなんとか剣で受け止めた。


「やはり貴様も出てくるか。警戒を解かないでおいて良かった」

「ホントそれよー。なんで油断してくれないわけ〜? 私は手っ取り早く裏切り者を始末しようとしただけなのに〜」

「ふん、敵前で敵を引き抜こうとしているというのに、油断するバカがどこにいる」

「それもそうか〜。まぁ、良いや。とにかく2人ともまとめて始末しちゃおう〜」


 グスタフは直感していた。この女もアレックス同様、かなりの強さだと。そしてアレックスを守りながら戦わなければいけないこの状況に、流石にまずいと感じていた。

 故に、


「アードラースヘルム卿!!」

「キャッ! 急に大声出さないでよ! って、ッ!?」


 ズダーンッ!!


 女の下に、凄まじい威力の斬撃が飛んできた。そう、飛んできたのだ。


「流石だな」


 グスタフはにこりと口角を上げながらいつの間にか、自分が切り飛ばしたアレックスの腕とアレックスを両手に抱え、女から距離をとっていた。


「このッ! てぁッ!!」


 女は力一杯剣を振り上げ、攻撃を逸らした。


「はぁ、はぁ、はぁ。なんなの今の……。人間業じゃないわよ……私じゃなきゃ今ので終わってたわ」


 彼女はそう愚痴をこぼす。実際のところダミアンは結界魔法しか無属性は扱えないのでここまでの威力は出せないはずだ。

 しかし、幹部職の人間に支給される魔法具で身体能力を爆上げするものを作ってもらっていた。

 一時間以上発動し続けると、激しい筋肉痛を引き起こすという副作用はあるが、それでも便利な機能なのは間違いない。


 そんな魔法具を使っていたので、ただ剣を振るっただけでこれほどまでの威力を叩き出せたのだ。


 知らずにそんな理不尽な攻撃を受けた彼女はまさに不運としか言いようがない。

 

 その後、彼女はグスタフと裏切り者のアレックスが既に砦近くまで避難しているのを見て、追撃を断念した。

 


 


 彼女がちょうど追撃を諦めた頃、グスタフは一度砦の城壁に上がっていた。

 事の顛末をダミアンに報告するためだ。アレックスは最上級魔力薬を持っている救護班に押し付けておいたので、今は2人だけとなっている。


「全く、いきなり作戦に無い行動を取るなよ……」

「すまん。だがお前はやってくれた。助かった」

「当たり前だ。あの状況、見た感じお前がなんか相手を手懐けようとしてんだなってのは1発でわかったからな。俺もお前の立場なら全く同じことをしたはずだ」

「ああ、そうだろうとも。あの男の力は貴重だ。戦ってみた感じでは、ドゥンケルハイト王国に心底忠を尽くしているという感じでもなかった。だから誘った」

「なるほどねえ。問題は……」

「こちら側に引き入れた際に、あいつをどれだけこの国に夢中にさせられるか、だな」

「ああ、簡単に抜けられちゃぁ困るしな。だからまだ信用はしてねぇぞ?」

「当然だ。だがまあ、そこまで心配は要らんだろ」

「ほう? 何か策があるのか?」


 グスタフはアレックスと直接戦ったが故に、彼が1番望むものをなんとなく理解していた。


(要するに戦闘狂なのだ。あいつは)


 つまり戦わしておけばとりあえずは問題ないということである。

 そのことをグスタフはダミアンに説明する。


「なるほど、1番信用できそうな策だな。よし、分かった。お前の好きにやってくれ」

「了解した。感謝する」

「良いってことよ!」


 ダミアンはなんとなくだが、察していた。グスタフはそれっぽい理由でアレックスを保護して来たが、要は彼のことを多少なりとも気に入ったので、殺したくなかったのであろうと。


「それでは私はあいつのところに行ってこの話の結果を伝えてくる」


 そう言い残した後、グスタフはアレックスが勾留されている場所へと向かっていった。

 

 その後ろ姿を確認して、ダミアンは、


「さてと、もう日没も近い。そろそろ戦いも落ち着くだろう。続きは明日になるだろうからな。作戦でも考えるか」


 そう独り言を呟き、部下を呼んで色々指示を出した後、戦場という場で酔いすぎないように、度数を水で少し緩めた酒を手に天幕の中に入っていくのであった。



少し修正しました。



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